軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18-12 高高度飛行

クズマ伯爵夫妻の結婚式と披露宴も無事終了した。

「若い2人をいつまでも縛り付けておくのは可哀想だ」

との、ブルウ公爵の計らいで、披露宴も午後4時には終了。

普通なら夜中まで続くこともあるらしい。

仁としてもそんなに長くは付き合いきれないので大助かりである。

「でも、2人の邪魔をしないようにしないとな」

「ん」

仁とエルザはそう言いかわして、少し遅れて戻ることにした。

* * *

「……」

「なんだろうな、あれ」

5分ほど間を置いて伯爵邸に戻ったら、玄関前で伯爵とビーナが侍女頭のマルームと抱き合っていた。

「……確か、マルームさんはルイス様の養育係もしていたと聞いたことがある」

「なるほど、彼女なりに出迎えたわけか。……でもあの荷物は?」

「そこまでは、わからない」

聞かない方がいいこともあるだろうと、仁とエルザは通用門に回ってそっと伯爵邸へ入ったのであった。

「さて、明日の朝、いよいよショウロ皇国へ向けて出発することになる」

バロウとベーレも交えて、仁は説明した。

「はい、よろしくお願いします」

「あの2人と仲良くなったようだが、悪いな。ゆっくりできなくて」

「いえ、新婚のお2人の邪魔をしたくないジン様のお気持ちもわかりますから」

そう言ったベーレだが、やはりどこか寂しそうである。そこで仁はフォローをしておくことにした。

「まあ、今回のことでわかったろうけど、飛行船を使えば1日で来られる距離だからな」

「はい!」

言外に込めた、また来ることもあるだろうというニュアンスを察し、2人は元気よく頷いた。

翌朝、伯爵夫妻と共に朝食を摂った仁は早々に出発することにした。

「もっとゆっくりしてもらいたかったな」

というクズマ伯爵に仁は、

「お2人が落ち着いたらきっとまた来るよ。それができることは知ってるだろう?」

と、暗に 転移門(ワープゲート) のことをほのめかす。

「うん、そうだな。それじゃあ気を付けて、ジン、エルザ嬢」

「ジン、また来てちょうだいね。エルザ、頑張ってね」

「またそのうちに」

「また、いつか」

仁とエルザが伯爵夫妻と名残を惜しんでいた頃、バロウとベーレも同じくナナとラルドの姉弟との別れの言葉をかわしていた。

「それじゃあナナ、ラルド、元気でね」

「ベーレさんもバロウさんもお身体にお気をつけて」

主従共に別れを済ませ、伯爵家の門を出ると、 第5列(クインタ) の1体、レグルス5=ビートがゴーレム馬を4頭連れて立っていた。

「ジ、ジン様、どうしてここにこの馬が?」

カイナ村でもゴーレム馬は一般に使われていたから、バロウもベーレも乗ったことがある。だが、それがこんな場所にもあるというので驚いたのだ。

ゴーレム馬はどこにでもあるような物ではないことくらい、常識が崩れ始めているとはいえバロウもベーレも承知していた。

種を明かせば、ブルーランド郊外に設置してある 転移門(ワープゲート) を使い、一時的に持ってきてあるのだ。

4頭のゴーレム馬に仁と礼子、エルザとエドガー、バロウとベーレ、そして荷物とビート、という分乗をして郊外へ。

飛行船は既に広場へ回航済みであった。レグルス4=マークの手際の良さが光る。仁はマークを褒め、ビートを労った。

「さて、行くか」

仁たちが乗り込んだ飛行船はゆっくりと高度を上げる。見送るのは2体の 第5列(クインタ) のみ。

「飛ばすぞ」

ブルーランドと、ショウロ皇国にあるラインハルトの領地であるカルツ村までの距離は900キロ弱。

途中で泊まるとなるとセルロア王国で、ということになる。それはいろいろな意味で避けたかった。

なので仁は、1日でショウロ皇国まで飛ぶつもりだったのである。少々反則気味な手を使ってでも……というのは今更だが。

「上空へ上がるぞ」

セルロア王国は仁に対し、出入国の許可を出していない。であるから、面倒事を避けるため超高空を行くつもりなのだ。

更に、風の結界を最大限に利用して空気抵抗を減らし、速度を上げるつもりである。それにも超高空という環境は都合がいい。

「ふわあ……」

高度1万メートルからの眺めは圧巻だった。

結界で気圧と温度が保たれているため乗員に影響は無いが、普通なら人間は生存できない環境である。

だがその分、見えるものは非日常の世界。

見渡す限りの雲海。頭上には抜けるような青空が広がっている。

「ここは雲の上、1年中晴天さ」

などと言っている仁も、その光景に見とれている。

「……きれい」

エルザもうっとりと、その神秘的な光景を眺めていた。

そのような高空でも、 魔力探知装置(マギディテクター) があるため、カルツ村の方向を見失うことはない。

時速150キロ近い速度で飛行船は飛んでいった。

およそ5時間、その状態で飛び続ければ、既にショウロ皇国に入っている。仁は高度と速度を落とすことにした。

ショウロ皇国は晴れており、雲の層を抜けることなく高度を落としていく飛行船。

「えーと、ジン様? ここは?」

「ああ、マギルーツの近くの筈だ」

「えっ!」

隣町のモント担当、 第5列(クインタ) のレグルス9が誘導してくれていたため、雲海の上からでも正確にコースを決められたのである。

「あ、あ、あの、ジン様、本当に?」

「ああ、そうさ。見覚えないかい?」

「えーと……」

驚き慌てるバロウと、地上をまじまじと見つめるベーレ。

「あ、バロウ、あれ! ……ほら、村よ! 間違いないわ! 村長さんの家でしょ、あの望楼!」

その一帯は枯れたトウモロコシ畑が広がっていた。

乾燥地帯に向いた作物としてトウモロコシや豆類などがある。この一帯はトウモロコシの産地のようだった。

仁の飛行船が近付いていくと、気付いた村人たちが空を見上げて指差し、慌てている。技術博覧会を見た者ならともかく、初めて飛行船を見たなら当然の反応であろう。

仁は村外れの草地に着陸した。レグルス9が駆け寄ってくる。青年型の 自動人形(オートマタ) で、茶髪に茶色の目である。服装は貴族の従者といった格好だ。

「チーフ、お待ちしておりました」

「ごくろうさん。飛行船を預かっていてくれ。子供たちが悪戯したりすると危ないしな」

遠巻きに見つめている村人たちの中には子供の顔も見えていた。

「あっ、にーちゃん!」

子供の1人が大声を上げる。

「ほんとだ、あれバロウだよ」

「ベーレもいる」

「一体何もんだ?」

村人たちのざわつきが一層大きくなった、その時である。

「失礼、貴殿は何者か? 私はこのエトラント地方担当徴税官、フリクス・ベッカーという」

30歳前後のがっしりした体格の男である。栗色の髪に青い眼という、ショウロ皇国ではよく見る色あいの髪と目の色。

「俺は 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、ジン・ニドー」

「その妹、エルザ。 魔法技術者(マギエンジニア) です」

仁とエルザはそれぞれ名乗った。

「『 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 』!? 貴殿が、あの!」

仁の名前はフリクス・ベッカーと名乗った徴税官も知っていたと見え、右手を胸に当てるショウロ皇国での略式敬礼を行った。これは男爵以下の下位貴族に行うものでもある。

「失礼しました! この村に何か御用がおありでしょうか?」

一つ頷いた仁は答える。

「うん。この2人は俺のところで働いてもらっているバロウとベーレ。今日は里帰りということで連れてきた」