軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14-34 空の上で

宮城(きゅうじょう) 前広場へ移動した一同の前で仁は説明を始める。助手はエルザ。

「簡単に構造を説明します。まず『 気嚢(きのう) 』、熱気を溜める袋ですね。軽く丈夫で耐熱性のある布なら何でもいいのですが、これは 砂虫(サンドワーム) の革を使っています」

砂虫(サンドワーム) はショウロ皇国特産の魔物で、西部のハリハリ沙漠に棲息している。礼子の打撃にもそこそこ耐性があるほど丈夫な革だ。

「なるほど、我が国で捕れる素材だな」

魔法技術相、デガウズが納得したように大きく頷く。仁の飛行船は 地底蜘蛛(グランドスパイダー) の糸というレア素材を使っており、おいそれと模倣出来なかったのだ。

「そこからロープで楕円形のゴンドラが吊されるわけです。構成は以上で、次は使い方ですね」

仁は 気嚢(きのう) の下に取り付けてある魔導具を指し示した。

「工学魔法『 加熱(ヒート) 』の効果があります。火系統の魔石で駆動します。使い方はこのレバーを動かすだけです」

加熱の魔導具に付いたレバーを上げると空気が熱せられ、下げると加熱が止まる。適当な位置に調整することで、高度をある程度一定に保つことが出来る。

「なるほど、熱せられた空気は軽くなる、その応用だな。先日、 指導者(フューラー) から学んだばかりだ」

指導者(フューラー) は仁が望んだように、順調に知識を伝えているようだ。

「念のため、『 加熱(ヒート) 』の魔法を使える人が乗り込んでいると安心ですね。これは工学魔法であると同時に火属性の初級魔法ですから使える人はわりといるでしょう」

「うむ、そうだな。魔導士なら3人に1人くらいは使えるだろう」

デガウズが保証する。

「そしてこれがこの熱気球の推進装置、『 風魔法推進器(ウインドスラスター) 』です」

飛行船の時は『魔導推進器』と呼んでいた物に正式名称を付けたのである。

「『 圧力風(ブロア) 』を利用し、その風をこうして絞り込むことで推進力を得ています」

仁がずっと前に検証したように、通常の風魔法は反動を打ち消す働きが備わっている。

だが、一旦生じた風を筒に通し、その流路つまり筒を狭く、細くすることで風速を増せば、増加した風速分の反動が生じるのだ。

これにより、主に風任せであった 統一党(ユニファイラー) の熱飛球に比べ、最大で3倍程度の速度を出せるようになったのである。

「追い風に乗って 風魔法推進器(ウインドスラスター) を使えば時速50キロ以上は出るでしょう。無風時なら30キロくらいでしょうか」

「うむ、十分速いな。遮る物がない空を行くのだから効率もいいだろうしな」

「ええ。但し、あまりに風が強いときは無理しては危険です」

「それは理解できる。気を付けよう」

「あと、非常用として、ロープを付けた矢を用意してあります。これをこちらの弓で地上に打ち込んで『アンカー』にします」

「なるほど、船の錨のようなものだな」

その他、細々した操作法や注意事項を説明した仁は、実際に飛ばしてもらうことにした。

宰相、ユング・フォウルスと魔法技術相、デガウズが搭乗する。仁と礼子、それにエルザがもう1台に乗って付いていく。

ここでも女皇帝は乗りたがったのだが、宰相と魔法技術相、それに近衛騎士隊隊長から諫められ、渋々地上に残ったのである。

「それではレバーをいっぱいまで上げてください」

仁は自分たちの乗った熱気球の加熱装置を起動する。それに倣ってデガウズもレバーを押し上げた。

すぐさま加熱が始まり、魔導具に込められた『 圧力風(ブロア) 』の魔法によって 気嚢(きのう) に熱せられた空気が溜まっていく。

みるみる膨らむ気嚢。

丸く膨らんだ気嚢はゆっくりと浮かび上がる。そして繋がれたロープがぴんと張り、ゴンドラが揺れた。

更に送り込まれる熱気。軽くなった気嚢はついにゴンドラを持ち上げ、熱気球は地上を離れた。

「浮かんだわ! ああ、離れていく……乗りたかったわねえ……」

名残惜しげに熱気球を見送る女皇帝であった。

「陛下、お立場をお考えください……」

近衛騎士隊隊長が少し疲れたような声で言った。

* * *

「どうしても乗ってみたいのよ! この通り!」

宰相と魔法技術相が熱気球の扱い方をだいたい覚えたと見て地上に戻ってくると、女皇帝がそこにいた全員を拝むようにして言い出した。

「前回の飛行船だって、乗せてはもらえたけど、1メートルくらい浮いただけで終わりだったじゃない? 今度こそ空を飛びたいわ」

「陛下……」

たった今、空の旅から戻って来たばかりの宰相と魔法技術相である、女皇帝の気持ちは察することが出来た。

「……」

そして熟考の末出した結論。

「陛下、そういたしましたら、2つの熱気球をロープで繋いでおくことで、危険はかなり回避出来ると思います」

片方が墜落しかけてももう片方で支え、落下速度を抑えられると考えたのである。

「できるだけ軽くするため、一方にはジン殿と陛下、それに 自動人形(オートマタ) のレーコさん。もう片方にはデガウズを乗せましょう」

これが宰相精一杯の譲歩であった。

「ああ、それでいいわ。やっと空を飛べるのね!」

「いいですか、くれぐれもはしゃぎすぎないよう。ジン・ニドー卿、陛下をよろしく頼みますぞ」

「は、はい」

仁が先に乗り込み、女皇帝に手を差し出す。女皇帝は喜々として仁の手に引かれゴンドラへ乗り込んだ。そして礼子が乗り込み、扉を閉めて施錠する。

「では、行きます」

仁は隣の魔法技術相デガウズに合図すると、加熱レバーをいっぱいに押し上げた。

2機の熱気球は同じように膨らんでいく。

更に仁は、補助加熱を行うよう礼子に命じた。仁たちの気球の方が重いからである。礼子は『 加熱(ヒート) 』の魔法で補助を行う。

やがて気球は地上を離れた。

「飛んだ! 飛んだわ!」

子供のようにはしゃぐ女皇帝。

気球はゆっくりと上昇していく。高度30メートルくらいで仁は上昇を緩め、 風魔法推進器(ウインドスラスター) を起動した。

「わあ、動いたわ」

トスモ湖方面へと移動していく2機の熱気球。高度はゆっくりと上がり続け、今は50メートルくらいか。

「方式から言って、一定高度に留まるのはちょっと難しいんです」

操作のコツなどを簡単に説明していく仁。

「なるほどね、上がりすぎたら加熱を弱めて下降、そしてまた下がったら加熱して上昇させる、というわけね」

青々としたトスモ湖が彼方に見える。飛行も安定し、仁は操縦を礼子に任せた。

「礼子、しばらく頼む」

「はい、お父さま」

女皇帝が何か話したがっている雰囲気を、仁は察したのである。

「ありがとう、ジン君。ああ、やっと願いが叶ったわ。大地って、広いのね……」

大空から国を見下ろし、女皇帝はしみじみとした声で仁にお礼を言った。

「……このあと、エゲレア王国とクライン王国にもこれと同じ物を贈るのね?」

「はい、そのつもりです」

「わかってはいるけど、ちょっとだけ残念だわ。我が国だけなら、と思わないでもないから」

その発言に仁が何かを言おうとしたのを感じ取った女皇帝はすぐに前言を否定する。

「ううん、それは言っちゃ駄目ね。今は魔族に対して各国が手を結ぶべき時なのよね」

「……ええ」

「魔導大戦では何とか、辛うじて勝つことが出来たけど、実質は痛み分けよね。今度は……どうなるのかしら」

「魔族の目的が何か、それがわかれば和解することも出来るんじゃないかとも思うんですけど」

少し不安そうな女皇帝に対し、仁は自分の意見を述べる。

「そうよね、同じこの大地に生きる者同士ですものね。でも、それは個人の想い。皇帝としては、国民を守る義務があるわ。少なくとも、戦争になった場合、出来るだけ被害を減らせるよう準備していかなければ」

その気持ちは仁も同じだ。蓬莱島にある数々の設備も、攻めるのではなく守るための武力だと思っている。

しばらくは無言のまま、2機の熱気球はトスモ湖上空に到着した。

この日はほとんど無風状態なので今現在の時速は25キロ程。そろそろ仁は戻る頃合いと、進行方向を反転させた。

「あら、もう帰るの? もっと飛んでいたかったけど、仕方ないわね」

「ええ、今日はこれで我慢して下さい」

ロープで連結された向こうの気球ではデガウズ魔法技術相がほっとした顔をしていた。

「……ねえ、ジン君。結婚するつもりはないの?」

唐突に女皇帝がそんな話題を振ってきた。

「え? え、ええ。今のところは」

不意を突かれた仁は若干狼狽気味に返事をする。

「エルザは? あの子とは何もないの?」

「ありませんよ!」

全力で否定する仁。そんな仁を見た女皇帝は首を傾げた。

「そう? いい子だと思うんだけどな……」

「エルザは妹分ですから」

だが女皇帝の追求は止まない。

「妹、と言っても血が繋がってるわけじゃないし。ひょっとして、他所の国に好きな人がいるの?」

「……どうしてそんなことを? ……いませんけど」

「いえね、ジン君をショウロ皇国に繋ぎ止めるなら、ショウロ皇国の女の子と一緒になってもらうのが一番だと思ってね……」

「……勘弁して下さい……」

気持ちはわかるが、そういう話は持ちかけられても困る、と断りを入れる仁。

「でもねえ、ジン君の歳なら、妻帯していてもおかしくないのよね。そもそも、女の子に興味がないわけじゃないでしょう?」

女皇帝の追求が執拗さを増してきた。

「正直、そういった欲求ってあまりないんですよ」

仁はありのままを打ち明けた。