軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17-09 訪問

夕方近くなって、『 諧謔(かいぎゃく) 』の氏族長、バフロスクをはじめとする、意識の無かった者たちが目覚めた。

「な……何があった?」

「気が付いたか、バフロスク」

少し前に気が付いていたジャラルドスが、隣のベッドからバフロスクの顔をのぞき込んで言った。

「ジャラルドス……か。一体何があった?」

「覚えていないのか?」

バフロスクはベッドに上体を起こし、頭を2、3回振ると、呻くような声を出した。

「……あの時…… 侏儒(しゅじゅ) が……いきなり現れたかと思ったら……銀色の玉を投げて……そこからが思い出せぬ」

頭を抑えて呻くバフロスクに向かい、ジャラルドスが静かに告げた。

「 魔素暴走(エーテル・スタンピード) だ」

「何?」

「あれが魔族の泣き所、 魔素暴走(エーテル・スタンピード) だったのだ」

それを聞いたバフロスクはしばらく言葉が出なかった。やがて、その事実を受け止めたらしく、声に力が戻って来た。

「……では、なぜ俺は助かった? いや、貴様も!」

「助けられたからだ」

「何?」

「あの場に居合わせた、 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) ジン殿の作った 自動人形(オートマタ) が、ちょうど私と、ベリアルスと、それにお前を包む結界を張ってくれたのだ。が、それでも 魔素暴走(エーテル・スタンピード) の威力は防ぎきれず、 自由魔力素(エーテル) の欠乏で皆、意識を失ってしまったというわけだ」

「……」

バフロスクは再び俯き、考え込んでしまった。自分が、否定していた 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) に助けられたということが納得いかなかったのである。

だが、その途中で、もっと逼迫した問題に気が付いてしまう。

「そ、そうだ! 氏族の他の者たちはどうしたのだ!?」

「……」

ジャラルドスは真実を告げるべきか、一瞬迷ったが、いずれわかるものと思い、ありのままを告げることにした。

「……お前を含め、20名が生き残った。あとは……」

「……20名? 100人からいた我が『 諧謔(かいぎゃく) 』の氏族が? 何? 『狂乱』の氏族長もだと?」

がっくりと脱力し、頭を抱えるバフロスク。気持ちはわかるので、ジャラルドスは何も言えなかった。

が、バフロスクはどう気持ちを切り替えたのか、すぐに頭を上げた。

「……やったのはあの 侏儒(しゅじゅ) か?」

「あ、ああ。あいつは『 負の人形(ネガドール) 001』。魔族と人間を争わせ、滅ぼそうと画策している。我等の真の敵だ!」

その言葉を、バフロスクは暗い表情で聞いていた。

「もっと早く説明したかったのだが、あの騒ぎでな」

そう釘を刺すのも忘れないジャラルドスであった。

「……貴様が説明したかったことを全部聞かせてもらおうか」

これまた暗い声で言い出したバフロスク。ジャラルドスは、バフロスクには気の毒ではあるが理性的になってくれたこの時が好機とばかりに、これまでわかったことを説明したのである。

「我等の祖先が、空からやって来たというのは本当だったのか。そして、『 負の人形(ネガドール) 』……許さん」

聞き終えたバフロスクの瞳に、暗い炎が宿ったが、ジャラルドスは気付かなかった。

「で、これからどうする予定だったのだ?」

バフロスクが素直になったことを喜んだジャラルドスは、今現在、 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 仁の配下が『 負の人形(ネガドール) 001』の拠点を探しているということを説明した。

「なるほど。 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) の技術力は相当なものらしいからな。いずれ見つかるだろう」

そう言ってバフロスクはベッドに横になり、目を閉じる。ジャラルドスも言うだけのことは言ったので、まだ身体が本調子でないためもう一度横たわったのである。

* * *

一方老子は、『 負の人形(ネガドール) 001』の拠点の司令室に続く換気口内に潜んでいた。

(転移し、2秒でまた戻って来ましたか。なかなか素早いですね)

そしてまた観察に入る。その間に、 魔素暴走(エーテル・スタンピード) が起きたことを知った。

(おそらく目的は過激派死亡の責任を 御主人様(マイロード) に押しつけ、内部分裂を狙ったもの。ですが、アンによってバフロスクが生き残ったのでそれが崩れたのは幸いでした)

そして、 魔素暴走(エーテル・スタンピード) の危険性に関して考察する。

(防ぐ方法が確立されていない今、私はおろか礼子さんでも動けなくなりますね)

目の前で発動の魔導具らしい銀色のボールを投げられたならともかく、不意打ち的に、または見ていない場所で 魔素暴走(エーテル・スタンピード) を起こされたらどうしようもない。

( 御主人様(マイロード) と協力して対策を立てないといけませんね)

本体の老君は、仁と共にさまざまな可能性を検討していった。

まずは蓬莱島へ呼び戻したアンの精密検査から。

「…… 制御核(コントロールコア) の表面が侵食されたようになっているな」

『 魔結晶(マギクリスタル) を構成している 自由魔力素(エーテル) も影響を受けたと言うことですね』

先代からの技術で、 魔導式(マギフォーミュラ) は 魔結晶(マギクリスタル) 内部に刻んであるのが功を奏したといえる。

仁は念のため、アンの 制御核(コントロールコア) を初めとする 魔導装置(マギデバイス) を交換しておくことにした。

「もう少し 魔素暴走(エーテル・スタンピード) が続いていたら危なかったかもな…… 障壁結界(バリア) も多少は効果を発したのかもしれない」

大事なアンが失われなくて良かった、と仁は胸を撫で下ろしていた。

次は、魔族の身体を診察した結果から 魔素暴走(エーテル・スタンピード) を解析すること。

回収した銀色の玉は、中が空っぽ、というか、わずかな埃があるだけであった。

おそらく、発動のための 魔結晶(マギクリスタル) は 魔素暴走(エーテル・スタンピード) により崩壊したのであろう、と仁は推測した。

『さて、 魔素暴走(エーテル・スタンピード) が人体にどういう影響を与えるかですが』

自由魔力素(エーテル) を暴走させる魔法、それはわかっている。

魔導士は空気中にある 自由魔力素(エーテル) を呼吸などで取り入れ、体内で 魔力素(マナ) に作り変えている事が知られている。

この 魔力素(マナ) に作り変えている『器官』は特別なものではない。細胞である。

ミトコンドリアはTCAサイクルと呼ばれるエネルギーサイクルを司り、生物にエネルギーを供給しているように、魔導士の細胞内にはマギ・ミトコンドリアとでも呼ぶべきものがあって、 魔力素(マナ) を作り出していると仁と老君は推測していた。

このマギ・ミトコンドリアの質と量が魔導士の魔力総量を決めていると思われる。

閑話休題。

『細胞内のマギ・ミトコンドリアは 自由魔力素(エーテル) と密接な関係にあるため、 魔素暴走(エーテル・スタンピード) が起きるとおそらく破壊されるのでしょう。その影響で細胞も死滅し、本体である人間を死に至らしめる、というのが私の仮説です』

その仮説に仁も頷く。特に否定するような材料はない。

「と、なると、次は対策の検討だ」

むしろそちらの方が差し迫った問題である。

「グランドラゴンの鱗と革、あれを 制御核(コントロールコア) のシールドに使ったら、効果はありそうだな」

『そうですね、今のミスリル銀と併用するのがいいでしょう』

それでも不十分であろうが、やらないよりはましである。

「あの革も 魔力素(マナ) を 自由魔力素(エーテル) に変換し続けているんだよな?」

『ええ。魔法を 自由魔力素(エーテル) に変換し続けているならもっと効果的だったのですが』

「まったくだ」

それからもいろいろと相談を続けたのだが、いい案も出ず、仁は考えあぐねてしまった。

その時、ふと思いついたこと。

「なあ、『700672号』は 魔素暴走(エーテル・スタンピード) について何か知っていると思うか?」

『いえ、以前にもお答えしましたが、知らない可能性が高いと思います』

「うん、だが、 魔素暴走(エーテル・スタンピード) について、意見を聞くことはできるんじゃないか?」

とにかく時間が無い。

日数を掛ければ、仁たちにも 魔素暴走(エーテル・スタンピード) のことをもっと詳しく解析できるだろうが、今は時間が惜しかった。

「あの部屋の座標はわかっているんだよな?」

『はい。礼子さんやアンが訪れましたから』

「よし、俺が直接行って聞いてくる」

『 御主人様(マイロード) !? それは危険です』

だが仁はそれを否定した。

「アレクタスのことを『 堕ちた者たち(フォールナー) 』と呼び、拒絶しなかったんだろう? なら俺だって大丈夫さ」

『しかし、礼子さんが何と言うか……』

「ああ、わかったよ。礼子に連絡つけて、一時的にこっちへもどらせてくれ」

ということで老君は 魔素通信機(マナカム) を使って礼子と連絡を取った。そして案の定、

『お父さま、そんな危険なことはおやめ下さい』

と言われたのである。だが、そこで引き下がるほど、仁の好奇心は弱くはない。

「そもそも今、ランドたちがいるんだろう? 転移マーカーは全て除去したといっていたし、俺は強化服を着ていく。それに礼子、お前も付いてきてくれ。それでどうだ?」

『……わかりました』

そうまで言われて、礼子も渋々承知した。すぐに 転移門(ワープゲート) を使って蓬莱島へ戻ってくる。

そして老君は1丁の銃を礼子に示した。

『礼子さん、これは特別に調整した転送銃です。『しんかい』に調整してありますから、 御主人様(マイロード) に危険が迫ったときはお使い下さい』

「わかりました」

いざとなったら転送銃で仁を強制的に転移させて退避させようというのである。

とにかく、考えられる限りの対策をして、仁は転送機で『サーバント700672号』のいる拠点へと転移した。

「……ここが『天翔る船』の内部か……」

古(いにしえ) の宇宙船の床を踏みしめた仁。『窓』がたくさんある、あの部屋である。

「お待ちしておりました、ご主人様」

ランド31から40、 職人(スミス) 11から20が仁を出迎えた。

「みんな、ご苦労さん。で、700672号の部屋はどこだ?」

ここの 魔導機(マギマシン) にも興味があるが、まずは訪問の目的を済まさなければならない。

「はい、あそこです」

礼子が指し示すそこは、確かに壁にドアらしい筋が刻まれている。

「すごいな、壁とドアの隙間が極小だ。見事な精度だ」

そう言いながら、仁はドアの表面を手で撫でた。

すると、アレクタスが触った時と同じようにドアは音もなく開いたのである。

『白い部屋』に足を踏み入れる仁。

「何者だ」

前回とは違い、覚醒した『サーバント700672号』が 誰何(すいか) の声を発した。

「お邪魔します。俺はジン・ニドー。貴方に聞きたい事があってやって来ました」

仁は入り口に立って自己紹介と来訪の目的を口にする。

が、ベッドの上の『サーバント700672号』は仁を見て目を細めた。

「貴公がその素晴らしい 自動人形(オートマタ) を作ったのだな」

「ええ。わかりますか?」

「わかるとも。魔力的な繋がりが感じられる。それ以上に、その 自動人形(オートマタ) は貴公を守ろうとしていて、寸分の隙もない」

ベッドのそばにいた白い少女……ネージュが、それを聞いて700672号に寄り添うように動いた。

「それで、聞きたい事とは?」

「『 負の人形(ネガドール) 』……いえ、『デキソコナイ』をどうにかするための知恵を拝借しに」