軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20-20 方位磁石

12月2日。

仁は、クリストフに、乗り降りはどうするつもりか尋ねた。

「そうだな、私としては梯子を使えばいいと思っていたのだが」

やはり、と仁は思った。それでは、荷物の積み卸しなどが面倒である。

「タラップを用意した方がいいと思うんです」

「タラップ?」

「あ、タラップというのは……」

そして仁はタラップについて説明した。

「なるほど、荷物を扱う港には丈夫な物を用意して船に架ける。船には折り畳み式の物を用意して、人員が使えるようにする、か」

これについては、港に用意する方はクリストフの裁量ですぐに認可された。

船に積む方は、最終艤装の確認時に検討することとなる。

残る問題は航法である。

仁はこれもクリストフと話し合うことにした。

「ふむ、現在位置をどうやって知るか、ということだな」

目印も何も無い海の上で、どうやったらいいか。クリストフも想像することはできた。

「……難しいな」

とりあえず、当分は陸地が見えなくなるほど沖には出ないつもりなのだが、とクリストフは言った。

つまり、常に陸地を視認し、海岸線に沿って航行するつもりなのである。

「それはいいでしょうけど、万が一流されたり、霧が出たり、夜になって陸地が見えなくなったらどうします?」

「ううむ……」

仁の質問にクリストフは詰まってしまった。

「わかった。今日の午後一番に会議を開こう」

午前中で、船の方は9割方終わるはずなので、午後は時間が取れそうだ、とクリストフは言った。

仁も、それまでに考えをまとめておく、と言い、その場をあとにしたのである。

「さて、方位磁石の試作か……」

仁は、一番簡単な実験で行くことにし、そのための準備を老君に指示したのである。

* * *

予定通り、船の方も9割方作業が進み、昼食を済ませた面々は、午後一番で会議室に招集された。

その場で、クリストフは、午前中、仁が提案した内容を説明したのである。

「なるほど、タラップか……」

「港に設置するのは必要だな。船にもあると便利だな」

こちらの方は全員、その必要性をすぐに認識してくれたので、満場一致で追加することになった。

問題は航法である。

「……まずは、周りが全部海で、どちらへ行ったらいいかわからなくなったらどうするか、と考えて下さい」

仁が、想像力を喚起するよう、そんな提案を行った。

「ふうむ……」

「昼間なら太陽が見えるから……」

そう言いかけた 魔法技術者(マギエンジニア) ゼネロスの言葉を、クレイアが遮った。

「馬鹿ね。曇っていたり、霧が出ていたらどうするの?」

「ぐ、む……」

「夜は星を見る、というのは有りかしら?」

そのクレイアはなかなか鋭いことを言った。

「聞いた話だけど、北の空には、一晩中位置を変えない星があって、北極星というそうなんだけど」

この世界でも、星に興味を持つ者がいて、北極星を見つけ出しているようだ。

「もしそれがわかれば、方向を知る目安にはなるだろうな。南岸沿いを進んでいるなら、北へ向かえば陸地にぶつかるわけだ」

クリストフの言葉に、全員頷いた。

「でも、夜だって曇っていたら星は見えないわけで、そうなったら?」

「確かに。……いつでもどこでも、方位がわかるような魔導具は無いものかな?」

その言葉を聞いた仁はすかさず反応した。

「ありますよ」

「え?」

全員が……エルザとラインハルトはわかっているだろうが……一斉に仁を見つめた。

「方位磁石、というものが」

「じしゃくって何ですか?」

「磁石? 鉄にくっつく、あれかね?」

クレイア、ロドリゴ、クーバルトは磁石を知らないようだ。一方、クリストフとゼネロスは、その存在くらいは知っているらしい。

「何でも、鉄にだけ吸い付くようにくっつこうとする石があるそうだが」

クリストフの言っているのはおそらく磁鉄鉱。天然の磁石として産する鉄鉱石の一種である。

「それです。ここに、強力な磁石がありまして」

仁はポケットから、蓬莱島で作った棒状磁石を取り出した。鉄にニッケル、アルミニウム、銅を添加して作った、MK磁石鋼に近い素材のもの。

仁が知っている磁石鋼はこれだけで、アルニコ磁石や希土類磁石までは知らなかったのであるが、これで十分強力である。

「これで、鋼の針を擦って、葉っぱに刺して水に浮かべますと」

小学校で行うこともある、磁石の実験である。本来は縫い針を紙片に刺して水に浮かべるのだが、紙がないので枯葉に刺したのである。

「ふむ……ほほう!」

浮かんだ針は南北を指して止まった。向きを変えてやっても、必ず最後は南北を指す。

「こんな性質が磁石にあるとは……ジン殿、どうして貴殿はこんな事を知っているのかね?」

クリストフが驚いた顔をする。

してみると、彼は、 『 指導者(フューラー) 』による科学教育をあまり受けていないのだろう。おそらく、実務が忙しいためかと思われる。

「これが『科学』ですよ。俺は、俺の師から教わりました。師の名前は秘めさせて下さい」

後々面倒なので、仁は追及されないよう一言言い添えた。

「うむむう、これを応用すれば、いつでもどこでも、方角がわかるというわけか!」

クリストフの顔に喜色が射した。これは海上だけでなく、陸上でも使えることに気が付いたのだろう。

「ですが、ご存知の通り、鉄に吸い寄せられますから、近くに鉄があると正確ではなくなりますよ」

「うむ、確かに。だが、今回の新造船には鉄の部品は使っていないから大丈夫だな」

鉄は錆びやすいため、今回は青銅や軽銀を多用していた。もちろん、初日に仁が、ラインハルトを通してほのめかしておいたからでもある。

「水ではなく油に浮かせば、針も錆びないだろう」

「透明な水晶などで密閉しておけば船が揺れても油がこぼれずに済むぞ」

「大きめに作って、見やすくできたらいいな」

等、いろいろ意見が出た。

そこで、タラップはラインハルトとエルザが、方位磁石は仁が、それぞれ製作することとなり、会議は終了した。

まだ時間があるので、仁、ラインハルト、エルザ以外は船の仕上げに向かった。

「礼子、手伝ってくれ」

「はい、お父さま」

何か言いたそうに仁を見つめているエルザをちらと横目で見た礼子は、いそいそと仁の後に付いて部屋を出ていった。

「……」

心なしかしょんぼりしているエルザをラインハルトが慰める。

「エルザ、レーコちゃんに焼き餅焼くなよ」

「や、焼いてなんか……いない」

慌てて頬に手を当てるエルザ。

「顔を赤くしながら否定しても説得力無いぞ」

「あ、う……」

ラインハルトはそんなエルザを微笑ましく思いながら慰めの言葉を掛ける。

「ジンにしてみれば、こんな環境だからべたべたしたくてもできないから作業に没頭してるんだろうし」

「べ、べたべたって……」

だが、ますます赤くなるエルザ。

「はは、悪い。言いたいのは、ジンも寂しい思いしてるだろうということさ。ゆっくり話ができるのは夕食の時くらいだしな。それにジンは人前でそういうことしない方だろう?」

「……うん、確かに」

「早いところ船を完成させて解放されたいのはわかるよ。僕だってもう随分ベルに会っていないし」

「……ライ兄、最後で台無し」