軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14-08 調査旅行

「うん、いく!」

ハンナにもちろん否やはない。勉強会を欠席する事になるが、その分は旅行先で仁やエルザが教えるつもりだ。

さっそく仕度を調え、仁と共に蓬莱島へ。

「ハンナちゃん、こんにちは」

「こんにちは」

「あっ、エルザおねーちゃん、サキおねーちゃん! ……それに、リーナおねえちゃん!」

リーナおねえちゃんというのはステアリーナの事だ。

「うふふ、ハンナちゃん、可愛いわねえ」

ステアリーナは、ハンナに『おねえちゃん』と呼んでもらったことが余程嬉しかったようだ。

* * *

翌朝、いよいよ出発である。

メンバーは、仁、ハンナ、エルザ、サキ、ステアリーナ。それに礼子、そしてスチュワードが運転手として同行する。アアルとエドガーは今回留守番となった。

「ご主人様、いってらっしゃいませ」

若干残念そうな顔をして、アアルとエドガーは己の主人を見送ったのである。

「それじゃあ、行こうか」

転送機を使い、一気に距離を移動するつもりだ。蓬莱島は現在午前8時過ぎ、目指すのは首都ディアアのあったあたり。

第5列(クインタ) のレグルス45がランドマークとなり、誤差僅少、地表から1センチで転移できた。回数をこなす度に精度が上がっている。

「お待ちしておりました」

レグルスシリーズは成人男性型。その1体、レグルス45が一行を出迎えた。事前に説明しているから誰もその存在に疑問を持つことはない。

「ご苦労さん。その格好はなんだ?」

レグルス45を労った仁が疑問を口にした。体形も少し痩せた感じになり、全体的に薄汚れ、やつれた印象になっていた。

「はい、僅かに残っている住民に合わせました」

レグルス45の説明によると、旧首都ディアア付近には50人程度が暮らしているということである。

「滅多に出会うことはありません。住居もディアアではなく、離れた場所ですから」

「わかった。それじゃあ我々はディアアを目指すか」

「ご案内いたします」

レグルス45が助手席に座り、運転手であるスチュワードに道を指示することになった。

仁たちは2階に上がり、屋根を開けて周囲を眺めることにする。

「わあ、おもしろいながめ」

ハンナは見たことのない風景にはしゃいでいる。仁もエルザもサキもステアリーナも目を見張っていた。

伸び放題に伸びた草が道路を覆い、蔓に絡み取られた建物が左右に立ち並ぶ。

初めのうちこそもの珍しかったが、ずっと変わり映えのしない風景に仁たちが飽きかけてきた頃、川が見えてきた。

「ソピー川です。川沿いに進んだ方が走りやすいので」

レグルス45が、2階席にいる一行に聞こえるよう大きな声で説明してくれた。

時刻は午前8時くらい、川風が心地よい。

そのあたりの川幅は100メートル程か。なかなか大きな川である。川原も広い。

大きな石がごろごろしてはいるが、トータスの足回りはアクティブゴーレムサスペンション、この程度であれば乗っている者にはほとんど揺れを感じさせない。

ヤナギに似た木がまばらに生えているが、進行の邪魔にはならない。時速40キロほどでトータスは進んでいった。

30分くらい走ると、前方に不思議なものが見えてきた。

「おにーちゃん、あれ、なに?」

ハンナがそんな声を出すのも無理はない。

蔓に覆われ、半壊した建物群が前方に聳えていたのだから。

「ラインハルトの『蔦の館』が可愛く見えるね……」

サキも驚いている。

「建物が崩れるほどに蔓がはびこるなんて、いったい何年経っているんだろう?」

「……本当に、人がいなくなっている。いったい、なぜ?」

仁とエルザも疑問を口にした。特に仁は、蓬莱島の研究所が、1000年経っても崩れていなかったことを知っているだけに、ここの荒れ様は信じられない思いだった。

更に10分。旧レナード王国の首都、ディアアに到着した。

周囲は7メートル程の高さの城壁に覆われていたようだが、半分以上崩れてしまい、入る場所には事欠かない。

「基本的に人は住んでいません。ごくまれに、価値のあるものは無いかと探しに来る者がいるくらいです」

「お前はここの調査をしたのか?」

レグルス45に仁は尋ねてみた。

「はい。そもそも、数十年以上前から誰かしら出入りしていて、めぼしいものは持ち出されています」

「まあ、そうだろうな」

金目のもの、貴重品などがあったとしても、既に持ち出されてはいるだろう。残っているのは価値が無いと判断されたものや持ち出しできないようなものだけと思われる。

「それでもまあ、見てみたい」

「それでしたらどうぞこちらへ」

レグルス45が案内してくれたのは2階建てのがっしりした建物だった。ここも例に漏れず蔓に覆われてはいるが。

「資料館のようなものだったと思われます。ほとんどの資料は持ち出されていますが……」

資料館、と聞いてサキが俄然乗り気になった。

「ジン、早く行こう! 何か珍しい本とかあるかもしれない!」

先頭に立ってずんずんと進んでいく。

入り口部分の蔓は刈り払われており、今でも出入りする者がいる事が窺えた。

「……おお……!」

人一人が通れる程度に開いた入り口をくぐる。内部には明かりもなく、窓が繁った植物によって塞がれているので薄暗いが、目が慣れてくるとなかなか壮観であることがわかった。

壁一面に、壁画が描かれていたのである。さすがにこれを剥がして持ち去る者はいなかったようだ。

「これはすごいね! ……何々、『東方に光ありき、そを名付けて???という』……読めない部分もあるね」

壁が傷んで読めない部分があるのは残念である。とはいえ、ここの壁画は、とっくに老君が記録・解析済み。有益な情報、というか、新規情報はほとんどない。

ただ一つを除いて。

「チーフ、これをご覧下さい」

レグルス45に声を掛けられた仁は壁の隅に寄った。

「……『ドリアナ』『ツエツイ』『西』……もしかしてアドリアナ・バルボラ・ツェツィについて何か書かれていたのか?」

「はい、その可能性が高いですが、なにぶん傷みも多く、解読できません」

その部分は特に劣化が酷く、所々剥げたり崩れたりしていて、読みたくても読めない状態であった。

「うーん、もしかしたら先代はレナード王国にいたことがあったのかもなあ……」

先代からの知識を受け継いだとはいえ、すべての記憶というわけではない。先代の幼少時代とか、誰から魔法工学を学んだか、などは仁も知らないのである。礼子も知らないという。

「おにーちゃん、これ、なに?」

勉強会のおかげで、文字の読み書きはかなり上達したハンナが仁を呼んだ。仁がハンナの所へ行くと、ハンナは壁の穴を指差していた。

「?」

壁が崩れた後に四角いスペースが空いていて、そこには 魔石(マギストーン) のような石が埋め込まれていた。

床から50センチくらいの高さなので、ハンナが見つけやすかったのだろう。

レグルス45が、知らないというように首を振っていたので、つい最近崩れたようだ。仁は散らばっている仲間を呼び集めた。

「ジン君、どうしたの?」

「ジン、何か見つけたのかい?」

「ジン兄、何?」

エルザ、サキ、ステアリーナにもその 魔石(マギストーン) を見せる。

「……何かを発動させる鍵かな?」

仁が思いついたことを口にすると、3人とも同意した。

「何が起きるかわからないからな、どうするか……」

「チーフ、自分がやってみます」

レグルス45が立候補してくれた。仁たちがいなくなったら試してみることになるのだから、と言うので任せる事にする。

「よし、俺たちは一旦外に出よう」

安全を期して、レグルス45を残し、仁たちは表へ出た。日の光が眩しい。

「よし、いいぞ」

外から仁が声を掛ける。レグルス45はいつもの調査の手順と同じように魔力の経路を確認し、暴走などのおそれがないことを確認してから 魔石(マギストーン) に魔力を流した。

直後は何も起こらないかと思われたが、少し経つと建物が若干振動するのが外からでもわかった。

「チーフ、床が開いて階段が見つかりました」

レグルス45の声が聞こえた。