軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19-13 エドガー強化

仁から中級篇の科学知識その他を受け取ったエルザの顔は晴れやかだった。

「今まで疑問だったことの答えが出た。今まで知らなかったことを理解できた。そして……この世界はまだまだわからないことで満ちあふれているということが……わかった」

その言葉を聞いた仁は微笑み返す。

「そうさ。未知だから知りたいと思うし、知りたいと思うから人は努力するんだ。それが未来へと積み重なって行くんだ」

またしてもらしくないセリフを言った仁は照れて頭を掻く。が、エルザは真剣な顔で仁を見つめたまま。

「私がこれから得る知識は、ジン兄に捧げる」

そう言うと、さすがに照れくさくなったのか、頬を染めて俯くエルザであった。

礼子はそんな2人を複雑そうな顔で眺め、何度か口を開きかけたが、結局無言のままでいたのである。

「さてエルザ、エドガーをグレードアップしてしまおう」

「え?」

「多分だが、エルザと一緒に病気の王様のところに行けるのはエドガーだけじゃないかと思う。それだってわからないけどな。……で、エドガーにナースゴーレムの知識を転写した方がいいだろう?」

そんな仁の言葉の端々に、想ってくれる気持ちが透けて見えるようで、頬が熱くなるのを感じるエルザであった。

「……うん、ありがとう、ジン兄」

そこでさっそく『エドガーグレードアップ計画』を実施することにした。

ハンナは久しぶりの蓬莱島が楽しいらしく、庭を走り回って遊んでいる。ソレイユとルーナもサポートに付けてやることにした。

研究所の工房で、エドガーの改造が始まった。

まず一番大事なこととして、ナースゴーレムの知識を転写。これでかなりの治癒魔法を使えるようになる。

格闘技や剣技も更に強化した。

「それから視覚系の強化だな」

診察の補助が出来るように、という配慮だ。目に使っていた 魔結晶(マギクリスタル) をグレードアップし、透視機能・拡大機能を持たせる。

老君とのリンクも行い、見たもの・聞いたものを老君が解析することもできるように。

「エネルギー系も改造しよう」

仁はエルザに、『 魔力反応炉(マギリアクター) 』の作り方を伝授する。

「……ジン兄、難しい。私には、無理」

だがエルザは 魔結晶(マギクリスタル) の融合を失敗してしまった。

「大丈夫だ。エルザならできる。もう一度やってみるんだ」

しかし2度目、3度目も失敗してしまう。

「ジン兄……」

やっぱり駄目、と言おうとして、エルザははっと気が付いた。また仁に頼ろうとしている自分を。

(……ジン兄を支えられるようになりたい、と自分に誓った。だから、ここで頼っちゃ、駄目)

「……もう一度、やらせて」

その言葉に仁は微笑みながら頷いた。

「ああ、何度でもやって見ろ。エルザならきっとできるようになるさ」

「ん」

魔結晶(マギクリスタル) を受け取り、2つを融合させ、結晶構造を変えるべくイメージを練り上げていく。お手本はある。水晶の双晶。蝶が羽を広げたような形だ。

(ジン兄はお手本無しに作り上げた。私はお手本が目の前にあるんだから、ずっと楽。できないはずがない)

エルザは精神を集中し、魔力を研ぎ澄まし、工学魔法『 構造変形(ストランスフォーム) 』を発動させた。

「やったじゃないか!」

エルザを讃える仁の声。

エルザの手の中には見事な 魔結晶(マギクリスタル) の双晶が出来上がっていた。

「ジン兄の、おかげ」

「ああ、大したものだ。なあ、礼子」

「……はい」

言葉少なに肯定する礼子。その声には、ほんの僅かではあるが尊敬の色が籠もっていたのだが、誰もそれに気付く者はいなかった。

装備としても、 障壁結界(バリア) 、 魔力探知機(マギレーダー) 、 魔力妨害機(マギジャマー) 、 麻痺銃(パラライザー) を内蔵。

中級程度の攻撃魔法を使える 魔導装置(マギデバイス) も備え、護衛としても十二分な性能となった。

更にエルザの持つペンダント型の 魔素通信機(マナカム) と通信できるようにした。

「よし、これなら安心できるだろう」

仁も、エドガーの性能アップを見て、ようやく胸を撫で下ろすことができたのである。

* * *

蓬莱島の空が茜に染まり、外で遊んでいたハンナも戻って来た。

「おにーちゃん、やっぱり『時差』でこんなにはやくくらくなるの?」

「ああ、そうだよ」

先日説明した時差のことを理解しているらしいハンナ。今更ながら、ハンナの理解力に驚いた仁であった。

ロイザートで朝食、そして蓬莱島で夕食、という組み合わせになってしまうのは仕方ない。時差からすると昼食のタイミングになるのだが。

仁たちは夕食を食べるべく、仁の家へと向かった。

「これ、『かわらやね』って言うんでしょ?」

いつ勉強したのか、仁の家を見てハンナが尋ねる。

「よく知ってるなあ」

感心した仁が頭を撫でてやると、ハンナは嬉しそうに微笑んだ。

「えへへ、おにーちゃんのおしろにあるご本でべんきょうしたの」

老君が子供用に用意した本をみんな読んでしまった、と胸を張るハンナ。

身内びいきもあり、もしかしたらハンナって天才なんじゃないかと思う仁であった。

夕食は白米のご飯、ナメコと豆腐の味噌汁、焼き魚、漬け物、ほうじ茶。

3人とも好物という和食である。エルザは、明日のことを考えると食欲があまり湧かなかったのだが、この献立に救われた。

「……おいしい。おかわりもらえる?」

「あ、あたしもおかわり!」

「ハンナ、よく噛んで食べろよ」

「うん!」

和気藹々とした食事風景。

エルザは、この温もりがあれば頑張れる、と思った。

夕食後、一息ついて入浴。もちろん蓬莱島温泉。

男湯・女湯を分けてあるため、仁は男湯に、エルザとハンナは女湯へ。

「……ハンナもちょっと見ない間に成長したな」

「はい、お父さま。ハンナちゃんは頭のいい子です」

「お前もそう思うか」

仁は、ハンナに限らず、カイナ村のこれはという子に英才教育を受けさせようか、などと考えながらお湯に浸かっていた。

一方、エルザとハンナ。

「エルザおねーちゃん、せなかながしてあげる」

「……ありがとう。そのあとで私がハンナちゃんの背中洗って、あげるね」

「うん!」

2人は仲良く背中を流し合い、またエルザはハンナの頭を洗ってあげたりもしていた。

「こんどはあたしがおねーちゃんのあたまをあらってあげる!」

ハンナはそう言うと、洗面器にお湯を汲み、持ち上げた……が、手を滑らせてしまう。

からあん、と音がして洗面器が床に落ちた。

この洗面器は仁の拘りでアルマイト製であった。アルマイト、つまり、アルミニウムの表面を酸化皮膜で覆ったものである。

「あー、ごめんなさい……」

地金はアルミニウムであるから軟らかい。落とした拍子に凹みができてしまったようだ。

それを見たエルザは、ハンナの頭を優しく撫でて告げる。

「大丈夫、ハンナちゃん。すぐに直せる。『 変形(フォーミング) 』」

エルザの工学魔法により、凹んだ洗面器はたちまち元の通りになった。

「わあ、おねーちゃん、ありがとう!」

元通りになった洗面器を撫でながらお礼を言うハンナ。

「まほうってすごいね。おにーちゃんもそうだけど、どうやってかたちをかえてるのかな?」

「え?」

ハンナの何気ない一言を聞いたエルザは、頭の中で何かが繋がった気がした。

「おねーちゃん?」

「あ、ごめんね、ハンナちゃん。でも、ハンナちゃんのおかげで、ジン兄が悩んでいた問題が解けるかもしれない」

「おにーちゃんの? ……それならうれしいな」

それからエルザは手早く頭を洗い終えると、ハンナと共に湯に浸かりながらも何ごとかを考えていたのであった。