作品タイトル不明
20-08 プロジェクト
「ジン君も参加してもらえるのかしら?」
仁が乗り気なのを見て、女皇帝が確認するように尋ねた。
「ええ、できましたら」
「それは助かるわ。それでは、相談役のような立ち位置でお願いするけど、いい?」
比較的自由に動け、指導できる立場ということで、仁には相談役、という地位が用意されることになった。
「もちろん、ジン君はショウロ皇国だけの者ではないから、強制ではないわ。でも、できたら最後まで面倒見てもらえるとありがたいわね」
「努力します」
仁も中途半端は嫌いであるから、女皇帝の願いに頷いたのであった。
「……それでは、ジン殿も参加してくれるということで、もう少し踏み込んだ説明もしておこう」
宰相が再度語り始めた。
「これからの我が国の発展のため、交通網の整備と輸送力の強化を考えている。短期的なものではなく、中長期的なものとしてな」
これはジン殿から贈られた『 指導者(フューラー) 』から学んだことだ、という宰相。
それを聞いた仁は内心嬉しく思う。知識を人民の利益のために使おうとしてくれているからだ。
「陸上輸送はまず、ゴリアスの量産を考えている」
身長6メートルの大型ゴーレムは、おおよそ10トンの物を持ち上げられる。 魔力素(マナ) の消費を考えて、5トンの荷物を運ぶなら十分実用的だ。
「ゴリアスは輸送だけでなく、大型建築の補助にも使う予定だ」
仁も蓬莱島では、重作業用ゴーレムのダイダラを使っているから、宰相の発想に感心していた。
クレーン車やフォークリフトといった重機のないこの世界では、代わりにゴーレムという人型の重機が発達していくのかもしれない、と仁は漠然とした思いを抱いていた。
「また、人間の補助用のゴーレムも量産したいと考えている」
これも理解できる。仁は『 職人(スミス) 』を使っているからだ。
「ラインハルト・ランドル卿には、先日『 黒騎士(シュバルツリッター) 』の 設計基(テンプレート) を提出してもらったな。あれを正式に採用することにした。もちろん材質などは変えるがね」
「光栄です」
初期の 黒騎士(シュバルツリッター) は『 変形(フォーミング) 』の応用で動いている。これはこれで、突き詰めればそれなりに効率の良い方式だ。
「船の工廠は南部のワス湖に面したシモス町に建造が終わっている」
用意は着々と進められていたようだ、と仁はこの計画が単なる思いつきでないことを知り、やり甲斐があると感じていた。
「この計画の責任者は魔法技術相のデガウズだが、実質のまとめ役はクリストフ事務次官が行うことになる」
クリストフ・バルデ・フォン・タルナートは、ラインハルトとベルチェの結婚式の時、立会人を務めた人物である。
「今決まっている 魔法技術者(マギエンジニア) はラインハルト・ランドル卿の他にはゼネロス・フォートとクレイア・アルトマンの2人だ。あと1人か2人増えるかもしれん」
「わかりました。いつから始まるのですか?」
「クリストフはもう現地入りしている。できたら明日にでも向かって欲しいが」
宰相はそこで仁をちらと見た。仁の飛行船を当てにしているのだろう。
ロイザートからワス湖畔のシモス町まではおおよそ150キロ、飛行船なら半日も掛からない。
「今日のうちに鳩で連絡しておくのでよろしく頼む」
こうして、仁とラインハルトは新たな役目を得たのである。
* * *
宮城(きゅうじょう) から仁の屋敷に戻った一行は、そのまま蓬莱島へと移動した。もちろんエルザも一緒。
ラインハルトとしては、仁が作ったという『シャーク』を見てみたかったのだ。もちろんそれだけでなく、いろいろと事前に相談もしたかったのである。
「ほう! これはすごいなあ。乗せてくれるかい?」
「ああ、もちろんだ」
タツミ湾に浮かぶシャークを見たラインハルトは、何よりもまず乗ってみることを欲した。
仁、礼子、エドガー、エルザ、ラインハルトの順に乗り込む。
専用の桟橋ができあがっているので乗るのもスムーズだった。
「なるほど、船が大きくなればなるほど、乗り降りのことも考えないといけないんだな」
さっそく参考にし始めるラインハルト。
「……ジン兄、これ、1人で作ってたの?」
「ああ。1人で、というか、もちろん礼子に手伝ってもらってな」
その言葉を聞いた礼子は横目でエルザをちらりと見た。
「……手伝いたかった」
そっぽを向き、少し膨れるエルザ。
「いや、だけどエルザはいなかったし」
……寂しかったな、と最後に小声で付け加えた仁。
「え?」
エルザには聞こえなかったようだ。
「ん? い、いや、なんだか、ずっと昔、そう、エルザやラインハルトに出会う前に戻ったみたいでさ」
「ああ、そうだな。仁はずっと1人で暮らしていたんだったな!」
ラインハルトが口を挟んだ。早く走らせてほしいらしい。
「あの頃は礼子たちがいてくれたから、あまり寂しくはなかったけどな。……でも、今は仲間がいるからな。行くぞ!」
仁は 水魔法推進器(アクアスラスター) を始動させた。
ゆっくりと動き始めるシャーク。
「おお、動きが滑らかだな」
ゴーレムが漕ぐ船とは異なり、揺動もなく、波の穏やかなタツミ湾をゆっくりと走り出すシャーク。
「さあ、スピードを上げるぞ」
湾の外に船首を向け、スロットルを開ける仁。
「お、おお?」
「……速い」
推定時速50キロで疾駆するシャークに、ラインハルトとエルザは驚きを隠せないでいた。
「この大きさの船がこれほど速く走れるとは!」
船には詳しい2人、顔に感じる風でどのくらいの速度が出ているか、感じ取れるのだ。
「……もしかしたら、ゴーレム艇競技の時より、速い?」
あの時優勝した仁とマルシアの『シグナス』。ラストスパートではおそらく時速40キロ近く出ていただろうが、それをも上回るシャークの速度に、エルザは驚いていた。
もちろん、仁の技術は知っているし、航空機はもっと速い。だが、一見普通の素材で作られたように見えるシャークがこの速度を出せると言うことに驚いたのだ。
逆に言うと、シャークを少し見ただけで、特別な技術や素材は使われていないことを見て取れるエルザの、 魔法技術者(マギエンジニア) としての成長ぶりがうかがわれる。
「ジン兄、すごい」
「ああ、本当だな。ジン、この船は凄いぞ! 普通の素材でこれほどとは!」
ラインハルトも、シャークが特別な素材は使っていないことを感じ取っていた。
「ありがとう。……じゃあ、ここからは、もう一つ先の世界を」
「え? ジン、兄?」
「先の世界?」
仁は悪戯っぽく笑うと、 力場発生器(フォースジェネレーター) の起動スイッチを入れた。
「加速だ!」
「う、うわあ!?」
一気に加速したシャークは、先日試した時速150キロを超えた。
「な、何だい、この速度は!?」
「ジン兄、もしかして、これ……?」
エルザは何か勘付いたようだ。
「ああ、これが完成した『 力場発生器(フォースジェネレーター) 』駆動だ」
「『 力場発生器(フォースジェネレーター) 』だって?」
「それが、あの?」
仁は満面の笑みで頷いた。シャークの動力は停止させる。
「ああ。『反動魔法』ではなく、力を発生させて制御することができるようになったんだ!」
「そ、そうだったのか! おめでとう、ジン!」
「……お手伝い、したかった」
賛辞を送るラインハルトと、残念そうな顔のエルザ。
「ファミリーを集めたかったんだけど、エルザは実家に帰っていたし、トアさんたちは出掛けていたんで、全員集まりそうになかったんだよ」
言い訳めいた事を口にしてから、シャークをゆっくりと停止させ、仁は2人に向き直った。
「とりあえず、俺以外のファミリーには初お目見えだ。礼子、見せてやれ!」
「はい、お父さま」
仁たちはシャークの屋根に上る。屋根には手すりが設けられ、簡単な椅子も作り付けられていた。
「行きます!」
ラインハルトたちの前から礼子が消えた。いや、消えたように見えた。
「……?」
「上さ」
仁が指差す方を見た2人は目を見開く。そこには礼子が、何に支えられることなく浮かんでいたから。
「『力』は、あらゆる方向に向けることができる。もちろん、上にも」
「……しかし、それにしても……まさか、いきなり飛ぶとは……」
「礼子だから、ここまで精密に制御できるんだ。礼子、動いて見せてくれ」
右手を挙げて答えた礼子は、弾かれたように飛び出すと、ループ、急上昇、急降下、きりもみ、8の字……と、曲芸のような飛行を披露した。
それを見つめるラインハルトとエルザは声も出なかったのである。