軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18-31 工学魔法

起動したのは本当の偶然。

該当する波長の魔力を受け取ったからだ。

だが、製造された当初に比べ、周囲に存在する 自由魔力素(エーテル) はあまりにも少なかった。

内蔵された 魔素変換器(エーテルコンバーター) は、動作に必要な 魔力素(マナ) をゆっくりと溜めていった。

そして必要量を超えたとき、それは動作を開始する。

* * *

仁は女皇帝一行に改造した館の内部を案内して回っていた。

「ここが台所です」

「……すごいわ! なに、このきれいな流しと調理台!」

18ー12ステンレス製で、顔が映るほどに磨かれている。驚くのも無理はない。

「こちらがお手洗いになります」

「……使ってみたくなるわね」

「ふうむ、この発想は面白いな。寒い時でも快適だ」

皆、暖房便座に惹かれたようである。その他の機能も一般のものより高度であるから無理もない。

「汚水の処理は大事ですからね。トスモ湖へ戻すなら尚のこと」

今は湖の水をそのまま飲用に使うことはないそうだが、やはり浄化した水を流す方がいいに決まっている。

「そう、ね。衛生の点も含めて、方針を検討中よ」

女皇帝は仁から得た知識を元に、病気の予防も含めての政策を検討中である、と言った。

「手洗い、うがいはもちろん、熱湯消毒、とかは必要と考えている」

デガウズも補足した。

そうなってくると、『解毒』『消毒』の魔導具も役に立ってくると思われる。

そして客間。

「まあ! この床は何?」

仁は、自分とエルザの居室以外にも畳敷きの和室を2間ほど作ってあり、それを見た女皇帝の反応である。

「畳といいまして、靴を脱いでこの上で生活するんですよ」

「それは素敵ね! 靴を脱いで……ああ、平和な証拠ね」

仁の説明に、女皇帝は独自の解釈を加えていた。靴を履かない=急いで逃げる必要がほとんどない、というその発想に、仁はある意味感心したのである。

「それに……いい香り。自然の香りね」

新しいイグサ特有の香り。エルザもこの香りが好きだが、女皇帝も気に入ったようだ。

「寝台にこれを敷いて、その上に布団を敷いたら駄目かしら?」

などと言い出したことをみても、相当気に入ったらしい。

「後ほど献上します」

と仁が言うと、それこそ躍り上がらんばかりに喜んだ女皇帝である。

「屋上も見せてもらえる?」

「うむ、今後のためにも、卿のやり方を参考にしたい」

今回の一番の目的である、飛行船発着場を仁がどう整備したのかを知りたがるデガウズと女皇帝。

「はい、どうぞ、こちらです」

新設した階段を登り、屋上へ出る。

「ふむ、出口には屋根と扉、当然だな」

要は、学校の屋上に出るイメージである。悪天候の時、館内に雨水が吹き込むのは望ましくない。

「なるほど、ここには随時要員を置けるのね」

着陸を補佐する要員が詰めていられるような居住区も一緒に設けてあるのを見て、女皇帝は頷いた。

「屋上だけでなく、柱や壁も耐久性を増すために『 強靱化(タフン) 』や『 硬化(ハードニング) 』を施したり、補強を入れたりしてあります」

「ふむ、当然だな」

「着陸の目安として白い丸を描きました。これはお城と同じにしてあります」

「もちろん、『ボラード(係船柱)』もあるわけね」

低めだが丈夫な手摺りを屋上に巡らせてある。そして係留用の『ボラード(係船柱)』も。

「ほう、あれは?」

デガウズ魔法技術相が指差したのは、いわゆる照明灯。

「夜間の発着を考えて付けた明かりの魔導具ですよ」

仁が説明すると、デガウズは納得した。

「ふむ、確かに夜だからといって離発着できないのでは緊急時に困るからな」

「そういうことです」

その時、早馬が駆けてくるのが見えた。

「うんん? 早馬か……どこへ? ……ここにか?」

そして2分後、息を切らしてバロウが屋上へ駆け上がってきた。

「……た、大変です! お城で、お城で……!」

* * *

目を覚ました それ(・・) は周囲を確認して、己が閉じ込められていることを認識した。

仁が危惧していた『ブラックボックス』が動き出したのである。

〈拘束を確認。自己防衛レベル1。……拘束を排除〉

腕がゆっくりと持ち上がり、仮覆いをはね除けた。

「う、うわああああ!」

驚いたのはマルカスである。保管作業が終わったと思ったら、巨大ゴーレムがいきなり動き出し、せっかく施した仮覆いを壊してしまったのだから。

落下してくる仮覆いをなんとか避けたマルカスは事態を知って青ざめた。

「な、なぜ?」

自分が保管を命じられた巨大ゴーレムが動き出している。操縦装置が見つからないまま。その結果は……?

巨大ゴーレムはゆっくりと 宮城(きゅうじょう) の中庭を横切っていく。そのまま行けば城壁を突き破り、街へ出てしまうだろう。

「ゴリアス1号! あれを止めるんだ!」

作業をさせていた大型ゴーレム『ゴリアス』に指示を出すマルカス。だが、それは更なる混沌を招き寄せることになる。

〈対抗存在を確認。自己防衛レベル2。対抗存在を排除〉

6メートルの巨人が20メートルの超巨人に向かって行った。

巨大ゴーレムは片足を軸に1回転した。それはまるで、足に纏わり付く子犬を振り払うかのよう。

ゴリアス1号はその勢いに弾き飛ばされ、転がった。巨大ゴーレムの動きは止まらない。

「ええい! 全員でかかれ!」

今度は右脚に2体、左脚に2体がしがみつく。が、巨大ゴーレムは動きを止めなかった。

「1号! お前もかかれ!」

転がったゴリアス1号はようやく起き上がったところ。が、転がった時に腰部を損傷したらしく動きが悪い。

それでも巨大ゴーレムの正面に立ち塞がった。

〈対抗存在5体。自己防衛レベル3。対抗存在を破壊〉

巨大ゴーレムはその右腕を振り上げると、足元に叩き付けるように振り下ろした。

ぐわん、という鈍い金属音がして、右脚にしがみついていたゴリアス3号の頭部がひしゃげた。

が、ゴーレムの頭部には視覚部品はあるものの、制御部品はない。ゴリアス3号はまだしがみついたままである。

〈対抗存在の強度を確認。自己防衛レベル4。破壊手段を選択。決定。実行開始〉

「な、何!?」

巨大ゴーレムはゴリアス3号のひしゃげた頭部に手を置き、魔法を発動させた。

淡い光を放つ魔法陣が浮かび上がり、ゴリアス3号のボディがおかしな形に歪み、動かなくなる。

それを見たマルカスは驚愕に目を見開いた。

「『 変形(フォーミング) 』……」

それは工学魔法の一つ、『 変形(フォーミング) 』であった。

工学魔法を攻撃に使うことは不可能ではない。が、それはあくまでも『不可能ではない』というレベル。

それは、工学魔法の特性にある。

工学魔法は、その効果が距離の3乗に反比例して弱まるものがほとんどなのである。3次元の物体に対して影響を及ぼす関係と考えられる。

つまり、距離が離れたら効果が激減し、必要魔力も跳ね上がる。それならもっと効率もよく、効果も高い攻撃魔法を使った方がよい。

かつて仁がカイナ村でワルター伯爵の兵に襲われたとき、その槍を『 変形(フォーミング) 』で曲げてしまったことがあるが、あれは例外中の例外で誰にでもできることではない。

そんな工学魔法を巨大ゴーレムが使ったのである。マルカスが驚くのも無理はなかった。

巨大ゴーレムは次々とマルカスのゴーレムを無力化していった。