作品タイトル不明
19-02 支援
「クライン王国が不作?」
蓬莱島でごはんを堪能した仁は、単身、老君から報告を受けていた。
『はい、 御主人様(マイロード) 。この秋の異常気象といいますか、長雨のせいで麦にカビが発生したようです』
「保存にも問題があるか……陛下が言っていたカビの害というのはそれだな」
ショウロ皇国の女皇帝が乾燥剤の生産を急いだ背景が腑に落ちた仁である。
『このままでは、深刻な食糧不足になりかねません』
「だが、異常気象って今年が初めて、ってことないよな? 過去にも似たような事あったんじゃないのか? その時はどうやって凌いだんだろう?」
『今年は、4月にフランツ王国との小競り合いがありましたね? あの時にかなりの量の麦が駄目になったようです。不作にならなければ残った麦でなんとかなったのでしょうけれど……』
人災も手伝ってしまったため、被害が大きくなってしまったようだ。
『同じ事がセルロア王国にも言えまして、地方への援助もままならない状況のようです』
戦争で国力を疲弊させるということがいかに不毛かが良くわかる話であった。
「王国からはこちらに何も言ってこないよな?」
『はい。……過去にいろいろ不誠実なことをしていたから遠慮があるのでしょう。それに……』
「それに?」
『食糧に関しては 御主人様(マイロード) といえどもどうしようもないと思っているのかもしれません』
モノ作りに関しては世界一である仁だが、食糧問題に関しては頼れないと思われたのだろう。
「除湿装置なら作れるがな……」
原理は簡単。取り込んだ空気を冷却すれば飽和水蒸気量が減り、結露という形で水となる。その水を取り除いた後、再び室温まで加温すれば、乾燥した空気となる。
現代地球のエアコンでも使われている方法である。
『 懐古党(ノスタルギア) 経由でクライン王国に支援しましょうか』
「ああ、それがいいかもな」
空調は過去にも存在した技術であるから、広めることに問題は無い。そちらは老君に一任することにした。
『ですが、絶対的な食糧不足は……』
「ああ、そうだな。どこかから支援物資を調達しないといけないな」
元々小群国全体での食糧自給率は100パーセントを少し上回る程度。つまり、多くの余剰はないということだ。
これは、貯蔵技術が発達していないため、長期保存ができないことも関係している。
「 魔力庫(エーテルストッカー) の技術も必要になるかな」
こちらは兵器への転用は難しいだろうし、生活の役に立つ技術なのでいいかもしれない、と仁も考えたのだ。
「ああ、それから、ハリハリ沙漠の向こうから異民族が攻めてくる、という話はどうなった?」
『はい。最も西にある町、イスマルにいる 第5列(クインタ) 、レグルス42が調査中ですがまだ何も』
「うーん、デマだったのかな?」
『それならそれで裏付けが欲しいですね』
「まったくだ」
* * *
セルロア王国北西部、アヒにほど近い場所に、 懐古党(ノスタルギア) は現在の拠点を置いていた。
「エレナ、新しい指示があったって?」
懐古党(ノスタルギア) のナンバー1、ジュール・ロランは、美しき 自動人形(オートマタ) 、エレナに声を掛けた。
「ええ、ジュール。クライン王国が秋の長雨で不作になってしまい、このままでは飢饉になるおそれがあるそうよ」
「……何? それはよろしくないな」
ナンバー2のドナルド・カロー・アルファも話に参加してきた。
「でしょう? ですから私たちは『除湿器』を各国にプレゼントすることになるわ」
「除湿器か。効果的だな」
ジュールとドナルドは揃って頷いた。
「ドナルド、サンプルを数台用意して下さる?」
エレナは 懐古党(ノスタルギア) の技術担当、ドナルドに仕事を依頼する。
「わかった、任せておいてくれ」
「ジュール、各国へどうやって除湿器を引き渡すか、方法を検討してちょうだい」
「うむ、承知した」
* * *
「 魔力庫(エーテルストッカー) ……ですと?」
「そうです」
今、仁は『デウス・エクス・マキナ』として、クライン王国にやって来ていた。
『 身代わり人形(ダブル) 』のテクノロジーを導入した2代目のボディである。
至近距離で他人と対峙しても、 自動人形(オートマタ) と見破られるおそれは僅少。
「この 魔力庫(エーテルストッカー) を使えば、穀物の貯蔵期間は数倍に延びます」
「なるほど……」
蓬莱島の作物並みに 自由魔力素(エーテル) 含有度が高ければ半永久的に貯蔵できるのだが、普通の作物では5倍が限度。
それでも2年程度が限界だった貯蔵期間が10年になるということは画期的である。
「残念ながら、作物そのものにつきましては援助できませんけれどね」
「い、いえ、これだけでも大助かりです、マキナ殿。ありがとうございました!」
パウエル宰相は米搗きバッタのように何度も何度も頭を下げていた。現状打開に腐心している矢先、その一角だけでも心配が無くなるということは大助かりなのだろう。
ここは宰相の執務室。念のためということで、護衛兼立会人として、近衛騎士団団長のグレン・ダブロードも同席していた。
そのグレンは、自国の宰相が、いくら救国の技術をもたらしたとはいえ、どこの馬の骨ともわからない者に頭を下げることが気に入らないように終始むすっとした顔をしていたが……。
* * *
「技術の提供はこれで何とかなるだろうかな?」
『はい、 御主人様(マイロード) 。エゲレア王国とショウロ皇国には、私がマキナを使って 魔力庫(エーテルストッカー) の仕組みを伝えておきましょう。これ以上は過干渉になるでしょうか?』
「ああ、その判断は難しいよな……」
「気持ちはわかるよ、ジン」
突然の声に振り向けば、ラインハルトが立っていた。
「ラインハルトか」
「ああ。例の乾燥剤プラントの立ち上げも済んで、量産が開始されて僕の手を離れたからね。ジンが今回の騒動をどうするつもりかと思ってやって来たんだ」
「ありがとう、ラインハルト」
友人の気づかいに感謝する仁。
「除湿器は 懐古党(ノスタルギア) が、 魔力庫(エーテルストッカー) はマキナが。残るのはハリハリ沙漠の向こうに棲むという異民族の件と、食糧調達をどうするか、の2点だ」
「うむ」
問題点をまとめた仁の言葉に、ラインハルトも頷く。
「……どちらも優先度は高い。それでどうしようかと考えているのさ」
「わかった。ジンも苦労性だな。別にジンが全て背負う必要は無いんだぞ?」
「わかってるさ。だけど、ここまで関わってしまっては、今更知らん顔もできないしな」
異民族の件はショウロ皇国に。食糧問題はクライン王国に。それぞれ直接的な問題となっていることは間違いない。
「確かに、ジンが望んでいる『平和な世界』とは真逆な問題ではあるな」
「だろう?」
仁としては、人々の生活を向上させるようなもの、人々の役に立つもの、そして作りたいものを作る、ということに専念したいだけなのだ。そんなささやかともいえる望みであるが、なかなか 叶(かな) いそうもない。
「ジンは人がいいからな。まあ、そうでなければ僕たちはジンの友人ではいなかっただろう、とは思うが」
苦笑しつつ、それでも仁を止める気はないラインハルトのセリフ。
「穀物にカビが生えて駄目になる問題は乾燥剤と除湿器で食い止められるだろう。 魔力庫(エーテルストッカー) の効果は今すぐに出るわけじゃないし、やはりまずは……」
「西、か」
異民族問題の方が急を要するだろう、と仁とラインハルトは頷きあった。
「別に、僕がショウロ皇国の人間だから言うんじゃないぞ?」
言わずもがななことを言うラインハルトに、仁は笑った。
「わかってるさ。正直言うと、ハリハリ沙漠の向こうにはちょっと興味があったんだ」
「ああ、それはわかる。ショウロ皇国の者なら1度はそれを考えていると思う」
仁の発言にラインハルトも同意した。
「そうなると、沙漠の向こうへ行く手段を考えないとな」
「おそらくだが、 自由魔力素(エーテル) も少ないんだろう?」
「うん、だがまあ、北半球ならまだまだ大丈夫だ。南半球になると本格的に危ないかもな」
具体的な調査を行ったスカイ1からの報告では、南半球の調査飛行には、予備エネルギー源である 魔結晶(マギクリスタル) が無かったら墜落した可能性もあった、というものがあった。
「ハリハリ沙漠の向こうなら緯度もさほど変わらないし、行けると思う」
「……やっぱり行くつもりなのか……」
心配そうなラインハルトだが、仁は安心させるように言う。
「まあ、行くのは俺じゃなくて『老子』だがな」
仁としては自分自身で行きたかったのだが、老君、礼子、アンらから猛反対され泣く泣く断念したのである。
『 身代わり人形(ダブル) 』を使うことも考えたのだが、仁としてもこっちでいろいろやりたいこともあるし、何より自身が行く意味があまりないので、 身代わり人形(ダブル) ではなく、老子に任せることにしたのであった。
「なるほど、それなら僕も安心だ。ジン、君が行くと言いだしていたら僕だって反対したよ」