軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17-10 問答

仁の訪問理由を聞いた700672号は大きく頷いた。

「『デキソコナイ』を、な。それで、具体的には何を?」

「あ、その前に、これをどうぞ」

仁は持ってきた回復薬の瓶を10本、700672号に差し出した。

「 自由魔力素(エーテル) を豊富に含みます」

それを受け取った700672号はわずかに顔を綻ばせた。

「おお、これはこの前飲ませてもらったものと同じ薬だな。有り難くもらっておこう」

そして、早速1本を開けて中身を飲み干す。

「ふむ、やはり良く効くな。感謝する」

そんな父親の様子を見たネージュも脇で嬉しそうに微笑んでいる。

落ち着いたところで早速話に入る仁。

「先日、『デキソコナイ』が『 魔素暴走(エーテル・スタンピード) 』を使いました」

「何? この前、青い髪の 自動人形(オートマタ) がそんなことを言っていたな。その 魔素暴走(エーテル・スタンピード) について詳しく聞かせてくれないか?」

「わかりました」

そこで仁は、 魔素暴走(エーテル・スタンピード) についてわかっている限りの事を説明した。

700672号はしばらく考えていたが、考えがまとまったらしく、ゆっくりと口を開いた。

「 魔素暴走(エーテル・スタンピード) か……。それは確かに脅威だな。吾も、このネージュも、只では済まぬだろう」

ネージュが700672号の袖をぎゅっと掴んだ。

「『デキソコナイ』が作り出した兵器だな。吾は知らぬ」

目を閉じ、何ごとか考える仕草の700672号。やがて目を開け、仁を見つめる。

「それで、聞きたい事とは、防ぎ方か?」

「趣旨でいえばそうなります。もう少し具体的に言うと、魔法や 魔力素(マナ) を 自由魔力素(エーテル) に戻す技術について何かご存じないかと」

「ふむ……つまり、 自由魔力素(エーテル) を操る技術について、ということか」

「そういうことになりますかね」

少し俯き、考え込む700672号。そして顔を上げると、礼子を見つめながら口を開いた。

「そこの 自動人形(オートマタ) は、見たところ 魔素変換器(エーテルコンバーター) と 魔力炉(マナドライバー) を使っているな?」

見ただけで700672号は礼子の動力源について見当が付いたらしい。

「素晴らしい効率で稼働しているのがわかる。だが、吾の主人たちは『 魔力反応炉(マギリアクター) 』を使っていた」

「『 魔力反応炉(マギリアクター) 』ですか? …… 自由魔力素(エーテル) を 魔力素(マナ) に変え、同時に 魔力素(マナ) をエネルギーに変えるものでしょうか」

「おお、その通りだ。飲み込みが早いな。それ1つで 魔素変換器(エーテルコンバーター) と 魔力炉(マナドライバー) の働きをする。当然ロスが少ない」

その理屈は仁にも良く理解できたし、仁もそれを考えたことがある。が、制御が難しく、暴走しやすいのでやめていたのだ。それを説明する仁。

「なるほど、考えてはいたのだな。暴走しやすいというのは、制御と表裏一体だ」

「それはわかります」

700672号は一つ頷くと、話を続ける。

「さて、そこで最初の質問への答えだ。 自由魔力素(エーテル) を完全に制御するなら、『***』が必要になるのだが、……そうか、この世界には無かったのだな」

「何ですって?」

聞き取れなかったので聞き返す仁。そんな仁に、700672号は訳知り顔で頷く。

「『***』……概念すらあるまい。吾の主人たちの母星……ヘールでは一般的な物質だったのだがな。普通の言葉で言えば……『精神触媒』とでも言おうか」

「精神触媒……ですか」

なんとなくどのようなものかをおぼろげながらに想像してみる仁。

「魔法の発動に関する理解もあるようだし、精神波が魔力波の1種だということも理解しているようだ。まあ、その物質を使えば、より効率的に 自由魔力素(エーテル) を制御できるのだよ」

だが、無いものは仕方ない。無い物ねだりをしても始まらないと、仁は気持ちを切り替える。

「それでは、一つ話をしようか。理解できるかは貴公次第だ」

700672号は仁の目を見ながら話し始めた。

「魔法は全て魔力によって引き起こされている」

無言で仁は頷いた。

「では、ここで言う魔力とは何か? 目に見えない、力ある波動である」

仁たちが立てている仮定と一致している。またも仁は頷いた。

「魔力は波動であるがゆえに、波長、波高、波形がある」

700672号は仁の顔を見て、理解していることを確認すると先を続ける。

「空間に存在する 自由魔力素(エーテル) を集めるのもこの魔力であるし、 自由魔力素(エーテル) を 魔力素(マナ) に変えるのも魔力である。そして、 魔力素(マナ) を魔法に変えるのもまた魔力による」

「はい」

初めて仁は声に出しながら頷いた。

「役割は違うが、全ては魔力によるものだと言うことだな。では、魔力はどうしていろいろなことができるのか」

700672号は試すように仁の顔をのぞき込んだ。

「先程言っていた、波長、波高、波形による違いではないでしょうか?」

その仁の答えに、700672号は満足そうに頷いた。

「然り。最も大きく違うのは波長だ。つまり、振動数……周波数といえる。さて、魔導士ならば皆、自前で微力ながら魔力を発することができる。これを精神波と呼んでおこう」

「はい」

「精神波は、魔導士が作り出せるオリジナルの魔力だ。これを用いて周辺の 自由魔力素(エーテル) を 魔力素(マナ) に変え、 魔力素(マナ) をエネルギーに変えることで魔法を発動させている」

仁は、700672号が何を仁に伝えたいのかを感じ取り、一層集中する。

「発動の手順は……知っているようだから今は省く」

ここまで、仁はしっかりと理解し、追従して行っていた。そんな仁の顔を見た700672号はほんの少し嬉しそうに見える顔をした。

「ふむ。理解力があるな。ならば先へ行こう」

「はい」

にやりと笑う700672号。

「このエネルギーとは何か? 火属性魔法なら熱エネルギーだ。風属性魔法なら運動エネルギー。……わかるかな?」

頷く仁の顔を見て、それが見栄でないことを知ると、更に700672号の顔に喜色が広がった。

「精神力という名の魔力が、より大きな魔力に増幅され、エネルギーをも支配する。これが魔法を別の角度から見た説明だな」

仁はいよいよ話が核心に近付いてきたことを予感した。

「属性によって、使われる魔力の周波数が違うのだ」

先日、蓬莱島でサキと議論したことと同じ事が700672号の口から語られた。

「さて、それでは精神波はどのくらいの周波数を持つのか?」

仁たちもそこまではわからなかった。魔力波を数値化することはできていないからだ。

以前、エゲレア王国の 魔法工作士(マギクラフトマン) 互助会(ギルド) で、ドーナという名の 自動人形(オートマタ) が魔力特性を読み取る事ができると言っていたが、しかし。

それは表面的な特性だけで、真の魔力解析ではなかったのである。

例えで言うと、AMラジオの電波と音声データの関係と言えばいいか。

搬送波である電波は、530kHzくらいから1600kHzくらいの周波数を持ち、その波高・波形が音声データを表す。

可聴音の周波数は20Hzくらいから20kHzくらいであるから、搬送波は1000倍以上の周波数を持っていることになる。

ラジオの原理について詳しい説明は省略するが、検波という過程を経てラジオ放送電波から音声信号が取り出されるのだ。

閑話休題。

一般人が感知できる魔力というのは、この音声信号に相当する部分であり、搬送波は周波数が高すぎて検知出来ないのが普通である。

700672号の説明は、正にそういうことであった。

「精神波は魔力の中でも、相当に高い周波数を持つのだ」

これは仁に取っても初耳である。目を輝かせて仁は聞き入っていた。そんな仁を見た700672号は試すような口ぶりで仁に尋ねた。

「貴公の 自動人形(オートマタ) だが、 魔素変換器(エーテルコンバーター) には何属性の 魔結晶(マギクリスタル) を使っている?」

「全属性ですが」

それを聞いた700672号は頭を振った。

「やはりな。それは陥りやすいミスだ」

「なぜです!」

今まで黙っていた礼子だったが、仁を否定するようなことを言われたので黙っていられなくなったようだ。

その勢いに、700672号に付いていたネージュは礼子を睨み付けた。

「礼子、いいんだ。……わかります。光属性か闇属性の 魔結晶(マギクリスタル) を使え、ということですね?」

その発言を聞いた700672号は満足そうに大きく頷いた。

「その通り。周波数が高いのだから闇属性を使えば良さそうにも思えるが、光属性の 魔結晶(マギクリスタル) が最も効率が良いことが経験的に知られている」

全属性は当然光属性も持ってはいる。が、他の属性も同時に存在するため、その用途から見た場合、効率が落ちているというのである。

「今の話は 魔素変換器(エーテルコンバーター) に限定しての話だ。魔法を行使するにはやはり全属性はそれなりに有効と言えよう」

「そうなりますね」

ここまで、仁に取って非常に有益な話である。

「さて、 自由魔力素(エーテル) を操る力についてだが、これまでの話でもかなりわかったであろう」

「ええ、確かに」

間髪入れず仁は頷いた。

「さて、魔力をどうやって制御するか。当然、元になるのは精神力だ。その周波数の上限以上のことはできない。貴公は……どうかな?」

「どうでしょうね。今のところ魔力波の周波数を知る 術(すべ) がないもので」

「ふむ、正直だな。……ネージュ、案内してやりなさい」

「はい、父さま」

それだけのやり取りでネージュにはわかるらしく、仁の手をくい、と引くと、壁に取り付けられた『窓』の一つの前まで引っ張って行った。

「その『窓』に向けて魔力を発するがいい。窓の色で大体のことがわかる」

「わかりました」

仁は掌に魔力を集め、窓に向けて放出した。

「おお!」

驚いたような700672号の声。だが仁にはその意味がまだわからない。

「これは?」

暗かった窓が明るい青に輝いたのである。