軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14-33 踏み出す一歩

翌7月27日、首都ロイザート。時刻は正午。

ラインハルトは 宮城(きゅうじょう) 前広場で仁を待っていた。

「もう着く頃だと思うんだがな……」

2時間前、仁と 魔素通信機(マナカム) で話をし、その時仁が正午頃着く予定、と言ったのである。

「ラインハルト様、あれを」

隣にいたノワールが西の空、トスモ湖上空を指差した。

「飛行船?」

空に浮かぶ飛行体があった。

「いや、もっと小さいな……それに2つ?」

飛行物体は2つあったのである。それは次第に近付いてくる。

その時、ラインハルトの横に青髪の 自動人形(オートマタ) が転送されてきた。アンである。

「ラインハルト様、あれはごしゅじんさまとエルザさまが乗る熱飛球です。お城の皆さんにそうお伝えしてください」

「わ、わかった」

ラインハルトは大急ぎで手近な近衛騎士を見つけて伝える。あれは 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、仁が乗る熱飛球である、と周知徹底させるように、と。

仁の事だから、魔法の誤射くらいで傷付くとは思われないが、念には念を入れ、皇帝陛下にも伝えてくれるよう頼んでおく。

そして数分、熱飛球はラインハルトの頭上までやって来た。

「……また新しいもの作ってきたのねえ、ジン君は……」

聞き覚えのある声に振り返ると、そこにはショウロ皇国現皇帝、ゲルハルト・ヒルデ・フォン・ルビース・ショウロが立っていた。もちろん近衛騎士5名に守られながら。

「ふむう、あれはかつて 統一党(ユニファイラー) が使った『熱飛球』なる乗り物ではないのか?」

そう言ったのは魔法技術相、デガウズ・フルト・フォン・マニシュラス。

「2台あるな。片方にはジン殿、もう一つには……エルザ殿か」

これは宰相、ユング・フォウルス・フォン・ケブスラー。他にも魔法技術省事務次官のクリストフや、近衛騎士隊隊長など、大勢が詰めかけていた。

皆、空から仁がやってくると聞いて、昼食もほっぽり出して駆けつけてきたようだ。

仁とエルザが乗る熱飛球はゆっくりと降下してきた。そして衆人環視の中、 宮城(きゅうじょう) 前広場に着陸した。

ゴンドラに付いた扉を開け、仁と礼子、エルザとエドガーが降り立った。

「ジン・ニドー卿、ようこそ! 歓迎するわ!」

真っ先に歓迎の意を表したのは女皇帝。仁とエルザは深々と礼を返す。

「陛下、突然の来訪、失礼致します」

「気にしなくていいわ。 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) 、そして名誉士爵を迎えるなら当然よ」

仁は完全に浮力を失った熱飛球から何やら魔導具を取り外すと、管理を依頼する。

「陛下、この熱飛球を管理していただけますか?」

「もちろんよ」

女皇帝は近衛騎士を2人選び、熱飛球の管理を任せた。

それが済むと、一同は 宮城(きゅうじょう) 内へと移動した。

* * *

「改めまして、突然の来訪をお詫び申し上げます」

執務室に隣接する会議室に移動し、全員が席に着くと、まず仁が謝罪した。

「気にしなくていいわ。何か緊急の用件なんでしょう?」

気さくな口調で女皇帝は仁に話の先を促した。

「ありがとうございます。幾つかの話題がありまして。……まずは魔族についての報告から」

「ええ、昨日の夜、マキナ殿から書簡が届いたわ。クライン王国に魔族が現れたんですって」

話の信憑性を増すため、マキナ名義で連絡を入れておいたのである。

「そうでしたか。……実は、先日、セルロア王国でも……」

ここで仁は、ステアリーナが亡命する原因となった、セルロア王国での一幕を説明したのである。

セルロア王国への密入国については、ショウロ皇国で裁く法はない。それはラインハルトにも確認済みだ。故に女皇帝もそれには言及しなかった。が、魔族の情報に関しては顔を 顰(しか) めたのである。

「うーん、そんなことが、ね……」

「そして、こっちは確たる証拠はないのですが」

そう前置いて、例のマルカスを操っていたのが魔族らしい、とも付け加えた。

「聞き捨てならないな!」

宰相も顔色を変えた。

「魔族が何を目的としているかは未だ不明です。ですが、各国でのやり口から行って、友好的なものではないでしょう」

「うむ、その通りだ。ジン殿、何か他にわかったことはないのかな?」

「ええ、奴らが使う魔法についてですが」

「それに関してはマキナ殿からの手紙にもあったわね。重力魔法、転移魔法、爆発魔法、とあったわ」

これも事前に知らせておいたものである。

「ええ、侮れない威力です。十分注意しなければなりませんね」

「……いずれにしても魔族が潜入していないかどうか、を注意しないといけないわね」

難しい顔の女皇帝。

「そう思います。そして、これはここショウロ皇国だけでなく、各国と話し合う必要があるかと」

「うむ、その通りだ。陛下、午後の定時連絡でそれを話題にいたしましょう」

仁が 懐古党(ノスタルギア) を通じて各国に配布した『 魔素通話器(マナフォン) 』を、それぞれの国では有効な連絡手段として使用していた。

まずは定刻連絡網。時差があるので多少その国での時刻はずれるが、ショウロ皇国首都ロイザートでいうと午前8時と午後2時に、セルロア王国、エゲレア王国、フランツ王国、クライン王国、そしてエリアス王国との通話を行うことになっているのである。

因みに最も東にあって時刻の早いクライン王国首都アルバンとの時差は2時間40分。つまりクライン王国首都アルバンでの定刻とは午前10時40分と午後4時40分ということになる。

ここに、小群国+ショウロ皇国間で、対魔族の連携が取られることとなるわけだ。

「次に、贈り物がありまして」

すぐに女皇帝はそれと察した。

「もしかして、あの空を飛ぶ『熱飛球』?」

「はい」

頷いた仁を抱きしめんばかりに喜ぶ女皇帝。

「本当に? すごいわ! ジン君、感謝するわ! いいえ、感謝だけじゃ足りないわね。何か欲しいものはあるの? 出来る限りの事をするわよ?」

「はい、それでは一つお願いがあります」

「何かしら?」

威儀を正して、女皇帝は仁の要望を聞く姿勢を見せた。

「ショウロ皇国への出入りを自由に認める、というような許可証が欲しいんです。出来れば仲間の分も」

「ふむ、なるほど、それゆえの熱飛球か」

宰相は仁が熱飛球を持って来た理由を察したらしい。

「はい。空から往来する場合、関所を通ることはありません。その場合に不法入国したと見なされないような許可証があるといいのですが」

そして仁は、これからエゲレア王国、クライン王国へも熱飛球を2台ずつ贈るつもりだ、と話した。

「なるほど、ジン君を 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) として認めている国へ、というわけね。そこでも同じ要求をするつもりね?」

「はい」

これは昨夜老君やアン、エルザと共に相談したことである。いつまでもこそこそ行き来するのではなく、 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) という肩書きを利用して堂々と行き来する方がいい、ということだ。

その後、エリアス王国へも打診するつもりではある。

「わかったわ。そうね、お仲間、というなら、ジン君と同行している限りにおいて、10名まで認める、という条件でどうかしら?」

「はい、それで結構です。ありがとうございます」

女皇帝はさっそく書類発行手続きをするよう宰相に命じた。

「ところで熱飛球ですが、 統一党(ユニファイラー) の使っていたものと区別するため、『熱気球』と呼ぶことにしました」

肝心の熱気球について説明を始める仁。

「熱気球ね、いいんじゃない? 調べたところによると、熱気をあの球に溜めて浮くのよね?」

「ええ、そうです。 統一党(ユニファイラー) では、火属性の魔法で熱気を発生させていましたが、俺の熱気球は違います」

「うむ、詳しく説明してくれ」

魔法技術相、デガウズが身を乗り出した。

「そうですね、実物を見ながら説明したいのですが」

「そうね、それではもう一度 宮城(きゅうじょう) 前広場へ行きましょう!」

女皇帝陛下の鶴の一声により、一同は 宮城(きゅうじょう) 前広場へと再び移動したのであった。