軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20-17 知識と平和

「ジョン殿、貴方は間者ではなさそうです」

ダローの言葉づかいは元の丁寧なものに戻っている。

「え、では」

「ええ、我々の元に来てもらいましょう」

「喜んで」

こうして、ジョン=老君は、とりあえずの信用を得る事に成功したのであった。

「いやあ、ジョンさん、貴方はすごいですね。ダローさんに認めてもらえたなんて。2年くらい前、テンクンハンという人以来じゃないですか?」

「いや、あの人はあまり役に立ってはいないから」

ジョン、オリヴァー、マヤ、そしてダローは、昼食を食べながら世間話をしていた。昼食は乾燥したパンだ。

「でもほんまに凄いなあ。ジョンさん、きっと歓迎されるに違いないわあ」

ちょっと羨ましそうにマヤが言った。

「その、……西、では 魔法技術者(マギエンジニア) が重宝されると言うことですか?」

それに頷いたのはダロー。

「まあ、そういうことです。詳しいことは行けばわかりますよ」

なんとなく、この場ではあまり話題にしてほしくないというのが透けて見えたので、ジョンは話題を転換することにした。

「あの自転車、ですか。あれって何に使うんです?」

「あれか? 乗って走るんや」

今度答えたのはマヤ。

「走る? 倒れてしまうでしょう? 何かを運ぶんじゃないんですか?」

その言葉を聞いたマヤは、口に含んだ乾燥パンを飲み込んで立ち上がった。

「走るところを見せたるわ」

言うが早いか、小屋の方へ走って行き、すぐに自転車を引っ張って戻って来た。

「ええか? これはこうして、ここに座って……」

マヤはサドルに跨ると、ペダルに足を乗せ、ゆっくりと走り出した。

仁の知識から、ジョン=老君は自転車というものを知っている。が、実際に走るのを見るのは初めてである。

「おお! は、走った!」

オリヴァーも初めて見るらしく、驚いた声を上げた。

「どうして転ばないんですか?」

理論は知っているが、わざと尋ねてみるジョン。一回りして戻って来たマヤは得意げである。

「ふふん、慣れや、慣れ。……じゃいろがどーたらいう話はあたいにはわからんもん」

ジャイロ。またしてもこの世界に有るはずのない言葉が。ジョン=老君は、ますます西に興味を覚えたのであった。

「オリヴァーさん、自転車については内密に」

「え、ええ、わかってます」

ジョンという、自転車をも直せるような逸材を見つけた喜びでうっかりしていたが、オリヴァーの前で自転車に乗って見せたのは早計だったと、ダローとマヤは反省していた。

とりあえず口止めはしておく。そして、マヤは自転車と共に、西へ引っ込むことになるようだ。それを聞いたオリヴァーはひどくがっかりしていた。

* * *

「それでは、ジョンさん、お達者で」

「ええ、短い間でしたが、お世話になりました」

28日の朝、ジョンとオリヴァーは別れの挨拶を交わしていた。オリヴァーはこれ以上西へは行かない、いや、行けないのだそうだ。

「これより西は、彼等に認められた人しか行けないのです」

とは、オリヴァーの言葉。

「お陰様で、いいものを安く仕入れることができましたよ」

ここ、カリ集落は、住民のほとんどが小群国やショウロ皇国出身者で占められており、中間基地としての役割を果たしている。

万が一、調査が行われても、国境の外で暮らしていたという以外の事実は認められないようになっており、罪にはならず、厳重注意で終わるという。

そんな彼等と商売しているオリヴァーも同様。異民族の影はちらつくものの、現場を押さえられない限り罪にはならないのが現実である。

「それじゃあマヤ、元気で!」

「うん、オリヴァーも元気でいてや!」

手を振りながらオリヴァーは旅立っていった。

そのオリヴァーの姿が見えなくなると、ジョン、マヤ、ダローの3人も西へ向けて旅立つ。

「……しかし、そのゴーレム馬言うたか、それ凄いなあ」

自転車に乗ったマヤが感心するように言った。

「まったくだ。我々には想像できませんよ」

同じく自転車に乗ったダローも同意する。

今、一行が進んでいる街道は、土ではあるが十分に踏み固められ、自転車でなら時速15キロ程度で走れる。

マヤもダローも、なかなかの脚力である。

「今日はセキの町まで行きます」

「セキの町にはなあ、いろいろ面白いものがあるんや。楽しみにしといてんか」

距離にして60キロ弱、途中にある『アアジ』と『セト』という集落で休憩を挟みながら、午後2時には到着できた。

セキの町は、今まで通過してきた集落に比べたら、5倍以上の大きさを持つ町であった。

手前には頑丈そうな石造りの塀が聳え立っている。その門は大きく開け放たれていた。

だが、ジョンたち3人が門をくぐると、扉が音を立てて閉められた。太い 閂(かんぬき) もかけられ、容易には通れないだろう。

「ようこそ、我等『ミツホ』の国へ」

「ミツホ。……それが、あなた方の国の名前ですか」

「そうです。何でも、『ミヅミヅシホ』が満ちる国、という意味らしいのですが、『ミヅミヅシホ』というのがわからないのですよ」

「なにやら不思議な響きですね」

などと返しているが、その言葉を聞いたジョン=老君は、すぐに『瑞穂』という言葉を連想した。『ミヅミヅシホ』は『瑞々しい穂』ではないのか、とも。

しかし、それを裏付けるすべがない以上、ここでは黙っていることを選んだのである。

そして一行は町中へと進んでいった。建物は石造りの平屋が多い。屋根は木造だ。

地面は平らに均された砂利であったが、ゴーレム馬の蹄跡が付かないところを見ると、何らかの硬化処理がなされているのかもしれない。

そして、ゴーレム馬に乗ったジョンは注目を集めている。道行く人は皆振り返るほどだ。

そんな人々の服装は、ショウロ皇国と大差はない。但し、肌の色は皆浅黒いが。

ジョンは道々、周囲を観察し続けていた。

「私は、このセキの町の副町長でしてね」

町の中央付近に建つ一際大きな建物の前に来るなり、ダローが言った。

「我々に害をもたらす人ではないかどうかを見極める役目を受け持っています。そんなわけですので、失礼がありましたらお許しください」

「ああ、何も気にしていませんので」

ジョンはダローに微笑みかけた。

「それはどうも。……では、まずは町長にお会い下さいますか」

ジョンはゴーレム馬を下りると、建物前に駐機する。生きた馬ではないので、手綱を縛るなど不要だ。

町役場、と言える建物は、珍しく2階建てで、更に木製の望楼が付いていた。

その建物に招き入れられるジョン。マヤも一緒に付いてきた。

「こちらでお待ち下さい」

8畳ほどの広さの部屋にジョンは招き入れられた。応接室に当たる部屋なのだろう。6人くらいが掛けられそうなテーブルが置かれており、ジョンは奥の席に座らされた。

ダローはジョンの対面、向かって右に座った。

そこへマヤが、水の入ったコップを4つ運んで来る。1つはジョンに、そして残りの3つはジョンの対面に置く。

つまり1つはダローの前に。マヤ自身は左端に座った。

残る真正面はというと、最後に入って来た男が座ったのである。その男は浅黒い肌に焦げ茶色の髪、茶色の目。がっしりした体格で、歳はダローよりも上に見えた。

「ようこそ、お客人」

その男が真っ先に口を開く。

「私はクロウ、このセキの町で町長をしている」

「私はジョン・ディニー、 魔法工作士(マギクラフトマン) です。ショウロ皇国風に言うなら 魔法技術者(マギエンジニア) 」

「うむ、このダローから少しだけ聞いた。腕のいい 魔法技術者(マギエンジニア) だそうだね」

「いえ、それほどでも」

「謙遜することはない。ダローとマヤの自転車を直した、それだけでも非凡な才を持つことがわかる。ジョン君、君は、我等ミツホの国の役に立ってもらえるのかな?」

単刀直入にクロウは尋ねてくる。ジョンはゆっくりと返答した。

「もちろんです」

「では、その見返りに望むものは? 金かね? 権力かね?」

その答えは用意してあった。

「知識と……平和です」