軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20-09 顔合わせ

礼子が戻って来ても、ラインハルトはしばらく興奮したままであった。

「ジン、やっぱり君は凄い! 何もかも放り出して、蓬莱島に住めたらどんなに良いだろう!」

「……ライ兄、ベルチェさんが泣く」

その間にも『シャーク』はタツミ湾へと戻っていった。

「……落ち着いた?」

「あ、ああ」

シャークが桟橋に接岸した頃、ラインハルトの興奮もようやく収まったようだ。

仁はシャークをしっかりともやい、ラインハルトに向き直る。

「『 力場発生器(フォースジェネレーター) 』の制御データがもう少し溜まったら、きっと個人用の飛行鎧みたいなものもできるんじゃないかと思うんだ」

「なるほど! それは楽しみだ!」

ラインハルトの気を紛らわそうとした仁だったが、完全にそれは裏目に出た。

「飛行鎧か! 人が空を飛ぶ! 素晴らしい! その日が楽しみだ!」

研究所に戻るまで、ラインハルトは興奮しっぱなしだったのである。

「……で、今回の開発プロジェクトの話だが」

「うん」

研究所に戻った仁たちは、夕食……仁たちの体感では昼食を摂った。その頃になると、ラインハルトも完全にいつもの調子を取り戻す。

「僕としては参考になった。普通の素材で、ジンがあれだけのものを作り上げていたんだからな!」

「同感。…… 力場発生器(フォースジェネレーター) だけは予想外だった、けど」

ラインハルトとエルザはそれぞれに仁が作ったシャークを評価した。

「あれを見て、今回陛下が行おうとしている計画がうまくいくと確信が持てたよ。エカルトにも負けたくないしな!」

ラインハルトは、セルロア王国南部在住の商人、エカルト・テクレスが建造中の、40メートル級という船に対抗意識を燃やしていた。

「建造に『ゴリアス』を使えば、大幅に工期を短縮できるな。今から楽しみだよ」

仁もラインハルトに共感した。

「どんな型式の船になるのかは向こうで詰めることになるんだろうな。用意しておくものはあるかな?」

仁が2人に尋ねると、エルザが答えた。

「国家的な計画だから、私物さえ持っていけばいいと思う。強いて言えばお小遣い?」

足りないものは向こうで買えばいいのだから、とエルザは締めくくった。

「そうだな。……まあ、飛行船には小型の 転移門(ワープゲート) も積んだから、いつでも戻って来られるしな」

「……そういうところがジンだなあ……」

ラインハルトが変な感心の仕方をした。

* * *

翌日、つまり11月23日。早朝、仁の飛行船はロイザートを発った。乗っているのは仁、エルザ、ラインハルト、礼子、エドガー、そしてスチュワード。

若干重量オーバー気味であるが、そこは重力魔法で軽減し、飛行船は一路シモスの町を目指した。

弱い北風もあって、午前10時過ぎにはシモスの町に到着した。

昨日のうちに鳩で連絡が行っていたとみえ、湖畔の広場に大きく『飛行船発着場』と書かれていたため、着陸地点を探す必要は無かったのである。

「ようこそ、ラインハルト様、ジン様、エルザ様」

出迎えたのはシモスの町長。30代半ばという働き盛り。やや痩せ気味で背は高く、髪は茶色、瞳はグレイ。見るからにエネルギッシュな感じである。

「そしてレーコ様、それに……エドガー君、とお呼びすればよろしいか?」

町長は、一行の情報をきちんと把握しているようだ。そして飛行船を見てもあまり驚かないのも道理、すぐ隣には熱気球が1台係留されていた。

「私はバリアル・トォータと申します。ラインハルト様ご一行がお見えになると言う連絡は昨日のうちにいただいておりましたので、こうしてお待ち申しておりました」

仁たち3人の中では男爵であるラインハルトが最も高い上、女皇帝から直々に命ぜられた役目であるため、代表はラインハルトということになっている。

「貴方様がジン・ニドー様でいらっしゃいますね。お噂はかねがね。そちらのお嬢様がエルザ・ランドル様。それに 自動人形(オートマタ) でありながら従騎士の称号を持つレーコ様、よろしくお願いいたします」

仁の飛行船はしっかりと係留され、用意されていた仮覆いが掛けられた。

スチュワードを管理に残し、仁たちは町長の案内に従って移動する。徒歩でであるが、すぐそばが仕事場らしい。

「あちらになります」

飛行船を係留した場所から歩いて3分。ワス湖に面した入江に、真新しい建物が建っており、その一つが管理棟であるということだった。

国家的事業なので、機密を守るため、兵士、いや、騎士も護衛に付いていた。

「管理棟の向こう、大きな建物が工廠です。更にその奥が資材倉庫となっております」

前々からの計画らしく、かなり準備は進められていたようだ。町長によると、7月には工事を始めたそうなので、技術博覧会直後からこの計画はスタートしていたのであろう。

「おお、ジン・ニドー卿、ようこそ。出迎えにも行けず、失礼致した。ラインハルト殿、よく来てくれた。エルザ嬢いや、エルザ媛もようこそ。そしてレーコ殿もよく来られた」

このプロジェクトの現場責任者、ショウロ皇国魔法技術省事務次官のクリストフ・バルデ・フォン・タルナートである。

ラインハルトの結婚式で立会人を務め、技術博覧会での進行役も務めたので仁もよく知っている。

「いえ、何時に着く、と言っていませんでしたからお気になさらず」

「そう言ってもらえるとは恐縮、恐縮」

頭を掻くクリストフ。

「で、それは?」

クリストフがテーブル上に広げていた図面を見た仁が尋ねた。

「これは、船の案でね。なかなか良さそうなのでつい検討が長引いてしまっていたのだ」

「拝見しても?」

「どうぞどうぞ。だがその前に、これで基本人員が揃ったので、顔合わせをしたいと思う」

「え? まだ1人か2人増えるかもということでしたが」

「その通り。今朝、最後の1名が決まったところだ」

ということで、奥にある会議スペースで顔合わせが行われることとなった。

「皆、よく集まってくれた。目的は、今までに無い巨大船を造ることである。これは我がショウロ皇国の産業と交通に大きな革命をもたらすことだろう」

前置きをしてからクリストフは少し間を置き、着席した7人を見回してから自己紹介を始めた。

「私は魔法技術省事務次官、クリストフ・バルデ。現場責任者を務める。それでは、集まってくれた方々を紹介しよう。まずは、相談役ということで参加してくれた 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、ジン・ニドー殿」

ラインハルトとエルザ以外の5人がざわつく。 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) の名はここまで聞こえていたようだ。

「そのお隣がエルザ・ランドル嬢。 魔法技術者(マギエンジニア) であり、 国選治癒師(ライヒスアルツト) でもある。作業での怪我などを診ていただけるでしょう」

紹介されたエルザは、無言のまま軽く頭を下げた。

「そのお隣がラインハルト・ランドル殿。……ああ、言い忘れていたが、この計画に携わっている間は、あまり貴族だ何だと、身分には拘らないようにしよう。拘りすぎるとやり取りが円滑に進まないからな」

そう言って笑うクリストフ。仁は、気楽でいい、と内心感謝した。

「……ラインハルト・ランドル殿の向こう側がゼネロス・フォート殿。地元の 魔法技術者(マギエンジニア) だ。そのお隣がクレイア・アルトマン嬢。彼女は隣町、スアーの 魔法技術者(マギエンジニア) 」

ゼネロスは金髪にグレイの眼、がっしりした体格の若い男。クレイアは赤毛、茶色の目で、一見すると子供かと思う程小柄だが、20を過ぎているという。

「私のこっち隣がロドリゴ殿。エリアス王国から来た 造船工(シップライト) だ。その向こう隣がクーバルト殿、ここシモスの 造船工(シップライト) だな」

以上7人、クリストフを入れて8人が初期のメンバーということになる。もちろん、作業員は別に雇うそうだ。

ロドリゴはラインハルトよりも高いかと思える長身で、ラインハルトよりもガリガリに痩せている。仁は、彼の金髪と青い眼をどこかで見たことがあるような気がした。

もう1人のクーバルトは銀髪、緑の目でがっしりした体格であった。

「さて、全員揃ったところで」

少し居住まいを正すクリストフ。

「先程も言ったが、この計画を完遂するまでの間、私が現場責任者をやらせてもらう。基本的に作業時間は朝8時から夕方5時まで。進捗状況によっては延長もある。で、その作業時間内は、貴族だとか爵位だとかはあまり拘らないように。但し必要十分な礼儀は守ってほしい。以上だ」

責任者らしい顔つきになったクリストフは、先程眺めていた図面を会議テーブル上に広げた。

「では、さっそく打ち合わせに移りたいと思う。ここに新型船の構想図がある。先程まで私が見ていたのだが、なかなかいいのではないかと思える。みんなの意見も聞きたい」

仁はその図面をのぞき込んだ。そしてびっくりする。

「これは……双胴船?」

そう、その図面には巨大な双胴船が書かれていたのである。

「ジン殿、でしたな? 双胴船をご存知ですか?」

発言はロドリゴであった。怪訝そうな顔をしている。

「ええ、以前、エリアス王国のポトロックで見ました。なあ、ラインハルト?」

「うん。なかなか実用的な船だと思ったな」

それを聞いたロドリゴの顔が明るくなった。

「なんと、そうでしたか。……この型式は、安定がよく、外洋に出る船にはうってつけかと思うのですが、いかが?」

「それは一理あります。が、大きさとの兼ね合いと言えばいいか……」

「どういうことです?」

乗り出してきたロドリゴ。仁は更なる説明を行う。

「大きくなればなるほど、船体各部に掛かる力は異なるでしょう。それに耐える強度を持たせるとなると、重くなるのではないかと思うのです」

「うむう……」

まだ納得がいかないようなロドリゴに、仁は更なる説明を行う。

「双胴船の仲間、といいますか、亜流として、補助フロート……浮子を付けた船があります」

「……ああ、ありますね」

「波のある水面で、そのフロート『だけ』に波が襲った場合、どうなるでしょう?」

「うん? ……なるほど、船体と繋ぐ腕木に大きな力が掛かる、か」

ロドリゴは理解力もあるようだ。すぐに答えを導き出している。

「数人乗りの船なら双胴船は有効でしょう」

仁は、かつて競技に挑んだマルシアの双胴船を思い起こしていた。

「しかし、数十メートルとなると……」

基本木造で作る以上、強度確保のために重量増加は免れないだろう。

蓬莱島で『シャーク』を作った経験がこんなところでも生きていた。

「それから、動力と合うかどうかを検討する必要もあるでしょう」

仁の答えにロドリゴも頷いた。

「さよう、ごもっともですね。クリストフ殿、そちらの説明をお願いします」

「了解した」

クリストフは、もう1枚、別の図面を取り出した。