軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19-16 一時帰省

翌朝、仁とエルザは揃って少し寝坊してしまった。時刻は7時半を過ぎたところ。

「おにーちゃーん、朝だよ!」

眠りこけている仁を、ハンナが起こしに来たのである。

「ん……ああ、もうそんな時間か……」

仁は柱時計を見た。

蓬莱島の時計は、太陽と月の位置を測定した老君が管理しているので正確である。

「……そういえば、昨夜は礼子にも何時に起こしてくれと言わずに寝たんだな……」

礼子が起こさなかった理由の一つ。もう一つは、特別急を要する事項がないため、気を遣って起こさなかったのである。

「ああ、よく寝た」

6時間以上ぐっすり寝たため、疲れも取れた。

「おねーちゃんも起こしてくるね!」

仁を起こしたハンナは、今度はエルザの部屋へと向かう。

ゆっくりと服を身に着けた仁は洗面所へ向かった。

仁が顔を洗っていると、眠そうな顔のエルザがやって来た。

「おはよう、エルザ」

「……ジン兄、おはよう」

顔を洗うと、台所からいい匂いが漂ってきた。3人が起きたことを知ったソレイユとルーナが朝御飯の仕度を始めたのである。

礼子のアシスタントとして作られたゴーレム、ソレイユとルーナは、最近では研究所ではなく『館』に詰めている。

掃除を初め、維持管理を務めているのだ。更にその部下であるプラネとサテラは家庭菜園や庭の手入れなどが主な業務である。

そして手が空いたときは5色ゴーレムメイドたちの手伝いや、老君と共に新しい本を作ったりしているのだった。

「お、今朝は大根おろしが付いているな」

献立は朝がゆ、ワカメの味噌汁、梅干し、大根おろし、菜っ葉の漬け物、アジの干物。

大根は先日 第5列(クインタ) が見つけてきた。これでカブが見つかると更に嬉しいな、と仁は思っている。

漬け物は糠漬けだ。米が収穫できたので無農薬の米糠が手に入り、うろ覚えの仁の記憶を元にペリドリーダーが再現したもの。

醤油も、少し醸造期間が短いが供給され始めた。

「おいしい」

ハンナは梅干しのように酸っぱい食べ物も平気だ。というか好き嫌いが無い。美味しいものも、そうでないものも、喜んで食べる。もちろん美味しいものの方が喜ぶが。

好き嫌いが無いのは仁も同じ。

エルザは、コカリスクという大型のニワトリのような鳥の肉が苦手なだけで、あとはだいたい好き嫌い無く食べる。が、やはりそこは育ちの良さ、不味いものには顔を顰めてしまうことも。

それでも、かつてミーネと共に行った逃避行の経験を思い出し、食事に感謝する気持ちを忘れないところは偉い、と仁は思っていた。

「おかわりください」

何にせよ、エルザもハンナも、仁が好む和食や和風レシピを好んでくれているので、仁としても一緒に食事するのが楽しいわけで。

「俺もお代わり」

この日も朝食の風景は和やかであった。

* * *

「さて、今日はここでお昼を食べたらクライン王国へ行くことにしよう」

時間調整のため、そのくらいなら問題ないだろうと判断したのである。

「俺はちょっとカイナ村へ行って、向こうの様子を見てくることにする。ハンナ、一緒に来るかい?」

「うん!」

「エルザはどうする?」

「一緒に行く。サリィ先生と、少し話もしてみたいし」

ということで、 転移門(ワープゲート) を使い、二堂城ではなく仁の工房地下へと3人は転移したのである。

「おばーちゃーん!」

マーサのところへ駆けて行くハンナ。やっぱり長いこと家を空けていたので寂しかったのだろう。

「おや、ハンナ、お帰り。ジンも、エルザも」

「ただいま、マーサさん」

「ただいま」

「今日はどうしたんだい?」

「午後からまた王都へ行くんですけどね、時間があるんで寄ってみました」

マーサは大きく頷いた。

「そうかい。なんだか王都は大変みたいだね」

「そうなんですか? そういうことを聞いておこうと思って」

「それならエリックのところがいいかもね。一昨日、ローランドさんが帰ったばかりだから」

「わかりました」

それで、仁はエリックの店へ、エルザはミレスハン診療所へ。ハンナはマーサのところ、と、一旦3人は別行動することになった。

「あ、ジンさん!」

エリックの店ではバーバラが手伝いをしていた。

「いつお帰りに?」

とエリック。

「ああ、今さっき、さ。また昼から王都へ行くんだけどな」

「アルバンへ、ですか?」

「ああ。それで、知っている範囲でいいから、アルバンの様子を聞いておきたいんだ」

それを聞いたバーバラは、黙って椅子を用意し、お茶を淹れ始めた。もう立派な新妻である。

仁は椅子にかけ、エリックの話を聞く事にした。

「……アルバンは、いえ、王国の大部分は、飢饉への恐怖がつのり始めています。元々小麦・大麦の不作と、保存中にカビが生えたことで、来年初夏の収穫期までは保たないだろうと試算されていまして……」

「そうか、やはりな……」

「カイナ村と、お隣のトカ村は大丈夫だと思います。特にここカイナ村は。でも、王国はそういう村から、追加で麦を徴税するのではという噂も出ていますね」

「それはやっちゃ駄目だろう……」

仁でもわかる。そういうことをすれば、政府に対しての不信感がつのるばかりでなく、労働意欲が削がれてしまう。結果、国力低下に繋がるのだ。

「それを受けて、王都周辺では金持ちによる食糧の買い占めが始まっているそうです」

「冷静に見て、本格的な飢饉になるのはいつ頃と見る?」

仁は商人であるエリックの口から見通しを聞いてみたかった。

「……そうですね……僕の見立てでよければ。えーと、今年の収穫量は全体で見ると平年の7割。そのうち2割がカビでやられています。つまり、5割6分。これでは春が来る前に備蓄が尽きてしまうでしょう」

「……わかった」

かなり先行きが暗い見通しであった。1人あたり年間150キロの麦を食べるとして、足りないのは66キロ。

クライン王国の人口はおよそ10万人、単純計算で6600トンの麦が不足する。蓬莱島でも短期間にそれだけの食糧を生産することはできない。

改めてアルバンでも試算してみようと思う仁だが、そう大きく変わることはないだろう、という気がする。

今の仁にできることは何だろうか、と仁は考え込むのであった。

* * *

「……何、国王が病」

エルザはミレスハン診療所に行き、サリィと話をしていた。

「それで君がショウロ皇国から派遣された、というのか。ふむ」

サリィは難しい顔で考え込む。

「経験が浅いことを除けば、君は世界でも指折りの治癒師だろう。それは私が保証する。今、私から助言できることがあるとすればただ一つ。己を信じることだ。周囲の雑音に負けるな」

患者を救うことだけを考え、全力を尽くせば、結果は付いてくる、とサリィは言った。

「先生、ありがとうございます」

エルザは頭を下げた。

「ふむ、しかし、まったくもってこの村は平和だな。先日、相次いで赤ん坊が生まれたぞ。母体も無事。至って健康だ。産後の肥立ちもいいし、母乳の出も良好。何も問題は無い」

それを聞いたエルザは頬を緩めた。

「新しい命の誕生を素直に喜べることはしあわせなことだ。この村に来て良かったよ」

サリィも微笑んだ。

エルザは、仁がいてくれる限り、この村は平和であり続けるだろう、と、窓から晴れた空を見上げるのであった。

* * *

「おばあちゃん、それでね、そのシーデちゃんとね……」

ハンナは、好物の干しワイリーを食べながらマーサにこれまでの報告をする。

(……よその国の皇帝陛下にお会いしたなんて……あたしの孫は大物だねえ……)

呆れながらも感心するマーサであった。