軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15-30 いざ、北の地へ

アンの強化も終え、仁は二堂城へ移動した。

バトラーBに聞くと、イスタリスたちの具合は大分良くなったようだ。

不審な行動も見られないことから、おおよそのところで嘘はついていないと思われた。

部屋をノックし、返事があったので仁は扉を開けた。

「あ、ジン様」

イスタリスが仁を迎えた。大分血色が良くなっている。

「おかげさまで随分と楽になりました」

透き通るようだった白い肌に血の気が兆している。

乱れていた髪も 梳(くしけず) られ、流れるように背中に掛かっていた。

「私の得意な魔法は『回復』なのです。でも、こちらは 自由魔力素(エーテル) が少ないため、使えませんでした。ですが」

イスタリスは蓬莱島特製ペルシカジュースの入った瓶を指差して、

「この飲み物のおかげで使えるようになりました」

と言って微笑んだ。その笑顔に邪気はなく、仁は少しどきっとする。

良く良く見ると、イスタリスが今着ているのは客室備え付けの浴衣風寝間着である。襟の合わせが少し緩んで、豊かな胸が一部見えてしまっていた。

仁は視線を逸らし、見ないように努める。

「それは良かった。ネトロスも大丈夫なのか?」

「ええ、ネトロスは頑丈なのが取り柄ですもの。ねえ?」

無口らしいネトロスは無言のまま頷いた。

「ああ、ジン。お見舞いに来てくれたの?」

そこへシオンとルカスが、手に果物を持って戻って来た。

「これ美味しいわね」

ペルシカである。栄養満点なので病人食にいいと、蓬莱島から大量に持ち込んだのだ。

「はは、気に入ってもらえて何より。君らはもう身体はいいのかい?」

「ええ、おかげさまでね」

仁は出発はいつにする、と、用件を切り出した。

「そうね……姉さまたちも随分良くなったけど……明日になれば大丈夫でしょうね」

「まあ無理はいけないな。そうしたら明日朝、出発予定でいいかな?」

「ええ、それでお願い」

「わかった」

仁はそれで客間を後にした。

が、老君は二堂城に備え付けられた監視システムをフルに利用して彼女等の監視を続けていたのである。

「ねえ、シオン」

「何? 姉さま」

「本当に、ごめんなさいね。あなたたちを囮にするような真似をして」

「姉さま、気にしないでいいわ。今の状況からしたら仕方ないもの」

「でもね、妹のあなたを騙してまでこっそり出発しておいて、揚げ句捕まってしまって。……囮のはずだったあなたたちはジン様と巡り会って、助けていただいて」

「もういいわよ。何度目、その話?」

「申し訳なくて……」

「姉さまは昔からそうだったものね。結果を見ましょうよ。こうして姉妹揃って国に帰れるんだし、援助もして貰える事になったんだし」

「それはみんなあなたのお手柄だわ」

「もう、また。止めてよ、その話。明日はいよいよ出発なんだから」

「ええ、そうね。どうやって北へ向かうのかしら」

「ジンは 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) だからね。空を飛ぶ船も持っているし」

「そうなんですってね。でも……過激派が邪魔をしなければいいけど」

「ああ、あり得るわね。どうしてわかり合えないのかしら」

「過激派とすらわかり合えないのに、人間とわかり合おうというのは無理なことなのかなあ」

「悲しい事よね」

そんな会話を聞き、老君としても彼女等は争い事を好まないのだろうと結論づけた。

『もしも私が聞いていることを知っていてわざとそんな会話していたというなら怖ろしいものですが』

その可能性は限りなく低いと言えた。

そして8月12日の朝が来た。

「お早う、イスタリス、シオン。ルカスとネトロスも」

「おはようございます、ジン様」

「おはよう、ジン」

早めの朝食を済ませた時刻、午前6時。

仁(の 身代わり人形(ダブル) )は礼子を連れて魔族4人を迎えに来た。

「ジン、どうやって北へ向かう気?」

気になって仕方ないらしいシオンが尋ねた。それはイスタリスたちも同じらしく、仁の答えは如何にと、興味津々なのがわかる表情をしていた。

「足は川原に用意してある」

彼女たちには荷物らしい荷物はない。文字通り着の身着のまま……どころか、イスタリスとネトロスは仁が与えた衣服である。

従って手ぶらのまま二堂城を出る。

バロウとベーレにはあらかじめ言い含めてあるので見送りには出て来ない。

二堂城のすぐ裏手はエルメ川、その広い川原に『カプリコーン1』がその威容を聳え立たせていた。

「な、何、これ……」

「いったい何なんですか、ジン様? ……4つ脚? があるから歩くのですか?」

「え、まさか、こんな大きなものが?」

シオンとイスタリスは驚きの声を上げる。一方、ルカスとネトロスは、圧倒されたかのような表情で無言のままカプリコーン1を見上げていた。

「カプリコーン1、俺が作った地上走行車だよ。これなら悪路でも雪道でも進めるからな」

そう言って仁は合図をした。

すると、カプリコーン1はその脚を折り畳み、本体は地上へと下がってきた。

「さあ乗ってくれ」

仁がまず乗り込み、手招きする。礼子もすぐに乗り込む。

「行きましょう、シオン」

イスタリスがまず乗り込み、

「はい、姉さま」

シオンがそれに続いた。ルカスも慌ててシオンの後を追う。

ネトロスは無言のまま興味深そうにカプリコーン1を眺めていたが、残っているのが自分だけと知ると、急いで乗り込んだ。

「よし、全員乗ったな」

扉が閉まり、脚が伸びる。

「うおお?」

立ち上がるカプリコーン1。窓の外を見ていたルカスが声を上げた。

「君たちに紹介しておこう。操縦を担当するのはゴーレムのランド1。日常の世話をしてくれるのが 自動人形(オートマタ) のアンだ」

「ランド1です」

「アンと申します、お見知りおきを」

操縦席のランド1は席に座ったまま、アンは立ち上がって深々と頭を下げ、それぞれ名乗り挨拶をする。

「……すごいわね、さすが 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) だわ」

心底感心した、という表情のシオン。イスタリスは窓の外をじっと眺めている。

「席は適当に座ってくれ」

カプリコーン1の本体はおおよそ長さ8メートル幅6メートル。3分の2が操縦室兼居住区になっており、残り3分の1に簡易キッチン、トイレ、シャワー室、倉庫が割り振られていた。

「よし、出発だ!」

ゆっくりと動き出すカプリコーン1。

エルメ川の川原沿いに上流を目指す。

「思ったより揺れないのですね」

窓際の席に腰を下ろし、外を見ていたイスタリスが呟くように言った。

「ああ、そうさ。重心が上下しないような制御になっているからな」

昨日、何度も調整した成果である。

ゴーレム馬で培った制御をベースにし、徹底的に上下動を抑えた歩行制御に加え、居住区をフローティングにしてアクティブゴーレムアームで支え、揺れを軽減しているのだ。

乗り物酔いしやすい仁渾身の対策であった。

「みんな、待っててね……」

シオンも、北の空を見つめ、独り言のように呟いたのである。