軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

14-02 トカ村へ

「……ということなんです」

「俺としてはその村独自の産業を興して、外貨……はちょっと違うか。とにかく、お金を稼ぐ手段を持つ事だと思う」

午後2時半。

川で泳いで涼んだ後、仁、リシア、エルザ、ベルチェ、サキらは二堂城会議室で話し合いをしていた。

エルザは仁の助手として。ベルチェはカルツ村経営の参考になるということで参加していた。サキは2人に付き合って、である。

村長ギーベックは欠席。夏風邪で寝込んでいた。サリィが看病している。魔法で治せばいいのにと仁は思ったが、2人ともなんだか幸せそうな顔をしていたのでやめておいたのである。

「それから衛生面の整備かな」

「なるほど、確かにそうですね」

救護騎士隊にいたリシアであるから、衛生に気を配ることがどれほど健康に役立つかは実感しているのだろう。

「……カイナ村のおトイレ、あれが欲しいです」

今現在、カイナ村のトイレは、最低限でも『 消臭(デオドラント) 』、『 分解(デコンポジション) 』、『 浄化(クリーンアップ) 』、『 殺菌(ステリリゼイション) 』が施されている。

つまり用を足したときの臭気を消し、排泄物を分子レベルにまで分解し、汚れを落としたあと殺菌を行っている。分子レベルに分解ということは、炭素、水素、酸素、窒素などと僅かなミネラル分になるということである。

炭素は上手く分解するとコークスにごく近い黒い塊となる。これは煮炊きなどに使える。

水素と酸素は分解時に完全分離させずに水としておくことで爆発などの危険を回避。僅かなミネラル分はその水に溶かして肥料に使うことにしていた。

これも化学式を知っているからこそできる魔法の応用である。

「そうですね、点検整備のことを考えると、簡易版で良ければお譲……」

「お売りできますわよ」

譲る、と言いかけた仁の言葉はベルチェに遮られた。

トイレの件では、ラインハルトもカルツ村用として、仁に譲って欲しいという話を持ちかけており、その対価も検討中なのである。

仁は最初は只で譲ると言ったのだが、ラインハルトが、領主としてそれは不健全な関係だ、と言ったのでそれ相応の対価で取引することとなったのである。

仁としてはお金でなく、何か産物がいいと思ってはいる。

それを知っているベルチェが仁にそれとなく注意したのであった。仁も気づいたようだ。ベルチェの方をちらりと見て、小さく頷いた。

「代金や支払い方法はまた相談するとしまして……」

とりあえず必要な話が進められていった。

まずはポンプの設置、トイレの入れ替えは早急に行う予定。加えてリシアは、

「温泉が出るようなら作りたいですね……」

と、やはり温泉を作りたがったのである。

「あー、そうですね、いいでしょう、俺がトカ村へ行きますよ。その時に湯脈を調べてみて、あったなら作ってあげます」

「ありがとうございます!」

椅子から飛び上がらんばかりに躍り上がって喜ぶリシア。

「も、もちろん、技術料はお支払いしますから……!」

付け加えるのも忘れない。

「それは知らない仲じゃなし、せっつくようなことはしませんよ。それよりも最初に話に上がった、トカ村の産業を考えましょう」

トカ村で何か特産物ができれば、お金も入ってくるだろうし、物によってはそれで払って貰ってもいい。

「まあ、まず考えられるのは鉱山ですね」

イナド鉱山があったくらいであるから、この辺の山には有用な鉱物が眠っていると思われる。これも『 地下探索(グランドサーチ) 』を使えばかなり詳しく調べられるのだ。

それ以外にも何かあるかと、リシアに打診してみたが、農作物はよくわからないがカイナ村と大差ないと思われる、とのこと。村人に工学魔法が使える者がいるかどうか、それもよくわからない。

まあ赴任して半月程度では無理からぬことだろう。

「それじゃあ、明日一緒にトカ村へ行ってみましょうか」

「ありがとうございます」

「ジン様、わたくしたちもご一緒させてくださいませ」

「ジン、後学のために一緒に連れていって欲しいな」

ベルチェとサキの提案に、リシアも賛成した。

それで翌日は、仁、エルザ、サキ、ベルチェがリシアと共にトカ村へ行くことになったのである。

「お飲み物をお持ちしました」

話が終わったちょうどその時、ベーレがジュースを持ってやって来た。

「どうぞ」

全員に配られたそのジュースは、よく見るとぷつぷつと泡が立っている。水晶製のグラスなので様子が良く見えた。

「ジ、ジンさん、これって……」

リシアは初めて見るそのジュースを不思議そうに見つめた。

「ああ、炭酸入りジュースだよ」

公人としての時間は終わり、ということで仁はいつも通りの口調に戻した。

「え? 炭酸?」

「そうさ。美味しいよ」

仁はリシアの目の前で自分の分をぐいっと飲んで見せた。

空気中のヘリウムを取り出す魔導具を作った仁、ちょっと弄れば二酸化炭素だけを取り出すこともできる。というわけで、1週間ほど前から、低炭酸のジュースがカイナ村で流行っていた。

低炭酸にしたのは、慣れない村人が咽せたり咳き込んだりしたからである。味はシトランとラモンの2種類。

二堂城と温泉で販売している。値段は格安で、コップ1杯3トール(約30円)。

今はバトラーが作って売っているが、軌道に乗れば、村人を雇ってやらせる予定である。

それはさておき、エルザやサキ、ベルチェも美味しそうに飲んでいるので、リシアもこわごわ一口飲んでみた。

「……えっ」

口の中で弾けるような刺激。シトランの酸味と甘味とに相まって爽やかな喉越し。

「美味しい……!」

気が付けばあっと言う間に飲み干してしまっていた。

「ジンさん、美味しかったです!」

「それは良かった」

空になったグラスを見つめてリシアは、

「特産、ってこういうものを言うんでしょうね……」

しみじみと呟いたのであった。

* * *

翌日、7月17日。

仁たちは予定通りトカ村へと出発した。

仁と礼子、エルザとエドガー、サキとアアル、ベルチェとネオン。そしてリシア。全員ゴーレム馬である。

カイナ村とトカ村間は約80キロ、道が少々荒れていても、ゴーレム馬なら3〜4時間で移動できる。

よって、一行は、昼前にはトカ村に到着できたのである。

「ジン殿、ようこそ!」

グロリアが出迎えた。彼女は7月いっぱいはトカ村に留まり、リシアの補佐をすることになっているのだ。

「け、剣は? できたのでしゅか!?」

リシアに声を掛ける前に剣の話をし、しかも噛んでいるあたりやっぱりグロリアである。

「ええ、できましたよ。それよりグロリアさん、リシアを放っといていいんですか?」

「あ……」

慌ててリシアの馬に駆け寄り、その轡……でなくハンドルを取る。リシアは苦笑しながら馬から下り、グロリアに馬を任せた。

「それでは休憩を兼ねて昼食にしましょう」

兵舎に隣接して建つ仮の領主館へと一行を誘うリシア。トカ村の村人たちはそんな一行を遠巻きに眺めている。

仁の顔を何となく覚えていた者もいるようで、『あの時の……』などという単語がそこかしこで囁かれていた。仁がカイナ村領主だと気付いている者はいない。

「な、なんか、ご、ごめんなさい」

その囁きは仁たちの耳にも届いていて、リシアは1人、身の置き所がないような思いをしていたのである。

領主館に入ってほっとするリシア。グロリアは馬を厩舎に繋いできた後、仁から剣を受け取ると代金の金貨25枚を払い、興奮して外へ出て行ってしまった。

あれが治らない限り万年副隊長だろうな、と仁もリシアも心の中で思っていたのである。

「それではお昼を用意させます」

下働きをしてくれている村人に合図をすると、これも村人が、3人掛かりで食事を並べていった。

その中に仁も見慣れないものがあった。

「……これは……」

皿の上に乗っていたのはどう見てもパスタだった。