軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20-13 新たなアイデア

翌24日の打ち合わせは、ロドリゴの質問から始まった。

「ジン殿、昨日の説明を聞く限りでは『 風魔法推進器(ウインドスラスター) 』の風魔法……『 強風(ウインド) 』ですか? あれを、えーと、何でしたかな……そうそう、水分子? でも空気と同じようにすることはできないんですか?」

いろいろと意味がわからない部分のある質問ではあったが、その意図するところは仁にも理解できた。

「要するに、水を被っても推進力が変わらないようにできないか、と言うんですね?」

「そう、それ! それですよ!」

船体側面に 風魔法推進器(ウインドスラスター) を取り付けた場合、波が荒いときはどうしても水を吸い込むことになる。そうなる度に推進力が変動しては真っ直ぐ進めないし、微速前進の時などは困ることもあろう、というのがその理由であった。

「……できるかも知れませんね」

即答するとあまりに嘘くさいし、ならどうしてそれをやらなかった、と言われそうなので、慎重に返答する仁である。

「おお、そうですか! そうしたら、ジン殿にはそちらの改良を検討していただけますかな? 船体の方は残った面々で検討を進めておきますので」

「いいですよ」

こうして、仁は1人、といっても礼子が付いているのだが、別室で 風魔法推進器(ウインドスラスター) の改良に取り組むことになったのである。

エルザはちょっと残念そうな目つきで、別室へ行く仁を見送った。

「お父さま、そんなに難しいことなんですか?」

礼子は不思議そうな顔だ。そんな礼子を仁は 窘(たしな) める。

「しっ、声が大きい。……そんな改造、2分でできるさ。でもな、あまりやり過ぎて悪目立ちするのも良くないだろう?」

一応自覚はしているようだ。珍しくも。今更、という声が聞こえてきそうだが。

「わかりました」

そこで仁は礼子と一緒になって、昨日作った 風魔法推進器(ウインドスラスター) の試作を半ば解体する。そしてそれを前に考え込んだ。

とはいえ、考えている内容は別物である。

「静止衛星でなくても、山の上とかにマーカーを埋め込めばランドマークになるけど……やっぱり掘り起こされたりするかなあ……」

「それはあると思います」

強い魔力を出していれば、検知されやすいのだから当たり前ではある。だから仁は衛星に拘っているのだ。

「うーん、完璧に静止するように、というのはなかなか難しいんだよな……」

地表面に対して相対的に停止する、というのは、精密な計算と正確な計測が必要となるからだ。

「うーむ……」

仁としては、転移の目標だけでなく、航空機や船舶の位置算出のためにも、ランドマークを設けたいと考えていたのである。

「そういえば、船の航行にはコンパスだけじゃなく、何ていったかな……えーと……四分儀だったか六分儀だったか……」

非常に大雑把にいうと、時刻と太陽の位置で経度が、そして北極星の高度で緯度がわかる。緯度と経度がわかれば、自分の位置がわかる、というもの。

だんだんと、今作っている船の航海術に関する検討へとシフトしていく思考。

「礼子、この世界にも北極星ってあったっけ?」

星についてはさほど詳しくない仁であった。礼子は、内蔵された『 魔素通信機(マナカム) 』で老君と連絡を取り、仁の疑問に答える。

「はい。あります。ほとんど誤差のない星が」

地球でいう北極星は、実は天の北極から1度弱ずれているため、僅かに円を描いて移動するように見え、それが積もり積もって誤差になる。

「そうか。それなら、夜は北極星で位置を確認できるな」

「いえ、昼でも見えますよ?」

「え?」

礼子の言葉は、仁には衝撃であった。

礼子が、人間より遙かに目がいいことは、作り上げた仁が一番よく知っている。だが、昼でも星が見えるとは思わなかった。

視力が6.0とか7.0とかあると、昼間でも星が見えるらしいが、仁の視力は1.5くらい、とても無理である。

だが、地球に比べて空気も澄んでいるこの世界、礼子の視力なら星が見えてもおかしくはない、と思い直す。

「それなら、専用の測定器を作れば、時刻と太陽の位置、月の位置、北極星の位置から、位置を算出することは可能だな……」

時刻は蓬莱島にある研究所を経度0度として蓬莱島平均時(HMT)とする。あとは角度を測定して計算すれば良い。

「……艦隊の航行はこれで解決だな」

今思いついたアイデアを老君に通達し、詳細を詰めさせることにする。

『わかりました。試作を作ってみます』

「さて、問題はこっちだ」

蓬莱島艦隊はそれでいいだろうが、今進行中のプロジェクトはどうするか、と仁は改めて思考を切り替えたのである。

「コンパスは必須だな。そうすると、船にはできるだけ鉄製部品は使わないこと、だな」

現代の船舶は鉄製が多いので、方位磁石が狂いやすい。そのため、船用の羅針盤には、磁石ではなくジャイロコンパスと呼ばれる物を使う。

だが、いきなりジャイロはハードルが高いので、方位磁石を用いることにする仁。それには鉄製の部品を極力使いたくない、というわけだ。

そこまで考えたところで、ラインハルトとエルザがやって来た。

「ジン、どうした? もうお昼だぞ?」

「ジン兄、また考えに没頭していたの?」

いつの間にかお昼時になっていたらしい。2人と共に談話室へ向かう仁。そこには昼食が届いており、仁たち3人以外はもう食べ始めていた。

仁も空腹を覚えていたので、席に着くや否や食べ始める。

この日の献立はパン、淡水エビと野菜の油炒め、イトポ(サツマイモ)の甘煮、フルーツジュースであった。

「……ジン、どうだい? ……と聞くのも失礼なんだろうな?」

食事を終え、ジュースのお代わりを飲んでいると、ラインハルトが尋ねてきた。他の面々も一斉に聞き耳を立てる。

「あ、ああ。おおよその見通しはついた。あとは作ってみないとな」

「やっぱりさすがだなあ!」

ラインハルトの賛辞に、聞いていた面々も無言で頷く。どうやら昨日1日で、仁の実力については皆納得したようだ。

「こっちも大分詰まってきたよ。午後は内装の話に取りかかる予定さ。内装によっては船体の細かい変更もありうるしな」

「ああ、確かにそうだ。……ところで、模型の加工は誰がやってるんだ?」

仁が一人別室で推進器に取り組んでいるので、誰かが担当しなければならないだろう。

「誰だと思う?」

悪戯っぽく笑うラインハルト。その目がエルザの方をちらりと見た。

「……エルザが?」

こくり、と頷くエルザ。心なしか頬が赤い。

「いや、さすがにジンの一番弟子だ。僕以上の加工速度と正確さ。みんな感心していたぞ」

「へえ……」

仁が見つめると、エルザは顔を更に朱に染めた。

そうこうしているうちに休憩時間も終わりになる。仁は、まずラインハルトとエルザに、方位磁石を使いたいから鉄製の部材は極力使いたくない、と話しておく。

「なるほど、わかった。心に留めておく」

そして午後の検討会へと、ラインハルトとエルザは向かったのである。仁も自分の役目に戻る。

「さーて、それじゃあ推進器の方を終わらせておくか」

仁としては至極簡単な話であった。

風属性魔法が空気分子、水属性魔法が水クラスターに働きかけるなら、土属性魔法は?

答えは『粒子』である。分子レベルから、岩に至るまで、とにかく『 塊(かたまり) 』に働きかけるのが土属性魔法と言える。

つまり、『 石つぶて(ストーンバレット) 』系の魔法を利用すれば、空気、水、砂埃などに関係なく、推進力を生み出せることになる。

「だけど、欠点もあるからな」

独り言を呟きながら、試作機を改造していく仁。

「燃費が悪いんだよな……」

『塊』に働きかける分、空気分子に使おうとするとロスが出るのだ。大型ダンプでテニスボール1個を運ぶようなものと例えれば、その無駄さ加減が想像付くであろう。

「でも、お父さまには改善できるんですよね?」

仁の独り言に突っ込みを入れるのは礼子。仁を信頼しきっているセリフである。

「それはもちろんさ」

にやりと笑う仁。

「 魔導式(マギフォーミュラ) を3つ書き足すだけだからな」

対象の大きさを判定する判断式、判定して3段階に分類する分別式、大きさによって働く力を変える制御式。

要するに、固体・液体・気体それぞれに適した力を働かせるという考え。これで、元の 風魔法推進器(ウインドスラスター) と比べられるくらいまで効率がアップする。

「やっぱりわたくしのお父さまです!」

礼子の賛辞を聞きながら、仁は 魔導式(マギフォーミュラ) を書き直し、 風魔法推進器(ウインドスラスター) を組み直した。いや、もう『 風魔法推進器(ウインドスラスター) 』ではない。

「……そうだな、『 噴射式推進器(ジェットスラスター) 』とでも呼ぶか」

こうして、船舶用推進器、『 噴射式推進器(ジェットスラスター) 』が完成した。

残った時間で、仁は現在位置確認の方法をいろいろと考えていく。

「そうか! 掘り出せないほど深いところにマーカーを埋めておくという手もあるな!」

空中が駄目なら地中深く、という逆転の発想である。

「魔力パターンが特殊なだけで、ようやく感知できる程度の微弱さなら、わざわざ掘り出してみようと思う奴もいないだろう」

こうして、合間合間に新たなアイデアを実用化していく仁なのであった。