軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18-18 行き詰まり

マギルーツ村から、ラインハルトの領地カルツ村までは直線で120キロほど。

時速40キロで3時間の旅である。

左手にトスモ湖を見ながら、バンネ上空を横切り、高度を落とす。

エルザの実家があるエキシにやや寄ったところにカルツ村はある。

「ジン、ようこそ」

ラインハルトの屋敷、『 蔦の館(ランケンハオス) 』。その広い前庭に飛行船は降下した。

「お嬢様! お元気そうで!」

「じい。……あなたも」

ラインハルトと共に出迎えていたアドバーグ……元エルザの執事で、今はラインハルトの秘書を務めている……がエルザの手を取り、涙ぐんでいた。

『 蔦の館(ランケンハオス) 』で昼食を食べながら、仁はラインハルト夫妻に、クズマ伯爵とビーナの結婚式についての報告をした。

「そうか、ルイスとビーナ、いい夫婦になりそうだな」

「ああ。そうそう、ラインハルトの贈り物の馬車、ちらっと見たよ。いつ作ったんだ?」

「はは、なんとかかんとか暇を見つけてね」

そして、エルザの『魔力過多症』が完治した話をすると、アドバーグは涙を流して喜んでいた。

「ジン様、お嬢様を救って下さってありがとうございます……!」

何度も何度も頭を下げるアドバーグ、エルザもそんな彼を見て目を潤ませていた。

そんな話をしつつ食事時間は終わる。

そこへ侍女がやってきた。

「ラインハルト様、お客様がお見えです」

「おお、ちょうど時間通りだな。工房へ案内しておいてくれ」

「お客?」

仁が怪訝そうな顔をすると、ラインハルトは笑って説明する。

「トアさんだよ。乾燥剤のプラントを作るんだって? それを一般にも作れるように展開するんだろう?」

その言葉に仁も納得する。

ラインハルトには 魔素通信機(マナカム) で概略だけは伝えておいたし、トアもこっちで協力すると言ってくれていたのだから。

「石灰石だけど、一昨日トアさんが来て、有望な鉱床を見つけたと教えてくれたぞ」

数日前にこちらへ来ていたはずのトア、さすがである。

「場所はトスモ湖に近い岩山なんだが、ほとんど丸々石灰石だそうだ」

「そりゃすごい」

材料については解決したも同然である。

日本でも、秩父地方の山は石灰岩でできているのでセメントの材料にすべく切り崩されている。武甲山という山などは、形が変わってしまったほどだ。

「で、昨日人をやって、少々採掘させておいた」

「おお、さすが」

ラインハルトも、小さい村ながら領主となり、いろいろと村のためと手を回しているとのことだ。

「ちょうど、何か産業を興せないかと考えていたからね」

正に渡りに船、といったところだったな、と仁は思った。

「この後早速やってみよう」

「よしきた」

「……ジン兄もライ兄も、すごく生き生きしてる」

はしゃぐ2人を見たエルザがぼそっと呟くと、ベルチェがフォローを入れた。

「うふふ、あの人ったら、昨夜からわくわくしているのが顔に出ていましたんですのよ。日頃の政務を離れられるのがうれしいんですわ」

最後の内容で台無しになるラインハルトであった。

昼食後の休憩もそこそこに、仁とラインハルトは『 蔦の館(ランケンハオス) 』敷地内に作った工房へとやって来た。

「やあ、ジン君、ラインハルト殿」

「しばらく……と言うほどでもないわね」

いつもはラインハルトにも『君』付けするトアであるが、ここでは周囲の目を憚って『殿』と呼んでいた。

そしてステアリーナは珍しく着飾っていた。

銅色の髪を高く結い上げ、薄紫色のワンピースの裾は足首まであり、白いサマーカーディガン風の上着を羽織っている。

聞けば、トアの亡き奥方の実家、つまりテオデリック侯爵家に挨拶してきた帰りだそうだ。

そのステアリーナは、ベルチェと話をしてくる、と言って工房を後にした。

「トアさん、石灰石の発見、さすがですね」

仁が言えば、トアは頭を掻く。

「いやあ、元々素材集めは仕事の一つだったからね。これでも国内の資源はかなり把握しているよ」

さすがは一流の錬金術師である。

「ということで、材料はここに用意してある」

ラインハルトが用意したのは、石灰石と 魔結晶(マギクリスタル) 、それに炉の材料としての石材。

「実験では炭素の 坩堝(るつぼ) を使ったんだって?」

「ああ。だけど一般的じゃないからな。摂氏1100度に耐える材料なら何でもいいんだが」

現代科学では、航空・宇宙・エネルギー技術などの分野で『超高温材料』としてセラミックをはじめ、超合金・カーボン系材料などが開発されている。

「作り方はトアさんから聞いた。原理は簡単なんだが、量産する方法を考えようというわけだな」

仁は、 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) としての能力がありすぎるため、いつの間にか一般人の考え方と乖離したものの捉え方をすることが多くなっている。

それを補うため、今回はトアに協力を仰ごうというのだ。

「一般的な耐火材といったら何種類かの岩石だね」

並べられている石材を指さしたトア。

「まずは凝灰岩」

大谷石もこの仲間で、摂氏1000度くらいまでは強度が落ちない。生石灰の焼成温度摂氏1100度には少し不足している。

「砂岩」

これも使えるのは摂氏1000度くらいまで。

その他にも安山岩や蛇紋岩があったが、いずれも摂氏1100度には耐え切れそうもなかった。

「うーん、いきなりつまずいてしまった」

「領民の産業とするのは難しいんだな」

仁とラインハルトは頭を抱える。

「炭素とかジルコニアとかプラチナとかならいいんだがな……」

そんな高価な材料を使ったのでは産業として成り立たない。

珍しく苦戦している仁とラインハルトを、エルザは沈痛な顔で見つめていた。

「……あと、耐熱性のある石って無かったっけ……」

仁も必死で記憶を辿っていく。

「熱……炉、か……」

溶鉱炉などの炉を考えると、いまだに少し戦慄を覚える。先日のような小さな 坩堝(るつぼ) ならどうということはないのだが、人間が入れるほどの大型炉になると、想像しただけで鳥肌が立つのだ。

電気炉の取鍋に落下して命を落としかけたのだから無理もない。

火とか炎は別に苦手じゃないんだけどなあ、と仁は少々情けなくも感じた。

その肩が少し震えているのに気付いたエルザは、仁が向こうの世界で死にかけた経緯を思い出し、そっとその手を取った。

そのお陰、と言うわけではないが、仁は一つの石材を思い出す。

「かんらん岩だ」

主にかんらん石(オリビン、ペリドット)からできている岩石で、地中深くで作られる深成岩の1種。耐熱性が高い。

かんらん石の融点は摂氏1910度もあり、それを砕いた砂は砂型鋳物用の砂に使われたりする。

質の良いかんらん石はカイナ村近郊のイナド鉱山で採れた。が、それは宝石になるレベルのもので、高価なものになってしまう。

ゆえに、かんらん岩があれば、炉の材料になると思いついたのである。

「かんらん岩か……」

かんらん岩は火成岩、つまり火山性の岩で、水成岩(堆積岩)である石灰石とは産地を異にする。

ショウロ皇国はどちらかというと堆積岩でできた土地が多く、特にトスモ湖周辺はその傾向が強い。

安山岩などは比較的近くに産地があったが、かんらん岩が採れる山は近くにはなかった。

「重い石材を輸入するとなると価格の問題があるね」

さすがに素材コレクションにお金を注ぎ込んだ過去のあるトア。コストの事も頭に入っているようだ。

「うーん……」

蓬莱島が、そして魔法が、どれだけチート、つまり『ずるい』かということを実感した彼等である。

せめて材料さえあれば、それを魔法で加工するくらいまでなら許容できるのだが、と仁は悩み続けるのであった。

「鉄じゃあ駄目なんだろう?」

トアの質問に、仁は頷いた。

「ええ。融点だけでいえば大丈夫なんですが、鉄をそんな高温に熱したらあっという間に酸化してぼろぼろになってしまいます」

鉄は酸素と化合しやすく、高温では特に顕著になるのだ。

「意外と難しいものだねえ」

トアも腕を組み、いい素材が無いかどうか考え込む。

「あとは結界を張るしかないのかなあ……」

それは初期コストを跳ね上げ、同時にメンテナンスが難しくなる要因である。

「それは最後の手段にしたいものだな」

こうして全員頭を悩ませるのであった。

そんな時、工房をのぞき込んだ者が1人。

「みんな、何やってるんだい?」