軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19-01 蓬莱島、収穫の秋

秋たけなわ……と言っても、亜熱帯にある蓬莱島では四季を通じての温度差は小さい。

が、去る10月21日、知らせを受けてやってきた仁の目の前に広がる光景はまさに秋であった。

黄金色に光る稲穂の海。

6月に田植えした稲が収穫の時期を迎えたのである。

品種改良されて収穫時期が早まっている早生品種と違い、じっくりと育てた稲。

5色ゴーレムメイドのトパズたちが総出で稲刈りをしていた。

アダマンタイト製の稲刈り鎌でざくざくと刈り取る者。それを束ねていく者。束ねた稲を『 稲架掛け(はさがけ) 』する者、と分担して作業する。

おおよそ1町歩……1ヘクタールの田んぼである、半日もかからずに作業は終了した。仁は途中まで眺め、ショウロ皇国へ戻っていた。

『数日天日干しをした後、脱穀ですね』

総監督をしていた老君は、仁から得た稲作知識を確認する。干すことによってアミノ酸と糖の含有量が高くなり、旨味が増すと言われているので乾燥は重要だ。

魔法でできるからと言って手を抜くことはしない。

1週間ほど乾燥させたら籾を茎から外す脱穀である。

『 千歯扱き(せんばこき) 、でしたね』

仁が1台作った試作機を元に、老君は10台の 千歯扱き(せんばこき) をこしらえていた。

櫛状の歯の間に稲を通せば、籾だけが毟り取られて落下する構造。その櫛の歯の間隔を微妙に変えたものを10台。

比較して最も効率の良い間隔を決めるためである。

これも半日で終了。

こうして得られた籾はおおよそ3トン。

品種改良されていない稲であるからまず妥当な線であろう。

『次は 脱稃(だっぷ) ですか』

籾から籾殻を外し、玄米にする作業のことである。

仁がかつて施設で年少の子供たちと共に行ったのは、すり鉢に籾を入れ、ソフトボールですり潰すようにして行う方法であった。

これは十分に乾燥させた籾でないとなかなか上手くいかないのだが、今回の籾は乾燥具合は十分。

大型のすり鉢を10個使い、トパズたちがゴムボールを使って 脱稃(だっぷ) を行っていった。

10パーセントを種籾として残し、後は全部玄米にしていくのであった。

そして最後は精米。

これはかつてショウロ皇国で礼子が行ったように、樽状の容器に入れて激しく攪拌する方法や、臼に入れて搗く方法などがある。

今回は樽での攪拌とした。冷却しつつ行う事で、摩擦熱による品質の変化を防ぎつつ精米。

10キロほどの白米を作り、残りは玄米のまま保存する。糠は糠床とし、漬け物を作ることになる。

『 御主人様(マイロード) に早く召し上がっていただきたいですね』

その機会は意外と早くやってきた。

11月3日、ショウロ皇国で巨大ゴーレム騒動を収めた仁は、新米の話を聞き、エルザとハンナを連れて文字通りすっ飛んできたのである。

「老君、お米が収穫できたって?」

『はい 御主人様(マイロード) 。とりあえず10キロほどを精米しておきました』

「よし。それじゃあ早速食べさせてくれ」

「楽しみ」

炊きたてのご飯、味噌汁、漬け物、それに干物。

仁が憧れてやまない和食が出てきた。

『微妙に味が違うかも知れませんが……』

とは、調理を担当したペリドリーダーのセリフ。

鰹節がまだ作れないために煮干しの出汁、味噌はまだ仕込み中なので購入してきたもの。漬け物は糠漬けでなく塩漬け、干物はアジではなく似た魚。

それでもペリドリーダー渾身の作である献立は、十分に仁を満足させた。

「ジン兄、ごはん、美味しい」

「おにーちゃん、これ、おいしい!」

新米を口にしたエルザもハンナも、その味に驚いている。

今まで食べていたのは昨年の秋に収穫したもの。いわば古米に近い状態であり、かつ保存もよくなかったため、かなり品質が低下していたのである。

「2人とも気に入ってくれれば俺も嬉しいよ」

和食好きとしては同じ献立を美味しいと言って食べてもらえるというのは嬉しいものである。

その傍らで礼子はペリドリーダーから水加減やレシピに関する情報を受け取っていた。

「これでわたくしもお父さまのお好みの献立を作れますね」

「あー、満足だ」

思う存分食べた仁はお腹をさすりながら食後のお茶を飲んでいた。エルザとハンナも同様である。

『 御主人様(マイロード) 、そうしましたら次は田んぼを増やしていくと言うことでよろしいですね?』

「ああ、もちろんだ。種籾の確保は?」

『十二分にあります』

頷く仁。

「今回は1ヘクタールだったっけな」

『はい。入手できた種籾の関係で。ですが、次回からはその100倍は作れます』

「それなら輸出もできるな」

『もちろんです。ですが、これ以上外貨の獲得は意味がないかと』

お金を貯めても使い途が無いのだ。必要な物はほとんど作り出せることであるし。

「ああ。だが、今年は各国で不作だったらしいからな。支援する必要が出てくるかもしれない」

『麦の在庫もかなりありますが……』

「ああ、保存の問題は無いからな。今のまま続けてくれ」

魔力庫(エーテルストッカー) を使うことで、半永久的な保存が可能だ。仁は今のペースでの生産を命じた。

『秋ソバの収穫も先日終了しました。そちらの作付面積はどうしますか?』

「ソバか……それも10倍に増やそう」

『わかりました。さっそく手配します』

蓬莱島の農業は順調である。

「それから、稲はここの気候なら連作も可能だろう?」

『はい、そう考えます。ですが、地味の改良を考え、レンゲソウを植え、その後鋤込むことでより田を肥やしていこうかと』

土地は十分にあるため、無理をする必要もない。

『加えて、最も効果の高い栽培法も模索していきたいと思います』

仁の知識とて完全ではないから、論理的である。

「なるほどな。いいと思う。その線でやってくれ」

『ご許可ありがとうございます』

レンゲソウに良く似た植物は、かつて馬車で旅をした際にエゲレア王国郊外でお花畑を見つけていた。

『あそこから種を採取して、こちらで栽培して増やしました』

老君は用意周到である。

こうして、蓬莱島では本格的な稲作が開始されたのである。

カイナ村での稲作は気候が冷涼な期間が多い関係上、難しそうなのが残念なところであった。

* * *

「……このままではまずい」

クライン王国各地では、続いていた長雨の影響で、保管していた麦にカビが生え始め、このままでは遠からずして食糧難となることが目に見えていた。

病床に伏したままの国王に代わり、パウエル宰相は日夜食糧の確保に奔走していた。そんな時。

『保管用の乾燥剤を提供出来る』との情報が、 魔素通話器(マナフォン) で行われている毎日の国家間連絡網を通して入って来たのである。

「乾燥剤、か……」

カビの主な原因は湿気であることは経験上誰もが知っていた。

だが、湿気を無くす方法については火で炙る、日光に当てる、などの方法しか取りようがなく、未だに曇天が続くクライン王国では頭の痛い問題だったのである。

倉庫内に乾燥剤を入れればこれ以上の被害拡大を防げるだろうと、宰相は乾燥剤を購入することを即決した。

「乾燥剤の対価はどう致せばよろしかろう」

だが、問題となるのは購入費用である。

クライン王国は農業国であり、農産物が危ない今、対価として差し出せるものは思いつけなかった。

『非常時でもあり、3年間の猶予期間を設ける』

という、非常に温情ある返答に、宰相は胸を撫で下ろしていた。

結局、今年は金貨でまず100万トール。10トンの乾燥剤を輸入することになる。

乾燥剤の効果を確認し次第、追加発注、というところまで決定した。

「間に合ってくれればいいが……」

馬車による輸送ではどう急いでも1月近くかかる。その間に被害がどれくらい拡大するか。パウエル宰相の頭痛の種はまだまだ尽きなかった。