軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18-15 産出

短い秋の日はもう大分傾き、風が冷たくなってきた。

「ベーレ、今日はどうするんだい?」

この家に泊まるのかどうなのか、を尋ねる仁。見たところ家具も布団も無い。

そう言えば昼食はどうしたのだろうか、などと仁が考えていたら、不意にくぅ、と可愛らしい音が聞こえた。

「あう……」

顔を赤くするベーレ。彼女のお腹が鳴った音らしい。

「……よし、ベーレ。俺とエルザは今夜村長さんとこの離れに泊まるんだが一緒においで」

「え、でも……」

仁の誘いに躊躇うベーレ。

「いいから。俺たちの侍女として付いてくれば誰にも文句は言わせない」

そこまで言われては断ることもできない。ベーレは仁の申し出を有り難く受けることにした。

と、そこへやって来た者が1人。

「あ、ジン様、エルザ様。どうしてここに?」

「……バロウこそ」

「僕はベーレを呼びに来たんです」

バロウはベーレを心配して見に来たらしい。

「ほら、来いよ。もうみんな待ってるから」

「え、でも……」

「何今更遠慮してるんだよ。うちの連中だって知らない仲じゃないだろ?」

「うん……」

バロウに手を引っ張られながら、べーレはちらりと仁たちを見た。

「ああ、よかったじゃないか。ベーレ、それじゃあ今夜はバロウの家に厄介になるんだな? ……バロウ、ちゃんと面倒見てやれよ?」

「はい、もちろんです!」

「……」

二堂城で働いているときとは正反対に、バロウにリードされていくベーレ。

二人の影が遠ざかっていくのを、仁とエルザは微笑みながら見送っていた。

「ベーレ、元気なかった」

エルザがぽつりと呟くように言った。

「いつもと逆」

「ああ、やっぱり、肩身が狭いのかな」

「肩身が狭い?」

オウム返しに聞き返すエルザに、仁は推測したことを説明してやる。

「村って言うのはある意味閉鎖的な社会だからな。そういう場所で家族がいない、独りぼっちというのは肩身が狭いんだと思うよ」

孤児院時代、新入りの子供が周囲に馴染むまで時間が掛かったことを思い出す仁。

「……独りぼっちは、辛い」

エルザも、かつて家を捨て、 統一党(ユニファイラー) に囚われの身となった時のことを思い出しながら頷いた。

冷たくなってきた風に、2人は来た道を戻る。礼子は無言のままそれに従った。

* * *

村長宅の離れに戻った仁は、現実に直面した。

ここは水不足の村なので、風呂というものは無く、水で身体を拭うだけ。せいぜいお湯を使うのが精一杯の贅沢という有様。

「……まあ、そうなるよな」

先程ポンプを修理したとき確認した深井戸の深さはおおよそ20メートルだった。

「『 地下探索(グランドサーチ) 』」

仁は念のため地下を探ってみることにした。

土と砂の層、砂利の層、岩盤。その下は砂利の層、そしてまた岩盤。

最初の岩盤の下にある砂利の層が透水層、すなわち地下水が流れている層である。ここは『不圧帯水層』といって、圧力がほとんど掛かっていないため、汲み上げてやらないと水が得られない。

もっと深く掘り、圧力の掛かった層に当たると吹き上げてくることもあるが、維持管理が難しい。

「うーん、どうするかな……」

地下水を汲み上げすぎると、地盤沈下などの弊害が起きることがあるのだが、仁が見たところ水量は豊富であり、人口が少ない関係上使用量も少ない。

そんなことを考えつつ『 地下探索(グランドサーチ) 』を進めていた仁は、とある物を見つけた。

「……自然銅?」

銅の鉱石は硫化物が多いが、砂金のように自然銅もまれに産出する。秩父では、かつて和同開珎を作ったころには産出量が多かったことが想像できる。また、アメリカのミシガンやアリゾナでも大量に採れたことが記録に残っている。

「ちょっと深いけど、これって産業になるな」

仁は早速村長を訪ねる。

ちょうど徴税官フリクス・ベッカーもいたので、自然銅の鉱床が地下深くに眠っていることを話した。

「なんと! この村の地下に銅が?」

村長の喜びは大きかった。何せ、トウモロコシと豆しか穫れない貧しい村の地下に豊富な銅が眠っているというのだ。

「それが掘り出せたらこの村、引いてはこの国のためになりますね!」

フリクスも乗り気である。

「深さがちょっとありますので、よく考えて坑道を掘らないと駄目でしょうけど」

言わずもがなの注意事項を述べておく仁。

「そうですね、専門家によるしっかりした建設が必要でしょうね」

これにより、この村も発展していくことになるのだが、それはもう少し先の話である。

「で、ここからが本題です」

「?」

自然銅の話の他に何があるのか、村長もフリクスも首を傾げた。が。

「必要な分の銅を掘り出して、ポンプを量産してもいいでしょうか?」

「は?」

地下には豊富な水脈があるのだが、井戸が少ないためにこの村は慢性的な水不足になっていることを仁は見抜いていた。

適当な箇所に井戸を掘り、その際得られた自然銅と若干のスズを使って青銅とし、それでまたポンプを作る、という自転車操業。

これは風呂に入りたいという仁の個人的な欲求のなせる業でもある。

温泉の出る川原を掘って風呂を作るような者がいる日本人。その一員である仁もやはり例外ではなかった。

* * *

さすがにその日はもう遅いので、井戸掘りは翌朝から開始することになった。

エルザと礼子を助手に、仁はまず適地の選定を開始。3人掛かりで村のあちこちを探査し、東の外れが良さそうだということで村長に断りを入れる。

「そのあたりは荒れ地で、畑にする手間も掛かるので試掘していただいても構いませんよ」

その言葉を聞けたので、仁はエルザの練習も兼ねて、もう一度『 地下探索(グランドサーチ) 』をさせてみる。

「いいか、岩盤の下にまた岩盤がある。そのまた下を調べてみるんだ」

「うん」

エルザは一つ頷くと、『 地下探索(グランドサーチ) 』の魔法を使った。

「……見つけた。深いところに地下水がある」

「よくわかったな。そこを目掛けて穴を掘るんだが、その上にある自然銅も掘り出す必要がある」

「わかった」

こうして、仁はエルザの練習を兼ねて深井戸を掘った。出て来た自然銅と、別の層から出て来た若干の錫石。錫石は重要なスズの鉱石である。これで青銅が作れる。

エルザも、魔力過多症が治ってから保有魔力が増えている。これは、 自由魔力素(エーテル) の操作能力が上がったためだろう、と仁は見ていた。

「はあ、やはり 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) の妹御は超一流の 魔法技術者(マギエンジニア) なんですねえ」

見学していたフリクスが感に堪えないような口調で言った。

開始してから2時間ほどで、井戸穴の『掘削』、鉱石の『採掘』、金属の『精錬』、ポンプの『製作』、そして深井戸の『設置』が完了した。

まあ、設置だけは力仕事が大部分なので礼子に手伝わせたが、エルザの実力アップがよくわかる作業となった。

同じ場所にあと2つの深井戸を設置する仁たち。

今度は仁も手伝ったので、1時間を切る時間で完了。計3基の深井戸用ポンプが据え付けられた。

今までの3基と併せ、6基となった井戸に、村長は驚喜。仁とエルザに何度も頭を下げていた。

だが仁はそんな村長に、『今夜はこの井戸水を使って風呂に入らせて欲しい』と言ったのみ。もちろん村長はそれを快諾した。

* * *

「あー、いい湯だ」

汲み上げた水の温度は摂氏15度。それを自ら『 加熱(ヒート) 』の魔法で温めた仁は、心置きなく入浴を楽しんでいた。

細胞が活性化したせいか、更に風呂が好きになった仁。今までは不活性な細胞からは垢があまり出なかったのが、人並みに出るようになったのもその一因だろう。

「故郷、か……」

今はもう、帰れない遠い場所に思いを馳せる仁。

「……でも、今は……」

カイナ村、蓬莱島、そして『ファミリー』。

「……俺は幸せ者だな」

横で風呂番をしてくれている礼子を見て、仁は小さく呟く。

暮れかかる空には気の早い星が瞬き始めていた。