軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15-32 北上

カプリコーン1は、エルメ川に沿って登っていく。川原が狭ければ川に踏み入る。

6メートルの脚は、半分も水に浸からず、順調に進んでいくことが出来た。

途中に小さな滝が数箇所あったが、登坂性能50度という機能のおかげで、高巻き(滝を登らず、岸辺を登ること)も難なくこなせ、その日のうちにエルメ川の水源にあたる氷河に辿り着くことができた。

もちろん氷の上でも滑らないよう、足の裏からはスパイクを生やしてある。

「もうすぐクライン王国の国境だな」

地形図を見ながら仁が呟いた。

「これ、ジン様がお作りになったんですか? 素晴らしく精密な地図ですわね!」

肩越しに覗き込んだイスタリスが驚いた顔をした。

「ああ、そうだよ。今いるのはこのあたり。氷河の末端だ。しばらくは氷河を登っていくことになる。その方が障害物が少ないからね」

盛夏なので、山々の雪も少なく、雪崩の危険も少ないだろうとの判断である。

『 音響探査(ソナー) 』によって調べたところ、氷河の厚さは20メートル以上あり、数十トンはあるカプリコーン1の重さを十分支えられそうだ。

いざとなったら重力制御魔導装置を使えば、70度以上の岩壁も登れるうえ、短時間なら宙に浮かぶこともできる。

もっとも浮かぶとなると 魔力素(マナ) の消耗が激しく、5分の浮遊でも非常用エーテノールの半分を消費することになるだろうが。

操縦はランド1に任せているので、24時間進むことが出来る。気温の下がる夜中は雪崩の危険が更に下がるので、好都合だ。

最も危険な高山地帯の踏破を夜のうちに済ませるべく、タイミングを見計らって進んできたのである。

仁たちは携行食で夕食を済ませ、シートを倒して眠ることにする。

操縦担当のランド1以外にも、礼子とアンは眠る必要がないため、窓から周囲を警戒し続けていた。

この他にも、5000メートルの上空にはファルコン2と3が監視しており、不慮の事態にも対応できる体制を敷いているのである。

『こちらファルコン2。進路上に障害物は認められず、そのまま進まれたし』

『カプリコーン1了解。引き続き警戒頼む』

「静かですね、礼子おねえさま」

「ええ。このまま何事も無いといいのですけど」

その夜は何事も無く、カプリコーン1は無事に最大の難所である高山地帯を通過したのだった。

時速20キロくらいで進んでいるとはいえ、ノンストップで進めるのは大きい。1日で300キロ以上を進むことが出来たのである。

仁と老君が予定したルートは、エルメ川の源流を詰め、氷河を登り、高山の鞍部を乗り越えるもの。

多少道のりは長くなるのだが、高山の北側は木も生えないような荒れ地が多く、カプリコーン1にとっては歩きやすいからだ。

一方で、高山の南側を巻いて進もうとすると、鬱蒼と茂った針葉樹林に阻まれ、非常に手間取るであろう事が予測された。

これも上空からの偵察ができるからこそである。『急がば回れ』の典型と言ってもいいだろう。

但し、大きくはないが、川を幾つか渡らねばならないのが難点と言えたが、カプリコーン1なら問題ないだろう。

翌朝は曇りであった。

高山の北側は雲が発生しやすい気象条件のため、特に夏はこういう天気の日が多いらしい。

「あたしたちが来たときも毎日曇りだったわ。高い山を越えたら晴れたのよ」

おそらく北側の冷たい海から、海風と呼ばれる湿った風が流れ込み、高山にぶつかって雲を作っているのだろう、と仁は考えていた。

この雲ももしかすると魔族領の冷害に影響を与えているのかもしれない、とも。

携行食で朝食を済ませた一行。その間もランドはカプリコーン1を進めている。今、一つめの川を渡ったところだ。上流域なので川幅は10メートルもなく、水深に至っては50センチほどであった。

「今のところ順調だな」

天窓を開け、空気を入れ換える仁。高山の冷たい空気が入ってくる。

「ジン様、ちょっと寒いです」

イスタリスが小さな声で仁に言った。

「あ、ごめん」

仁、つまり 身代わり人形(ダブル) はおおよその温度を知る事は出来るが、寒いとか暑いと言う感覚はない。

天窓を閉めると車内は摂氏20度くらい、長袖の服1枚でちょうどいいくらいの気温になる。

魔族は北方に住んでいるだけあって、比較的低温には強いようだが、さすがに高山の気温は寒すぎたようだ。

「外気温、摂氏5度です」

水銀温度計を作ったのは仁。氷点を0度、水の沸点を100度とし、間を等分した簡単なものだが、十分実用的だ。

ただし、気圧がまだ正確に定義されていないので(沸点は気圧で変化する)、あくまでも簡易版であるが。

「へえ、そんなことがわかるんだ。便利ねえ」

シオンは温度計を見て感心している。

「魔族のところにはないのか?」

「ないわね。寒暑表示器、というのはあるけど」

「寒暑表示器?」

シオンの説明によると、丸い(四角い場合もあるが)板の表面に何らかの魔物素材を貼ったもので、暑い時は赤く、寒い時は白くなるのだという。

液晶温度計みたいなものか、と仁は想像した。

そしてカプリコーン1は二つめの川を越えた。地図によればもう川はない。

そこから暫く行くと傾斜が緩くなった。ランドは山腹を巻くように進めていた進路を北へと向け、いよいよパズデクスト大地峡を目指したのである。

進むこと半日。地面の状態が良くなり、時速30キロ程度で進めるようになった。

長い夏の日の夕暮れ近く、遙か彼方に海が見えてきたのである。

「海が見えたわ!」

「ああ、ほんと! ここまで戻って来たのね……」

まだ50キロ以上先ではあるが、見知った土地が近いということにシオンとイスタリスはほっとした顔になる。

だがそれも長くは続かなかった。

海に近付くにつれ、雲の底は高くなり、見通しが良くなっていき、その良くなった視界の中に異様な物体が見えてきたのである。

「ね、姉さま、あれ、まさか……」

「ええ、岩巨人よね」

「『 玩弄(がんろう) 』の一族が……まさか?」

「中立だったはずなのに!」

* * *

「何だ、あれ?」

蓬莱島司令室で 身代わり人形(ダブル) を操縦していた仁は、 魔導投影窓(マジックスクリーン) に映る物体を凝視した。

それは巨大な彫像に見えた。上空から地表を見た場合、岩と見分けがつかないような擬装がされているようである。

「巨大な、ゴーレムか……」

それこそゲームに出てくるような巨大ゴーレムであった。材質は石であろう。それが10体。

それが突然動き始めたのである。狙いがカプリコーン1なのは明らか。

「ストーンゴーレムにしては動きが速いな」

蓬莱島の地下で鉱石の採掘に従事しているストーンゴーレムは身長2メートルから3メートル。動作は力強いが鈍重である。

それに比べ、たった今動き出した巨大ストーンゴーレムは、そのおよそ10メートルという身長に似合わないほどの機敏な動きを見せていた。軽い石でできているのかもしれない。

「まあ、タイタンほどじゃないけどな」

仁が作ったタイタンは、ほぼ人間と同じテンポで動くことが出来る。つまり約10倍の速さで移動する事が出来るし、拳の速さも人間の10倍ということである。

重さが80倍ほどであるから、これは驚異である。

だが 魔導投影窓(マジックスクリーン) に映る巨大ストーンゴーレムはその半分、いや、5分の1にも満たない速度しか出せなかった。

「ここはカプリコーン1の武装を確認する事も必要だな」

仁は独りごちて、 魔素通信機(マナカム) を通じ、礼子とランド1、そしてアンに指示を出した。

「『遠距離攻撃の準備』」

* * *

(お父さまから指示が来ました)

「 魔力砲(マギカノン) 準備します」

「必要があれば、わたくしも出ます」

礼子も、倉庫から『桃花』を持ち出してきた。

「あのゴーレム、知っているのか?」

仁(の 身代わり人形(ダブル) )がシオンとイスタリスに尋ねた。

「は、はい。……『 玩弄(がんろう) 』の一族だけが操れる岩巨人です。どうしてこんなところに……」

「君たちに戻って来られるとまずい奴でもいるのかな?」

「えっ? ……まさか……」

仁としては適当に言った言葉だったが、イスタリスは考え込んでしまったのである。