軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13-26 閑話24 エリックの店

ラグラン商会、カイナ村支店。支店長はエリック。

商っている商品は、日用品、衣料品、調味料、若干の書籍など、など、など。

要するに 萬屋(よろずや) 的な店である。

午前中は併設した工房で日用雑貨を作ったりしている。

「ほ、本当に、ここを貸していただけるんですか?」

「ああ、この村で商売してくれている限りはな」

広い敷地に2階建ての店兼住居。それが無料で借りられるというのでかえって不安を覚える。

「ただしバーバラを泣かさないこと」

「え、あ、はい、もちろん」

それだけの条件で、馬小屋・馬車置き場・倉庫が付いた2階屋が貸し与えられる。

家の方も、1階は裏手が工房で表が店になっており、台所や洗面所、トイレも付いている。

2階は4間あって、ベッド付き。見たことのないような寝心地のいい布団がなぜか2組。

そして2階にも簡単な流しとトイレがあった。

王都でこれだけの店舗を借りようと思ったら、月に1万トールでは済まないだろう。

仁としては、バーバラと結婚してくれればお祝いに譲ろうとまで考えているのだが、肝心のエリックはそれを知らない。

* * *

「おはよう、エリック」

「やあ、バーバラ」

村長の姪、バーバラは毎日手伝いにやってくる。もう村では知らない者もいない公認のカップルだ。

「今日は何作ってるの?」

「ああ、これだよ」

エリックは作りかけの道具を見せた。

「あら、水鉄砲ね」

昨年仁が作ったおもちゃである。

「うん、この前、子供たちがこういうので遊んでいるのを見て、売れると思ったんだ」

「売れるって……ああ、本店でね」

「そういうことさ」

普通は逆であるが、ここカイナ村は新しい文化の発信基地になると見て、ラグラン商会は注目していたのである。

「そう言えばさ、エリック」

「ん?」

「その、……いつ、まで、いられるの?」

「カイナ村に、ってことかい? ……そうだなあ、少なくとも1年は」

「そ、そうなんだ」

エリックは、実はラグラン商会の商会長の孫なのである。工学魔法の素質があったため、2年ほど王都のセシリオ魔法学校に通い、初歩の技術を一通り身に着けていた。

「よし、できた」

北の山奥で採れる白雲母を加工して作る水鉄砲。ピストル式の物だ。エリックは試しに水を入れ、引き金を引いてみる……。

先から水がちゅーっと飛び出すはずが、そこかしこに空いた隙間から噴き出した。

「わっぷ」

「きゃあ! 冷たい!」

びしょびしょになる2人。特にバーバラの方は薄い麻の上着だったものだから、いろいろと透けたりしてまずいことになっていた。

「み、見ないで!」

「え、あ、ごめん!」

顔を真っ赤にして駆け出していったバーバラの背中を、これも赤い顔で見送るエリックであった。

* * *

昼からは商店の方を開業する。

「えーっと、胡椒はある?」

「はい、いらっしゃいませ、どのくらいお入り用ですか?」

「100グラムちょうだい」

「400トールもしくは 魔石砂(マギサンド) なら200グラムになります」

「じゃあ400トール、はい」

「まいどありがとうございます」

現在のカイナ村では、 魔石砂(マギサンド) やペン先、ゴムボールなどを売って獲得した通貨も流通し始めている。同時に、旧来の物々交換も受け付けていた。

ラグラン商会はカイナ村との付き合いが長いため、そのあたりは便宜を図っていた。もちろん仁が治める村という理由があることも否めないが。

それだけラグラン商会ではカイナ村、ひいては仁との付き合いを大事にしたいと思っていたのである。

戸数約30戸というカイナ村では、千客万来というように商売が忙しくなると言うことは有り得ない。

エリック1人で切り盛りできる程度の売り上げがほとんどだ。

それではどうして支店を出したかというと、やはり『新しい商品を見つける』、これに尽きる。

午後3時頃には一旦店を閉め、エリックは村を巡りに行く。いろいろ新しい発見を期待しているのである。

今日の目的地は二堂城だ。

手土産のお菓子を持ち、城へ。ちょうど休憩時間だったらしく、バロウとベーレは食堂の片隅でお茶を飲んでいた。

「こんにちは」

「あら? いらっしゃいませ。エリックさん、でしたね?」

「はい、ラグラン商会のエリックです。いろいろお話伺いたくてお邪魔しました。今、よろしいですか?」

「ええ、ちょうど私たちも休んでいたところです」

それはよかった、とエリックは手にした菓子を差し出そうとして、ふと鼻をひくつかせた。

見れば、バロウとベーレの前に、見慣れぬ黄色いものがあった。切り取った跡があるところを見ると、食べ物なのだろうか。

「あの、お二方が召し上がってるそれは?」

「ああ、ホットケーキといいます。そうだ、エリックさんにも御馳走しましょう」

ベーレはそう言って、つと席を立つと、棚から何か粉を出し、卵とミルクを混ぜてかき回し始めた。

「えーと、恐縮です。あ、これ、よろしかったらどうぞ」

「あ、わざわざありがとうございます」

受け取ったバロウはきちんとしたお辞儀をした。

勧められた席に座り、バロウと世間話をしていると、いい匂いが漂ってくる。

「はい、お待たせしました」

10分もかからず、ベーレが差し出したホットケーキ。蓬莱島で作られ始めたそれを、ペリド101は早速にこちらでも作れるようにしたのだ。

もちろん、仁がこちらでも味わうことが出来るように。

「これが『ほっとけえき』ですか」

「バターかシロップか、それともジャムか、お好みでどうぞ」

「そ、それじゃあシロップで」

砂糖水を煮詰めて作るのが一般的なシロップで、その砂糖も若干茶色みのあるもの(三温糖くらい)がほとんどなのに、ここのシロップは無色透明であった。

つまり真っ白に精製した白砂糖を使っているということ。これにエリックは仰天した。後でお金を請求されないかとまで考えたほどだ。

だが、目の前のバロウとベーレがたっぷりとバターを塗り、たっぷりとシロップを掛けているのを見て、自分も思わず同じようにしてみた。そして一口。

「……美味しい」

いっぺんでエリックもこの味を好きになった。お茶の渋みとよく合う。

「お気に召しましたようで、よかったです」

ベーレのそんな言葉もろくろく耳に入らないエリックは夢中でホットケーキを平らげてしまった。

「あの、このほっとけえきの作り方って、教えていただけませんか?」

「うーん、そうですね。ジン様からの許可をいただかないと」

そう言って断られてしまった。

この数日後、カイナ村に戻ってきた仁に懇願し、ポンプの時と同じ10万トールで製法を伝授してもらう事になる。

* * *

午後4時、再度店を開けるエリック。夕食に向けての買い物客がやってくるのだ。

「お砂糖1キロちょうだいな」

「はい、毛皮で10枚いただきます」

「お塩ください」

「はい、1キロ150トールです」

そして長い夏の日も暮れかかる頃、二堂城の鐘が鳴り、午後6時を知らせてくれる。

評判がよかったので、いろいろ考慮して夏時間は午前6時と午後6時に、冬は午前7時と午後5時に設定したのだ。

店を閉め、売り上げを計算しようとしたところにやって来たのはバーバラ。

「エリック、もう晩御飯食べた?」

「いや、まだだ。売り上げ計算したら仕度しようかと……」

「今夜はうちに食べに来ない?」

「え? いいのかい? じゃあ、お言葉に甘えようかな」

「決まりね! じゃああたしも計算手伝うわ」

その言葉に驚くエリック。普通、農村の娘が計算できるというのは珍しい。

「ありがとう……って、バーバラ、計算できるのかい?」

「馬鹿にしないでよ。これでも勉強してんだから!」

そう言ってエリックの隣に座り、計算を始めるバーバラ。心配そうに横で見ていたエリックは、正確でしかも速い事に驚いた。

「そりゃあそうよ。ミーネ先生に教わったんだから。単に1日の売り上げを合計し、原価を引く、程度の計算なら楽なもんだわ」

実際は、エリックの手伝いをしたいがため、特別授業的に計算を習ったのだが、そこはそれ、口にするようなことはしない。

「助かるよ、バーバラ」

「……(いい奥さんになれるかな)」

「え? 何か言ったかい?」

「い、いいえ! なんでもないわ! ……さあ、こっちは終わり!」

「こっちも終わった」

バーバラは勢いよく立ち上がり、エリックの手を引いた。

「さあ、行きましょう」

「う、うん」

仲睦まじそうに歩く2人を見ていたのは昇ったばかりのお月様だけであった。

……ならいいのだが、エリックの店からギーベック宅までの間、マーサ、ハンナ、ジョナス、ノナなど多くの村人に見られており、外堀が既に埋まっているのを知ったエリックなのであった。