軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

02-15 留守番

「それじゃあ、ジン、あとよろしくね」

「ああ、行ってこい。礼子、頼むぞ」

「はい、お父さま」

ビーナは、トウモロコシとポップコーン製造器を持って出掛けていった。仁は礼子に命じて、クロードの所まで荷物を持ってやるように指示を出していた。

「さて、それじゃあナナとラルドの所へ行くか」

2人にはビーナが前もって出掛けること、自分が留守の間、仁が居てくれることを話してある。

「あ、ジンにーちゃん」

2人とも、初めて会った時よりも顔色が良くなっている。壊血病が治ってきた印だ。

「ビーナはちょっと用事で遅くなるけど、もう少ししたら夕食にするからな。それまでこれを食べてな」

そう言って皿に盛ったペルシカの実を差し出した。

「わあ、これ大好き!」

「おいしそう!」

ナナとラルドは大喜びで食べていく。その間に仁は夕食の仕度。とは言っても、パンを焼いて、麦粥とスープを温めるだけ。

「お父さま、ただいま戻りました」

そんな折、礼子が戻ってきた。

「ごくろうさん」

「ちゃんと、馬車で行かれましたよ」

「そうか」

そうこうするうちに麦粥、スープが温まったので、皿に小分けしてナナとラルドの所へ運んでいく仁。孤児院時代に小さい子の面倒を見ているので慣れたものである。

「ほら、夕飯だぞ」

「ありがと、おにーちゃん」

2人が食べ終わるのを待って食器を片付け、台所に戻る。仁の分を礼子が温めていてくれた。

「お父さま、ちょうどいい冷め具合です」

実は、仁は猫舌である。こればかりは熱いものを食べていても慣れることはなかった。

「お、ありがとう」

もう外は真っ暗である。ポップコーンの作り方を教えるだけならそろそろ帰ってきてもいいのだが、と仁は思った。

「遅いな、ビーナ」

「お父さま、今夜、ここに泊まるのですか?」

「うーん、ビーナに頼まれてるし、そうでなくてもあの子達を置いて帰るわけにはいかないな」

仁がそう言うと、礼子は、

「では、私が一旦戻りまして、お父さまの寝具を取ってまいります」

「ああ、そうしてくれるか?」

「はい、それでは行ってまいります」

真っ暗な中、礼子はあっという間に姿を消した。

「……まさか、何かあったわけじゃないだろうな」

* * *

「おお! 美味いぞ!」

「よろしゅうございましたね、ぼっちゃま」

ビーナはガラナ伯爵邸で、ポップコーンを作り続けていた。トウモロコシだけは持ってきた安い物だが、油、塩に最高級の物を使ったので味は別物になっている。

「ふう、満足したぞ」

そう言ってこの我が儘な少年は食堂を去った。残されたのは食べ残しのポップコーンとビーナ、それに家令のクロード。

「じゃあ、あとは片付けて帰っていいんですね?」

そう尋ねたビーナに、クロードが、

「ええ。ですが、その製造器は出来ましたらこちらで買い取りたいのですが」

「え、でも、これがないと明日困っちゃうんですけど……」

やんわりと断りを入れるビーナ。ジンの物だからという理由も当然あるのだが、庶民であるビーナとしてはびくびくものである。

貴族なら、強引に取り上げることも出来るし、実際にやるのだから。

「もちろん相応の対価はお支払いします。来ていただいたお礼も含めて、金貨10枚でどうでしょうか」

金貨10枚、つまり10万トール。約100万円に相当する。

「じ、10枚!?」

「はい。いかがですか?」

今、1日の売り上げは経費込みで4000トール弱。その25倍、約1ヵ月分である。これ以上ごねると、最悪の事態を招きかねない。

「わかりました。それでいいです」

ビーナは了承した。

それで、帰ったらあやまり、金貨10枚は全部ジンに渡そう、内心そう決心するのであった。

そこに、クロードの更なる言葉が続いた。

「それでですね、あなたはなかなか優秀な 魔法工作士(マギクラフトマン) と聞きました。いかがですか、当家専属の 魔法工作士(マギクラフトマン) になりませんか?」

「専属の?」

つまり、パトロンになってくれるというのである。貴族お抱えともなれば、製作費を気にせず、好きなようにいろいろな物を作ることが出来るだろう。ビーナは、師であるグラディア・ハンプトンを思い浮かべた。彼には3人の貴族がバックに付いており、地方貴族など問題にならない暮らしをしていた。

更にクロードは、

「専属になっていただければ、あなたが抱える借金もすべてこちらで返済して差し上げましょう」

「え、なんで知って……」

借金のことをクロードが口にしたので驚くビーナ。

「申し訳ありませんが調べさせてもらいました」

しれっと答えるクロードであった。

「…………」

ビーナはうつむき、考え込む。

現在彼女が抱えている借金は約120万トール。グラディア・ハンプトンへの師事と、両親がかかった医者への費用等だ。今のところ返済する目処は全く立っていない。

「でも」

顔を上げたビーナは、ここ数日のことを思い返した。

ジンと知り合い、魔導具について新しい見解を知った。自分の思いを形にする楽しさを知った。貴族ではなく、庶民のために魔導具を作る喜びを知った。

「申し訳ありませんが、お断りさせていただきます」

ビーナの口から出たのはそんな言葉だった。これだけは譲れない。

「そうですか、残念です。もしお気が変わったら、いつでも申し出て下さい」

クロードはそう言って、金貨10枚の入った袋を差し出した。

「袋には当家の紋章が入っております。もし当家に御用のある時は、門番にそれを見せて下さい」

「あ、ありがとうございます」

緊張してそれを受け取るビーナ。

「それでは、お送り致しましょう……、と言いたいところですが、この時間ではもう城門は閉まっていますね、どうぞ今夜はお泊まり下さい。明日、城門が開き次第お送り致します」

「は、はい、おねがいします」

クロードはビーナを客室へ案内していった。その口元がわずかに歪んでいたのをビーナが見ることはなかった。

* * *

仁は、礼子が持ってきた毛布を敷いて寝床を作っていた。その時。

「お父さま、ここへ誰か近づいて来ます」

「ん? ビーナが帰ってきたのか?」

気楽にそう聞きかえす仁だったが、

「いいえ。ビーナさんの魔力ではありません。人数は4人。馬車で来ます」

仁が改良してから、礼子は魔力探知能力が向上している。その礼子が言うのだから間違いないだろう。

家の前に馬車が停まる音が聞こえ、次いでドアをノックする音がした。