軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14-03 仁の活躍

「これって……」

「あ、これですか? これ、トカ村で最近作り始めた『パシュタ』というお料理なんです。小麦粉を練って、細く丸めて伸ばして……」

「え?」

リシアの説明だと、1本1本を延ばして作っているようだ。良く良く見れば、素人が切った手打ちうどんみたいに微妙に太さがばらついている。それはいいのだが。

「……惜しいな」

掛かっているソースがあまりにも合っていない。

薄味の甘酢あんかけみたいなソースが掛かっている。こういう味が好きな人もいるとは思うが万人向きじゃない、と仁は思った。少なくとも仁の好みではない。

食べられない味ではないがバランスが悪い。パスタでなく焼きそばにかけたら美味しそうな気がする。

「……香辛料、か」

胡椒はこの世界にもあるが、地球と同じく南方で採れる。種から栽培するのは困難なのも同じ。普通は挿し木栽培である。

栽培法は仁も知らないが、蓬莱島は亜熱帯なので胡椒も栽培可能と言うことで、先頃 第5列(クインタ) 経由で手に入れ、栽培が開始されてはいた。

それはさておき、胡椒に代わる香辛料が見つかれば、トカ村の特産にできるかもしれない、と仁はパスタを食べながら考えていた。

昼食後、仁はさっそく温泉の湯脈を探していた。じっとしているのが苦手なのは貧乏性だからであり、庶民出のリシアとサキも仁のペースに合わせることは楽だった。

エルザも、仁との生活がそれなりに長くなり、仁のペースを覚えてしまっているから合わせるのに苦労しない。

だが生まれついてのお嬢様であるベルチェには少し厳しかったようで、仁が無理しないように言ったのだが、大丈夫です、と言って付いてきていた。

「『 地下探索(グランドサーチ) 』」

火山が近くにないトカ村には、カイナ村に比べて湯脈は少なかった。が、丹念に探していくと、一つ、それなりに湯量の多そうなものが見つかったのである。

「ああ、良さそうなのがあった」

「ほんとですか? 良かった!」

結果を聞いたリシアは小躍りして喜んだ。

「ついでと言っちゃなんだけど、近くに銅の鉱脈が見つかったんだけど……」

「銅ですか? 採掘は簡単なんでしょうか」

銅の鉱石は何種類かあるが、ここに埋蔵されているものは黄銅鉱らしかった。重要な銅鉱石である。

「地表付近にあるから楽だと思う。余裕ができたら採掘してみるといいよ」

「ありがとうございます!」

クライン王国の税制度は領民が領主に納め、領主が国に納める形である。領主が国に納める額は領民の数と税率で決まるので、領地内の収入が増えることは領民の生活が豊かになる事であった。

新たな銅鉱山ができれば、トカ村の収入がアップする。特産というわけではないが、リシアにとって当面の目標ができた。

だが今はまず温泉である。

「それじゃあ、この場所に作っていただきましょうか」

トカ村村長のブラークが場所を決定した。小さな川のそばである。

温泉を作るに当たってリシアが呼んできたのである。他にも若い衆や子供たちが数人、仁が何をするのか興味津々で眺めていた。

「エルザ、これは土系魔法の応用でもあるんだ」

仁はそう説明しながら魔法を使う。

「『 掘削(ディグ) 』」

穴を掘るための魔法で湯溜まりや浴槽、排水溝、そして廃湯の沈殿池、と掘っていく仁。

いつもの工作とは違う作業に、エルザも興味深くその手順を覚えていった。

だが、いくら接触状態での発動とはいえ、数十メートルもの深さの穴を一気に掘れるのは仁くらいであることに気が付いてはいない。

そんな仁はマイペースで作業を進めていく。

カイナ村で行った手順をなぞり、たちまちに温泉ができてしまった。

ただしここの温泉は単純泉。硫黄の臭いもなく、無色透明なお湯だ。温度も摂氏50度くらいで、水を混ぜて冷ます必要もない。湯溜まりに溜めておけば適温になる。

「あとは小屋掛けをしてもらえば」

「はいっ、それはこちらで行います! 村長さん、お願いしますね。日当は出しますから……村長さん?」

トカ村村長ブラークは、仁の手際を初めて目のあたりにし、衝撃で固まっていた。再度声を掛けるリシア。

「村長さん!」

「……はっ、はい! あ、ああ、ここに屋根を付けて周りを囲めばいいんですね?」

「そうです。村の人たちに使わせてあげてください。やり方はお任せします」

リシアも、最初から細かいことを口出しする気はない。準備金から日当を出し、村内活性化を図るというのは彼女自身の考えである。

「わかりました。さっそく取りかかりましょう」

「ジンさん、ありがとうございました!」

領主館に戻ったリシアは仁に頭を下げた。

「それで、ジンさんへのお礼はどうすればいいでしょうか」

「いや、それを当人に聞いたら……」

「いえ、ジンさんとは正直なお付き合いをしていきたいので」

ストレートにそうまで言われては、仁もうっかりしたことは言えない。勤めていた時の知識を引っ張り出す。

(技術者だから時給5000円くらいとして、4時間で20000円。移動時間は時給2000円で計算すると往復10時間として20000円。出張手当として10000円、大体50000円、トールで5000トールといったところか)

「それじゃあ、5000トールで」

「え」

リシアは耳を疑った。一般的なフリーの魔導士( 魔法工作士(マギクラフトマン) や治癒師)を雇うと、1日当たり1万トールは下らない。 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) の仁なら、5万トールくらいは要求されるのではないかと思っていたのだ。

だが仁はリシアの反応を逆の意味に取ったらしく、

「あー……ちょっと高かったかな?」

などと言いだした。これについてはエルザもベルチェも、そういった金銭的なやり取りは基本自分では行わないため相場を知らないので何も口出しできなかった。

「い、いえ、逆です! そんなに安くていいのかと……」

「あー……リシアだから、お友だち価格ということで……」

咄嗟に誤魔化す仁。だがリシアはその言葉を聞いて仁が思った以上に喜んだ。

「そ、そうですか! ……お友だち! うふ、ありがとうございます!」

エルザは、そんなリシアと仁の顔を交互に見つめ、小さく溜め息を吐いた。

その晩はトカ村に泊まることになる。

まだ日暮れまでには間があるので、仁は礼子をお伴に、村の中を散歩して回っていた。

「おら、ぐずぐずすんな、新入り!」

「まったく、ドジなんだからよ」

仁が、そんな声のした方を見れば、そこは兵の駐屯所である。

16、7くらいのまだ少年と言った容貌の兵士が、先輩兵士に小突かれていた。

「おら、さっさと持って来いよ」

荷物の包みを5人分抱え、その少年兵士はふらつきながらも先輩兵士の後に付いて歩いていた。

もう少しで兵舎というところで、前を行く兵士の一人が少年の前に丸太を蹴っ転がした。

荷物のせいで足元が見えていなかった少年は脚を取られ、転倒する。当然持っていた荷物も散乱した。

「す、すみません……」

「あーあ、荷物を落っことしやがってよ。汚れちまったじゃないか」

「申し訳ありません」

「お前今夜飯抜きな」

冷たくそう言って、前を歩いていた兵士たちは自分の荷物を拾い上げると、荷物に付いた泥を転がっている包みの一つで拭い、兵舎へと入っていった。

「……ひどいな」

どこへ行っても、先輩による後輩いびりというものはあるらしい。仁は見ていられなくなって、その少年兵士の元へ行った。

「君、大丈夫か?」

転んだときに膝を打ったらしく、なかなか立てないでいるその少年を見て、

「『 治療(キュア) 』」

治癒魔法を使った。仁にできるのは初級までであるが、十分な効果があったようだ。

「あ、ありがとうございます。楽になりました」

少年はそう言って立ち上がると、仁に礼を言って自分の荷物を拾い上げた。

「あ、ちょっと待て」

4人分の泥を 擦(なす) り付けられた荷物を見て仁は少年にちょっと待つように言った。

「『 浄化(クリーンアップ) 』」

汚れを落とす工学魔法である。きれいになった荷物を見て、少年は再び頭を下げる。

「あ、ありがとうございました! 僕、いえ、自分は、フレッドと言います。今年兵士になりました!」

「フレッドか。俺はジンだ」

「ジン殿ですね。ジン殿はこの村の方ですか?」

「いや、俺はここより北にあるカイナ村の住人だ」

「え? カイナ村? ……ジン……も、もしかして、ジン・ニドー殿ですか!?」

「ああ、そうだけど……」

隣にあるトカ村に赴任するということで、それなりに仁のことは聞いてきたのであろう、フレッドは狼狽え、持った荷物を落としそうになった。

「し、失礼致しました!」

フレッドは器用にも荷物を持ったまま最敬礼すると、慌てて兵舎へと逃げ込んだのである。

仁はリシアの領主館へ戻った後も、そのフレッドという少年のことが気に掛かっていた。

既に出来上がって落ち着いている集団に、あらたな構成要員を入れると、どうしても馴染むまでトラブルが起こりがちなのだ。

兵士というストレスの溜まりそうな集団なら尚更だろう、と仁は考えている。

仁のいた孤児院でも、新たに入って来た子供が受け入れられるまで時間が掛かるものだ。もちろん個人差はあり、早い子もいれば遅い子もいる。

仁は孤児院では一番の古株……年長だったから、そんな新入りの子供たちを沢山見てきたし、気にも掛けてきた。

そんな、仁に染みついた習性が、フレッドを気に掛けさせているのだろう。

「ジン殿、どうされた?」

夕食時、グロリアから声を掛けられた仁は、彼女とリシアに、夕方見た話をした。

「ふうむ、今日、駐屯兵の半数が入れ替わったのだが、そんなことが……」

グロリアは元教官をしていただけあって、その話を聞いて苦虫を噛み潰したような顔になった。

「それとなく注意しておきましょう」

リシアも請け合ったのである。