軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13-27 イナド鉱山

時間は少し戻って、6月の中旬。まだショウロ皇国で技術博覧会が行われていない頃。

クライン王国では、連日、会議が紛糾していた。

現在の議題は旧ワルター伯爵領のイナド鉱山である。

旧ワルター伯爵領を分割して、功績のあった新貴族に下賜するという方針は既に決まっていた。

トカ村は準男爵、リシア・ファールハイトに。そしてその東にあるイナド鉱山を、追加で仁の租借地に組み入れることも。

問題は、そのイナド鉱山にあった。

イナド鉱山では、金、銀と若干の 魔結晶(マギクリスタル) などが採れる。それらは王国の収入源として、また産業を支える資源として、鉱物資源全体の約5パーセントを占めているのだ。

5パーセントの収入源を手放すのはいかにも惜しい。

自分が決めたことであるのに、いざとなると手放すのが惜しくなるのが人間であるのかもしれない。

「それでは、正式にジン殿の租借地とするのは8月1日からとし、それまでに出来る限りの採掘を行うと言うことでよろしいか?」

これである。

クライン王国国王、アロイス3世は閣僚のいじましさにそっと溜め息をついた。

「(旧貴族どもの腐敗ぶりはワルター伯爵だけに留まらないようだな……)」

だが、それを口に出すことも、態度に表すこともできないのが彼の王としての限界であった。

「それでは、鉱夫をどうするか、ですが」

「人間では効率が悪い。こういう時こそ、ゴーレムを使うべきでしょうな」

「ちょうど、汎用ゴーレムが20体あるではないですか。それを10体ほど送り込めばよろしいかと」

仁が作っていったものである。

一見すると国の利益のためであり、明確な論拠を持って反論することもできないので、国王であっても頭ごなしに駄目だと言うわけにもいかなかったのである。

翌日、10体の汎用ゴーレムと荷馬車隊が送り出された。同行するのはリーダーであるバイヤー子爵、ボールトン・オールスタットとハインツ・ラッシュの3名と、そして荷馬車の御者たち。

バイヤー子爵は鉱山管理に詳しいと言うことでリーダーとなった。また、ボールトンはその『顕微の魔眼』で鉱石の分別が出来る。ハインツは警護である。

一行は6日かけてイナド鉱山に辿り着いた。

イナド鉱山は小山の上にぽっかりと口を開け、坑道は斜め下へ向けて掘られている。

周囲は、ワルター伯爵がカイナ村を襲わせようとして、鉱夫をさせていた犯罪者を解放するために管理用の魔導具を壊した、その時のままであった。

「よし、さっそく作業開始!」

散乱した岩屑、魔導具の破片などを片付けた後、さっそく掘削を開始させた。

仁が作り上げた汎用ゴーレムの性能はもの凄いの一言に尽きた。

蓬莱島のゴーレム達には遠く及ばないが、普通の人間の約10倍の力がある汎用ゴーレムは、ツルハシ、タガネ、ハンマーなどを手にし、どんどん鉱石を掘り出していく。

空気の心配もいらない、食事の必要もない。

ただ1日1回、 魔力貯蔵庫(マナタンク) に 魔力素(マナ) を充填してやればいいだけだ。そのための 魔力素(マナ) 供給器も馬車に積んできている。

明かりも必要最低限で済む。

これらは全て仁の功績なのだが、バイヤー子爵はそんな事に気が付きもしない。

ただ目の前に積み上げられていく鉱石の山をにたにた笑って見つめている。

ボールトンはそれらを鑑定し、金・銀鉱石、水晶・石英、 魔結晶(マギクリスタル) 原石などに分類していく。

「やはり、鉱脈が尽きてきているようですな。金を含んだ鉱石の割合が落ちてきています」

ボールトンの報告に、バイヤー子爵は新たな命令を下す。

「もっと深く掘ってみよう。ゴーレムなら可能だろう」

例え水が湧いたとして、水中でもある程度は作業可能なのがゴーレムの利点である。普通の人間であれば不可能なほど深いところまで、鉱脈を掘り下げることを子爵は命じた。

こうした1週間の作業で、なんと2ヵ月分の鉱石が採掘された。

作業がルーチンワーク化してくると、子爵は最寄りの村すなわちトカ村へ頻繁に下りていくようになった。

距離から言えばカイナ村の方が近いのだが、そこはそれ、いずれ知られるにしても、急ピッチで採掘していることを今知られたくはないという心理からだ。

* * *

しかしそんな用心も、カイナ村監視システム『庚申』の前には無力であった。

以前のワルター伯爵による襲撃未遂事件以来、イナド鉱山も監視対象になっていたのである。

加えて、汎用ゴーレムに取り付けられた、追跡システムと呼ばれる老君と繋がった特別な魔力回線がある。その追跡システムによりゴーレムの行動は全て筒抜けであった。

『彼等は必死になって鉱石を採掘していますね』

『はい。すこしでも自分たちの懐に入れようと必死のようです』

『いじましい、と言いましょうか。まったく欲深い人間というのはどこにでもいるものですね』

『同意します。それで、どういたしましょう?』

『放置でいいでしょう。あんな貧弱な鉱山、あってもなくても同じです。それに、 御主人様(マイロード) のことですから、管理が面倒だからと突っぱねる可能性もありますし』

老君が貧弱と評するのも無理は無い。

イナド鉱山の日産量は、およそ金0.5キログラム、銀3キログラム、銅6キログラム。錫4キログラム、亜鉛10キログラム。ミスリル銀0.1キログラム。水晶・石英150キログラム、瑪瑙15キログラム。そして 魔結晶(マギクリスタル) 0.5キログラム、といったところ。

蓬莱島の500分の1くらいである。しかもこれは仁が作った汎用ゴーレムの性能のおかげ。人間が行っていたときはこの10分の1も無かったのだ。

『それにしても随分深く掘ったようですね』

最高点はカイナ村よりも高地にあるイナド鉱山。その主坑道の深さは100メートルを超え、150メートルに届こうとしていた。

* * *

7月1日。リシアが正式にトカ村領主に就任した日である。

バイヤー子爵は前日朝にはトカ村での休息を止めて発ち、リシアと鉢合わせしないようにしていた。リシアが仁とそれなりに親しいことを知っていたのである。

「さて、そろそろ潮時かな」

率いてきた5台の荷馬車のうち4台は既に送り帰している。残った荷馬車も、半分以上鉱石で埋まった。あと1日か2日で一杯になるだろう。

性能のいい汎用ゴーレムとはいえ、150メートルを超える地下深くから鉱石を搬出するため、思った以上に時間がかかっている。

「これ以上効率が悪くなったら採算が合わなくなるしな」

既に、人間が採掘するのは不可能な鉱山になってしまっているのだ。そんな鉱山を贈るというのはむしろ相手を侮っているということになるのだが、子爵はそのような事を気にしてはいない。

気にするのは国であり、王家であるからだ。自分は命じられた仕事を果たしただけである。

(ほんのちょっと、上前をはねたけどな)

心の中だけで呟くバイヤー子爵。掘り出した金鉱から、2キロほどの金をこっそり精錬して自分のものにしていたのである。そう、子爵は『 精錬(スメルティング) 』の工学魔法を使えたのだ。

そして7月2日。

ほぼ荷馬車はいっぱいになり、この日1日で作業は終了をすることになった。

連日鉱石を鑑定していたボールトンが一番喜んだ。

「これで帰れるか。まったく、命令とはいえ、やりたくない仕事だったな……。そういえば、トカ村にグロリアが来ていると聞いたが、明日会えるかもしれんな」

そんなささやかな希望を持った。

しかし。

午後6時、主坑道の深さが200メートルになんなんとしていた、その時である。

突然地響きがした。

「何だ?」

次いで、坑道から轟音と共に土埃が噴き出してきた。

「落盤か?」

200メートルを超える坑道が崩落したらただでは済まない。ゴーレムといえども無事ではいられないだろう。

貴重な汎用ゴーレム10体を失うかも知れない、その責任が自分に掛かってくるという思いでバイヤー子爵は青ざめた。

だが、事態はそんな単純で生やさしいものではなかったのだ。

崩れかけた坑道から、大量の岩が噴き上がってきた。それは数10メートルも宙を飛び、落下する。坑道出口付近の立木は悉くへし折られた。

10体の汎用ゴーレムも一緒に噴き出してきた。が、腕が取れたもの、脚が曲がっているものなど、無事なものは1体もない。

「こ、これはただの落盤ではないぞ!」

止まない地響きにボールトンが叫んだ。ハインツも油断無く身構えている。ただ一人、バイヤー子爵は狼狽え、事態が把握出来ていないようだ。

そして『それ』は現れた。

「何だ、これは……」

坑道から這い出てきたもの。

直径5メートル、長さ50メートル。金属光沢を持つ体表面はメタリックグリーンにぎらつき、その両側面には無数の脚が蠢いている。目は4つ、赤く輝いていた。

「百足……か?」

それは、巨大な百足に良く似た魔物であった。

「う、わああああああ!」

1匹ではなかった。2匹、3匹……計5匹の巨大百足が這い出してきたのである。