軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

02-14 お願い

翌日仁は1人でビーナの家へ。礼子は午前中は蓬莱島でいろいろ指示を出し、午後から合流する手はずだ。

まず2人でライターを50個製作。そして残りの時間で湯沸かし器の構想を練り上げることにした。

「桶に水を溜めて、その中の水が温まるようにするというのはどう?」

ビーナの提案に仁も、

「うん、それならいいと思う」

と賛成した。それで早速試作を作ってみる。

銅でバケツ状の容器を作り、底にヒーターとなるように 魔導装置(マギデバイス) を組み上げる。それを木製の桶にはめ込んで一応完成だ。

「できたわ」

「よし、水を入れてみよう」

ビーナの家には、 魔法工作(マギクラフト) に使うため、井戸がある。そこから水をくみ、容器に満たす。

「 加熱(ヒート) 」

キーワードを唱えれば、 魔導装置(マギデバイス) が作動する。5分ほどで、10リッター程の水が風呂並みの温度になった。

「やった! 成功よ」

「ああ、うまくいったな。このままにするとどうなる?」

そのまま動作させ続けると、10分ほどで水が沸騰し始めた。

「お湯も沸かせるわね」

喜ぶビーナ。だが仁は、

「うーん、安全面や 魔石(マギストーン) の消費を考えると、風呂並みの温度で止まる方がいいような気もするんだがな」

「そうか。……どうかしらね。確かに、お湯を沸かすなら別の方法があるもんね」

「 魔結晶(マギクリスタル) が使えるならいいんだが、 魔石(マギストーン) だと沸騰させるとすぐ無くなっちゃうだろ?」

ビーナはしばらく考え込んでいたが、

「うん、決めた。これは『温水器』ということで、沸騰はしないようにしましょう」

「『湯沸かし器』はまた別に開発しようか」

「わかったわ」

ということで、『温水器』の試作も持って、露店へと向かった2人。露店には既に礼子が待っていた。

「お、礼子、今日は早かったな」

「はい、おと……お兄さま。大体の物は購入終わりました」

昨日、一昨日同様、ビーナがポップコーン作り、仁が店番。

「ライターっていうの、ひとつちょうだい」

「ありがとうございます」

今日もライターの売れ行きは好調だ。そんな中、仁は持ってきた試作の『温水器』を台に乗せた。

「あら? それは何?」

見なれない魔導具に、ポップコーン待ちのお客さんが食いついてきた。

「これは温水器と言います。この中に水を入れて、動作させると…… 加熱(ヒート) 」

興味津々の見物人達に向かって、

「中の水がお湯になります」

5分ほどで湯気が出てきたので、見ていたお客達は感心する。

「ねえねえ、これって、お湯は沸かせるの?」

「危ないので、手を突っ込めるくらいの温度までです」

「ふうん。でも洗い物とか、いろいろ使い途ありそうね」

「これで温めた水をヤカンに入れて沸かせば、薪とかの節約になりますよ」

「あっ、そうね! ちょっと欲しいかも。ねえ、いくら?」

ここで仁は詰まってしまった。ビーナと値段の打ち合わせをしていなかったのである。それで、大急ぎで頭の中で原価計算を行う。

「ええと、1台200トールです」

「それなら買えそうね。でも今日は持ち合わせがないのよね」

「あ、これは注文生産ですので、今日ご注文いただければ、明日、お渡しします」

「あらそうなの。じゃあ1台注文するわ」

「ありがとうございます」

早速1台注文が入った。と思ったら、

「おう、俺も注文するぜ」

「あたしも1台ほしいわ」

何と、3台も売れた。思ったより好評のようだ。

結局、ポップコーン、ライターは完売。温水器の注文も5台。

「嬉しいわ。これもジンのおかげね。感謝してもしたりないくらい」

ビーナが顔をほころばせて言う。

「はは、役に立てて何より。それより、このまま続けていると銅が足りなくなるんじゃないか? それと桶を作る木とか」

「あ、そうね……どうしよう? 銅を買える店なんて近所にないのよ」

心配そうなビーナ。それを見て仁は、

「大丈夫だ。明日使う分くらいは残っていたと思う」

「ほ、ほんと? あたしの工房なのに何でジンの方があたしより詳しいのよ」

「在庫管理も大事だぞ。作ってる最中に材料が足りないなんて1番あっちゃいけない事だ」

「そ、そうね、努力するわ。でもジンがいてくれて良かった。あなたに頼もうと思った昔のあたしを誉めてあげたい」

そう言って笑うビーナ。片や礼子は無言。そんな3人の前に現れた人影が1つ。

「失礼、 魔法工作士(マギクラフトマン) のビーナさんですね?」

それは、豪華ではあるが、華美ではない、そんな服に身を包んだ男であった。短く刈り込んだ金髪、歳は35前後くらいであろう。

「は、はい。あたしはビーナですが」

そう答えると男は軽く会釈をし、

「わたくしはガラナ伯爵様に仕えております家令でクロードと申します」

「は、はい」

クロードと名乗った男はすらりとした長身、整った顔。そんな男に頭を下げられ、ちょっとどぎまぎするビーナである。

「最近、城下でぽっぷこーんなる食べ物が流行っているということで、昨日、当家の者が購入したのですが、それを食べたぼっちゃまがもっと食べたいとおっしゃられまして」

「はあ」

「出来ますれば、作り方を教えていただきたく。もちろんお礼はいたします」

「……」

ビーナは仁の方を見た。元々、ポップコーンは仁が教えてくれたのだから。その視線の意味に気が付いた仁は肯いて見せた。

「え、ええ、いいですよ」

そう答えたビーナにクロードは、

「本当ですか! ありがとうございます! それでは、早速、館の方へおいでいただいて……」

そう言いかけたクロードに、

「えーと、あ、あの、ジンも一緒というわけにはいきませんか?」

と聞くと、

「わたくしが言いつかったのはビーナ様お一人ですので……」

と言われてしまった。それでビーナは、

「そ、そうですか、それじゃ荷物を置いてくるのでちょっと待って下さい」

クロードもそれはそうかと、

「わかりました。お宅はどちらですか? よろしかったら馬車でお送り致しましょう」

そう申し出たのだが、

「い、いえ、近くですので、待っててもらえればすぐ戻ってきます」

そう言って小走りに走り出した。仁と礼子も後に続く。

家に戻ったビーナは、仁に向かって、

「ジン、本当にいいの? 教えちゃって」

「いいっていいって。それより、相手は貴族みたいだから、もらえるお礼はもらって来いよ」

「うん……」

どこか不安そうな顔のビーナは、貴族の館へ行くのは初めてだし、粗相をしないかと不安だ、と心中を打ち明けた。

「大丈夫だよ。向こうから来てくれって言ってるんだから。それにもうじき夜になるってのに弟や妹を置いていくわけにもいかないだろう?」

もう夕方である。少しずつ快方に向かっているとはいえ、まだ寝たきりの弟妹を置いていくのはまずい。

「だからビーナが帰ってくるまで俺がいてやるよ」

と仁が言うと、

「本当? それじゃあ、仕方ない、行ってくるわ」

ビーナも諦めて、ガラナ伯爵邸へ出向くことにしたのである。