軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17-03 友好

魔力を周波数で分類するというサキの考え方は、仁に新たな閃きをもたらした。

今必要としているのは魔法を阻害もしくは無効化するための魔法、もしくは魔導具。そのためには……。

「干渉、か……」

同じ波動を逆位相でぶつけると相殺し合う、と言う現象だが、その理論は深遠で、定時制高校卒の仁には理解が及ぶところではない。

だが、仁は実践派であり、理論は後から付いてくるもの、と考えている。

おまけに、今は可能性のあることならなんでもやってみる時であった。

「ジン?」

突如難しい顔をして考え込んでしまった仁を、サキは少し心配そうに眺めていた。その時。

「うん、やってみる価値はありそうだ! サキ、ありがとう。君のおかげだ!」

我に返った仁は、余程うれしかったのだろう、サキの手を取り、握り締めた。

「う、うん、よくわからないが、役に立てたなら、何より」

面食らうサキ。少しだけその頬が赤く染まっていたのは気のせいではないだろう。

「さて、さっそくやってみるぞ!」

「それは駄目」

仁の背後から冷ややかな声が掛かった。

「エ、エルザ?」

「……レーコちゃんから頼まれてる。ジン兄、そろそろ寝ないと駄目」

いつの間にか、時刻は午後11時を回っていた。

エルザは礼子から、自分がいない間に仁が不規則な生活をしないよう目を光らせておいてくれと頼まれたそうだ。

「……う、わかったよ」

残念そうな仁の顔を見て、サキは苦笑した。

「くふふ、ジン、尻に敷かれてるねえ」

「なっ」

「あはは、なんでもない。お休み」

笑いながらサキは工房を出て行った。

「ジン兄、さあ」

憮然とした顔の仁の手を、今度はエルザが掴む。その手に込められた力が心なしか強いような気がした仁であるが、そのわけに思いを巡らせることはなかった。

一方で、老君は休息を必要としない。

つまり、具体的な対策、『簡易転送機』の開発は老君が着実に進めていくのであった。

* * *

翌日、5日。約束通り、近隣に住む中立派氏族の氏族長と側近が集められた。

事前の調査で、『 操縦針(アグッハ) 』の影響がないことは確認済み。

そんな顔ぶれが全員揃ったのはちょうど昼時。

広い会議室のような場所で、まずは昼食を摂りながらの顔合わせとなった。

「『拒絶』のスタルカスだ」

「『孤高』のアネモスデウス」

「『乖離』のオケアルスです」

「『虚心』のコリドリアルスだ」

「 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、仁です。これは俺の 自動人形(オートマタ) 、礼子とアンです」

そんな風に、簡単に名乗りあった後、昼食となる。メインはクロムギ(=ソバ)の粥だが、一品だけ仁が提供したものがあった。

それはクレープ。

元々、そば粥を焼いて作ったものがクレープの始まりだという話もあるくらいなので、ソバがあるならと仁がアンに指示を出して作らせたのだ。

そこへ、燻製肉を挟んだり、干し苺を載せたり、砂糖蜜を塗ったりと、いろいろな味付けをしたものを一口サイズに切って並べてある。

「ん? ……これは美味い!」

「ほう? なかなかいけますな」

「簡単にできて、これだけいろいろな味付けができるとは」

「これはジン殿が?」

なかなか好評のようだ。パンに相当する食べ物はあるが、ソバ粉でこうしたものを作ることはなかったらしい。

食事は気持ちを和ませる。

昼食後に会談を行うという『侵食』氏族長、ドメニコスの目論見はまずは成功と行ったところである。

「食事は、生きるためだけでなく、心にも栄養を与えると言いますからね」

「なるほどなるほど」

「なかなか深い言葉だな」

どこかで聞いたようなセリフを仁が口にすると、来訪した氏族長達は感心したように仁を見た。

「さて、諸君」

食事が済み、食器が片付けられると、今日の司会役である『侵食』氏族長、ドメニコスが威儀を正して言った。

「本日集まってもらったのは他でもない。ここにおられる 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、ジン殿の話を聞いてもらいたいからだ」

全員、口を挟むことなく黙って聞いていた。

「仁です。人類の代表、などとおこがましいことは言いません。ただ、皆さんに理性的な判断をしていただきたいだけです」

一旦そこで言葉を切り、集まった氏族長の顔を見回す。皆、これから仁が何を言うか、真剣に聞こうとしている。

「まず、食糧問題。これは、俺の持つ技術である程度解決できます」

ある程度、と謙遜しているが、実際は数ヵ月後からになるとはいえ、ほぼ完全に解決できるのだ。

「食糧問題が解決されたなら、人類と敵対する意味は薄れるでしょう。加えて、その敵対関係も、黒幕によって操られた結果です」

ここでざわめきが起きた。今回やって来た4つの氏族は、初めから『 操縦針(アグッハ) 』を埋め込まれていなかったのである。

「一部の氏族、とくに穏健派には『 操縦針(アグッハ) 』と呼ばれる、一種の 首枷(くびかせ) が付いていました」

「本当だ。それは私が証言する」

ここで『傀儡』のベリアルスが発言した。

「聞いている。その話は、事前に『福音』『森羅』の2氏族から使者が来て同じ内容の書状を置いていったからな」

『虚心』のコリドリアルスが答える。珍しく身長190センチの威丈夫だ。歳も人間換算で40代くらいに見え、氏族長としては若い部類だろう。

「我等は、氏族の者全員に対して責任を負っている。軽々に、敵対するともしないとも言わないのはそのためだ」

立ち上がり、仁を真っ向から見据えるコリドリアルス。

「理性的に、というなら、判断材料を見せてもらいたい。 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、ジン殿」

それはおおよそ、集まった4氏族長の共通意見だったようで、異議を唱える者はいなかった。

そして仁(の『ダブル』)を操っている老君も、その要請が出ることは予期していた。

「わかりました」

『ダブル』は礼子に目配せをする。その実、 魔素通信機(マナカム) で話をしているのであるが。

「はい、お父さま」

老君が操る『ダブル』であるが、人前と言うことで仁に対する態度で反応する礼子。ゆっくり歩いていき、会議室の扉を開けた。

「入りなさい、ランドたち」

その声に従って、ランド2からランド20まで、19体の 陸軍(アーミー) ゴーレムが会議室に入ってきた。ゆっくりと、粛々と。

「う、おおお……」

「こ、これ、は……」

「ジン殿!」

『傀儡』のベリアルスや、会議を招集した『侵食』の氏族長、ドメニコスまでも驚いている。いや、恐れおののいている。

ランドシリーズは身長180センチ、体重200キログラム、人間に近い体型である。が、そこに秘められたパワーは、今現在の礼子の半分近くを出せる。

礼子の半分、というと少なく感じられるかもしれないが、数千Gに耐える礼子の半分である、推して知るべし。それが19体である。

「うむむう、すごい。いったいいつの間に?」

「昨日の夜、呼び寄せたんですよ」

事も無げに仁がいうので、一同はまた驚いた。

「……私がまだ小さかったときに、人間たちが『魔導大戦』と呼ぶ戦争が起きた。そのころの私はまだ外に出してもらえなかったのだが、人間が使役するゴーレムに苦戦した、という話は何度も聞いた」

『侵食』氏族長、ドメニコスが言った。彼は355歳、大戦当時は50歳だったという。人間に換算すると10歳くらいの時である。

謂わば『魔導大戦の生き証人』かと思いきや、危ないからと家から出してもらえなかったため、あまり当時のことは知らないそうである。

まあ戦場にいたら『 魔素暴走(エーテル・スタンピード) 』で倒れていたであろうから。

閑話休題。

ランド19体を目の当たりにした氏族長たちが圧倒されているうちに、と仁(の『ダブル』)を操る老君は畳み掛けるように言った。

「俺は争い事が嫌いです。 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) ですから」

一同を見渡し、言葉を続ける。

「静かにモノ作りをしていたいというのが本音です。……しかし! そんなささやかな平和を脅かすものがいたなら、排除するのみです」

その言葉と同時に、ランド19体は腰にした 超高速振動剣(バイブレーションソード) を両手で胸の前に捧げ持つ敬礼をする。『捧げ銃』の剣版だ。

「因みに、俺はこういうゴーレムを、素材がある限り作り出せます」

「……」

そんなデモンストレーションが功を奏したか、その後の話し合いは滞りなく行われ、中立派5氏族200名は仁と友好を結んだのであった。