軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18-17 報告とこれから

「ところで、私もそのお風呂に入ってみたいわ」

「それは村長に言ってください……」

仁は既に、作った風呂の施設をそっくりそのまま村に寄贈していた。

そして仁は、あともう一つ話しておかねばならないことがあったのを思い出す。

「それから、内密のお話があるんですが」

仁がそう言うと、女皇帝は悪戯っぽく笑って言った。

「あら? 私、口説かれちゃうのかしら?」

仁は仰天した。

「や、やめて下さいよ」

隣に座っていたエルザは思わず仁の腕をぎゅっと握り締めてしまう。

「あ痛。……エルザ?」

腕の痛みにエルザを見つめる仁。

「ご、ごめん、なさい」

頬を染めて手を放すエルザ。それを見た女皇帝は、ふうん、と、訳知り顔に頷いた。

「ごめんなさい、冗談よ。……そうね、皆の者、私が良いと言うまで出て行きなさい」

女皇帝の命令。若干のやり取りはあったものの、護衛騎士も含め、皆天幕の外に出ていった。

残っているのは女皇帝、仁、エルザ、礼子、エドガー。

「これでいいかしら?」

「ありがとうございます」

仁はゆっくりと口を開いた。

「実は魔族のことなのです」

「ああ、やはりね。何かわかったのかしら?」

そこで仁は、シオンとイスタリスが助けを求めてやってきたことに始まる、一連の出来事をかいつまんで説明した。

とりあえず、イスタリスをフランツ王国から救い出す前後は上手く省略して誤魔化したが。

そして700672号のことも話すのは見合わせたので説明が難しかったが、なんとかかんとか話し終えることが出来た。

「……そう」

難しい顔をして考え込む女皇帝。

それはそうだろう、人類の不倶戴天の敵と思っていた魔族が、実は祖先を同じくするという事実。受け容れ難いのも無理はない、と仁は思った。

「……」

しばらく無言の時間が続いたが、やがて女皇帝は口を開いた。

「……俄には受け容れられない話だったわ。……ジン君、その話、あと誰が知っているの?」

仁は、エルザ、サキ、トア、ラインハルト夫妻、それにステアリーナ、ヴィヴィアン、ミーネの名前を挙げた。

「みんなジン君の知り合いね。……なら、信用できるわね」

溜め息を一つついて、女皇帝は仁に語りかけ始めた。

「いい、ジン君? その話を各国に伝えるのは私に任せてもらえるかしら?」

「は、はい」

仁よりも、一国の皇帝陛下からの方が信憑性や説得力があるに決まっている。仁は即頷いた。

「あのね、理由の一つには、ハリハリ沙漠の向こうに棲む異民族のことがあるの」

「ああ、大昔に攻め込んできたという……」

魔導大戦の後、疲弊した小群国に攻め込んできたという話を、仁は覚えていた。

「その異民族の容姿が、今の話にある従者種族とそっくりなの。焦げ茶系の髪と目、浅黒い肌」

700672号も南の方から連れてきたと言っていたから間違いなさそうだ、と仁は内心で同意した。

「その、『 始祖(オリジン) 』? ……がこの世界にやって来たときは……石器時代、と言ったかしら、そのくらいの文明だったのよね?」

これも『 指導者(フューラー) 』からの知識である。

確かに、石器を使っていた、と700672号は言っていた。

「それが、300年前にはかなりの武器を持っていたらしいわ。魔法が使えなかったから、今は 古代遺物(アーティファクト) になっている巨大ゴーレムを初めとする魔法技術で撃退できたらしいけど」

数千年でかなりの進歩をしたということ。もしかしたら住民を連れて行く代償として、『 始祖(オリジン) 』が何か教えた可能性もある。

「だから、私たちショウロ皇国はその話を信じる下地があるの。でも他の国はどうかしら。弱体化している事を知って、逆に攻め込もうとする可能性もあるわ」

「なるほど……」

同族同士でも争うのが人間である。まして、今まで敵対していた魔族が、実は祖先を同じくすると聞かされただけで仲良くできるはずもない。

「それで、ここからは、私個人の言葉よ。……ジン君は、そのパズデクスト大地峡? ……を見張って、人類と魔族が争わないように気を付けた方がいいのではないかしら。ジン君に出来ないのなら、デウス・エクス・マキナ殿にお願いすればいいと思うわ」

「は、はあ……」

勘の鋭い女皇帝、仁とマキナの関係をどこまで勘付いているのかはわからなかったが、助言内容は頷けるものだったので、仁はこの後老君と相談して大地峡の管理を進めることに決めた。

* * *

護衛騎士やデガウズ魔法技術相、秘書官らが呼び戻される。仁は最後の話題を口にした。

「乾燥剤プラントを、とりあえずカルツ村で立ち上げられるなら立ち上げてみようと思うんです」

乾燥剤について、仁は簡単に説明する。

「ショウロ皇国は比較的乾燥した地域が多いですが、海の近い南部や、隣国のセルロア王国や南国エリアス王国などでは重宝すると思います」

「ふむ、その石灰石が採れればいいのだな」

デガウズが頷く。

「陛下、我が国の産業が増えると言うことですからなかなかいい話だと思います。ラインハルトのところというのもジン殿の協力を取り付ける意味で最適でしょうし」

「そうね。許可するわ」

当のラインハルトがいない所で話が進んでしまった。もっとも、 魔素通信機(マナカム) で概略は説明してあるので、文句は出ないだろうが。

「ジン・ニドー卿、よろしくお願いするわ」

「承りました」

これで、女皇帝とするべき、事務的な話は全て終了した。

「そうすると、ジン・ニドー卿には何を以て報いるべきかしらね」

女皇帝が考え込んだ。

「領地かしら? それとも昇爵? どちらがいいかしら、卿?」

悪戯っぽく笑い、仁に尋ねてくる女皇帝。わかって聞いている節もある。

「……どちらも辞退したいです」

「それじゃあ、褒賞金として100万トールを与えましょう。この後、ロイザートへ来た時に与えます。……記録しておきなさい」

最後の言葉は秘書官に向けてのもの。村の財政を圧迫させないよう、国庫からの褒賞としたのである。

その夜、女皇帝は天幕で泊まると言うことだった。

「その前に、やっぱりお風呂に入りたいわね」

村長は恐縮しながら、女皇帝のために風呂の仕度をした。

仁も、お湯を沸かす手伝いをする。仁の工学魔法『 加熱(ヒート) 』を使わない場合、燃料代が馬鹿にならないのである。

(あとで湯沸かしの魔導具を作ってあげよう)

そんな事を思う仁であった。

* * *

翌日、女皇帝は名残惜しそうにマギルーツ村を発った。あと2箇所の村を回るのだそうだ。

村人総出の見送りを受け、お召し馬車は出発。

「ジン君、ロイザートでまた会いましょう」

そんな言葉を残して。

徴税官フリクス・ベッカーと村長は、税のピンハネに言及されなかったことに胸を撫で下ろしていた。

が、実は秘書官がその事実を掴んでおり、首都に戻ってから軽く叱責されることになるのだが、それは本筋とは関係のない話である。

村の郊外に仁の飛行船が降りていた。

「さて、我々も出発するか」

仁は荷物を飛行船に運び込んでいた。思いがけなく女皇帝への報告も済ませることができてしまい、あとはラインハルトの領地へ行くだけである。

「ジン様、本当に残っていていいのですか?」

「あたし……私くらいは付いていった方が……」

バロウとベーレは気になるようだ。

「ああ、せっかくの里帰りだ、ゆっくりしていていいよ」

「はい、ありがとうございます」

最後に仁は、老婆心ながらバロウに注意しておく。

「バロウ、ベーレの面倒をちゃんと見てやれよ」

「はい、もちろんです! もう家族と同じですよ」

顔を赤らめるベーレ、いい笑顔で返事をするバロウ。つられて仁も笑顔になった。

「それじゃあ、半月くらいしたら迎えに来る」

「はい、行ってらっしゃいませ、ジン様、エルザ様」

仁とエルザ、礼子とエドガーは飛行船に乗り込んだ。

ゆっくりと浮かび上がる飛行船を見上げ、バロウとベーレが手を振る。

「お気をつけてー!」

次第に小さくなる飛行船。それが見えなくなるまで、バロウとベーレは見送っていた。