軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15-29 カプリコーン

「まあ百歩譲って、それが魔族、というより君たちの氏族の方針だとして」

仁は話を続ける。

「……実の妹を囮にするというのは……それも氏族の方針なのか?」

人口が少ないから、仲間を大切にする、というならわかるが、仲間どころか家族を切り捨てるような仕打ちは仁としても個人的に納得できないことであった。

「……そう、なんです」

俯いていたイスタリスは顔を上げ、シオンを見つめると、今度はシオンに向かって頭を下げた。

「シオン、ごめんなさい。あなたたちは過激派の目を逸らすための囮にされたのよ」

イスタリスは妹に向かって謝罪した。

「あなた方が出発した翌日、私とネトロスにも指示が出たのです。そして食糧を買えるように、また、人間への賄賂としても使えるように、黄金と 魔結晶(マギクリスタル) を渡されました」

「……」

「お祖父様の決定とはいえ、あなたたちに危険な囮をさせてしまってごめんなさい」

再びイスタリスは頭を下げた。

わかっていたとはいえ、敬愛する姉の口から聞かされたというのはシオンにしても少しショックだったようだ。

だがその結果として、イスタリスたちの苦労と受けた苦痛の事を思えば、今更非難する気にならないのも事実であった。

「……姉さまが悪いんじゃないでしょ。もういいわ。……結局、あたしたちはジンと出会えて、援助の約束を取り付けられたんだし」

「……そうね。私たちは逆に、捕まって、礼物も取り上げられて……。馬鹿みたいよね」

「やめて。姉さまのせいじゃないわ」

シオンは優しく姉を抱きしめた。イスタリスもそっと妹を抱きしめ返す。

「ありがと、シオン」

「……」

姉妹のやり取りを聞いていた仁は、お互いを思う心にほっこりすると共に、2人の祖父……氏族の長の方針に疑問を持たざるを得なかった。

だが、それを今ここで2人に言っても結論は出ないだろう。

仁としては人道的な見地から、ということもあるにはあるが、一番の懸念は魔族との全面戦争である。絶対に避けなければならない。

もちろん、カイナ村の安全を考えての事。

全ての人間を救うことはできない、だが、自分を初めて受け入れてくれた、第二の故郷とも言うべきカイナ村の安寧だけは何としてでも守りたかったのである。

そして、拷問の記憶を消したことで、怨みも一緒に消えたことになる。それが良かったのか悪かったのか。

人類から見たら良かったのかも知れないが、イスタリスにとってはどうだろう。また同じ事を繰り返さないとも限らない。

せっかく助けたのに、と仁は思う。そして、この歪みの原因が妙に気になるのであった。

* * *

イスタリスの体調を気遣って、この日はここで切り上げる。

が、この会談でかなり事情ははっきりした。

蓬莱島に戻った仁は、老君と相談する。

「1000人だとすると、約150トン……か?」

『そうなりますね。しかし、それは1年の総量です。半分は自給できると仮定すれば75トン、3分の2なら50トン』

「半分を目標にするか」

『それがまあ妥当でしょうね。全てを一度に供給する必要はないですから、仕入れ先なども検討する時間はあります』

第5列(クインタ) の調査によると、ショウロ皇国南部やセルロア王国南部は余剰作物があるようだ。

『クライン王国でも購入できるでしょうけれど、あまり派手にはやらない方がいいでしょうね』

魔族への反応はフランツ王国を見ればわかる。国家としてみたら、国民の安全という意味において、敵と見なすことは悪いことではないのだろう。

『来春までの食糧を援助し、その後は自給率を高める援助、これが望ましいかと考えます』

いつまでも援助し続けるつもりはないし、彼等のためにもならない。

「黄金と 魔結晶(マギクリスタル) を礼物に持って来ていたそうだが」

『はい、確認ができませんでした。それ目当てで毒を盛られた可能性もあります』

欲に目がくらんだイーナク町長=代官が毒で2人を無力化し、その礼物を懐に入れた可能性がある。それは、かの国における地方の腐敗を如実に示していた。

「え……と、あのカトリーヌといったっけ、前公爵夫人は礼物のこと言っていなかったからな」

情報屋フェルナンは掴んでいた。つまり公的には礼物はなかったことになっているのだ。

『それで、北へ行く手段ですが、どうしますか?』

「ああ、飛行船は危険だろうからな」

飛行機という手もあるが、あまりにもオーバーテクノロジーであり、魔族に見せるのはいろいろな点で躊躇われた。

「4足歩行の地上車、はどうだ?」

ゴーレム馬応用で、小型バスくらいの大きさの物を仁は考えていた。少し前に作ったキャンピングカーの4足歩行版と考えればいい。

『そうですね、雪の深い場所でも歩けますからね。よろしいかと』

老君も賛成したので、仁は翌11日朝から、4足歩行車の開発を行う事にした。

その11日朝。早起きした仁はさっそく製作に取りかかる。

「低温に強いオーステナイト系ステンレスを使おう。礼子、素材を頼む」

「はい、お父さま」

液体ヘリウムなどの超低温物質の貯蔵には、低温で脆くなる『 低温脆性(ていおんぜいせい) 』を起こしにくいオーステナイト系ステンレスが用いられる事が多い。

今回仁は、クロム18パーセント、ニッケル10パーセントの18−10ステンレスをベースに、ミスリル銀を0.5パーセント加え、魔力強化の特性を付与した物を使うことにした。

「歩行制御はゴーレム馬応用でいいな」

大きさが桁違いであるが、動作的には共通である。

「胴体だけで頭はいらないし」

完全に乗り物として製作するつもりである。

「10人くらいは乗れるようにして、荷物も積めるようにする、と」

キャンピングカーほどの居住性は追求しない。シートを寝かせて眠れれば十分だ。但し空調は十分に行うし、トイレと簡易シャワーは設けておく。

排泄物は魔法で消臭、殺菌、分解するので衛生的である。

「武装は 麻痺銃(パラライザー) 、 魔力砲(マギカノン) 、レーザー砲、それにエーテルジャマーと 魔力妨害機(マギジャマー) 。 魔力爆弾(マナボム) も搭載しておくか」

『 御主人様(マイロード) 、何があるかわかりません、 治療器(トリートメンター) や回復薬、治療薬も十分に積んで下さい』

加えて、 魔素通話器(マナフォン) 、 障壁結界(バリア) 、 魔力探知装置(マギディテクター) も備える。非常用に 転移門(ワープゲート) も備え付けた。

最後に重力制御魔導装置を搭載。これは重力魔法に対抗し、打ち消す事ができるもの。

これらを含め、仁は礼子と、 職人(スミス) ゴーレム30体の協力の元、4時間で4足歩行車を完成させた。

仕上げの試運転。研究所前から蓬莱山への斜面を歩かせてみる。

「うん、なかなか好調だ」

最高時速70キロ。登坂可能角度50度。脚の長さは6メートル、全長は8メートル、全高8メートル。深雪でも平気である。

重力制御魔導装置により、泥沼でも沈まずに歩くことができるのは大きい。

「いい出来だな。名付けて……『カプリコーン』だ」

山羊座である。野生の山羊の仲間は山の岩場に多く棲息するのでこれに決めたらしい。

「老君、蓬莱島でも使えそうだから、『カプリコーン』と同型機を数台作っておいてくれ。急がないけどな」

『わかりました』

仁が手がけた1号機は『カプリコーン1』と側面に書かれた。

「ランド隊を使って、今日いっぱい、カプリコーン1の徹底テストを行っておいてくれるか?」

『わかりました。不具合があった場合はまとめて報告します』

「うん、頼む」

イスタリスとネトロスの容態からすると、明日あたり出発出来そうかなと仁は判断し、今日1日をテストに費やすつもりであった。

「行くのは俺の 身代わり人形(ダブル) 、礼子、シオン、イスタリス、ルカス、ネトロス。それに……ランド1。 隠密機動部隊(SP) は……いらないか。俺自身は蓬莱島に居るんだしな」

『でしたら、ミニ 職人(スミス) をお連れ下さい。何かの役に立つかもしれません』

老君の薦めに従い、ミニ 職人(スミス) 10体も連れていくことにした。

「アンはどうしようかな?」

「お父さま、連れていくべきだと思います」

珍しく礼子がはっきりと意見を言った。

「お前もそう思うか。よし」

蓬莱島勢で魔導大戦を知る唯一の 自動人形(オートマタ) である。仁はアンも連れていくことに決めた。

今のままでは少し不安があるので、昼食を済ませた後、仁はアンを呼んだ。

強化しておくことにしたのである。

「ごしゅじんさま、お呼びですか」

「アン、今回お前も魔族の土地へ同行してもらおうと思う。それで、今のままだと性能面で不安だから、少し強化したいんだ」

「わかりました。ごしゅじんさまにお任せします」

こうして、仁はアンの強化を開始した。

骨格、 魔法筋肉(マジカルマッスル) を初め、全てを一新。触覚の付与はもちろん、重力魔法も使えるように改良。エーテルジャマーも備えつける。

全体的に見て礼子の半分くらいの性能を付与し、強化は終わった。