軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17-05 ミーネの後悔、エルザの恥じらい

9月7日。

中立派の氏族達と友好関係を構築できたため、カプリコーン1は次の目標に向かって出発することになった。

余計なトラブルを避けるため、事前に『侵食』の氏族から氏族長ドメニコスの名前で使者を送ってもらっている。

そして向かうのは過激派の中心的な氏族、『 諧謔(かいぎゃく) 』。そう、『ラルドゥス』の所属する氏族である。構成人数も100人くらいと、最大の氏族でもある。

同行しているのは『 傀儡(くぐつ) 』のベリアルスに加え、『侵食』氏族からジャラルドス。次期氏族長を同行させるあたり、仁への信頼が窺えた。

『 諧謔(かいぎゃく) 』氏族の居住地まで80キロ弱ということで、カプリコーン1は時速25キロほどで進んでいく。3時間ほどの旅である。

「ほう、そんなことがあったのですか……」

「それは、人類としては簡単には許せないでしょうなあ」

道中時間があるので、仁(の『ダブル』)は、『 諧謔(かいぎゃく) 』のラルドゥスが行った行為を説明していた。

「致命的な病原菌を撒き散らしたことはちょっと許し難いですね」

『侵食』のジャラルドスは難しい顔をした。

「実は、奴……ラルドゥスは私の従兄弟に当たるのです」

そして、思いがけない事実を口にしたのである。

「従兄弟ですか?」

ラルドゥスと直接対峙したことのある礼子が、確認するように聞いた。

「ええ。奴の母親は、我が氏族の出……というか、私の母の妹なのですよ」

思いがけない血縁関係が明らかになった。

「それで……その、ジン殿。もしもラルドゥスと会ったら……どうなさるおつもりです?」

今この話をしたのは、もし仁がラルドゥスを許せないということになったら自分としては非常に辛い立場になるからだ、とジャラルドスは正直に告白した。

「……そりゃあな、いろいろ迷惑をかけられたし、死んだ者もいる。難しい問題だな」

ジャラルドスが正直に話してくれたので、現在 身代わり人形(ダブル) を操っている仁も思うところをありのままに述べた。

「人間の法に照らせば死罪は間違いないが、魔族としてみたらどうなんだ?」

「……同族を殺せば死罪、それは同じです」

「じゃあ人間を殺した場合は?」

「……」

言葉に詰まるジャラルドス。仁はそれで何となく察することができた。

「……ラルドゥスが『 操縦針(アグッハ) 』に操られていたということはないのか?」

試しに仁がそう聞いてみると、ジャラルドスは残念そうに首を横に振った。

「その可能性は小さいでしょうね……奴は、幼いときから人間に興味を持ち、いろいろなちょっかいをかけることを想像して楽しむようなところがありましたから」

「うーん……」

ラルドゥスの他にも、氏族は不明だがマルコシアスという、ショウロ皇国の侯爵に毒を盛る手引きをした者や、逆に我が儘兄妹に殺された『狂乱』のアンドロギアスもいる。

過激派との交渉は前途多難であった。

* * *

同日、蓬莱島では。

朝食後、後片付けをするミーネは、娘エルザの様子がいつもと違うことに気が付いた。

洗い物が終わった後は研究所の工房へ向かうのに、今日は食器を棚にしまうところまで一緒に行っている。まるで工房へ行きたくないかのように。

「エルザ、こっちはもういいわよ?」

試しに、そんな声をかけてみると。

「……ん。最後まで、手伝う」

そう言って彼女は、洗い終え、乾いた皿を棚に運んでいくのである。

「それをしまえば終わりよ」

と言えば、

「……ん。お昼の下拵えを、手伝う」

などと言い出したではないか。ミーネは、これはやはり何かある、と直感した。

「ジン様のお手伝い、しなくていいの?」

すると、エルザの顔が見る見る赤くなっていく。

「……何があったの?」

「な、何も」

ふふ、っと笑ったミーネはエルザの頬をちょん、とつつく。

「そんな赤い顔をして何言ってるの。ちゃんと話してごらんなさい?」

「……て……た」

「え?」

「……かわ、いいって言わ、れた」

「まあまあ」

ミーネは溜め息をついた。17歳と言えば、もう結婚して子供がいる者だっている年頃だ。なのにこの娘の純情さはどうだろう。

そう思ったものの、母と名乗る前、かつて乳母としてそばにいた自分が、悪い虫が付かないようにと何をしてきたのか思い出した。

一方で、仁のことを考えてみる。

周りにはどちらかと言えば女性が多い。それも、年頃の。しかも、見目麗しい。更に言えば、好感度の高そうな。

「でも……」

恋愛対象か、というと、どの女性も違うような気がする。ハンナはまだ幼いし、サキは研究仲間という感じがする。ステアリーナはサキの父、トアといい雰囲気だし、ヴィヴィアンはまだ蓬莱島に馴染みきっておらず、仁との接点も少ない。

「リシアさん、でしたっけ……」

先日、カイナ村の夏祭りで仁やエルザ、ハンナと一緒にいた女性。隣のトカ村の領主で新貴族。年頃もエルザと同じくらい。しかも、端から見ていても仁に好意を持っているのがわかった。

だが、顔を合わせる機会で言ったら、エルザの方が遙かに多いのだ。というか、いつも一緒にいることだってできる。

「でもねえ……」

一緒にいることがイコール恋愛的に有利かというとそうでもないことをミーネは知っている。

(まあ、私だって他人様に誇れるような過去じゃないですけどね)

自嘲気味なその言葉は胸の中だけで呟き、ミーネは娘の背中を押してやることにした。

「殿方が女の子のことを褒めるのは半分は社交辞令みたいなものですよ。それに、褒められて喜ぶならともかく、逃げることはないでしょう」

「で、でも」

「……」

ミーネは強烈に後悔していた。貴族の令嬢であれば、13歳くらいから社交界デビューし、美辞麗句には慣れっこになっているのが普通だ。

しかし、エルザに関しては違う。『魔力過多症』であることや、自分の偏愛から、何かと理由をつけて社交界から遠ざけた。

辛うじて、従兄のラインハルトが年に数回、エルザを表舞台に連れ出してはいたが、パーティなどと違って男女関係的な対人的経験を積ませるにはいささか、いや、かなり足りなかったようだ。

「それにしてもジン様は……」

逆に仁はといえば。

浮いた話がない。男色の趣味があるのかと思えばそんなことはなく。一時期、人形性愛者なのではないかと心配したことがあるものの、それも違うとわかっている。

「……枯れてるのかしらね」

なんとなく、それが1番真実に近いような気がするミーネ。女性に対する態度に生臭さが感じられない。理屈ではなく、女の勘だ。

ならば、エルザに言ってやるべき言葉といえば。

「エルザは妹分なのでしょう? 兄さんが妹に可愛いというのは家族なんだからあたりまえ。気にしすぎですよ」

「……そう、かな?」

「そうよ。ほら、お手伝い、してらっしゃい」

ミーネはそう言って軽くエルザの背中を台所出口へ向けて押す。

そのまま、ととと、とエルザは歩き、一度振り返る。

「ありがと、母さま」

そしてエルザは、小走りに仁がいるであろう工房へと駆けて行った。

その後ろ姿を見送ったミーネは、小さく溜め息をついたのである。

「……まだ先は長そうね」

* * *

「……」

「エルザ? どうしたの?」

しょんぼりして戻って来たエルザを見て、ミーネはびっくりした。

「ジン様にまた何か言われたの?」

「……ううん。……ジン兄、工房にいなかった」

仁はこの時間帯、司令室で『ダブル』の操縦をしているのであった。