軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

02-11 庶民のためになる道具を

昼食後、仁とビーナは露店を出しに向かった。

いつも通り、露店エリアの一番端に簡易テーブルを置き、そこに魔導具を並べる。筈だった。

「なんなんだよ、この人だかりは……」

そこは既に人で溢れかえっていた。

「あ! 来た!」

「おう、『ぽっぷこーん』、早く売ってくれよ! 子供が待ってんだよ」

「ぽっぷこーん2つ、早くしてね!」

「こっちはぽっぷこーん3つだ!」

ほとんどの客がポップコーンを買いに来たらしい。

「はいはい、ちょおっとお待ち下さいね」

そう言ってビーナはポップコーン製造器にトウモロコシを入れ、油と塩を加えて作動させる。3分ほどでトウモロコシが弾けだした。

「いつ見ても面白えよな」

「ああ、いい匂い」

出来上がったポップコーンは、パウノキの木の葉でくるんで販売する。パウノキの葉はしなやかで破れにくいため、包装に広く用いられている葉である。

「はい、ありがとうございます、銅貨5枚になります」

一包み5トール(約50円)、いい設定である。そもそも半分は宣伝のためにしているのだ。

「おお、待ちかねたぜ。これこれ、この味! 後引くんだよなあ」

その場で包みを開け食べ始める者もいる。仁はその人気ぶりを見て呆気にとられていたが、はっと気が付き、商品を陳列した台の上に、用意してきた物を置く。

それは商品の名称と値段を記した札である。露店を見て回った時、値札が出ている店は多かったが、商品説明は皆無に近かった。それでこういう用意をしてきたのである。

「ちょっと、この『ライター』ってなあに?」

案の定、ポップコーンを買うために並んでいるお客が食いついてきた。

「はい、これは火を付けるための魔導具です。これは見本です」

そう言って仁は、試作品のライターを使ってみせる。掌に入る大きさの直方体の箱、その中央部に付いている丸いボタンを押すと、小さな火が灯った。

「こうやって、火を熾すのに使えるんです」

実演してみせると、

「へえ、いいわね。ちょっとやらせてくれる?」

主婦だろうか、30くらいの女性がそう言ってきたので仁はライターを手渡した。

「こうやって……わっ、火が出た。これを付け木に付けるわけね。種火が消えた時とか便利そう。これ……50トール? うーん、欲しいわね。1つちょうだい」

「はい、ありがとうございます」

早速1つ売れた。仁は試作を受け取り、商品を手渡して、お金を受け取った。

「ふうん、便利そうだな。俺にも1つくれ」

「ありがとうございます」

ポップコーンを買うまで暇だったお客達から、ライターの便利さを目の当たりにして、買っていく人が出てきた。

「うーん、欲しいけど持ち合わせがないわね、ねえ、明日も売りに来る?」

「はい、来ますよ」

「じゃあ明日買おうかしら」

そんな感じで、夕方になる前に用意したトウモロコシも全部無くなり、ライターも売り切れてしまった。

「帰るか」

「ええ……」

疲れた顔のビーナ。慣れないことをして仁も疲れたので帰ることにした。

「だけど、よく売れるわね」

「ああ、俺も驚いた。200人以上買いに来てただろ」

「みたいね。売り上げがすごいわ」

ビーナの腰に提げた袋は銅貨で溢れんばかりだ。仁の方は銀貨と銅貨が混じっている。

「両替とかは出来ないのか?」

仁がそう尋ねると、

「手数料取られるからつまんないわ」

と答えが返ってきた。

ビーナの家に帰り、売り上げを計算する。

ポップコーンの売り上げが2200トール、ライターが1000トール。計3200トール。

そこから材料費としてトウモロコシ10キロが500トール、塩が100トール、油が300トール。ライター用の魔石が500トール、その他が100トール。

「差し引き1700トールの儲けね」

一日で17000円くらい、と仁は脳内で換算した。まずまずであろう。

「それじゃあジンには半分の850トール。はいこれ」

銅貨でいっぱいの袋が差し出された。

「ちょっと待て、こんなにいらないぞ」

「だって、山分けでしょ」

「そんなことはないだろう。工房はビーナの物だし、材料調達もビーナがやったんだ。7ー3でいいよ」

「えーっと、そうすると……? 計算面倒だから700トール受け取っておきなさいよ。ほら、果物とかもらってるし」

そう言って、銀貨混じりで700トール差し出すビーナであった。因みに正解は510トールである。

「……まあいいか」

苦笑いしつつ受け取る仁。

「さて、まだ時間はあるから材料調達しに行った方がいいよな?」

「そうね、疲れたけど今日中に買いにいって来ないと」

ビーナは買い物用に大きな袋を肩に担いだ。仁も同様。

「まず 魔石(マギストーン) から買おうかしら」

買うなら軽い物からということで、ライター用の 魔石(マギストーン) を買いに行こうとするビーナだが、それを仁は止める。

「待て待て、 魔石(マギストーン) なら俺が用意してやる」

「え? ああ、そういえば、ジンは 魔石(マギストーン) 持ってるって言ってたわよね」

「そうさ。原価で売ってやるから、安心しろ」

「悪いわね……でもありがと」

それで2人は塩、油、トウモロコシを買って回る。仁はようやく、食料用の大麦と小麦を手に入れた。

「儲けが全部飛んでっちゃったわ」

少ししょぼくれるビーナ。まだ自転車操業から抜け出せないのは致し方ない。

「もう少しすれば余裕も出てくるよ」

そう言って慰める仁。ビーナは、

「そうよね。ジンが来てくれる前はちっとも売れなかったんですもん、贅沢言えないわ」

そう言って顔を上げた。

「でも、ライターの評判、良かったわよね。やっぱり、みんなの役に立つ物を作るってやりがいあるわ」

「そうだな、俺もそう思う。それじゃ、ライターはもちろん作るとして、他に何が作れるか考えておいてくれ」

「あ、帰っちゃうの?」

「ああ、悪い。明日はちゃんと来るから」

「そ、今日はありがとね」

そう言って仁はビーナと別れ、トウモロコシと麦を担いで帰ったのである。

* * *

場面変わって、城壁内のとある貴族の館にて。豪華な部屋の中には12、3歳の男の子が。これまた豪華な椅子に座っている。そこへやって来たのは使用人。

「ぼっちゃま、おっしゃる物を買ってまいりました」

その使用人は手にしたパウノキの葉にくるまれた物を差し出す。

「おお、これか。うん、どれどれ」

それはまごうかた無きポップコーン。それを一口食べた男の子は、

「うん、おいしい! これは今まで食べたことのない味だ」

そう言いながら、ぱくぱくと勢いよく、そのまま全部食べてしまった。

「もう終わりか。おい、もっと買ってきてくれ」

そう言われた使用人は申し訳なさそうな顔で、

「今日はもう店じまいしておりまして、明日にならないと買ってくることは出来ません」

そう言われた男の子は不機嫌そうに、

「じゃあ、コックに命じて作らせよう」