軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14-09 地下室のメッセンジャー

「地下室か」

レグルス45に呼ばれ、中へ戻った仁たちは足元に開いた階段を見つめた。

「……レグルス45の事前調査でもわからなかったということは特殊な結界も張られていたようだな」

入り口付近を調べていた仁が結論を出した。

こういった隠し部屋や隠し通路は、『 音響探査(ソナー) 』などで見つけ出すことができる。それを隠蔽していたということは、かなり高度な結界だろう。

「危険があるかどうか、自分がまず入ってみます」

レグルス45はそう言うが早いか、床に開いた入り口へ飛び込んだ。階段を駆け下りていく音がだんだん小さくなり、やがて聞こえなくなる。

そのまま一行が無言のまま5分ほど待っていると、再び足音が聞こえ、レグルス45が戻って来た。

「危険はありません。なかなか興味深い場所です」

と報告。内容については見た方が早いようだ。

「よし、行ってみるか」

レグルス45、礼子、仁、ハンナ、サキ、ステアリーナ、エルザの順で階段を下りていく。

驚いたことに、ここの壁には エーテル発光体(AL) が貼られており、仁たちが進むと発光した。レグルス45の時は光らなかった事を考えると、人間に反応するらしい。なかなか高度な仕掛けである。

階段は50段くらい、やや深い地下1階、といったところか。

降り立った先には扉があり、レグルス45がそれを開けると。

「おおっ!?」

「おもしろーい!」

「ふむ、これは……」

「なによ、これ?」

「……すごい」

三者三様ならぬ五者五様の反応。

そこにあったのは、星の海。

いや、星空を模した壁画、天井画であった。

薄ぼんやりとした星明かり。どうやらこの部屋は半球状になっているらしい。動かないプラネタリウムのようなものだ。

「『ようこそ、皆様』」

どこからともなく声が聞こえてきた。

「誰だ?」

「『私は長い時を隔てて訪れた方に事実を伝えるために残されたものです』」

「……人工頭脳?」

「『そう捉えていただいてかまいません』」

要するに老君と同じような存在であろう。単純にメッセージを話す機能だけらしいが。

「伝えるべき事実……とは?」

「『レナード王国の民がいなくなった理由を、です』」

衝撃的な事実であった。レナード王国の国民は、何か明確な目的があって姿を消したらしい。皆、その理由を知りたいと思った。

「聞かせてくれ」

「『それが私の存在意義ですから』」

* * *

謎の声が語った話は驚くべき内容だった。

「『今から234年前、王国内に未知の疫病が流行りました。それは『魔力性消耗熱』と名付けられました』」

「魔力性消耗熱……」

ついこの前、仁やエルザが苦労させられた病気である。過去にも大流行していたらしい。

「『疫病は国の北から始まり、次第に南下してきました。死亡率が高く、初めは防ぎようがない状態でした。遺体は灰になるまで焼かれ、王国の人口は半減したほどです』」

幸か不幸か、隣国であるクライン王国、セルロア王国、エゲレア王国との国交は無かったため、そちらへの飛び火はしなかったらしい。

「『治療法を探すと同時に、国を脱出することが検討されました。北から南下してくる疫病ですから、逃げるなら南です。国を挙げて巨大な船の建造が始まりました』」

それは間に合ったのだろうか、と仁は思ったが、すぐにその先の話が続いて語られる。

「『船は間に合いそうにありませんでした。そしてもう一つの避難場所は天空でした』」

「天空!?」

「空の上……ってことかい?」

「『正確には月です。レナード王国には、いつからのものかわからない、一つの魔法陣が遺されていたのです』」

魔法陣。 魔導式(マギフォーミュラ) を円形に配置したもので、言うなれば 魔導式(マギフォーミュラ) だけで構成された魔導回路。円環状に魔力を巡らせることで効果を増幅させることができるが、扱いが難しく、現代では廃れてしまった魔法技術である。

「『言い伝えでは、天空に浮かぶ月へと到る道を作る、ということでした』」

転移系の魔法陣と言うことだろうか、と仁は思った。

「『最初に王家の人たちが、次いで大臣たちが。そして騎士、兵隊、庶民たちが。次々に転移していき、一人も戻ってきませんでした』」

「……」

「『僅かに残った人たちは疫病に冒され亡くなりました。私は残った一人、アレクスタ・ステイクル魔導技師に作られ、後世の方たちにこの出来事を伝える役目を仰せつかったのです』」

要するに、疫病が流行った。

避難するため、伝説の転移魔法陣を使った。

国民のほとんどは転移し、戻ってくることはなかった。

謎の声は、残った魔導技師が遺したメッセンジャーである。

こういうことになるのか、と仁は頭の中で話をまとめてみた。同時にいくつかの疑問が湧く。

「その転移魔法陣……の行き先がどこか、確認もしなかったのか?」

いくらなんでもそれはなかろう、と仁は思ったのだが……。

「『はい、最初に魔法陣に乗ったのは時の王、レントラ11世でした。王は何ものも恐れない、と言って真っ先に』」

恐れないが聞いて呆れる。疫病を恐れたが故に国を捨てたのだろうし、逃げ出したのも一番最初に、であるし、と仁は批判的な感想を抱いた。

「それにしても戻って来ないからって……。単に戻る手段が無かったからじゃないのかな?」

サキがそんな推測を述べた。

「『いえ、魔法陣自体は誰にでも描けるものですし、 魔力素(マナ) だってほとんど使用しませんし』」

「戻ろうと思えば戻れたはずなのかい」

だとすると戻って来ないというのはそれなりに転移先の居心地が良かったのか。サキはそれ以上反論できなかった。

「どんな魔法陣なのか、わかるか?」

興味があるようで、仁はそんな質問をする。だが、返事はがっかりするものだった。

「『私には伝えられておりません。故にわかりません』」

まあ 転移門(ワープゲート) があるからいいのだが、それでも魔法陣だけで転移できる技術というものには興味があった。

それ以上に、仁は戻ってこない理由が気になった。

「行き先がどんな所なのか知らせに戻って来た者がいても良さそうなのにな」

それほどまでに疫病が怖ろしかったのだろうか、と考え、一つの理由に思い至る。

「……まさか?」

仁は眉をひそめた。そんな仁を怪訝に思ったエルザは、なぜ仁が、と推測をし、その理由に辿り着いてしまった。

「……ジ、ジン兄! ……もし本当に、行った先が月なら……月って……月って……真……空……」

仁は無言で頷く。

「……ああ。俺もそれを考えた。当時の連中、転移先に空気が無いなんて考えもしなかったんじゃないか、ってな」

仁の言葉を聞いたサキとステアリーナは青ざめる。2人とも、その意味がわかる程度には科学を理解していた。

「ジ……ジン、それって……当時転移した人たちがすべて……」

「ジン君……転移した先が真空だったら……だったら……そういうことよね?」

仁は悲痛な顔で頷く。

「もし転移先が月だったら、だけどな。この世界のどこか遠い場所ならいいんだが」

「……でも、それなら1人や2人、戻って来てもいいわよね?」

「……普通なら、自分の生まれ育った国が気になる、はず」

「でも戻って来ないということは……そういうことなのかな、ジン?」

おそらく当時転移した人たちは転移先で何が何だかわからないうちに命を落としたのだと思われた。

メッセンジャーにはそういうことはわからないし、理解する知識もない。

「他に何か、後世に伝えるべき事柄はあるのか?」

少し気を取り直した仁が質問をした。

「『いえ、ありません。私は以上のことを伝えるためだけに作られました』」

「そうか」

少し沈んだ気持ちを抱いて、仁たちは地上へ戻ることにした。唯一ハンナだけはよくわかっていないので、仁たちがどうして暗い顔をしているのか不思議がってはいたが。

全員が階段を登り終えると、床に開いた穴は再び閉じた。

仁は壁の起動用魔石を、工学魔法を使って再び封印すると、無言で外に出た。他のメンバーもそれに続く。

外には、昔と変わらないであろう青空が広がっていた。