作品タイトル不明
14-07 お出掛け準備
魔原子(マギアトム) の錬成というものはやはり膨大な魔力を消費するようで、仁以外の3人はいわゆる『魔力切れ』を起こしかけた。
エルザの時で慣れているため、仁は常備してある『マナ・ポーション』……蓬莱島特製ペルシカジュースを3人に飲ませた。
薬剤基(ドラッグベース) 程ではないが、ジュースに含まれる 自由魔力素(エーテル) が細胞単位で身体に吸収され、体内で 魔力素(マナ) に変わる。3人はすぐに生気を取り戻した。
「ありがとう、ジン君。これ、何?」
仁は説明する。蓬莱島産のペルシカは 自由魔力素(エーテル) を多く含んでいること。それを 自由魔力素(エーテル) 濃度の高い環境に保存することで、更に含まれる 自由魔力素(エーテル) が増えること。そのジュースを飲むことで、欠乏した体内の 魔力素(マナ) を補えることを。
「ふうん、すばらしい発見だね! 父の研究以上だよ!」
サキの父、トアが著した本にも似たような事は書いてあった。
「……もしかしてこれって、 魔結晶(マギクリスタル) に似ているんじゃないかい?」
「ああ、そうか」
ペルシカ果汁を構成している分子の間に 自由魔力素(エーテル) が入り込んで捕らえられているという点では似通っている、と仁たちは結論した。
「まあ今日は実験はこれまでにして、のんびりしよう」
「……そうだね」
さすがに3人とも、魔力切れが治ったとはいえ、精神的に疲れていたので仁の言に素直に従ったのである。
一方、疲れを知らない老君がこの研究を引き継ぐこととなった。
『ここまで 御主人様(マイロード) に道筋を示していただけたならば、あとは私たちの出番です』
老君はそう言って、 自由魔力素(エーテル) からの錬成を引き継いだのである。
* * *
「あー、気持ちいいわね、これ」
女性3人は露天風呂で寛いでいた。
「明るいうちからこんなことやっていると癖になりそう」
既にステアリーナは蓬莱島生活に馴染んでしまっていた。
「くふ、ボクはもう癖になってしまったよ」
「サキ姉はもう少し生活というものを考えた方がいい」
「エルザはしっかりしてるね。まったく」
「サキ姉がだらしないだけ」
そんなやり取りをしている2人をステアリーナは笑って見ている。
エルザ17歳、サキ21歳、ステアリーナ31歳。
「若いっていいわねえ」
そんな年寄り臭い言葉がつい口を突いて出てしまった。
「……ステアリーナさんだって、まだ、若い」
「あら、ありがと」
本当に、ステアリーナは凝脂の肌、という形容が相応しいくらいきめ細かな肌をしていた。
「エルザさんは抜けるように色が白いし、サキさんだって負けず劣らずじゃない」
「ボクはついこの前まで不規則な生活をしていたから、エルザには敵わないよ……」
「ふふ、そんなことないわよ。サキさんもきれいよ」
女性3人の露天風呂は賑やかだった。
* * *
「たまには旅行もいいんじゃないかと思うんだ」
夕食時に仁がそんなことを言い出した。
「あら、いいわね。どこへ行くの?」
「旧レナード王国に行ってみたいんだ」
ステアリーナに向かって仁が言った。
「ああ、いつの間にか滅びていたらしいわね」
「ああ。カイナ村の隣みたいなものでもあるし、どうして滅びたのか、とか、何か珍しい物が無いか、とかな」
「それは面白そうだね!」
サキも乗り気のようだ。
「……でも、治安はどうなのかしら?」
文字通り無政府状態、ステアリーナの懸念も尤もである。
「治安か……そうだな……」
泊まる場所などはないだろうし、テントというのも危険がありそうだ。
最悪馬車で寝泊まりすればいいと仁は思い……。
「いっそキャンピングカー作るか」
などと言いだした。
「キャンピングカー? ……ああ、あれか」
基礎的な知識を得たサキもステアリーナも、もちろんエルザも、キャンピングカーが何かをすぐに察した。
「夜だけ蓬莱島に戻ってくるという手もあるんだが」
仁のそんな言葉に、
「……それは旅行と言えるのかい?」
サキの突っ込みが入った。それではまるで近所への散歩みたいだ。
「多少不自由でも、そういう旅行って、楽しそう」
「そうね。恥ずかしいけどわたくしもこの歳になるまでそういう旅行ってしたことなかったのよ」
エルザとステアリーナにも言われた仁は、改めてキャンピングカー作りを考えることにした。
仕様はその場にいる全員で詰めていくことにする。
「大きさから言って、最大でも5〜6人用だな」
ベッドなどを入れる事も考えるとその辺が限界である。巨大なものを作る事はできるが、道幅などを考えるとやはり大型馬車の範囲に収める必要があるだろう。
「ファミリー全員で行くことも考えて、2台作っておけばいいかな」
4人用を2台作れば全員でキャンプもできるだろう。
「お風呂に入れるといいねえ」
「……おトイレも欲しい」
「美味しいお食事も食べたいわね」
そんな希望を容れ、仁は構想を練っていった。
折り畳み式の浴槽、蓬莱島式トイレ、冷蔵庫と 魔力庫(エーテルストッカー) 、調理用コンロ。
「うーん……無理だ」
どう考えても馬車のサイズに収まらない。観光バスくらいの大きさになってしまうだろう。
「いっそもう自動車にするか……」
ほとんど人のいない地域であるし、この際ゴーレムエンジン付きの自動車にしてしまえ、と仁は決めた。
「自動車かい! それはいいね!」
以前サキは、タツミ湾へ行く時に自動車に乗っているのである程度想像がついているようだ。
ステアリーナは、知識としては知っていても、乗ったことはない。
「なんだか楽しそうね!」
イメージは漫画で見たことのあるウニモグ。悪路の走破性を考えてのことだ。そこに独自のアイデアを盛り込んでいくのはいつものこと。
下部車体は18ー12ステンレス。車輪は6輪とする。全体の大きさは小型バス並み。
車内スペースの関係上、2階建てにした。1階部分が操縦室と普段の居住空間、2階部分をベッドルーム兼展望室とした。無論屋根は開閉式。
キャビンは64軽銀で作り、軽量化を図ると共に、重心が高くなりすぎるのを防ぐ。
窓は透明な GS(グランドスパイダー) P(樹脂) 。軽くて割れず、傷や汚れに強い。
「武装は…… 魔力砲(マギカノン) 、 麻痺銃(パラライザー) 、 魔力妨害機(マギジャマー) に 電磁誘導放射器(インダクションラジエータ) 、それにレーザー砲があればいいな。礼子も一緒だし。あとは 治療器(トリートメンター) と 障壁結界(バリア) があればいいだろう」
『 御主人様(マイロード) 、先日完成した 絶対零度(アブソリュートゼロ) の魔導具、それに結界爆弾もお持ち下さい』
老君からの提案に仁も頷く。
足回りはもちろんアクティブゴーレムアーム。タイヤの材質は 疑似竜(シャムドラゴン) の革。
小さい 転移門(ワープゲート) は非常用に仕込んでおく。
「こんなものか」
メモ用のホワイトボード( GS(グランドスパイダー) P(樹脂) で作った板)に概念図を書いていた仁はその手を止めて、構想を全員に見せた。
「くふ、そうだね、それくらいあれば安全だろうね」
「……な、なんだか凄い物になりそうね……」
「……ステアリーナさん、今更」
若干引いたステアリーナに、珍しくエルザが突っ込みを入れていた。
翌朝、いよいよ自動車の製作開始だ。
「老君、材料の準備を頼む。それから 職人(スミス) を」
『承りました』
「礼子、 治療器(トリートメンター) と 障壁結界(バリア) の準備を頼む」
これらは標準で用意されているのだ。
「はい、お父さま」
「エルザは寝具を作ってくれ」
「うん、了解」
仁はてきぱきと役割を割り振っていく。
「サキは積んでいく食材の準備をペリドたちと一緒に頼む」
「わかったよ、任せてくれ」
「ステアリーナは俺のやり方を見ていてくれ」
「わかったわ。 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) の仕事ぶりをこの目で見られるなんて嬉しいわね」
『 御主人様(マイロード) 、材料の用意ができました。 職人(スミス) は51から60までを呼んであります』
「ご苦労。 職人(スミス) 51から56はタイヤを作ってくれ。57と58はフレーム。59と60は俺の手伝いだ」
「はい、ご主人様」
仁は 職人(スミス) に手伝わせて製作を開始。
「す、すごいわね……これがジン君…… 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) !」
見る見る出来上がっていく自動車にステアリーナは感動を覚えた。
その一方で、エルザもちゃんと 魔絹(マギシルク) の布団と毛布を10組完成させていたのである。
慎重に組み上げ、動作テストなどをしつつ、その日のうちに自動車は完成した。武器、装備も用意完了。食料、医薬品も積み込んだ。
「ジン君、この……自動車の名前は?」
「ああ、そうだな……『トータス』っていうのはどうだろう?」
Tortoise。リクガメのことである。相応しいかどうか微妙なのは仁故か。
「それじゃあ、明日出発するか」
「ジン兄、ハンナちゃんは?」
晴れやかな顔の仁に、エルザが問いかける。
「もちろん声を掛けるさ」
仁もエルザも、カイナ村のハンナのことは忘れてはいない。
「これからちょっと行ってくる」
蓬莱島午後6時過ぎ、カイナ村は午後4時前。
仁は 転移門(ワープゲート) でカイナ村へ跳んだ。