軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20-01 新たな始まり

蓬莱島で、老君は仁に対し報告を行っていた。もちろん、商人オリヴァーとのやり取りとその経過を、である。

時は3457年11月20日、冬がすぐそこまで来ている頃である。

『 御主人様(マイロード) 、概ね上手くいきました……』

* * *

約束の日である14日、昼前に老君の移動用端末である『老子』は、仁との打ち合わせ通りに、外観を少し弄ったデウス・エクス・マキナ改めジョン・ディニーを連れ、オリヴァーの店を訪れたのである。

「オリヴァーさん、いらっしゃいますか?」

「おお、ローシさん、ご無沙汰しております。……そちらが?」

「ええ、前回お話しした 魔法技術者(マギエンジニア) 、ジョンです」

「初めまして、ジョン・ディニーと申します」

「初めまして、商人をやっておりますオリヴァーです」

一通りの挨拶が済んだあと、オリヴァーはまず老子に話し掛けた。

「ローシさん、まずはお約束の 砂虫(サンドワーム) の革をお譲りしたいのですが」

「え? まだ、ジョンとの話は終わっていないでしょうに」

「ええ、ですが、ローシさんは約束を守って下さいました。ジョンさんとの契約は私どもの問題です。ですので、私としましては約束を果たしたいのですよ」

オリヴァーはなかなか律儀である。老子はその申し出を受け、 砂虫(サンドワーム) の革50枚を格安の2万5000トールで買い取ったのである。これは市場価格の半値であった。

砂虫(サンドワーム) の革は弾力があり、耐久性に富む。中級クラスのゴーレムには十分すぎる素材なのだ。

「それでは私はこれで失礼することにしましょう」

老子は、先に商談を済ませようとしたその裏に、ジョンとの話し合いは余人に聞かれたくないというオリヴァーの意図があることを察し、この場からいなくなることにしたのである。

「ジョン、それでは私はこれで帰ります。何かあったら訪ねておいでなさい。とはいえ、契約が上手くいくことを祈っていますよ」

「はい、ローシ殿、お世話になりました。ご縁がありましたら、またその節は、よろしく」

2人は表面上の別れを告げる。どちらも蓬莱島の老君が動かしているのであるが。

こうして、老子はオリヴァーの店を退出したのである。

(ご主人様の 身代わり人形(ダブル) には出番がなさそうですね)

念のため用意した仁の 身代わり人形(ダブル) であるが、披露せずに済んだ。老子はそのまま馬車へ戻り、 砂虫(サンドワーム) の革50枚を蓬莱島へと送り出したのである。

さて、オリヴァーとジョンである。

「ジョンさんは、どうして私の誘いに応じて下さったのですか?」

オリヴァーの質問。不確かな要望を受けようという物好きがそうそういるとは思えないだろうから、この質問は妥当である。もちろん、操っている老君はその答えをとうに用意してある。

「新しい世界を見てみたいのですよ」

「新しい世界……ですか?」

当然、オリヴァーはその言葉の真意を測りかねる。

「そうです。魔法技術を生かし、新たなものを作り出すのもその一つ。まだ見ぬ天地で己の力を生かすのもまたその一つ」

まだ見ぬ天地、というところでオリヴァーの表情が微妙に揺れた。

「……ジョンさんは、沙漠の向こうに興味がおありで?」

「……ありますね」

正直な、いや、正直すぎる返答に、オリヴァーがびっくりしたような顔をした。

「……沙漠の向こうには異民族が住むという話はご存知なので?」

ジョンは平然とした顔で頷く。

「噂程度には」

「……怖くないのですか?」

「何がです?」

「……敵を利するようなことをしたら売国奴と見なされ、処罰されるんですよ?」

するとジョンはふふ、と笑った。

「どこに敵がいるというんですか? 戦闘も、敵対行為もしていないのに?」

それを聞いたオリヴァーは更に驚く。

「……いや、まあ、その通りですが……」

そしてにやりと笑い、

「……変わってますね」

と言った。そして続けて、

「よろしくお願いいたします」

と言いながら手を差し出す。ジョンはその手を握りかえした。

* * *

『……というやり取りがありまして、ジョン・ディニーはうまく潜り込むことに成功しました』

仁は頷いた。

「良くやってくれた。その後の展開は?」

『はい、 御主人様(マイロード) 。オリヴァーさんの言うところによりますと、『10日後に少し遠出をする』らしいです』

「10日後か……」

『はい』

急いては事をし損じる、と仁は己を戒め、はやる心の手綱を引き締めた。

「そっちはゆっくり行くしかないんだろうな。……俺は俺で、やることやろうか」

そして礼子を顧みる。

「礼子、手伝ってくれ」

満面の笑顔で答える礼子。

「はい、お父さま!」

軽銀とアダマンタイト、そして闇属性の 魔結晶(マギクリスタル) を使い、仁は手早く小型の 魔導機(マギマシン) を作っていった。

ずっと考え続けてきた夢の 魔導機(マギマシン) である。

すなわち、『 力場発生器(フォースジェネレーター) 』。

先日の実験で確認した、『反動』と同種の力を、任意の方向に任意の大きさで発生させるもの。

これを礼子に実験して貰おうというわけである。

「礼子、これは『力』を発生させる 魔導機(マギマシン) だ。これをお前の重心付近に取り付ける。そうすればお前は……えーと、何て言ったかな……ああ、そうだ、『3次元機動』ができるようになるはずだ」

詳しい説明は『 知識転写(トランスインフォ) 』で礼子に伝えた。

「わかりました、この装置の実用性を確認すればいいのですね?」

「そうだ。頼めるか?」

「もちろんです。お父さまのお役に立てるならどんなことでも引き受けます」

こうして仁は、礼子の重心部……腹部やや下方に『 力場発生器(フォースジェネレーター) 』を取り付けた。

ミスリル銀の魔導神経線を配線し、 魔力反応炉(マギリアクター) からの魔力エネルギー配分も行う。

「よし、終了だ。礼子、『起動』」

「はい、お父さま」

「調子はどうだ? 1キロくらい重くなったはずだが」

礼子は身体を小さく動かしたり、前後左右に曲げたり捻ったりして確認した後答える。

「はい、バランスにはまったく問題ありません」

「なら、いけそうか?」

「はい」

それで仁と礼子は研究所前の広場に出た。

「よし、ここで試してみよう。無理はするなよ?」

「はい、お父さま」

返事をした礼子の姿が消えた。一瞬後、ガラガラという大きな音。

見れば、研究所の外壁に大穴が空いていた。

チャートという緻密で硬い岩石からできている外壁を軽々とぶち抜いてしまった礼子。

「れ、礼子、大丈夫か!?」

心配した仁が大声で叫ぶと、瓦礫を押しのけ、礼子が姿を現した。

「……お父さま、申し訳ない事をしてしまいました……」

そして仁の前で土下座をしたのである。