軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13-08 侯爵家へ

ホットケーキを食べ終わった仁たちは、戻るまでもう少し時間があったので、それぞれやりかけたことを片付けに戻っていく。

エルザは、ゴーレムメイドたちと一緒に働いているリサの様子を見に。

ラインハルトはノワールの動作確認を継続。

ベルチェとミーネは律儀にも食器の後片付け。

仁は再び地下ホールへ行き、老君に進捗状況を尋ねた。

『 御主人様(マイロード) 、マルカスについて中間報告をいたします』

「わかった。聞かせてくれ」

『はい。やはり、 御主人様(マイロード) の読みは当たりました。レベル8での 知識転写(トランスインフォ) により、いろいろなことがわかってきましたから』

記憶を消したと思っていても、残っているものらしい。消したのではなく思い出せなくした、と言った方がより近いだろう。

パソコンで例えるならファイル読み出しできないようプロテクトを掛けた、もしくは FAT(ファイル・アロケーション・テーブル) を消した、といえばいいだろうか。

表面的には消えているように見えても、実際は消えていなかったのである。

「そうか! で、わかったことは?」

『はい。……重要な示唆がありました。まず、マルカスを操っていたのは魔族で間違いないこと』

それは予想済み。それが裏付けられたと言うことだ。

『その名はマルコシアス。似た名前なのでマルカスをターゲットにしたようです』

名前で選ばれたというのはかなりマルカスも運が悪かったようである。

『ここからが重要です。まず、マルコシアスつまりマルカスは、人間の技術・生態・社会などを調査していました』

エルザにも言っていた。実力を計る、と。それが奴の役目だったのであろう。

『人間の反応をみるため、いろいろなことをやったようです。ゲオルグ・ランドルの兄への劣等感、それを利用して 暗示(セデュース) に似た魔法を掛け、行動を操りました』

老君の分析と推論によれば、心の底の願望を呼び覚まし、助長させたようだという。

「なるほど、それであの異常な行動か」

『はい。侯爵に毒を盛ったのは独断でした。これは間違いないようです』

それは朗報であった。これによりかなり事情は変わってくる。エルザが聞けば喜ぶだろう。

「他には?」

『はい。ミーネさんへの 暗示(セデュース) もその一環だったようです』

老君は中間報告は以上です、と言って締めくくった。

マルコシアスの能力についてとか、魔族の技術についても知るチャンスである。

「わかった。引き続き頼む」

仁はほっとしていた。侯爵の毒は、エルザの父、ゲオルグ・ランドル元子爵自身が指示していたわけではなかったのだ。

そう思ってみれば、毒を盛るタイミングが悪い。エルザが嫁ぎ、子供が生まれてから毒殺した方がより有利だったはずだから。

これで、侯爵の見舞いに行った時の罪悪感が消えた、と仁は安堵した。

それから2時間後、仁たちはランドル伯爵家へと戻ったのである。

明けて6月26日。仁たちはテオデリック侯爵家を目指す予定であったが、思わぬ事態が生じていた。

「ジン!」

「3日ぶり、かのう?」

一つは、ラインハルトの実家、ランドル伯爵家にアーネスト王子とリースヒェン王女がやって来たことである。

そして更には。

「『ジン・ニドー殿、汝を名誉士爵とし、同時にエゲレア王国も 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) の称号を贈るものである』」

「『ジン・ニドー殿、汝を名誉士爵とし、同時にクライン王国も 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) の称号を贈るものである』」

文書を読み上げる王子王女。

エゲレア王国とクライン王国も、仁に 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) の称号を与えてきたのであった。

「 魔素通話器(マナフォン) って便利だねえ。一昨日の朝、父上に技術博覧会の一部始終を報告したら、昨日の朝にはジンに 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) の称号を与える、って連絡が入ったんだよ」

「うちも同じじゃな。父上にしては決断が早かった。他国に後れを取ってなるものかと思ったんじゃろう」

王子王女両殿下は、仁に公的通達を終えると、いつもの調子に戻って気さくに笑った。

「ジン、おめでとう! 3国から認められて、もう押しも押されもしない 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) だな!」

ラインハルトは我がことのように喜んだ。

「ジン兄、おめでとう」

「ジン様、おめでとうございます」

「ジン様、心よりお祝い申し上げますわ」

「お父さま、おめでとうございます!」

エルザ、ミーネ、ベルチェも仁が他の2国でも 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) を称することができたことを喜んでくれた。そして礼子が、身体全体で喜びを表していた。具体的には今にも踊り出しそうな様子が見てわかるほどだった。

「のうジン、 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) って何なのじゃ?」

自分が認定した 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) を知らないらしく、リースヒェン王女がそんな質問を仁にしてきた。

「リース、 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) っていうのはね、元々は大昔にいたという、伝説的な 魔法工作士(マギクラフトマン) のことだよ」

さすがアーネスト王子、仁より先に答えてしまった。

「ほうなるほど、つまりジンは、その2代目という扱いになるのじゃな?」

「そういうことになるね。そのうちセルロア王国とフランツ王国、エリアス王国からも使者が来るかも?」

仁を差し置いて2人で会話し始める王子と王女。その微笑ましさに仁も思わずにっこりした。

魔法工作士(マギクラフトマン) の頂点、という認識をされている 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) であるが、実はそれだけでないことを仁は知っている。いや、仁だけが知っている。

それは、『工学魔法のライブラリへのアクセス権』である。

魔法使い、魔導士と呼ばれる人種は、空気中にある 自由魔力素(エーテル) を呼吸などで取り入れ、体内で 魔力素(マナ) に作り変えることができる。

体内の 魔力素(マナ) は魔法を使えば減少するが、時間が経てば空気中の 自由魔力素(エーテル) を取り込んで回復する。

この 魔力素(マナ) は、精製した人間の意志とイメージにより、様々なエネルギー形態を取らせることができ、またそれを操ることができる。これが魔法である。

言霊としての詠唱はイメージのサポートであり、イメージがはっきりしていれば詠唱は必要無い。

火や光、風を吹かせるなどの単純な現象は初級魔法に分類され、魔法を使える者なら簡単にできる。

中・上級魔法になると、発動までの過程が複雑になるので、誰でもできるというわけにはいかなくなる。

中・上級魔法発動の手順は例えるならコンピューターソフトのようなもの。

工学魔法なら高級な3Dモデル製作ソフトに例えられるだろう。

このソフトがどこにインストールされているかというと、『魔法のある世界』の『ライブラリ』である。

魔法の才能とはすなわち、そのライブラリへのアクセス権があるか無いかということになる。

仁はほぼ無制限の『工学魔法』ライブラリへのアクセス権を持っているというわけだ。

その一方で、攻撃魔法ライブラリにはほとんどアクセス出来ないのである。

そういった魔法理論が忘れ去られて300年にならんとしている。魔導大戦という大きな事件が世界を変えてしまったのだ。

「殿下方はいつまでこちらに?」

こちら、というのはショウロ皇国という意味である。

「うん、今月いっぱいって予定だよ。今日ももう少ししたらこの家をお 暇(いとま) しないといけないんだ。自由な時間が欲しいよ」

王子という身分なので、なかなか自由時間が取れないとぼやくアーネスト王子。

「アーネスト様、それは 妾(わらわ) も同感です……」

2人の殿下は顔を見合わせて苦笑し合うのであった。

* * *

午前中は思わぬイベントが発生したため、昼食を取った後、仁、エルザ、ミーネ、ラインハルト、そしてベルチェの5人はマハハマにある侯爵家を目指した。

礼子、エドガー、ネオン、ノワールはいつも通りだが、リサにはフード付きコートを着せてあり、姿はまだ見せないようにしてある。

今回もノワールはゴーレム馬に乗って、そして礼子は仁の膝の上。何せ馬車が定員オーバーだから致し方ないのである。

バンネとマハハマ間の道程はおおよそ50キロ。普通の馬車ならゆっくり1日行程だが、仁の馬車では1時間足らずで着ける。

が、他の馬車とのすれ違いもあって、そうそう時速50キロは維持できず、結局1時間半くらいかかってしまった。

侯爵家は周囲を森に囲まれた静かな環境に建っていた。古めかしい石造りの3階建て。左右に尖塔が突き出している。

「やあジン、ラインハルト、ベルチェ、エルザ、ミーネ。久しぶり」

侯爵邸の前では多くの使用人が整列して出迎える。その中をサキが進み出て来た。侯爵家令嬢らしいドレス姿である。髪飾りまで着けていた。

あまりの変わりように仁が絶句していると、その原因に思い当たったサキは少し頬を染め、苦笑を浮かべた。

「くふ、やっぱり似合ってないだろう?」

「あ、い、いや、そんなことないぞ? あまりに似合いすぎて見違えたというかだな、その……」

その時横から助け船を出したのはラインハルト。

「いやいや、似合ってるぞ、サキ。元がいいから何着ても似合うなあ」

「……」

ラインハルトからの言葉に、今度はサキが真っ赤になって押し黙ってしまった。

「まあ、皆様、ようこそいらっしゃいました」

それをフォローするように、一行に挨拶したのはカレン。

「早馬で連絡いただき、父も楽しみにしていますわ。……エルザさん、帰国されたんですのね、お祝い申し上げます」

まだ顔を赤らめているサキを尻目に、カレンはてきぱきと使用人たちに指示を出し、一行を招き入れた。エルザに声をかけるのも忘れないあたり、如才がない。

ミーネには声をかけないカレン。ミーネはエルザ付きの侍女だと思っているのか、それとも実母だと勘付いているのか。

広い応接間。その奥に、絨毯の敷かれた一角があって、安楽椅子に腰掛けた侯爵が待っていた。

「おお、ジン殿、よく来られた。 魔法工学師(マギクラフト・マイスター) の称号を受けたと聞いた。まずは重畳。私はこんな身体なので座ったままで失礼する」

まだ身体はガリガリに痩せてはいるが、黄疸の出ていた皮膚は健康そうな色に戻っており、明らかに容態はよくなっているようだ。

「ラインハルト、ジン殿の饗応接待ご苦労だな。ベルチェ嬢……ではない夫人、新婚生活はどうかね?」

「あ、はい、とても素敵ですわ……」

「ふむ、ラインハルトとの相性もいいようだ。女の色気も出て来たようだな」

そう言って笑う侯爵。一つ間違えばセクハラ発言であるが、生憎とこの世界にはそういう概念は無い。

「……」

まだ少し苦手意識を持っているのか、エルザは無言のまま、仁の後ろに隠れるようにして立っている。そんな彼女に気付いた侯爵。

「エルザ、もっとこっちへおいで。何、もうお前を嫁にしようなどとは言わんよ」

手招きされては隠れたままでいられず、エルザはおずおずと進み出た。

「ふむ、少女だと思ってばかりいたが少しずつ大人になってきたようだな。ジン殿の教育の賜物かな?」

「え、あ、はい」

言われた事がよくわからず、おかしな返事をしてしまったエルザ。そんな彼女を侯爵は目を細めて見つめた。

そして侯爵は一行に席を勧める。

「まあ、皆、座ってくれ」