軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14-05 推論、検討、実験、検証

7月19日朝、仁、エルザ、サキは蓬莱島へ。ベルチェはラインハルトの待つカルツ村へ帰った。

蓬莱島にはステアリーナがいた。16日にセルロア王国ゴゥアにある自宅へ帰って以来、こっちへ来ているのだ。

「あら、ジン君、みなさん」

ステアリーナは3階の1室を専用の研究室に貰っていた。そこへ仁たちが顔を出したのである。

「今日はどうしたの?」

「ステアリーナにも考えて貰いたいテーマがあって」

「まあ、何かしら?」

仁は 魔結晶(マギクリスタル) を人工的に作る、という話をした。それを聞いたステアリーナは躍り上がって喜ぶ。

「いいわ! そういうことよ、わたくしがやりたかったことは! クリスタルや綺麗な宝石、 魔結晶(マギクリスタル) は大好きだけど、ゴーレムを作るための素材じゃないわ!」

そこで、改めて細かい話に移る。まず口を開いたのは仁。

「ゴーレムによく使われる『 魔力貯蔵庫(マナタンク) 』というものがあるよな? あれは 魔結晶(マギクリスタル) に 魔力素(マナ) を溜め込んでいるわけだ。その原理を知っているかい?」

「そうね……、恥ずかしいけど知らないで使っているわね」

技術には、経験則から導かれたものと、理論から導かれたものがある。長い試行錯誤の末に見出された技術、その一つが 魔力貯蔵庫(マナタンク) であった。

「 魔力貯蔵庫(マナタンク) にどのようにして 魔力素(マナ) が蓄えられるか、みんなも考えてみてくれ」

「……わからないなあ」

暫く考えた後、サキが降参した。ステアリーナも同様だ。だがエルザはまだ考え込んでいた。やがてエルザは顔を上げ、自信無さそうに小さな声で答えた。

「……隙間に入る、のかな?」

「正解だ、と思う」

仁はエルザの答えを察し、自分と同じ考えであることを見抜いた。だが、サキとステアリーナは首を傾げたまま。そこで仁はわかりやすい説明を始めた。

「箱の中に、大きな丸い石を詰めていく。さて、丸い石で一杯になったあと、その箱にはまだ何かが入るだろうか?」

「ん? 一杯になったんならもう入らないだろう? ……いや、違うか。砂ならまだ入りそうだよね」

サキの答えに仁は頷いた。

「そういうことさ。砂といったな、他にも水だって入るだろう? つまり、大きさが違うものなら入る余地があるということだよ」

その説明を受けて口を開いたのはステアリーナ。

「そうすると、 魔力素(マナ) というものはものすごく小さい、ということかしら?」

「そうだと思う。物質は全て、『分子』と言うものでできている。分子は目に見えないくらい小さな粒だが、 魔力素(マナ) はそれよりもっともっと小さいんだ。そして 自由魔力素(エーテル) は更に小さいと推測している」

仁は自説を開陳する。

「ほとんどの物質に 自由魔力素(エーテル) や 魔力素(マナ) は入り込めるけれど、 魔力素(マナ) を沢山入れられて尚かつ取り出しやすい物質、それが 魔結晶(マギクリスタル) なのじゃないかと思うんだ。もちろん、 魔結晶(マギクリスタル) には直接 魔導式(マギフォーミュラ) を書き込めるから、タンクとして使うための効率がいいと言うこともある」

「なるほどねえ。なんとか付いて行けてるわ。分子、とかいう言葉はあとで説明して貰う必要があるけど。……続けてちょうだい」

「さて、普通の石に 魔力素(マナ) を沢山入れて、そのまま保っておけたら?」

「……人工の 魔石(マギストーン) になる?」

今度はサキが推論を口にした。仁は頷く。

「……できるなら、な。残念ながら、俺が以前ちょっとだけ試したときには駄目だったんだが」

「そ、そう、か。ジンでも駄目だったのか……」

肩を落とすサキ。だが、ステアリーナは逆に闘志を燃やした。

「でもだからこそ、やり甲斐があるわね! つまり、 魔結晶(マギクリスタル) とはどういうものかを調べること、それに同じものを作る方法を見つけよう、ということよね?」

仁は頷き、

「ああ。まずはいろいろやってみよう」

と言い、礼子に頼んで、いろいろな 魔結晶(マギクリスタル) を用意させた。

「まずは、 魔結晶(マギクリスタル) が、なぜ属性によって色が違うのか、ということから何かわからないかと俺は思っているんだけど……」

作業台の上に置かれた色とりどりの 魔結晶(マギクリスタル) を見ながら仁が言った。

「うーん、それももちろんだけど、 魔結晶(マギクリスタル) と 魔石(マギストーン) の違いは何だろうね? 含まれる 魔力素(マナ) の量だけなんだろうか?」

「 魔結晶(マギクリスタル) は大半が透明か半透明で、 魔石(マギストーン) は不透明なのよ。わたくしが思うにはね、そこに何かあるんじゃないかと思うんだけど」

「あ、もしかしたら」

ステアリーナの発言を聞いたエルザは何かを思いついたようだ。

「 魔結晶(マギクリスタル) って、やっぱり『結晶化』している、と思う。つまり、分子配列が規則的だから、 魔力素(マナ) も入り込みやすい。でも、 魔石(マギストーン) はそうじゃない」

結晶、という言葉の真の意味を知らないサキとステアリーナはその発言が理解できなかったようなので、仁が補足説明をする。

「結晶、というのは、言うなれば分子……さっき言った、物質を作る小さな粒が、規則正しく並んでいるんだ。水晶なら六角柱に、とか」

その例えで少しは理解が進んだようで、2人とも仁に大きく頷いて見せた。

「逆に言うと、隙間がきれいに並んでいる、とも言える。真っ直ぐな道路と曲がりくねった道路、走りやすいのはどちらか、ということだな」

「さすがジン兄。その例え、私には思いつけなかった」

少なくとも、結晶質であると言うことが、 魔力素(マナ) を含み易いかそうでないかの大きな因子になるようだ。

「そうすると、次は自然に 魔力素(マナ) がそうした石や結晶に入り込むのか、ということだな」

その過程がわかり、人工的にも再現できれば、人造 魔結晶(マギクリスタル) が作れるかもしれない。

「それって……考えてわかるものなのかな?」

サキが自信なさそうな声を出した。

「うーん、まあ、どういう場所で見つかるか、を考えると少しは何かわかると思う」

「どういう場所か、だって?」

「ああ。俺の知る限り、カイナ村にある火山の近くで火属性の魔石が採れるということは経験している。土属性の 魔結晶(マギクリスタル) も見つけたことがあるな」

昨年の話である。

「蓬莱島の地下って、全部の属性が採れる、よね?」

エルザの言葉に仁は頷く。

「ああ。どうも、この島の地下には 自由魔力素(エーテル) が濃いポイントがあるらしいんだ」

その時、またもやエルザが思いつきを口にする。

「…… 自由魔力素(エーテル) が組み合わさって 魔力素(マナ) に、なる?」

「なんだって?」

その言葉を聞いた仁は思わずエルザを見つめた。仁の視線を受けてエルザはちょっと俯いた。

「そう、か……。 自由魔力素(エーテル) が原子なら 魔力素(マナ) は分子、か」

仁の呟きをエルザも理解した。

「そう、私が言いたかったのはそういう、こと」

またしても付いて来られない2人のため、仁が解説することになる。

「原子、というのは……そうだな、積み木のようなものかな。それ単体じゃただの木ぎれだけど、組み合わせると家になったり、お城になったりするようなものさ」

その例えはわかりやすかったようだ。

「そうか! 火属性、水属性、土、風……それぞれ、 自由魔力素(エーテル) が特定の組み合わさり方をしている、そういうんだね?」

サキが嬉しそうに言えば、ステアリーナもまた、

「その組み合わせを作るのが魔法であり、呪文というわけなのね!」

自由魔力素(エーテル) と 魔力素(マナ) という概念は、2人ともきちんとしていたのでその方面での説明が省けて仁としては大助かり。

「あ、もしかして、結晶の隙間の形がちょうど各属性の 魔力素(マナ) の形をしているものが 魔結晶(マギクリスタル) なんじゃ……」

仁が導き出したその説は、かなりいい線をいっているように思われた。

ポジとネガというか、雄型と雌型といえばいいか。

結晶の隙間の形がちょうどそれぞれの属性を持つ 魔力素(マナ) の形をしているものに 自由魔力素(エーテル) が取り込まれたものが 魔結晶(マギクリスタル) である、と仁は仮説を立てた。

全属性の説明が上手くつかないのが難点だが、それ以外のことは辻褄が合う。

「もしそうなら、 魔力素(マナ) が抜けた 魔結晶(マギクリスタル) というものもあるはずよね? わたくし、そういう物って見たことないんだけど……」

「 魔力素(マナ) が抜けた 魔石(マギストーン) なら良くある話だけどな」

ステアリーナと仁は首を傾げる。

「 魔力素(マナ) が抜けた 魔石(マギストーン) はただの石になるわよね」

「ああ。でも色が若干薄くなるかもな……」

あまり 魔石(マギストーン) は使わないので仁は今一つ自信のなさそうな顔をした。

「それじゃあ試してみたら?」

エルザが言った。確かに、 魔力素(マナ) が抜けた 魔結晶(マギクリスタル) がどうなるかわからないなら実験してみればいいわけだ。

「よし、やってみるか」

そこで、作業台の上にあった一番小さい 魔結晶(マギクリスタル) をエネルギー源に、何か魔法を発動させることにした。できるだけ 魔力素(マナ) の消費量が大きい方がいい。

「よし、 魔力妨害機(マギジャマー) がいい」

確かに魔力消費が大きな魔導具である。

仁は、試作品を持って来てくれるよう礼子に頼んだ。その間に、 魔力妨害機(マギジャマー) がどういうものかを簡単に説明しておく。

「ふうん、魔法の発動を妨害するのか。非常に興味深いね」

「ジン君はそんな物まで開発していたのね」

「お父さま、お持ちしました」

そんな話をしていたら礼子が戻ってきた。

「これは 魔素変換器(エーテルコンバーター) 仕様だから、ここを改造して、と。それから……」

部分的な改造により、 魔結晶(マギクリスタル) をエネルギー源にする方式にした。同時に、魔力消費を抑えるための間欠駆動を止め、連続駆動にする。

「よし、『起動』」

改造した 魔力妨害機(マギジャマー) を動作させた仁。

「こっち側にいたら、魔法が使えなくなっているはずだよ」

「ほんと? ちょっとやってみようかしら。……『 光の玉(ライトボール) 』……ああ、駄目だわ。ほんとに魔法が使えない」

「ふうん、面白いね。後でじっくり話を聞いてみたいよ」

魔法の成り立ちとか作用について、サキは特に興味を持っているのだ。錬金術の論文も『工学魔法の働きと魔力について』だったことからもそれがわかる。

閑話休題、魔力消費を増やすよう改造された 魔力妨害機(マギジャマー) は10分ほどで動作を停止した。

「よし、どうなっているかな?」

仁は 魔力妨害機(マギジャマー) の、 魔結晶(マギクリスタル) を組み込んだはずの部分を確認した。

「これは……」

魔結晶(マギクリスタル) のあったはずの場所には何も無かったのである。