軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18-13 里帰り

村を訪問した目的を説明した仁は、エルザと共に村長宅へ向かった。礼子とエドガーも荷物を持って付き従っている。

そしてバロウとベーレも、まずは村長宅へ行き事情を説明することになった。

「いやあ、バロウ、元気そうだな!」

「セルロア王国で働いているとばかり思っていたら、 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 様の所でだって? すげえじゃねえか!」

「少し背も伸びたみたいだね?」

「にーちゃん、おみやげは?」

バロウの家族たちがそんな声を掛けながら付いてくる。

「ああ、あとでね」

バロウの顔も少しにやけていた。

が、ベーレには声を掛ける者がいない。

(そういえば家族はもういないと言っていたっけ)

雇う時にした話を思い起こす仁。それでもやはり故郷という場所は帰ってみたくなるものなのだろう。

「こちらへどうぞ」

そんな仁の物思いは、村長の声により破られた。気が付けばもう村長宅前である。

応接室に通された仁はエトラント地方担当徴税官、フリクス・ベッカーと正対した。

徴税官というのはそれなりに信頼の置ける人間が担当しているもの(一部例外もあるかもしれないが)で、生真面目そうなフリクスは、仁にまず頭を下げた。

「先程は失礼な態度を取りまして、誠に申し訳ないことをしました」

「いや、それはいいんですよ。いきなりやって来たわけですし」

「そう仰っていただけると助かります。ところで、卿の来訪を陛下に報告してよろしいでしょうか?」

「ああ、構いませんよ」

この後、ラインハルトの所に行くつもりの仁。そうなればトスモ湖を越えていくことになり、首都ロイザートを避けて通れないからである。

「それではそうさせていただきます。この村には長期滞在される予定ですか?」

仁は長くて2日くらい、その後は友人を訪ねるつもりであると説明した。

フリクス・ベッカーは頷き、仁からの要望がないことを確認すると村長宅を辞したのである。

さて、村長は。

「ジン様、私はこのマギルーツ村の村長をしておりますロバルドと申します」

挨拶をし、あらためて仁を歓迎する旨を表した。

「滞在の間は私どもの家をお使い下さい」

そう言って、離れへと案内した。

村長宅の敷地には離れが3つほど有り、気兼ねなく訪問客に泊まって貰えるようにしており、フリクスもその一つに泊まっているとのことである。

手荷物を運び入れた仁はバロウとベーレに、

「今日はこれでいいから、自由に過ごして構わない」

と、休暇を与えたのであった。

「ありがとうございます!」

バロウは喜んで駆け出そうとしたが、ベーレに気が付いて足を止める。

「ベーレはどうする?」

「……あたしも、一度家に帰ってみる」

そうバロウに言うと、ベーレはゆっくりと村外れに向けて歩き出した。

仁はまだ立ち止まっていたバロウに尋ねる。

「ベーレはもう家族がいないと言っていたと思うけど、家は残っているのか?」

「はい。村外れにあるはずです。彼女の両親と妹は流行り病で2年前に亡くなったんですよ。それから僕らはセルロア王国へ働きに行ったんです」

「そうなのか」

あまり過去を詮索しない方がいいだろうと思い、今日まで仁はベーレのことを根掘り葉掘り聞くことはしないできた。が、さすがにこの期に及んでは知らぬ振りというわけにはいかなかったのである。

「あ、あの、ジン様、そ、それでですね、ジン様を家族に紹介させていただいてよろしいでしょうか?」

考え込んでいた仁におずおずといった口調でバロウが尋ねてきた。仁は笑って頷く。

ということで、仁と礼子はバロウの家へ付いていくことにした。エルザは残って荷物を片付けたあと留守番している、と仁に告げた。

それで仁はバロウと共に彼の実家へ向かった。

「ただいま」

村外れにある家では親兄弟が勢揃いしてバロウを迎えた。

「にーちゃん!」

「バロウ、お帰り!」

両親、それに弟と妹が一人ずつ。なかなか賑やかな家族である。

家族が多いため広めの食堂があり、そこで仁はあらためてバロウの家族と対面した。

「そちらが、お前がお世話になっている方かい?」

「そうだよ、ジン・ニドー様。名誉士爵で 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) でいらっしゃいます」

「士爵様!?」

「お、お前、そんな気やすい態度でいいのかい?」

仁が貴族であると知り、両親がびっくりしている。というか、驚いているのは『名誉士爵』の方で、『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』の方ではない。

一般庶民にはやはり『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』よりも『名誉士爵』の方が通りがいいようだ。

「いいんですよ。あくまでも『名誉』士爵なんですから」

仁も、年上の者に使う程度の口調でバロウの両親に対した。

「バロウの父、コンティといいます」

「母のメイツです。バロウがお世話になっております」

「いえ、よく働いてくれてますよ」

彼等にとって、『名誉』士爵とはいえ貴族の一員であることに変わりはないので、双方で軽い敬意を表しながらの会話となった。

「にーちゃん、おみやげー」

バロウの弟はまだ10歳にもなっていないように見える。それがバロウに纏わり付いておねだりを始めた。

「わかってるよ、ほら」

背中に背負った荷物袋を床に下ろし、小さな包みを出す。

「これがコーノ、お前に。そしてこっちがルッカ、お前にだよ」

ルッカは妹。人見知りらしく、母親メイツの陰に隠れて出て来ない。

「わあ、にーちゃん、ありがと!」

コーノはその場でもらった土産を開けてみた。

「わ、すげえ!」

子供用の手袋と靴。エリックの店で扱っているものだ。 森熊(ウッドベアー) の革でできていて丈夫。

このあたりには 森熊(ウッドベアー) はいないので珍しいだろう。

「おーい、ルッカ、おいで」

何度か呼ぶと、ようやくルッカも母親の陰から出てきて土産を受け取った。

そちらは野ウサギの毛皮でできた襟巻き。真っ白でふわふわしている。

「……おに、ちゃ、あり、がと」

ようやくそれだけ言うと、襟巻きを巻いたままルッカは母親の陰に戻ってしまった。

「あらあら、コーノもルッカもよかったわね」

それを見たメイツは笑う。

「で、これは父さんと母さんに。家計の足しにしてよ」

革の袋をテーブルに置く。じゃら、と金属音がした。

驚いた父、コンティがその袋を開けてみると、出てきたのは銀貨20枚と金貨が1枚。

見習いの時は月に銀貨10枚が給与だったが、8月から正式に執事として雇うことにしたので、月に金貨1枚、つまり1万トールを給与としたのである。

住み込みで衣食住は別に支給であることと、カイナ村は物価が安いのもある上、バロウの15歳という年齢としてこれは破格である。

「お、お前、これ……」

雇い主の仁がそこにいるのだからこれが正当な報酬であるとはわかるが、やはり驚かずにはいられなかったようだ。

「うん、長いこと留守にしたお詫びもあるし。受け取ってよ」

頭を掻きながら、バロウはこれまでのことを両親に説明する。

セルロア王国で働き始めたこと、その貴族が粛清され、路頭に迷ったこと、そこを仁に助けられ、働かせてもらっている事などを簡潔にまとめて話した。

「……お前も苦労したんだねえ」

「でも、いいご主人様に雇っていただけて良かったな。……ジン様、これからもせがれをよろしくお願いしますよ」

両親が揃って頭を下げる。仁も軽く頭を下げる。

「承知致しました。バロウ、これからもよろしくな」

「はい!」

そんな仁とバロウを、コンティとメイツはにこにこしながら見つめていた。