軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18-14 ベーレの家

さて落ち着いてみると、もう昼を少し回った頃になっていた。

仁は昼食のために一度村長宅へ戻ることにした。バロウの両親から一緒にどうですかと言われたが、エルザを待たせているため遠慮した仁である。

「じゃあバロウ、水入らずでゆっくりして来いよ」

それだけを告げて、仁は村長宅へ戻った。

「あ、ジン兄、お帰りなさい」

村長宅の離れではエルザが出迎えてくれた。

「さっき、昼食の用意ができたって言ってた」

「わかった。行ってみよう」

そこで、エドガーに留守番をさせ、仁、エルザ、礼子で村長の本宅へ。

徴税官、フリクス・ベッカーも昼食の席にいた。

「おお、ジン殿、エルザさん、こんなものしか用意できなくて申し訳ないのですが」

昼食として用意されていたのは茹でたトウモロコシと豆のスープ、サラダ。

「このあたりは乾燥していてトウモロコシと豆くらいしか作物ができないのですよ」

フリクスが説明する。

「先日、 魔法技術者(マギエンジニア) 互助会(ギルド) の援助で、深井戸とポンプというものが設置されたのですが、調子が悪くなってしまって」

「え?」

仁は、ラインハルトと共にショウロ皇国にやって来たとき、主街道が『 干涸らび街道(トロッケンバーン) 』と呼ばれていたことを思い出す。

「この地方は雨が少ないので、井戸も深くなるんですよ。組み上げるには長い 釣瓶(つるべ) が必要だったのですが、先頃、『深井戸用ポンプ』というものが導入されまして」

確か、コーツ・ロードイトとか言ったハタタの 魔法技術者(マギエンジニア) 互助会(ギルド) 長に深井戸用ポンプの権利を売ったっけ、と仁は記憶を掘り起こす。

「ちょっと見てみましょうか?」

あの時、コーツ・ロードイトに作らせてみたポンプの出来は悪くなかったが、量産品であろう、この村のポンプはどうだろうか。

そんなことを思いつつ、仁は打診してみたのである。

「それは助かります!」

一も二もなく村長は仁に頭を下げた。仁が作ったことを知らずとも、『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』がどういう存在かは知っているようだ。

そこで仁は手早く昼食を済ませ、村長の案内でポンプを見に向かった。もちろんエルザも一緒である。おまけに、フリクスも興味があるのか、後から付いてきた。

「まずここです。あと2箇所、全部で3基のポンプがあるのですが、全部の調子が悪いのですよ……」

水が出るには出るのだが、最初に比べ、出が細くなってしまい、手間が倍から3倍掛かるようになったと言う。

この村の人口は200人くらいだそうだ。それが3台のポンプを毎日使ったら、消耗するであろうことは想像に難くない。

ちょっと動かしてみて、動きが重いわりに出てくる水が少ない事を確認した。

「では見てみましょう。……礼子、悪いが持ち上げてくれ」

「はい」

小さな礼子が10メートル以上ある深井戸用ポンプを苦もなく引っ張り上げるのを見た村長とフリクスは目を剥いた。

「……ご苦労。……あー、やっぱり摺動部が磨り減ってるな」

高い圧力の掛かるポンプであるから、水密性が最も重要である。

仁はこの不具合について、元々加工精度が良くなかったところへ持って来て、表面の『 硬化(ハードニング) 』も不十分だったために耐久性が著しく悪いものになってしまったと結論した。

「エルザ、わかるか?」

「……うん、構造と原理は、わかる」

付いてきたエルザも普通の汲み上げポンプはよく知っているので、深井戸用ポンプの構造もすぐに理解出来たようだ。

直すには。

「『 変形(フォーミング) 』。『 硬化(ハードニング) 』」

隙間を極小に減らし、表面を硬化させて摩耗を防ぐことである。

更に。

「『 表面処理(サフ・トリートメント) 』。『 強靱化(タフン) 』」

表面を鏡面仕上げして摩擦を減らし、更に磨り減りにくく加工することで寿命を延ばす。

「これでよし。礼子、戻してくれ」

5分もかからずに整備を終えた仁に、村長たちは更に驚いた顔をしていた。

仁はポンプのレバーの軸受部にも『 硬化(ハードニング) 』と『 強靱化(タフン) 』を掛けることで、そちらの摩擦も多少ではあるが軽減させた。

「さて、どうかな」

自らポンプを動かしてみる。先程より軽くなり、水の出も良くなった。

「ここはこれでいいでしょう。あと2箇所、案内して下さい」

「……はっ、はい! ああ、これで楽になります。ありがとうございます!」

村長は仁に声を掛けられてようやく我に返り、恐縮して何度も仁に頭を下げた。

その後、別の場所に設置してあるポンプを見たが、全部同じ症状であった。直す内容も同じ。

村を回った時間があるが、それでも1時間足らずで深井戸用ポンプ3基の修理は完了したのである。

* * *

「ジン・ニドー卿、誠に素晴らしいお手並みでした。さすが 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) ですね!」

3箇所を回っていたときは無言だったフリクスは、村長が引っ込むと急に饒舌になった。

「いやあ、技術博覧会でのお噂を聞き、勝手に想像していたのですが、そんな想像を超えて貴殿は遙かに凄かったですよ!」

「は、はあ」

「……私も若い頃は 魔法技術者(マギエンジニア) になりたかったのですが、才能が無いと言われましてね。初歩でもうつまずいてしまったので諦めもついたのですが、やっぱり昔の夢というのは忘れがたいもので、 魔法技術者(マギエンジニア) の仕事ぶりを眺めるのが趣味になってしまったのですよ。そんな中で卿の仕事ぶりは群を抜いて素晴らしかったですねえ……」

それからフリクスの自分語りが延々と続き、終わったかと思うと、魔法工学に関しての質問責めが始まる。

エルザはそっとその場を離れてしまったが、仁はそういうわけにはいかない。

結局1時間以上も話に付き合わされ、気が付くと3時のティータイムになっていた。

「ジン兄、お茶の時間」

さすがにこれ以上は看過できないと、エルザが声を掛けてくれた。これ幸いと、仁は断りを入れて離れへ向かった。

フリクスはまだ話し足りないという顔をしていたが、喋り続けて喉が渇いたのだろう、自分もお茶を飲むために離れへと向かったのである。

「助かったよ……」

ティーテーブルに突っ伏さんばかりに疲労感を滲ませている仁に、エルザは同情的な視線を送った。

「お疲れ様。でも、あれは有名税みたいなもの」

「そうは言ってもなあ」

エルザが淹れてくれたのはペルヒャである。カイナ村から仁が持って来たものだ。この軽い味わいが仁は好きだった。

「このあと、ベーレの様子を見に行ってみよう」

「うん」

ベーレの家は村の北外れにあると聞いていたので、とりあえず北へと向かう仁とエルザ、そして礼子。今回もエドガーは念のため留守番である。

途中で1度、村人に聞いて確認した他は、迷うことなくベーレの家を探し当てられた。

それは本当に村の外れも外れ、ほとんど荒れ地の中と言ってもいい場所にあった。

家というより小屋といった方がいいような小さな建物で、長いこと人が住まなくなっていたため、屋根も壁も傷み放題に傷んでいる。

遠くから見ると、そんな家の中に人影が。ベーレに間違いはない。

壊れかけの椅子に腰掛け、ぼーっと外を眺めているようだった。

いつも元気なベーレの顔が暗く沈んだようなので、仁は敢えて声を掛けることにした。

「ベーレ」

その声に、ベーレの身体がぴくんと跳ねた。

「あ……ジン様、エルザ様」

驚いた顔で2人を見つめるベーレ。

「ど、どうしてこんな所に?」

「うん、ベーレがどうしているか心配でね」

包み隠さず本当のことを告げる仁。

「あ、あたしのことがですか?」

更に驚くベーレ。

「そりゃあそうだろう? ベーレはうちの大事な働き手なんだから」

「……ありがとうございます」

仁の言葉に、少し俯きながら礼を言うベーレ。

「ご存知の通り、ここが実家なんです。両親と妹がいましたけど、病気で一度に亡くしてしまって」

ベーレだけが助かったのだそうだ。

その話を聞いた限りにおいては、流行性感冒……インフルエンザのような病気らしい。

他にも亡くなった人は多数いたようだが、一番酷かったのがベーレの家族らしい。

予防とか消毒といった考えがないため、一つ間違ったら大変な事になるのだな、と仁は思う。

(ここもそうだし、カイナ村……だけじゃなく隣のトカ村にも気を付けないとな)

元々乾燥した土地なのでインフルエンザだとしたら猛威を振るいやすい環境である。

仁はこの先何か手を打つ必要があるかな、と考えていた。