軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15-31 閑話28 彼等のその後

「…… 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) ですって?」

「はい、奥様」

「そう。聞いたことがある気がするわ。あのジン殿が、ね」

ここはフランツ王国の地方都市、ロロオン町。『北公爵家』とも呼ばれるラファイエット家の別宅がある町だ。

「妹さんも腕のいい……いえ、超一流の治癒師のようですしね。とりあえず知り合いになれて良かった、というところかしら」

仁たちが辞去した後、前の公爵夫人、カトリーヌ・ド・ラファイエットは半ばほっとし、半ば残念そうに窓の外を見た。

そこから見えるのは整った町並み。だが、それは見せかけであることを彼女はよく知っていたのである。

「それで、私を襲った犯人は見つかったの?」

仁たちと出会ったのは、彼女の乗る馬車が襲われて御者が殺害され、暴走した揚げ句に横転した、その場に仁たちが通りかかったからである。

御者を殺害した犯人は、駐在騎士団の捜索にもかかわらず見つかっていない。

だがカトリーヌは、前の公爵夫人という立場上、少なくない私兵を抱えている。今彼女の前で報告しているのはそんな私兵の1人であった。

「犯人と思われる男は、死体で発見されております」

「そう。口封じという訳ね」

前の公爵夫人、カトリーヌ。彼女を亡き者にして利益を得られる者といえば限られてはくる。

「南公爵……よね」

フランツ王国の南側国境線は宗主国であるセルロア王国と接している。

そのせいもあって、南公爵家と呼ばれるオランジュ家はよりセルロア王国との癒着が強く、王家に次ぐ権力を誇っていた。

一方で北公爵家、ラファイエット家はどちらかというとセルロア王国の支配から離れ、独自の道を歩みたいと密かに思う当主が多いのである。

カトリーヌの夫である前公爵もそうであったし、息子である現公爵もそうである。

が、表立って行動すれば、公爵家とはいえたちまち粛清されてしまうというこの国の現状に、ただ歯がみすることしかできないでいたのであった。

「少なくとも、民の暮らしを少しでも良くできれば」

それが彼女等にできる精一杯のこと。だが、少しでも収益が上がれば、すぐに嗅ぎつけて税率を引き上げる政府。

『生かさず殺さず』、それが王城の中における庶民の扱いに関する考えだと聞いたときは絶望感に囚われたこともあった。

「それにしても……情報屋と接触していたとはね。しかも魔族について調べていた? ……いったい何が目的なのかしら?」

「奥様、その魔族は、過激分子に襲われ、火で焼かれたというじゃないですか。もしや、それは……」

「いえ、ジン殿は、関所を通ってクライン王国に行ったということがわかっています。襲撃は彼とは無関係でしょう」

仁のアリバイはその点では完璧であった。

「……クライン王国、エゲレア王国、ショウロ皇国の3国から認定されたという 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、ジン殿。また会ってみたいものですね」

* * *

「愚か者! みすみす貴重な捕虜を焼き殺されるとは!」

「は、申し訳……」

頭を下げる騎士に向かって、更に厳しい叱責が飛んできた。

「ええい、謝って済む問題ではないわい! ラファイエット家に大きく差を付ける良い機会だったのに、すべておじゃんだ!」

騎士を怒鳴りつけているのは南公爵、ルフォール・ド・オランジュ。薄くなってきたくすんだ金髪、青灰色の目。そして太ってたるみきった体躯。

この国の典型的な有力貴族である。

「代官、クターガ・アクターはうまくやったというのに……」

北公爵家に仕える、イーナクの町の町長兼代官、クターガ・アクターは北公爵の家臣にもかかわらず、南公爵の息の掛かった者であった。

「見事に魔族を捕らえ、生かしたまま王都に運び、王からお褒めの言葉を戴いたのは北公爵なのだ……!」

自分の手柄はこれからだったのに、と歯がみをする南公爵。

どんな手を使ってでも魔族の情報を吐かせ、あわよくば討伐軍の指揮官に収まる。もちろん自分は安全な後方にいて、戦うのは兵士たちだ。

ルフォールはそんな計画、いや、皮算用をしていたのである。

「ゲンフにはセルロア王国からも高官が見に来る予定だったのだぞ……」

そう、セルロア王国とフランツ王国との行き来は、秘密の街道だけでなく、アスール湖を使っても行われていたのである。

「私の面目は丸つぶれだ!」

セルロア王国にももっと顔を売る良い機会だった。それが逆に失態を見せる事になってしまう。

頭を抱える南公爵、ルフォール。

「仕方ない、セルロア王国から来る高官には、また貢ぎ物を多めに渡しておくとするか……」

* * *

「ふむ、ショウロ皇国の貴族と接触したというのだな?」

ロロオン町近くの森に建つ丸太小屋。どこからどう見ても木樵小屋であるが、実は 解放隊(パルチザン) の拠点の1つである。

中には10人ほどの男が詰めている。服装はまちまち。兵士の服装をしている者、農民の格好をしている者、もちろん木樵の姿をしている者もいる。

一番奥には、黒いローブを纏った男が座っており、情報屋、フェルナンがその男と何やら話をしていた。

「へえ。目的はわかりませんが、魔族についての情報を知りたがっていたので教えました。金払いはいいし、物分かりも良さそうでしたね」

「名前はジン……とかいうのだな?」

「へえ。奴さんの仲間がそう呼んでいましたぜ」

「ふむ、興味深い。……ショウロ皇国士爵でジン、か」

「ご存知なんで?」

「ああ。私の知るところでは、該当する人物はただ1人。先日 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) に認定されたジン・ニドーだ」

「 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) ですかい?」

「そうだ。しかもショウロ皇国だけでなく、クライン王国とエゲレア王国からも同じく 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) に認定されている」

「それって……」

「うむ。ショウロ皇国はともかく、あとの2国はセルロア王国やフランツ王国と仲が悪い」

「上手く取り込めますかね?」

「いや、それは避けた方が無難だな。聞いた話によると、争い事は嫌いらしい。おまけに超強力なゴーレムを連れているという話だ。見なかったか?」

「へえ、馬車……と言っても、ゴーレム馬が牽いてましたがね。その御者をしてたのがごっついゴーレムでしたぜ」

「おそらくそいつだろうな。エゲレア王国でゴーレム暴走事件があったときに、そいつ1体でほとんどのゴーレムを無力化したという」

「へーえ。すげえんですかい? それって」

「ああ。人間の兵隊だったら100人いても敵わないだろうな」

「そらすげえや。そんなゴーレムが10体もいたら、国相手にだって戦えますぜ?」

「うむ、だが、ジンはそういう権力争いには関わりたくないという態度を取っているらしい」

「……人質でも取って言うことを聞かせるというのは?」

「それこそ愚策だ。逆にこっちが滅ぼされるぞ」

「そんなもんすかねえ」

「それよりもそのジンという貴族が連れていた妹。エリザとかエルザとかいうらしいですが」

別の男が進み出た。

「あの日……馬車が暴走した日ですがね。怪我をした町の女と前の公爵夫人、2人をあっと言う間に治療したということですぜ」

「ふむ、妹は腕のいい治癒師ということだな」

「へえ。しかも町の女から金を取ることもなく。見ていた奴等から聞いた話ですから間違いないですぜ」

「そのエルザとかいう娘もこちらに引き込みたいが、難しいだろうな」

「攫って来ちまったらどうです?」

「馬鹿者。さっき言ったろうが。あの男と敵対したら、我々など半日もかからずに叩き潰されてしまうだろうよ」

「はあ……」

また1人の男が進み出た。

「仲間が1人増えましたので報告いたします。……おい」

男は後ろを振り向き、一番遠くにいた若い男に目配せをする。

「はい」

若い男が進み出、1つお辞儀をした。

「ショルト、といいます。よろしくお見知りおきを」

「ふむ、どこの出身だ?」

「クライン王国で育ちました」

「ほう。するとあの国の内情も知っているな?」

「はい。それなりには」

「ふむ、役に立ちそうだ。だが当分は監視付きだぞ?」

当然の安全措置ではある。

「ええ、もちろんです」

男は全員に向かってもう一度頭を下げた。

* * *

(ふむ、レグルス41はうまく地下組織に潜り込めそうですね)

蓬莱島では老君がほくそ笑んでいた。