軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19-18 護衛の意味

「 魔法技術者(マギエンジニア) ……ですか?」

オウム返しに聞き返した老子に、オリヴァーは補足説明を行う。

「はい。ここ、イスマルの町には 魔法技術者(マギエンジニア) は1人もいないのです」

「それはわかりますが……お雇いになられるのですか?」

老子が尋ねると、オリヴァーは少し口籠もった。

「い、いえ、……そう、まあ、そうです。……雇いたいと言っているのは私ではなく、私の知り合いなのですが」

「なるほど……因みに、条件はどんな感じでしょう? それを伺わないと、私と致しましても紹介致しかねるのですが」

「……ごもっともです。……えーと、給金は要相談ですが、月2万トールを下回ることはないと思います。仕事内容はいろいろな魔導具の修理……になると思います」

「ふむ、それで、仕事をする場所はどこになるのでしょう?」

その質問に、オリヴァーは目に見えて動揺した。

「……私の口からは何ともお答えしづらいのですが……そう、沙漠の方……と言う答えではまずいでしょうね?」

その言葉を聞いた老子は考えを巡らす。老君の処理能力の一部だけを使っているとはいえ、人間の何倍もの処理速度があるのだ。

(おそらく異民族か、彼等に繋がる人たち、でしょうね。ここはもう少し情報を引き出して、あとは承知しておくのがいいでしょうか)

そんな判断を一瞬で終わらせた老子は肩をすくめて見せた。

「そのお話だけで雇われてみようという 魔法技術者(マギエンジニア) がいるとは思えませんね……」

「で、しょうね。……あの、ローシ様を信用してお話しすると、ですね……あ、その前に、これから話す内容は、できるだけ他人には話さないで下さい」

「もちろんです」

「…… 魔法技術者(マギエンジニア) を必要としているのは、その、『鰹節』を売ってくれた人たちなんですよ」

「ほう」

老子は予想が当たったことで密かに快哉を叫ぶ。

「なるほどなるほど。何となく想像がついてきましたよ。……そうしますと、心当たりの者がいますね」

適当に答えておく。心当たりも何も、これから 第5列(クインタ) を用意するのである。

「本当ですか!」

だが、オリヴァーは大喜びだった。

「そ、それは助かります。ええと、いつお引き合わせいただけますか?」

老子は考え込む演技をする。

「……そうですね、5日後……くらいになるでしょうか。と申しますのも、私どもの主人がこちらの町へやって来るのがそのくらいになりそうですから」

それを聞いたオリヴァーはもう見るからに有頂天である。

「ええ、ええ、結構ですとも! 是非、是非、よろしくお願い致します!」

何度も頭を下げてくる。老子はそれを押し止めるのであった。

興奮が収まると、オリヴァーは改めて尋ねてきた。

「ローシ様のご主人様、というお方はどのような方なのですか? お差し支え無ければお教えいただきたいのですが」

この言葉に、老子は少し考え込まざるを得なかった。仁のことを打ち明けてもいいかどうか迷ったからである。

が、そこは老子のこと、考え込んだといっても1秒足らずで結論を出した。

「ニドー様と仰いまして、珍しい素材を探し、ご旅行中なのです」

仁の名前でなく、姓の方を明かしたのである。

「ニドー様と仰るのですか。そういたしますと、こちらへは 砂虫(サンドワーム) の革が目的で?」

「そうです」

この答えにオリヴァーは少し考えた後、

「それでしたら是非私どもの所で用意させていただきます」

と言いだしたのである。特に問題は無いので、老子もそれを承知した。

「それでは5日後、技術者を連れて伺います」

「はい、どうぞよろしくお願い致します」

こうして、老子は異民族への足がかりを掴んだのである。

* * *

同日のカイナ村。

「ジン様、一つよろしいでしょうか?」

工房2階でくつろぐ仁のところにミーネがやって来て、助言をしたいと言う。

「もちろんさ。何だい?」

仁が頷いたので、ミーネはさっそく本題に入った。

「ジン様は、あちこちの都市や町へハンナちゃんを連れて行っていますよね?」

「うん」

「誘拐の危険を考慮なさってますか?」

「ああ。ハンナだけじゃなく、エルザにも、姿を見せずに護衛する 隠密機動部隊(SP) を付けているけど」

ここでミーネは首を振る。

「いけません。危険という意味ではなく、周知徹底という意味で」

「周知徹底?」

「そうです。ジン様は3国で名誉士爵を受けています。つまり、貴族として行動されなければいけません。その際、目に見えてそれと分かる護衛を最低1名連れている必要があります」

つまり、示威行動も必要と言うことだ。

「手を出したら痛い目に合う、ということを不埒な輩に見せつけておく必要があるということですね」

「そういうことか……」

仁には礼子、エルザにはエドガーがいるし、ハンナは大抵は仁と一緒である。そうでなくても 隠密機動部隊(SP) がいるから十分と思っていた仁であった。

「ドレスを着て町中を歩くときはもちろん、普段着でも、です」

ショウロ皇国首都ロイザートは治安が良く、誘拐などはほとんど起きていないようだが、セルロア王国やフランツ王国の地方都市などはあまり治安が良くないそうだ。

「クライン王国の首都アルバンがどのようなところか私は存じませんが、用心に越したことはないと思います」

「わかった。ありがとう」

ミーネからの助言を受けた仁は考えた。

「うーん、そうなると……老子は出ているし、新たに……というのも何だしなあ」

「別に、人間らしくなくてもかまわないと思います」

「ああ、そうか」

仁は 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) である。

少なくとも、それを認めている3国では、護衛ゴーレムを引き連れていてもおかしくないだろう。

「よし、ここはスチュワードの出番だな」

スチュワードは、ゴーレム馬車の御者をさせるべく仁が作った雑用系万能ゴーレムである。

見かけはごついが、基本性能はバトラー以上という、力仕事から精密作業までできる超高性能なゴーレムだ。

仁はさっそく老君に連絡して、蓬莱島で待機中のスチュワードに、必要な情報を教えておくよう指示を出す。

目的などは老君から 知識転写(トランスインフォ) で教えさせれば説明の手間も省けるからだ。

「問題は、ショウロ皇国を出た時より人数が増えていることだな……」

そう、飛行船でショウロ皇国を発った時にはいなかったスチュワードが増えていたらおかしいのではなかろうか。

「……ショウロ皇国から何人で行く、って連絡が行ってなければいいんだが……」

仁の呟きを聞きつけて、老君が連絡を入れてきた。

『 御主人様(マイロード) 、それでしたら大丈夫です。人数やメンバーの詳細は伝えられておりません』

「そ、そうか」

各国に贈与された 魔素通話機(マナフォン) 、老君はその会話をモニタできるのである。

「それなら連れていくことに問題は無い……かな」

あるとすれば重量超過である。が、重力魔法で重量を軽減しておけば問題は無い。

こうして、仁はクライン王国首都アルバン訪問の準備を進めていくのであった。

「そろそろ出掛けるか」

午後1時半、仁は腰を上げた。

カイナ村とアルバンの時差は20分くらい。大きな誤差はない。

午後早くに着くなら十分だろう。

「おにーちゃん」

ハンナがやってきた。

「ジン兄」

エルザも仕度ができたようだ。

「それじゃあ行ってきます」

「エルザ、しっかりお役目を果たしなさい」

「気を付けるんだよ、ジン」

見送るミーネ、マーサに挨拶して、仁たちは蓬莱島へと飛んだのであった。