軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18-04 完全なる仁

「『 全快(フェリーゲネーゼン) 』」

「……」

10月7日、仁は通算20回目の『 全快(フェリーゲネーゼン) 』治療を受けた。

最終日になる筈の今日、仁は痛みを全く感じなかった。

「ジン兄、気分はどう?」

「……」

「お父さま?」

返事をしない仁を心配して、エルザと礼子が声を掛けた。

「……あ、ああ、済まない。なんというか、あまりにも変わったものだから」

「え?」

「……昨日までの治療が、階段を一歩ずつ登る感じだったとすれば、今日は一気に1フロア上ったという感じなんだ」

そして仁はその場で飛び上がって見せた。

「……は?」

1メートルほどの高さまで飛び上がれたのである。

「身体が軽い……」

今度はそばにあった座卓を持ち上げる仁。30キロほどの重さがあるそれを、片手で持ち上げてしまった。

「……今までは、力を入れようとしているのにその力が逃げていく感じだった。それが今はそうじゃない」

おそらく、今までの仁は普通の筋力に加え、無意識に『身体強化』をしていたと思われる。

「普通に動くこともできる」

もう一度飛び上がる仁。今度は40センチほどに留まった。

「ああ、これが『身体強化』の感覚か」

『身体強化』の魔法は、工学魔法にもある。重い部材や素材を運ぶために使うものである。

これまでの仁は、いくら『身体強化』を掛けても体力が向上しないため、半ば諦めていたのである。

「でもこれからは……!」

嬉しくてはしゃいだ仁はエルザを抱え上げて右肩に乗せた。続いて礼子を左肩に。

「……ジ、ジン兄!?」

「お父さま?」

いきなりのことに面食らうエルザ。礼子も若干慌てている。

「エルザ、ありがとう。礼子、ありがとう。ようやく身体が自分のものになった、そんな気がするよ」

この世界に召喚、肉体を再構成されてからずっと感じていた体内の『澱み』。それがきれいに無くなり、仁はまさに有頂天だった。

2人を肩に乗せたまま部屋の中をスキップして回るほど、仁は浮かれていた。

* * *

「……落ち着いた?」

「……うん。面目ない」

あれから仁は30分くらいもはしゃぎ続け、たまたまやってきたトアとステアリーナが呆れた目つきで見つめなかったら、まだまだはしゃいでいたかもしれない。

「あらためて、ありがとう。エルザ、礼子」

仁は深々と頭を下げた。

「おやめ下さい、お父さま。わたくしは何もしておりません」

「私も。それに、私の方がジン兄から受けた恩は大きい」

「いや、細胞が活性化するというのがこれほどとは思わなかった。それに20日間も付き合ってもらったんだしな」

「わたくしは義務を果たしただけです」

「私はただ治癒魔法をかけただけ」

「もういいんじゃない? わたくしとしては珍しいもの見られたからいいんですけどね」

黙っていたら果てしなく続きそうな会話を止めようとステアリーナが口を挟んだ。

「珍しいもの?」

「何、それ?」

仁とエルザが尋ね返す。聞かれたステアリーナは当人がそれを聞くか、と微笑みながら答えを口にした。

「真っ赤になったエルザさんとはしゃぎ回るジン君、よ」

「なっ……」

「……」

「うふふ、これもジン君が活性化? したからかしらね」

口に手を当てて含み笑いをするステアリーナの肩をトアが叩いた。

「リーナ、他に話すこともあるだろう?」

リーナ、というのはステアリーナの愛称らしい。

「え、ええ……」

今度はステアリーナが顔を赤らめた。

「?」

「ほら、リーナ」

「……あなたから言ってよ」

「仕方ないな。……ジン君、実は我々、一緒になることにしたんだよ」

「おめでとう!」

「おめでとうございます」

2人の仲が良い事は知っていたし、いつかは、という予感もあった。

「……サキは?」

それならこの場にサキもいるべきでは、と思った仁はその疑問を口にした。

「あの子はもう知っているよ。……で、話をしたら、『おめでとう、父さん』と言ってくれた後、ふらっとどこかへ行ってしまってね……」

「アアルが付いていったから心配はいらないと思うけど……」

更に言えば、老君が『 魔力探知機(マギレーダー) 』でファミリーの居場所は全員分把握しているはずでもある。

「やっぱり父親が再婚するというのは抵抗があるのかねえ……」

そう呟いたトアは少し寂しそうであった。

「……結婚式とか披露宴はどうするんですか?」

「もういい歳ですもの、必要無いわ」

「私はせっかくだから、と言ったんだけどねえ」

仁は考え込んだ。仁ファミリーのメンバーとして、やはり……。

「ここ蓬莱島で、仲間内だけでもやりましょうよ」

「賛成。トア小父様、そうすべき」

仁とエルザの2人から勧められたトアとステアリーナは照れながら頷いた。

「……うん、それじゃあお言葉に甘えて」

「ジン君、お願いしていいの?」

仁は大きく頷いた。

「もちろん! それじゃあ、いつ式を挙げますか? 明日? 明後日?」

そう口にした仁は、バロウとベーレを連れて明日からショウロ皇国へ行く予定だったことを思い出した。

「あー、そんなに急ぐ気はないんだよ」

うっかりしていた、と思った矢先、トアの口から語られた言葉にちょっとほっとする仁。

「ステアリーナには親類縁者はいないそうなんだが、私は一応義父……ゲーレン侯爵に挨拶してからでないとねえ」

ゲーレン・テオデリック・フォン・アイゼン侯爵。ショウロ皇国の貴族で、サキの祖父でもある。

「確かにそうですね。実は俺も、明日からショウロ皇国へ行く予定なんです」

「ああ、そうだったね。それじゃあ途中まででも……」

そう言いかけて、トアはその必要すらないことに思い当たった。

仁はラインハルトの『 蔦の館(ランケンハオス) 』へ。トアとステアリーナはトアの家へ。

どちらも 転移門(ワープゲート) が設置されている。トアのその予想は、実は間違っているのだが。

「まあ、向こうで会うこともあるかもしれないが、そのときはよろしくな」

「ええ、もちろん」

そんなこんなで全員で研究所へ向かった。

「さてと、それじゃあ、クズマ伯爵とビーナへのお祝いを用意しないとな」

研究所の工房で、仁とエルザは相談の上、贈り物を考えるのであった。

「そういえば、ラインハルトはどうするんだろう?」

「私が、聞いてみる」

魔素通信機(マナカム) を使えば、すぐにラインハルトに確認できる。

エルザは 魔素通信機(マナカム) のある研究所地下、司令室へ向かった。

空はまだ鉛色、目に映る風景は雨に煙っている。

「ショウロ皇国は晴れているかな?」

仁の呟きはそぼ降る雨に掻き消された。