軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14-04 衣食足りて

翌朝、仁はカイナ村へと戻ることにした。

「ジンさん、ありがとうございました。 これからもよろしくお願いいたします」

「ジン殿、剣を感謝する!」

僅かだがカイナ村裏山からはアダマンタイトが採れる。それを使って普通の剣を補強・強化したのである。

それにより、ただの鉄剣だったそれは、稀代の名剣に生まれ変わったと言える。

ふと仁は、人も同じかもしれない、と言う思いを抱いた。

只の人だった自分が、アドリアナ・バルボラ・ツェツィの知識を受け継いで、 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) となった。

平凡な人間も同じ。

あのフレッドという少年兵士も、何か誇れる物を見つければ変わるのではないか。それは知識かもしれないし、武術かもしれない。

そして、埋もれた人材を発掘し、世の中の役に立てる。それにはやはり教育だ、との思いを強くする仁であった。

* * *

カイナ村に帰り着いたのは昼前。ゴーレム馬は便利である。

「さて、隣村ばかりでなく、こちらにも取りかからないと」

二堂城に着くや否や、仁はそんなことを呟いた。

「ジン様、何か思いつかれたのですか?」

ベルチェの質問。彼女はラインハルトの領地経営に参考になりそうな知識を得ようと懸命だ。

「暮らしを豊かにするというのはどういうことか、とずっと考えているんだけどな」

ベルチェの質問に、仁は腹蔵無く答える。

「暮らしを豊かに……」

「やっぱり、物がたくさんある、と言うことじゃないのかな?」

横で話を聞いていたサキがそんな意見を述べる。

「……物だけじゃ、ない気もする」

と、エルザ。仁は会議室へと移動することにした。

話し合いの前に昼食とする。ベーレが焼きたてのパンを運んできた。イーストを使って焼いたパンだ。

「うん、これは美味しい」

現代地球で食べたものと遜色のない味。いや、完全天然素材で余計な添加物無し、手作りな分、こちらの方が上かもしれない。

バターもジャムも付けずとも味わいがあるのだ。

食べ物はただ栄養が摂れればいいというものではない。味わう楽しみをもたらさない食事は味気ないものだ。孤児院で子供たちと接していた仁はそのことをよく知っている。

我慢を知っている大人よりも、子供の方が正直なものだ。美味しい食事は、食べた者の顔を明るくする。それは気持ちも明るくなった証拠だ。

そんな拘りを持つ仁は、食の豊かさを求めたいな、と思っているのだ。

「食の豊かさ、かい」

昼食後の打ち合わせで仁がそう提案すると、サキがまず賛同した。

「賛成だね。人間、食べなければ生きていけない。その食事の質を上げるということは豊かさに繋がるだろう」

「ああ。俺の世界に、『衣食足りて礼節を知る』という言葉がある」

「衣食足りて礼節を知る、ですか。……着る物、食べる物が十分あってはじめて、礼儀や節度を知る、と言う意味、で合っていますか?」

ベルチェの解釈で間違いはない。仁は大きく頷く。

「不足無く食べられるように、という量の問題だけじゃなく、満足できる味も同時に必要だと思うんだ」

「……不味いものを沢山食べても満足できない、ということ?」

エルザも仁の言葉の意味を察する。

「ああ。つまり、農産物の生産量を増やすと共に、その質を上げ、保存や加工法も改善していこう、ということだ」

頷く一同。仁の言いたいことがわかったようだ。

「この村にある『雪室』、ですか? あれをカルツ村にも作ろうかと思います。よろしいでしょうか?」

保存という点では雪室は有効だ。氷や雪は魔法で作り出す事も出来る。

「もちろんさ。……冷蔵庫も普及させたいな」

「 魔結晶(マギクリスタル) や 魔石(マギストーン) の値段が問題になるね」

サキの意見は正しい。庶民が魔導具に手を出す時、ネックになるのが 魔結晶(マギクリスタル) や 魔石(マギストーン) といった 魔鉱石(マギマテリアル) の値段なのだから。

「……結局、エネルギー問題に帰結するのか……」

仁がそんな呟きを漏らすと同時に、サキも思いつきを口にした。

「 魔結晶(マギクリスタル) を作れたらいいんだがね」

その何気なく呟かれたサキの言葉に仁は食い付いた。

「サキ、それだ!」

「え?」

「 魔結晶(マギクリスタル) を人工的に作れないかな?」

「なんだって?」

錬金術師であるサキにも、仁の提案はとんでもないものに聞こえた。

食にせよ何にせよ、エネルギーを使わねば始まらない。

現代地球でも、エネルギー問題は切実であった。ガソリンの高騰や電気料金の値上がりは一般庶民にとって手痛い出費である。

「だけど、この世界には 自由魔力素(エーテル) がある……」

永久機関は無理だが、『無料機関』と言えるものなら作れる。礼子たちが内蔵している 魔素変換器(エーテルコンバーター) と 魔力炉(マナドライバー) の組み合わせがそれだ。

空気中に存在する 自由魔力素(エーテル) をエネルギーに変えるそれは、クリーンなエネルギー源と言えた。

だがそれをそのまま一般に広めるのはいろいろと問題がある。軍用に使われる心配があるし、悪用されたら更に問題だ。

「電池みたいなイメージで 魔結晶(マギクリスタル) を使えるようにできないものだろうか……」

仁はそんなことまで考えていたのである。

「うーん、もしもそれができたら革命的だね……」

「ジン兄、そもそも 魔結晶(マギクリスタル) が何か、ということがわかってるの?」

エルザの言うことはもっともである。作ろうとするものを理解していないのに作れるわけがない。

「 魔力素(マナ) を含む鉱物ということまではわかってるんだが」

「そこから始めるわけだね。でも面白そうだね!」

「ジン様、もしそれができたら……価格が安いならすごいことになりますわ! 暮らしが一変するかも!」

ベルチェも太鼓判を押した。

「よーし、明日からさっそく研究してみるか」

「くふ、楽しみだね」

その日の打ち合わせはそれで終わりとし、仁は新しい食べ物のお披露目にとりかかる。

「まあ、なんでしょう?」

「ふふ、楽しみだね」

ベルチェとサキも期待に胸を膨らませている。

「おにーちゃーん!」

「お、来たな」

ハンナの声。見れば、カイナ村の子供たちのほとんどがやって来ていた。バーバラやエリックの姿も見える。他に、手の空いていた村人も来たので、総勢で40人くらいが集まっていた。

彼等は1階大広間に集められた。

「ジンさん、何を食べさせて貰えるんですか?」

バーバラがいかにも楽しみです、といった顔で尋ねた。

「ああ、今出てくるよ。……ほら」

バロウ、ベーレ、それにゴーレムメイドたちがお盆に何やら白いものを載せてやって来た。

「えっ?」

配られたものを見て、みんな目を丸くする。

「まあ、何も言わずにまず食べてみてくれ」

クリスタルの器に盛られたそれを、銀のスプーンで掬って口に運ぶ。

「冷たーい!」

「甘ーい!」

「美味しーい!」

それはかき氷であった。シトランジュースを掛けたそれは冷たく、甘酸っぱく、正に夏の味覚。

氷系の魔法で水を凍らせ、エルザに手伝わせて作ったかき氷器で削り出したもの。

「食べ過ぎるとお腹壊すからな。1人1日2杯まで。ただし1杯目と2杯目の間隔は3時間以上空けること」

1杯10トール(約100円)の格安価格で、二堂城においてかき氷販売を開始した仁であった。

お腹を壊さないようちゃんと対策をしたところが仁らしい。

かき氷は大評判となり、このアイデアとかき氷器も、10万トールという対価で首都アルバンのラグラン商会に売られることとなる。

アルバンでは1日2杯という縛りはなかったため、食べ過ぎでお腹を壊すものが続出したという……。