作品タイトル不明
18-32 自己防衛
『 宮城(きゅうじょう) で巨大ゴーレムが突然動き出し、暴走中。このままだと街中に出るおそれあり』
その知らせを聞いたデガウズ魔法技術相は即座に反応した。
「陛下、私は急ぎ 宮城(きゅうじょう) へ戻り、対策を考えます。……ジン・ニドー卿、卿は陛下をお護りしてくれ、頼む!」
それだけを言うと、仁が何かを言う暇も与えず階下へと駆け下りていった。
「あ……」
屋上から見ていると、デガウズ魔法技術相は早馬に同乗して 宮城(きゅうじょう) へ戻っていくようだ。距離が短いため馬への負担も長くかからないからできることである。
「……ジン君」
不安そうな女皇帝。仁は悪い予感が当たってしまった、と頭に手を当てながら考えていた。
「ジン君の言ったとおりだったわね。あの時すぐに地下室へ戻していたらこんなことにはならなかったのでしょうね」
「……今はそんなことを言っている場合ではないでしょう。どうするべきか考えないと」
「ええ、でも……」
しょげる女皇帝を尻目に、仁は礼子に指示を出した。
「礼子、飛行船準備だ」
「はい、いつでも行けます」
「よし」
それを聞いた仁は女皇帝を振り返る。
「陛下、行ってみましょう」
「え、ええ」
「陛下、私も!」
護衛の女騎士も女皇帝に続いて乗り込んできた。
「エルザ、あとは頼む。ハンナをよろしく」
それだけ告げて仁は飛行船の係留索を開放した。
上昇する飛行船。
「ああ、乗りたかった飛行船だけど、こんな形で、とはね……喜べないわ」
下を見ながら女皇帝が呟く。
「ジン殿、陛下を危険に曝さないでくださいよ?」
護衛の女性騎士が仁に釘を刺す。
「わかってますよ。上空まではあの巨大ゴーレムも手は出せないでしょうから。……ほら、見えてきましたよ」
僅かな時間で飛行船は 宮城(きゅうじょう) 上空へとやって来た。今の高度は80メートルくらい。巨大ゴーレムの手はどうやっても届かない高度である。
「……なんてこと……!」
眼下には、変形して動かなくなった『ゴリアス』が7体転がっていた。残る3体も動きがおかしい。
「……いったいどうやればああいう風に壊せるんだ?」
不思議な壊れ方に首を傾げる仁。だがその理由はすぐにわかることになった。また1体、『ゴリアス』が倒れたのである。
「あれは……工学魔法!」
『 変形(フォーミング) 』の魔法陣が浮かび上がるのを見た仁はすぐにそれと察する。
「……魔法増幅、か」
それは仁が発見していた 魔導式(マギフォーミュラ) の効果。
自由魔力素(エーテル) 濃度が低いため、一瞬 魔力素(マナ) を使い果たし、巨大ゴーレムの動きが一旦止まる。が、停止は数秒で、その程度では残った『ゴリアス』には巨大ゴーレムを止めることは叶わない。
「……まずいわ、このままだと一番外の城壁を壊して街へ出てしまいそう」
様子を見ていた女皇帝は絶望的な状況に頭を抱えた。
「……」
当然、仁には幾つか取れる策がある。が、そのどれもが巨大ゴーレムを大なり小なり壊すことになる。
仁としては巨大ゴーレムは壊したくはない。街中に出てしまったなら破壊してでも止めるつもりだが、まだ中庭にいる間はなんとかできるものならなんとかしたかった。
そう思っている間に、残る2体の『ゴリアス』も動かなくなり、最早巨大ゴーレムを止めるものはいなくなってしまっていた。
「……ジン君、なんとかならないの? あなたなら、なんとかできるでしょう?」
女皇帝の悲痛な声に、仁は礼子に指示を出した。
「礼子、あれを止められるか?」
「はい、お父さま。お父さまのご指示でしたらいつまででも」
「よし、10分程度でいい、止めてくれ。……できるだけ壊すなよ」
「わかりました」
飛行船に吊り下げられたゴンドラの手摺りを乗り越える礼子。その背中に仁は声を掛ける。
「もちろん、お前自身も怪我をするな」
「はい、お父さま——」
最後の声は空中からであった。
「ジン君……」
女皇帝は心配そうに、礼子が飛び降りた地上を見やっていた。
* * *
80メートルの高度から飛び降りたなら、礼子と言えどもダメージを負う可能性がある。そこで礼子は、飛び降りるや否や『重力魔法』を使い、己の質量を100分の1に落とした。
落下速度はほとんど変わらないとはいうものの、着地時の衝撃は質量に比例する。つまり衝撃は100分の1で済むわけだ。
着地時の衝撃を僅かに膝を曲げることで緩和した礼子は、質量を元に戻し、巨大ゴーレムの正面へと回り込んだ。
〈新たな障害を感知。自己防衛レベル2〉
礼子を見た巨大ゴーレムは即座に反応し、足を止めて礼子に正対した。
(壊さないように……となると、これしかないですね)
「『エーテルジャマー』……喰らいなさい!」
礼子は内蔵されたエーテルジャマーを発動させた。すぐに巨大ゴーレムの動きが止まる。
エーテルジャマーは、一定範囲の 自由魔力素(エーテル) を支配下に置き、相手の魔法を封じる効果がある。これにより、巨大ゴーレムの 魔素変換器(エーテルコンバーター) は 魔力素(マナ) に変換すべき 自由魔力素(エーテル) を確保できなくなったのだ。
〈 自由魔力素(エーテル) 不足。危険。危険。危険。自己防衛レベル5。最終手段実行〉
その巨体ゆえ、体内に保有する 魔力素(マナ) も多く、巨大ゴーレムは自己防衛プログラムに従い、最後の手段を取ろうとしていた。
その発動には時間が掛かる。見かけ上は停止した巨大ゴーレムであったが、その内部では『最終手段』が進み始めていた。
* * *
ポケットに入れておいた全属性の 魔結晶(マギクリスタル) 。それに仁は 魔導式(マギフォーミュラ) を書き込んでいった。
「……振動……発生……制御……比較……共振……」
おおよその 魔法制御の流れ(マギシークエンス) は決めてあったのが救いであった。
「ジン殿、いったいなに……」
仁がぶつぶつ呟きながら 魔結晶(マギクリスタル) を握り締めているのを見た女性騎士が仁に話しかけようとした、それを女皇帝が止める。
「……しっ、フローラ、ジン君の邪魔をしてはいけないわ」
「は、はあ」
女皇帝は、仁がこの事態を打破するため、何ごとかを行っていることを察したのである。
それから2人は無言のまま、仁を見守るのだった。
「……『 書き込み(ライトイン) 』」
一際明るい魔法陣が浮かび上がり、 魔結晶(マギクリスタル) へと 魔導式(マギフォーミュラ) が吸い込まれるように消えていった。
「……できた」
礼子が飛び降りてからおよそ8分。
「礼子、ごくろう! 一旦離れろ!」
高空からの声であったが、礼子は尊敬する父親たる仁の声は過たず聞き分ける。
エーテルジャマーを解除した礼子は大きくジャンプして飛び退いた。
〈 自由魔力素(エーテル) 回復。危険消滅。自己防衛レベル0。最終手段停止〉
しかし。
〈誤作動。誤作動。誤作動。最終手段停止に失敗〉
巨大ゴーレムの外装が赤熱し始めたのである。