作品タイトル不明
20-19 建造開始
11月最後の日、30日。
いよいよ新型船の本格的な建造が開始される日である。
仁が作った『シャーク』のようなモノコック構造は無理なので、ラインハルトが提案した縦式構造。
縦式構造とは、船体が前後に長いので、曲げに対する強度を確保するために、前後方向の構造材を多数使う構造だ。
具体的には、用意されている2本の40メートル材のうち1本を 竜骨(キール) に使い、もう1本を縦に2つに割って、これを 補助竜骨(ビルジキール) にするという。
この補助竜骨は船底左右に取り付けられ、水中に張り出すので、揺れを減衰させる効果も持つ。
これを考えついたのはラインハルトだった。
そして、これだけの大きさの船を建造した場合、水に浮かべるためにどうやって移動させるかが問題になりそうであったが、その点については、ロドリゴが新機軸を打ち出してきた。
すなわち、台車の上で船を建造し、従来のドックから湖まではその台車ごと運搬する、という方法である。
「ふうん、ロドリゴさんってなかなかやるな」
作業場を見ながら仁は呟いた。そして問題点も予測する。
おそらく、船の重さで台車の車輪が地面にめり込んで動かなくなるだろうが、その際は木でいいのでレールを敷き、その上を運ぶように助言するつもりであった。
更に、乗船・下船時に問題が起きそうな気がしていた仁は、とりあえず独自にタラップを考えておくことにした。
(簡単な梯子状で……いや、階段になったほうがいいか。折り畳めて、階段の角度が変わっても、各段の角度は水平に保てるように……)
かなり高機能なものが出来そうである。
船の建造も開始。
カシに似た丈夫な木で台車が作られ、その上に加工された 竜骨(キール) と 補助竜骨(ビルジキール) が並べられた。
この作業を行ったのは2体の大型ゴーレム、ゴリアスである。
「おお、やっぱり重作業を任せられるというのは便利だなあ!」
その作業を眺めながらロドリゴが呟いていた。
仁は、礼子と共に、その並べられた3本の部材を確認する。木目は真っ直ぐ通り、なかなかいい材木だ。だが。
「礼子、こっち側の間隔が狂っているな」
「ええ、10センチ狭いですね。直しますか?」
「ああ、頼む」
そこで礼子は、断面が30センチ×60センチ、長さ40メートルの 補助竜骨(ビルジキール) の一端を片手でひょい、と持ち上げ、正しい位置に置き直した。
5トンを超える重さの材木を事も無げに扱った礼子に気が付いたのは誰もいなかったが。
この 竜骨(キール) を繋ぐように、桁材が取り付けられ、更にそれらに構造材が取り付けられていき、たちまちのうちに船の骨組みができあがっていく。
「やはりゴリアスがいると作業が捗るな」
重機代わりの大型ゴーレム。しかも重機よりも自由が利くというのは作業する上で大きな利点だ。
仁と蓬莱島には劣るとはいえ、この日1日で骨組みが完成したのであった。
「ジン殿、どうかな?」
「いい出来ですね」
午後4時には骨組みが完成したので、その日の作業は終了となった。
そして、現場責任者であるクリストフは、仁と共に全体のチェックを行っていたのである。
「構造材も質の良い木材を選り抜いたようですし、接合も上手くできてます。寸法もかなりいい精度で出ていますから、この調子で作業を進めて行きましょう」
「 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) たるジン殿にそう言ってもらえると安心できるな。明日が楽しみだ」
出来が良いのも道理。仁が作業中に見回って、気が付いた不具合はこっそり修正していたのである。
「明日には外板が張られるかな。楽しみだ」
もう一度船の周りを1周してから仁は宿舎であるホテルへと戻ったのである。
* * *
そして翌12月1日。いよいよ3457年も残すところ1ヵ月となった。
この日は、仁によって作られていた推進器、『 噴射式推進器(ジェットスラスター) 』を含む、機械設備の取り付けがまず行われた。
「これが最新式の 噴射式推進器(ジェットスラスター) か……」
「凄い物だな。ジン殿は大した人物だ」
最大径1メートル、全長4メートルという、巨大な 噴射式推進器(ジェットスラスター) が1基ずつ両側舷に取り付けられていく。
そして、補助用には直径25センチ、全長1メートルの小型 噴射式推進器(ジェットスラスター) が2基ずつ船首と船尾に。
これにより、微速前進と微速後退を行うのだ。こちらは噴射の向きを変えることが出来、方向転換にも威力を発揮する。
他には、操舵装置が取り付けられ、航行関係は終了。
外板の取り付けが行われることになった。
「ゴリアス、もっと上。……そうだ。少し右へ。よし。『 接合(ジョイント) 』」
クリストフがゴリアスを操り、部材の仮止めを行っていく。それをきちんと接合していくのは下請けの 魔法技術者(マギエンジニア) たち。
彼等の作業を監督しているのがラインハルトである。
「よし、そこをしっかり『 接合(ジョイント) 』で繋いでくれよ。……ああ、そこは特に念入りにな。力が掛かる場所だから」
そして、エルザはといえば、同時並行で内装の監督を行っていた。
「……そう、その床板は最後に張らないと、作業がしづらくなるから」
図面も見ずに指示を出していくエルザ。彼女の頭の中には、図面が入ってしまっているのだ。
「エルザさん、ここの部材は?」
「そこは食堂になる。テーブルと椅子は固定しないと、揺れで動いてしまうから。わかる?」
「はあ、テーブルや椅子は後から搬入するんですね?」
「そう」
「あ、これはどういう役割なんです?」
「それは伝声管、といって、声を伝える 管(くだ) 。壁を張る前に取り付けておいて」
「わかりました」
「衛生設備は重要。船旅では清潔が第一。汚水をばらまくのも駄目。ちゃんと『 消臭(デオドラント) 』、『 分解(デコンポジション) 』、『 浄化(クリーンアップ) 』、『 殺菌(ステリリゼイション) 』の 魔導式(マギフォーミュラ) が書かれていることを、確認するように」
仁はそれら全体を見回り、不具合や失敗をフォローする。
(こういうふうに大勢で1つの物を作っていく、というのも何かいいなあ)
中学生の時に、文化祭の出し物をクラスで作った時の事を唐突に思いだした仁である。
(あの時も小道具を任されたっけなあ)
出し物は人形劇。しかも『忠臣蔵』だった。人形の持つ刀や着物などの小道具一切を仁一人で作り上げたのである。
いや、他にも小道具係はいたのだが、仁に比べたら不器用すぎて、結局仁一人で作った方が早かったのである。
その後、仁は大道具係の手伝いもした。いや、させられた。
でも、クラス全員で何かやり遂げよう、という熱気の中は、不思議と妙に心地よい空間だった、と、仁は懐かしく思い出していた。
結局、進捗度70パーセントといったところでこの日は終わった。
* * *
「このホテルの食事はまずまずだな」
「ん。これなら不満はない」
「ワインもまあまあの物が置いてあるし」
仁たちは食堂で夕食を食べていた。ルームサービスもあるのだが、ラインハルトがワインをいろいろ注文したがるので、食堂にしているのだ。
今回飲んでいるのは白ワイン、エルリッヒの3453年。アウスレーゼという、充分に熟した房を選りすぐって作られるワインである。
「ライ兄はほんとに、ワイン好き」
気に入ったと見え、瞬く間に1本空けてしまったラインハルトを見たエルザがやや呆れ気味に言った。
「明日、頭が痛くなっても知らないから」
「なんだ、エルザ、治してくれないのか? 薄情だなあ」
ほろ酔い気分のラインハルトは、エルザの顔を見ながら泣き真似をして見せた。
「そんな下手な演技では騙されない」
エルザとラインハルトのやり取りを見ていた仁は、自分たちにも解毒の魔導具を作った方がいいことに、今更ながら気が付いた。
それで、後に部屋へ引き上げた際、3人分の解毒用魔導具を作るよう老君に指示したのである。
「形状は……そうだな、俺とラインハルトのは名刺入れみたいな物でいい。胸ポケットに入れておくから。エルザにはやはりペンダントヘッドで」
『わかりました』
この魔導具を受け取ったあと何日か経って、ラインハルトはほろ酔い以上にならなくなったと、嬉しいような残念なような複雑な顔をしたという。