軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19-27 手術

11月12日、クライン王国首都アルバン。

王城に病人が3名、運び込まれた。

「エルザ殿、よろしく頼みます」

朝食後、エルザにお呼びがかかった。

「わかりました」

今回は、ミニ 職人(スミス) を使った手術を行うため、仁も同行する。それに異議を唱えるものはいなかった。

案内の騎士に従い、廊下を歩いてく仁、エルザ、礼子、エドガー。

今回、リースヒェン王女は同行しないようだ。

案内の騎士は王城の外へ向かっていた。

「……患者は外、なんですか?」

訝しんだエルザが質問すると、騎士から答えが返ってくる。

「はい。なにぶん、病人は庶民なので、王城内でなく、兵士宿舎の治癒室棟に収容しております」

「そう、ですか……」

この世界において、それは仕方のないことなのだろう。仁の薫陶を受けたエルザであるが、それについては何も言わなかった。が、内心では少し落胆しているのが仁には見て取れた。

兵士宿舎は王城中庭の外れにある。その更に端に治癒室棟はあった。

「こちらです」

治癒室棟前に立っていた兵士が、騎士の姿を見て扉を開けた。

「おお、エルザ嬢、ジン殿、ご足労おかけしますな」

そこには、既に宰相が待っていた。

隣には、治癒室棟勤務らしい治癒師が1人。他には誰もいない。仁たちと宰相、治癒師、そして随伴してきた騎士、最後に患者。

室内にはベッドが5台。そのうち3台に患者が横たわっている。

仁を守る 隠密機動部隊(SP) は棟の外で待機しつつ、協力して『 魔法障壁(マジックバリア) 』で棟全体を覆った。

これで、魔法による干渉や攻撃は防げる。仁と老君が相談した末の行動である。

物理現象は防がない 魔法障壁(マジックバリア) 。人の出入り、空気の出入りなどは自由なので、気取られる可能性は低いだろう。

そして棟内では、仁が『 物理障壁(ソリッドバリア) 』で仁自身とエルザ、そして患者を覆っていた。

エルザはそういった対策を施している仁を信頼し、診察に全霊を注いだ。

「あ、あなたが治癒師なので?」

「せ、先生、治りますかね?」

「……苦しいです……」

3人とも、顔色が黄色く、黄疸の症状が出ているのが仁にもわかるほど。一方でエルザはエドガーにも手伝わせ、詳細に診察をしていくのであった。

20分後、その結果が出る。

「こちらの2名は、陛下と同じ症状です。そしてこちらの方はアルコール摂取によると思われる肝硬変です」

説明を聞いた宰相は首を傾げながらも判断を下した。

「ふむ、かんこうへんというのがよくわからんが、そっちの2人は陛下と同じ病気なのだな? では、そちらを治療していただこう」

「わかりました」

それを聞いた、肝硬変と診断された患者が情けない声を出した。

「せ、先生、あっしは治してもらえないんですか……?」

だがエルザはその患者に笑いかけて見せた。

「……大丈夫。最後になるけど、ちゃんと治して、あげる」

その言葉に患者は安心したように目を閉じた。

「……では、始めます」

無菌室の代わりに、仁が張った『 物理障壁(ソリッドバリア) 』内を『 殺菌(ステリリゼイション) 』で殺菌消毒する。

同時に患者の皮膚も殺菌された。

「『 痛み止め(シュメルツミッテル) 』『 麻痺(パラライズ) 』」

麻酔の代わりがこの『 痛み止め(シュメルツミッテル) 』と『 麻痺(パラライズ) 』である。

そして患者が意識を無くしたところで、いよいよ仁とミニ 職人(スミス) の出番である。もちろんミニ 職人(スミス) も十分に殺菌消毒されている。

「……ジン兄、お願い」

「ああ、任しておけ」

透視モードで患者を見ているエドガーの視覚情報を回すことで、ミニ 職人(スミス) は患部である胆管とそこにいる寄生虫を視認できている。

「ミニ 職人(スミス) 、3、2、1、0で寄生虫を取り出すんだ」

「ワカリマシタ」

「エルザもいいな? ……よし、いくぞ。3、2、1、0!」

ミニ 職人(スミス) は、その華奢な身体と腕を患者の腹部に突き入れた。血が噴き出すが、傷口自体が小さいので出血量は大した事はない。

そして、2秒足らずでミニ 職人(スミス) は胆管から寄生虫を引きずり出すことに成功した。

「エルザ!」

「『 快復(ハイルング) 』『 快復(ハイルング) 』」

中級の外科魔法を2度掛けるエルザ。傷が小さいのでこの場合は適正といえる。『 全快(フェリーゲネーゼン) 』では過剰なのだ。

「『 診察(ディアグノーゼ) 』」

最後に、患者の容態を診察する。

「……寄生虫はいなくなった。手術は成功」

「よし」

患者はまだ麻痺状態から覚めないので、そのままもう一人の手術に取りかかることにする仁とエルザ。

全く同じ手順で手術は行われ、当然これも成功した。

が、エルザが残る一人を治療しようとすると。

「エルザ嬢、そんな病人は放っておいてもよろしい」

治癒室棟勤務の治癒師だった。

「そんな庶民を治しても一文にもならん。もう貴殿の実力は確認できた」

はじめて口を開いたかと思えば、治癒師にあるまじきことを言う。

「いえ、目の前に患者がいれば、治すのは治癒師としての使命です」

エルザは不埒な治癒師に背を向け、3人目の患者に向き直る。

「エルザ殿!」

そんなエルザを連れ出そうとするが、仁が『 物理障壁(ソリッドバリア) 』を張っているので触れる事すらできない。

「く……」

「ボーデマン、もうやめよ。エルザ嬢に任せておくのだ」

「……はっ」

宰相に諭され、ボーデマンと呼ばれた治癒師は悔しげに引き下がった。

パウエル宰相は、庶民の治療云々ではなく、エルザの実力を別の面から見てみたかっただけなのだが。

「……肝硬変。肝臓の7割が駄目になっている」

エルザの診断の結果である。

「腹水。……これは抜ける。……『 治療措置(ハイルフェルファーレン) 』」

内臓の機能を向上させ、毛細血管膜から漏れ出る水分を押さえ、吸収を活発にすること、これらで腹水を減らそうというのである。

「死滅した肝臓をそのままにしておくのはまずい。『 分解(デコンポジション) 』」

本来はゴミなどを分解して原子に還す魔法だが、死滅した細胞にも有効である。炭素、酸素、水素、窒素その他微量元素に分解してしまえばそれ以上生体に悪さはしなくなる。

放っておけば肝硬変から肝癌に発展するおそれもあるのだから、この処置は必要であった。

「排出させないといけない。『 添加(アッド) 』『 添加(アッド) 』」

これもまた、本来の使い方ではないが、有効な手法だ。炭素と酸素を緩やかに結合させ、二酸化炭素とし、また、酸素と水素は水に変える。

これにより、体内からの排出が簡単になったわけだ。

一部は血管から吸収され、肺から大気中へ。また一部は腸管から吸収されて。二酸化炭素は大量に血液に溶け込むと危険なので、ごくごく少量ずつ、ゆっくりと。

膨れていた腹部は次第に凹んでいく。同時に、浮き出ていた毛細血管も縮小していった。

「おお……」

その様子を見ていたパウエル宰相とボーデマンは驚異の思いを抱いた。まだ20にもならない少女が、どんな治癒師にもできないことをしてのけているのである。

「『 完治(ゲネーズング) 』」

麻痺から覚めた2人も含め、3人まとめて最上位治癒魔法を施すエルザ。

さすがに疲れ、よろめいたところをエドガーが支えた。

「大丈夫か?」

仁はといえば、ポケットから蓬莱島特製のペルシカジュースを出し、エルザに差し出した。

「あり、がとう、ジン、兄」

息を弾ませながら受けとったジュースを一気飲みし、人心地のついたエルザはほっ、と息を吐いたのである。