軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19-37 エピローグのようなもの

クライン王国を発った仁たちは、そのままショウロ皇国を目指すことなく、コンドル3を利用して蓬莱島へ。

ここで丸1日を過ごす予定だ。

「エルザ、ちょっと手伝ってくれ」

「うん。何するの?」

「特殊 自動人形(オートマタ) を、な」

「特殊? どんな機能があるの?」

「まあ見ていろって。……礼子、材料は?」

「はい、お父さま。準備完了です」

「よーし」

エルザが見ている前で、仁は 自動人形(オートマタ) を作り始めた。急がず慌てず、ゆっくりと。

つまり、30分ほどで8割方終了してしまう製作速度だ。眺めていたエルザは、自分がまだまだ仁には及ばないと言うことを実感した。

「……女性型?」

骨格、筋肉、触覚センサー、そして仮の 魔法外皮(マジカルスキン) が付けられており、女性型ということが見て取れる。

「ああ、そうなんだ。そしてエルザに、外見の仕上げをやってもらおうと思ってな」

「どうして、私?」

「ん? ……この 自動人形(オートマタ) は『 医療用(メディカル) 自動人形(オートマタ) 』だからな」

「医療用……」

そのとき、エルザは思い出した。

『病気の人、助けてあげられないの、かな』という自分の発言に対し、『蓬莱島に帰ったら考えてみよう』と答えてくれた仁。

「……ありがとう」

そこでエルザは、外見を考える。

「……サリィ先生」

治癒師として尊敬するサリィに少し似せることにした。名前は『リーゼ』とした。

仁は並行して、手術専用のミニゴーレムを1体製作。『ジャック』と名付ける。

トムとジャックからなのか、伝説の黒い医師に因んだのかはわからない。

それから数日後、マヌーゼ湖畔にふらりと現れた謎の女性治癒師が、寄生虫症をはじめとする疾患を治療し、罹患しないよう注意を与え、僅かな謝礼を受け取り、またどこかへ旅立っていったという。

* * *

「老君、そういえばあの侍女はどうしたかわかるか? それから口封じされた使用人の家族とかのことは?」

クライン王国では仁たちに話さなかったし、仁も尋ねることはしなかったのだが、時間が経つにつれ気になってきたのである。

『はい、 御主人様(マイロード) 。侍女アメリですが、犯人がデライト元産業相だとわかった時点で牢から出され、復職したようです。これにはリースヒェン王女殿下の口添えがあったとのこと』

「そうか、それはよかった」

リースヒェンはちゃんと考えていたようである。

『それから、使用人の家族については、規定の慰謝料が払われた模様です』

「規定の?」

『はい。就業中の事故で亡くなった場合、10万トールが遺族に払われるそうです』

約100万円。多いのか少ないのか、判断がつきかねるが、雇用時の規約というなら致し方ないのだろう、と仁は思った。

* * *

そして翌日、おおよその時間を計算し、仁とエルザは飛行船でショウロ皇国へと戻った。

ロイザートでは、宰相が彼等を出迎えた。

儀礼もそこそこに、仁、エルザ、礼子、エドガーは宰相の執務室へと向かう。

そこには女皇帝、

「ジン・ニドー卿、そして 国選治癒師(ライヒスアルツト) エルザ、お帰りなさい」

「ただいま帰りました」

「……なんとか使命を、果たせました」

謙遜気味に言うエルザに向かい、女皇帝は破顔一笑。

「いいえ、上首尾よ。今朝の定期連絡で、クライン国王自らお礼を言ってきたわ。まだ体力が戻らないので短く、だったけれどね」

上機嫌の女皇帝。

「今回の功績は大きいわ。ジン君に補助して貰ったとはいえ、未知の病気を解明し、原因をはっきりさせ、治療を成功させたんですものね」

そして女皇帝は真面目な顔になり、宰相を見やった。それで宰相は悟り、口を開く。

「今回の功績により、元ランドル家エルザに、家を再興する許可を与えるものとする。ランドル家を再興するも良し、新たな家を興すも良し。身分は準男爵となる」

「……」

急な話に、エルザは驚き言葉を失った。

ショウロ皇国における準男爵は士爵の上。つまり名誉士爵である仁よりも上。

仁は 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) であり、帝室名誉顧問であるので、その意味では仁の方がずっと上であるが。これはショウロ皇国内の話で、対外的にはエルザの方が上と見なされるのだ。

余談だが、イギリスにおいては準男爵以下は平民であり、貴族とは見なされてはいない。その点ではショウロ皇国とは異なっている。

「急な話であるから、どうするか、よく考えて返事してくれればよい。猶予は5日間。それまでに返答がない場合、ランドル家再興とする」

「……わかりました」

その後は仁から、デライト元産業相の起こした一連の騒動について、そして乾燥剤に関するクライン王国の反応や、食糧事情の報告などが続いた。

「……思っていた以上に大変だったわね、ご苦労様でした」

女皇帝が2人に労いの言葉をかける。

「乾燥剤についてはあらためて注文があったので、まずは10トンを送り出したところよ。あの『ゴリアス』5体に運ばせて、ね」

巨大ゴーレムであるゴリアスなら、1体で2トン程度の荷物なら余裕で運べるようだ。ショウロ皇国の魔導技術のデモンストレーションにもなるということで、一昨日ロイザートを発ったということであった。

「セルロア王国は承知したんですか?」

ショウロ皇国からクライン王国へは、セルロア王国を通過する必要がある。仁には、あの国が簡単に許可を出したとは思えなかったのだ。

「お察しの通りよ。いろいろ外交上のやり取りがあったわ」

そのいろいろなやり取りについては、女皇帝としては仁たちに話すつもりはないようだ。仁もどうしても知りたいというほどのことではない。

全ての報告を終えると、もう外は夕方、薄暗くなっていた。

薄暮の中、仁たちは飛行船でひとっ飛び、屋敷へと向かう。

屋敷の屋上には魔導ランプが煌々と点き、易々と着陸ができた。

「お帰りなさいませ、ジン様、エルザ様」

バロウとベーレが仁たちを出迎える。

「ただいま。2人とも、戻っていたんだな」

「はい。昨日の昼過ぎにラインハルト様の元に、ジン様たちがお帰りになると言う連絡が入りまして、今日のお昼過ぎにはこちらでお待ちしておりました」

「無事のご帰還、そして大役を果たされましたこと、お慶び申し上げます」

「ありがとう」

短い間ではあったが、ラインハルトのところでいろいろ学び、2人もまた少し成長したようだ、と仁は嬉しく思った。

* * *

ところで、この段階で、バロウとベーレは、ラインハルトから『 転移門(ワープゲート) 』の更なる説明をされている。

これは仁とラインハルトで相談した結果だ。仁からの説明でないのは、ラインハルトの方が『又聞き』と言う形になることで、詳細をぼかして説明できるからである。

それは11月15日のこと。

仁とエルザがクライン王国から戻ってくる前日である。

「そろそろお前たちにも知っておいてもらった方がいいだろう」

との前置きで、ラインハルトはあらためて1から説明を行った。

「ジンは、『 古代遺物(アーティファクト) 』である『 転移門(ワープゲート) 』を幾つか持っている。どこにでも設置できるようなものではないが、彼の拠点や、親しい友人の拠点近くに置かれているんだ」

ここまではおさらい。

「ジンが許可した仲間は、この 転移門(ワープゲート) を通ることができる。今度からはお前たちもな」

これを説明した時のバロウとベーレの驚きようといったらなかった、とラインハルトは思い出し笑いがこみ上げてくる。

「ええええええええ!!」

と、奇声を上げるバロウ。そしてベーレはといえば、

「ほ、本当によろしいんですか!?」

と、一見それほど驚いてもいないように見えて、目が泳いでいたのが見て取れた。

そしてラインハルト邸地下室からロイザートの屋敷へ跳ぶ段になり、2人の興奮は最高潮に達した。

許可された者しか通れない、とか、転移に失敗するとどこへ出るかわからない、などという説明をしたためか、緊張もしており、興奮と緊張でわけのわからない精神状態になっていたようだった。

「ラ、ラインハルト様、だ、大丈夫なんでしょうか?」

「……ちゃんと移動できるんですよね?」

「ああ、大丈夫だ。さあ、行くぞ」

2人の魔力パターンはまだ登録されていないため、ラインハルトに掴まりながら、バロウとベーレは 転移門(ワープゲート) へと足を踏み入れる。

そして出たところは、ロイザートではなく『しんかい』の中。そこには、セキュリティを司るバトラー49と50がいる。

「あ、あの、ここは?」

「……移動に失敗……したんじゃないですよね?」

不安そうな2人に、ラインハルトは説明する。

「ここは中間地点さ。怪しい者はここからどこにも行けなくなる。なんでも、ここは海の底だそうだ。ここに置き去りにされたらもうどうしようもないだろうな」

「ひ、ひえええ……」

「う、海の底なんですか……」

今度は青ざめる2人。ラインハルトはそんな2人を宥め、ロイザート行きの 転移門(ワープゲート) へと足を踏み入れた。

そして3人はロイザートにある仁の屋敷の地下室に到着。そこから地上に上がって初めて、バロウとベーレはほっと息を吐いた。

「す、すごいです! 本当に、ロイザートに来ちゃいました!」

「あんな僅かな時間で……! 夢みたいです」

今度は興奮で顔を赤くする2人。ラインハルトはそんな2人に釘を刺すのを忘れない。

「……いいか、これは秘密だからな? 軽々しく他人に話してはいけないぞ? 守れないときはどうなっても知らないからな」

「は、はい!」

「絶対に守ります!」

というわけで、仁が突然屋敷にやってきても、もう2人は慌てることはなくなったのである。

久しぶりにロイザートの屋敷でくつろぐ仁。が、今一つ元気のないエルザだった。

「……エルザ、どうした?」

問われたエルザは正直に答えた。

「……家の再興について、考えていたの」

「そうか……俺からは何とも言えない面もあるしな……そうだ、実家に行って、母上とも相談して見たらどうだ?」

「……いいの?」

「ああ。もちろん。 転移門(ワープゲート) 使ってラインハルトのところに飛べば、すぐだろう?」

仁に勧められたエルザは少し考えてから頷いた。

「うん、そうして、みる……ありがとう、ジン兄」

そんなエルザに仁は声を掛ける。

「そうだ、エルザ、これ」

呼び止めた仁が差し出したものを見ると、指輪である。

「 守護指輪(ガードリング) ……? 持ってる、けど」

「いや、これはな……」

「……あ」

仁は素早くエルザの左手を取ると、その薬指に 守護指輪(ガードリング) を嵌めた。

エルザはその指輪をまじまじと見つめる。虹色の 魔結晶(マギクリスタル) でできているのは他の 守護指輪(ガードリング) と同じだが、アクセントとして水色のアクアマリンが小さくも存在を主張していた。

「ジン兄、これ……」

「俺の気持ちだ。……実家の方、ゆっくりしてきてもいいぞ。いろいろあって疲れただろう?」

そっぽを向きながらそんなことを言う仁。見えている耳は真っ赤である。

「……ジン兄、ありがとう。行ってきます」

エルザも頬を染めながら身を翻した。

「エドガー、行こう」

そしてエルザは 転移門(ワープゲート) のある地下室へと消えていった。

「……どんな結論を出しても、俺はエルザの味方だからな」

小さく呟いた仁の声は、エルザには届かなかっただろうが……。