軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19-20 可能性の模索

「やはりお前も他の治癒師と同じか……」

考え悩むエルザを見、第1王子エドモンドは残念そうに言った。

「いえ、もう少し……」

だが、エドモンドはそれを拒絶する。

「駄目だ。これ以上父を無能な治癒師の目に触れさせることはしたくない」

「な、なら、明日、もう一度」

「ふん、今日見て分からぬものが明日見て分かるとでも言うのか?」

だがその言葉に反発するようにエルザは頷いた。

「はい」

その返事を聞いたエドモンドは一瞬面白そうなものを見た、という目をしたがすぐに表情を戻すと、

「いいだろう。だが、明日見ても分からなければそれで終わりにしてもらうぞ」

と、冷淡に告げた。

「……はい」

悔しかったが、分からないのは事実。せめてもの慰めとして、エルザは治癒魔法を施しておくことにした。

「『 完治(ゲネーズング) 』」

内科治癒魔法の最高峰。以前のエルザなら、1回使えば保有魔力を使い果たしてしまったものだが、魔力過多症が治ってからは少し余裕ができていた。

「おお!?」

エルザの治癒魔法により、アロイス3世の顔色が目に見えて改善した。

「……せめて、明日までは、これ、で」

大きな魔法を使った反動で少し息を弾ませながらエルザは告げた。

「それでは、今日はこれで、失礼、します」

深く頭を下げ、退出するエルザ。その背中をエドモンド王子とアーサー王子はじっと見つめていた。

* * *

エルザが侍女に案内されて通されたのは王城内2階にある貴賓室。もちろん仁たちとは別。

「あの、兄たち、は?」

「存じません。わたくしはお客様をここへ案内するよう命じられただけですので」

侍女はそれだけ言うと部屋を出ていった。

部屋にはエルザとエドガーだけ。ソファに身体を沈めたエルザはさすがに少し心細くなってくる。

その時ドアがノックされた。

「どうぞ」

エドガーがドアを開けると、そこにはアーサー王子が立っていた。

「エルザ嬢、少しよろしいでしょうか?」

「あ、どうぞ、おはいり下さい」

エルザはソファから慌てて立ち上がり、アーサー王子を招き入れた。

「失礼しますよ」

エドモンド王子と違い、アーサー王子の物腰は柔らかい。エルザも必要以上の緊張を強いられることもなく、比較的楽に応対できた。

室内に備え付けられているテーブルセットに、向かい合って腰を下ろす。

これも備え付けのティーセットを用い、エドガーが2人分のお茶を淹れた。ハーブのよい香りが立ちこめる。

「……兄の態度、悪く思わないで下さい。あれでも、兄は兄なりに父のことを心配しているのです」

「……はい」

「母のことはお聞きですか? 私たちの母も、病床にあったとき、国中の治癒師が診察したのですが治すことができず、身罷りました。そんな過去があるので、治癒師に対して不信感を持っているのです。……兄も、……私も」

「……」

エルザは無言のまま、何も言えずにいた。そんなエルザを見、アーサー王子は話題を変える。

「……父王の病状、何か掴めたのですか?」

「はい。肝臓が相当に悪くなっていらっしゃいます」

「そんなことを先程も仰ってましたね。でも、最後に施して下さった治癒魔法、あれを繰り返し使えば治るのではないのですか?」

その考えはエルザにはよくわかる。素人的にはそう思えるだろうことも。

「駄目、なんです。病気の原因を取り除かなければ、いずれまた、再発します」

「原因を? ……そうなんですか……」

エルザの回答を聞き、アーサー王子は眉をひそめた。

「私の力が及ばず、申し訳なく、思っています。でも、明日、もう一度、陛下を診察させて下さい」

「……父のために、ありがとうございます」

アーサー王子はそう言って立ち上がると、エルザの手を取る。

「……貴女の誠意ある診察と治療に感謝を」

そう言って手の甲に口付けをした。

「……あ」

慌てて手を引っ込めるエルザ。その顔に朱が差している。

「エルザ嬢。僕は貴女を信じます。どうか父を治してください。それでは失礼致します」

アーサー王子は会釈を一つすると、部屋を出ていった。

* * *

「……」

心細さにエルザは我知らず涙をひとしずく落とした。

「ジン、兄……」

(……頑張るって、決めた。こんなことで、くじけちゃ、いけない)

心の中でそう呟き、自らを奮い立たせるエルザ。その時である。

「エルザ様、ジン様からメッセージです」

「……ジン兄から?」

どくん、と鼓動が跳ねた。

『エルザ、老君から聞いた。いろいろ大変だったようだな』

老君を経由した通話だが、エドガーの口を借り、仁の声が聞こえてくる。

「……ん、でも、頑張ってみる」

『それで、俺と老君で検討してみたんだが』

アロイス3世の病状について、仁なりの所見を伝えてくる。

『毒じゃない可能性がある』

「どういう、こと?」

『さっきリースから聞いたんだが、夏前に陛下はマヌーゼ湖に行っている』

「マヌーゼ湖?」

『ああ。 竜頭ウナギ(ドラゴニックイール) が獲れるシャマ大湿原のそばにある湖だが、他の淡水魚も豊富らしい。何か引っ掛かることはないか?』

仁の言葉を聞いたエルザは少しの間考え、思いついたことを口にした。

「……寄生……虫?」

『その可能性は高いと思う』

地球には淡水魚や蟹、貝類に寄生するものがいる。また、キタキツネがエキノコックスという寄生虫を媒介することも知られている。

エルザも、仁から得た知識として知ってはいたが、この世界では一般的な認識がないため、思いつかなかったのである。

そう思って調べなければ、『 診察(ディアグノーゼ) 』でもわからない。まして、寄生虫は生物なので、異物と知らなければ認識できないとも言えた。

「ジン兄、ありがとう。明日、もう一度、調べてみる」

『ああ、頑張れよ。いつだって飛んでいくからな』

それで通話は切れた。リースヒェンが傍にいるなら、不在のタイミングをみての連絡だったのだろう。

2分足らずの通話だったが、自分が孤独ではないことを再認識し、エルザは胸の内が温かくなるのを感じていた。

最早、先程のアーサー王子のことなど気にもならず、エルザは翌日に備え、身体を休めることにしたのである。

* * *

仁は仁で、リースヒェン第3王女から彼女の父、アロイス3世についていろいろ聞いていた。

「……父上はマヌーゼ湖で獲れるトロートがお好きでのう、漁が解禁になる6月になると2日ほど休暇を兼ねてデクボ村を毎年訪れておる」

「そのトロートって、どうやって食べるんだ?」

「大体は焼いて塩を振って食べるのう。ただ、今年は新しい食べ方をしたと聞いた。 妾(わらわ) はその場におらんかったのでよくは分からんが、生のトロートを切って、ビネガーを振って野菜と共に食べる……とか聞いておる」

仁は、『マリネ』に近い食べ方ではないか、と推測した。

仮に寄生虫がいても酢で無害化されるはずだが、調理が不十分だった可能性はある。

(エルザに教えておいた方がいいな……)

リースヒェンが席を外した隙を見て、仁は礼子経由で老君に接続、老君はエドガーに接続することでエルザとの会話が成立。

こうして、寄生虫という可能性はエルザに伝わったのである。

ところで、酢に含まれる酢酸では、ほとんどの寄生虫に対して有効ではない、つまり殺虫効果はないということを付け加えておく。仁の記憶違いである。