作品タイトル不明
17-04 スニーキング
中立派氏族のほとんどが仁の話を聞いてくれたことは僥倖であった。
人数の少ない小氏族は、それぞれ今回友好を結んだ氏族長達が説得してくれるということだ。
ただし、今回の友好は『仁と』であって、『人類と』ではない。
あくまでも 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、仁との友好を結んだ、という扱いなのである。
「まあ、それでも一歩、いや、二、三歩前進だよな」
今、仁はそれぞれの氏族向けの農作業用ゴーレム『アグリー』を作っていた。
現場だけでは間に合わないので、蓬莱島で 職人(スミス) たちに手伝わせているのだ。
このおかげで生産量は3倍になり、1日で『アグリー』200体と、霜害対策結界器が20台完成したのである。
こっそり転送機で送り込む予定である。
『それでですね、 御主人様(マイロード) 。簡易転送機の試作が出来ました』
「お、早いな」
『こちらです』
老君専用の移動用端末『老子』は今現在『 負の人形(ネガドール) 001』の拠点探索に出動しているので、老君は 職人(スミス) ゴーレムを助手に使っていた。
「ふうん、本当に小型の銃みたいだな」
玩具の銃、といった外見である、凹凸はあまりなく、良くいえばすっきり、悪く言えば単純で面白味のない外見。だが仁は気に入ったようだ。
「使い方は?」
『はい、いろいろ検討しましたが、まず何かを狙って、引き金に触ってみて下さい。触れるだけで結構です』
「うん」
仁は研究所の外に出ると、転がっていた木の枝を狙ってみた。
引き金に触れると、赤色のレーザー光のようなポインターが光った。
「これは?」
『ポインターです。そのポインターが当たった物体を転送します。引き金を引いて下さい』
仁が引き金を引くと木の枝が消えた。
「おお、なるほど」
『転送先は固定で、遙か彼方の海上5000メートル上空を指定してあります』
「海上か……」
頻繁に使わないならば、デメリットもあまりないだろう、と仁は思った。
爆弾などもこれで無力化できる。
『欠点は、転送に使うエネルギーが大きいので、その大きさでは2回使ったらエネルギーが空になります。同じ理由から大きなものは転送できません。エネルギー源はエーテノールです』
1回で無くなるよりはいい、と仁は思った。場合によってはこの大きさであるから、2丁持ってもいいだろう。
「大きさの制限はどのくらいだ?」
『はい、大きさでしたらおおよそ直径50センチの球形範囲に入るくらい、重量は40キロくらいでしょうか』
爆弾ならなんとかできそうである。それ以外のものにはまた別の対処をすればいい。
「転送先はいっそ宇宙空間というのも悪くないけどな」
『距離が開くので若干エネルギーを喰うのです』
「あー……確かにな。まあ、乱発しないことだな」
仁は同じものを40丁作り、礼子およびランド2〜20に2丁ずつ装備させるよう、老君に指示を出した。
「さて、俺の方は……」
魔法無効化の検討を再開する仁。
「ジン兄」
工房で考え込む仁の所にエルザがやって来た。
「エルザ、どうした?」
「……ジン兄を、手伝いに来た」
「俺を?」
「うん。レーコちゃんがいないから、助手が必要だと思って」
「そうか、悪いな。じゃあ、手伝ってもらおうかな」
仁は、昨日から考えている魔法無効化に関する理論をエルザに説明していった。
「……打ち消す……」
「ああ、だが、波を打ち消すには、正確に同じ波長でないと無理なんだ」
「なら、全部の周波数を発信したら?」
「装置がでかくなりすぎる」
仁でもそうそう小型化できないくらいの大きさになってしまいそうである。
「なら、各属性用に小分けするというのは?」
「悪くないけど、数が増えるな」
「うー……難しい」
エルザも考え込んでしまった。可愛らしい顔を顰めてうーうー唸っている様子を見て、仁は思わずくすっと笑ってしまう。
「……なに?」
「い、いや、考え込んでるエルザの仕草が思ったより可愛かったからつい」
「……!」
珍しくかあっと顔を赤くさせたエルザは慌てたように立ち上がった。
「……お、思い出した。お昼ご飯の仕度、しなくちゃ」
そう言うが早いか、工房を急ぎ足で出て行こうとする。
途中、椅子に脚を引っ掛け、転びかけるもなんとか立て直して……。
そんな珍しいエルザの挙動を半ば呆気にとられて見ていた仁だったが、
「全部……小分け……そうか!」
何やらアイデアを思いついた仁は、さっそく試作に取りかかるのであった。
* * *
一方、老君の移動用端末である 自動人形(オートマタ) 『老子』は、『 負の人形(ネガドール) 001』の拠点探索の真っ最中であった。
場所はパズデクスト大地峡から見て北西方向にある山の中腹。風向きのせいか、それとも強風で吹き飛ばされるからか、雪や氷が付いておらず岩が露出している場所があった。
その岩陰に小さな出入り口があって、奥は『 負の人形(ネガドール) 001』の拠点の1つとなっていたのである。
(ここにも結界が。厄介ですね)
老君、いや老子は、魔力を探知する能力をフルに使い、結界の発生場所を見つけ出した。
(結界の構造は……重層的? いや、単なる単層を2つ重ねただけのようですね)
人間には不可能なほどの慎重さと精密さを以て、老子は結界の構造を解析していった。
(弱点はここですね。ちょうどこの特異点を通過すれば、警報も鳴らないわけです)
結界の特異点。それは、発生器を複数使って発生させるような、規模の大きい結界に生じやすい弱点である。
発生用の『アンテナ』から発せられた魔力が担当するエリアを覆い、別の『アンテナ』からの魔力と出会う場所。
奇しくも、同一波形・同一波長であるがゆえに、干渉が起き、結界が弱まることがあり、そこを『特異点』と呼ぶのである。
そして老君はその特異点つまり結界の弱点を発見し、内部への侵入を果たした。
(内部には……これ以上の結界は無し、ですか。驕り、ですかね。それとも、防御に絶対の自信を持っているのでしょうか)
出入り口は巧妙に隠されてはいたが、老子の目は欺けなかった。難なく通過し、拠点内部に足を踏み入れる。
(ここは……岩をくり抜いて作られたようですね。しかも仕事が雑です。してみると、配下の数は多くは無さそうですね……)
不可視化(インビジブル) の結界で身体を覆いながら、一歩一歩、ゆっくりと内部へと進んでいく。
触覚があるため、わずかな凹凸にも即座に反応し、音を一切たてることなく歩み続ける老子だった。
わずかに斜め下へ向かう10メートルほどの通路が終わりを告げると、小ホールとなる。
(罠が存在する可能性が大ですね)
礼子、アン、アレクタスが潜入した時、似たようなホールでどんな目にあったか、情報を持っている。
老子は、いかにしてこの小ホールを通過すべきか、熟慮することにした。
(罠があるとして、発動条件が何か、ですね)
どんなセンサーで侵入を検知しているか、と言い替えてもいい。
(探査には……フィンガーゴーレム、出動)
身長5センチの超小型ゴーレムである。それが5体、老子の体内、具体的には胸部装甲下に内蔵されている。
5体はばらばらに展開し、小ホールの解析を入り口から始めて、ゆっくりと内部へ進んでいく。
(温度センサー無し、重量センサー無し、赤外線センサー無し)
各種センサーを探知させながら、1センチまた1センチとフィンガーゴーレムを進ませる。
(光学センサー……これですね)
一定以上の大きさの物体を検知すると作動する罠。
(反応する波長は……可視光域、ですね、赤外線領域……は無し、紫外線領域も無し、ですか。 不可視化(インビジブル) で通過可能ですね)
小ホールの向こう側まで調べ、光学センサー、つまり通常の視覚系魔導具で監視していることを確認した老子は、 不可視化(インビジブル) 結界を張って小ホールを通過した。
このような探知・対策・通過を幾度となく繰り返し、少しずつ拠点内部へと侵入していく老子であった。