軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

13-07 ホットケーキ

仁は礼子だけを連れペガサス1に乗り、蓬莱島の研究所裏手の広場に設置された『受け入れ側のいらない 転移門(ワープゲート) 』改め『転送機』でタキの町上空へ転移した。

念には念を入れ、まず小さなゴムボールを転送し、現場近くにいるレグルス50に確認させ、問題がないことを検証したのち、ペガサス1が転送される。

今回はレグルス50に方位決定のマーカー役をさせたため、誤差はほとんど無かったようだ。

「うーん、そうすると、既知世界にマーカーを設置していけば……」

その呟きは老君に伝わり、世界各地にマーキングしていくのはもう少しだけ先の話である。

まだ明るいので 不可視化(インビジブル) を作動させ、町外れに着陸。レグルス50の案内で療養所へと向かう仁と礼子であった。

「ここです」

タキの町外れにある小さな療養所。その1室にマルカス・グリンバルトは寝かされていた。

「……これはひどいな」

見るからに衰弱しているのだ。意識も戻っていない。礼子は興味も無さそうにしている。仁に敵対した相手なのでこの態度も当然だ。

一方仁はレグルス50と話をしている。

「おそらく、無理矢理に身体を強化して行動させられた反動と思われます」

マルカスは人間だった。それが、魔族に操られ、人外の身体能力を発揮させられたのである。筋肉も腱も靭帯もそして骨もぼろぼろだったそうだ。

「治癒師によってようやくここまで回復したのです」

「わかった。時間もないから手早く済まそう」

仁は用意してきた 魔結晶(マギクリスタル) をポケットから出すと、 知識転写(トランスインフォ) をレベル8で使用した。通常の最高レベルである。

この上は、人格までコピー出来るレベル9と、先代が仁に知識を受け渡すときに使ったレベル10があるのみ。

レベル10は9とは違って、知識に『注釈』まで付ける事ができる。その分時間はかかるのだが。

それはさておき、レベル8の 知識転写(トランスインフォ) を掛けられたマルカスの頭に 魔導式(マギフォーミュラ) が浮かび、それらは 魔結晶(マギクリスタル) へと消えていった。

「これでよし。解析は老君にやらせよう」

仁は病室を出、ペガサス1に戻った。

見送りのレグルス50に、ペガサス1備え付けの回復薬を1瓶渡す仁。

「これを少しずつ飲ませてやれ。回復が早まるはずだ」

そして仁と礼子はペガサス1備え付けの 転移門(ワープゲート) で蓬莱島に戻る。ペガサス1は自動操縦で帰島することになる。

『お帰りなさいませ、 御主人様(マイロード) 』

「老君、これを解析してみてくれ」

仁はマルカスの全記憶・全知識・全経験が詰まっているはずの 魔結晶(マギクリスタル) を老君に預けた。

『わかりました、大至急行います』

その時、来訪者があった。

「ジン兄、エドガーの改造が、終わった」

エルザである。彼女の声を聞いたとき、仁の頭にあるアイデアが閃いたのだが、それはまだ口には出さない。十分検討してから、と仁は思っていた。

「お、そうか。もう動かしてみたか?」

仁に教わったとはいえ、エルザの作業ぶり、なかなかの早さである。

「うん、起動だけは。で、ジン兄に見て、欲しかった」

ちょうど話も一区切り付いたので、工房へ戻ることにした。

「お、いい感じだな」

「そう?」

試しに動かしたが、エドガーの動作は安定している。礼子から老君へ送ってあるデータも役に立ったようだ。

「これなら、 自動人形(オートマタ) を作ってもいいな」

「ジン兄がそう言うなら、やってみる」

いよいよ侯爵に贈る 自動人形(オートマタ) の作製に取りかかるエルザであった。

「介護もできるように、体格はエルザくらい必要だろうな」

背負ったり抱き上げたりもする可能性を考えてのこと。

「うん、そう、思う」

骨格は64軽銀を使う。筋肉は蓬莱島謹製の 魔法繊維(マジカルファイバー) 。皮膚も 魔法外皮(マジカルスキン) を用いる。

仁が礼子を再生した最初期のスペックの半分くらいが目標である。もちろん隷属書き換え魔法対策も忘れず施す。

設計基(テンプレート) の参照は最低限に抑え、エルザの技能向上のためのOJT(オン・ザ・ジョブトレーニング。実体験を通して教育する手法)を兼ねていた。

今回は2度目の製作ということで、およそ3時間で完成した。エドガーの時は4時間だったから、それだけ技術的に向上したというのがわかる。

服の素材は 地底芋虫(グランドキャタピラー) の糸。一般的な侍女服をエルザが作り、着せてあった。

「いいじゃないか。エドガーより大きいが、エドガーの妹になるわけだよな」

仁のゴーレム・ 自動人形(オートマタ) も、礼子が一番上の姉になるのだから、別段おかしいことでもない。

「名前は決めたのか?」

「うん。リサ、って付けようと思う」

一般に、侍女は呼びやすいように2音節くらいの名前が多い。もし長い名前だった場合には略称で呼ばれることになるのだ。

貴族が子供に短い名前を付けることはあっても、庶民が長い名前を付けることはまず無い。それが慣習である。

「リサ、か。呼びやすそうでいいじゃないか。動かしてごらん」

「うん。……『起動』」

リサが起動した。ゆっくりと起き上がる。

「はじめまして、 製作主(クリエイター) 様」

「あなたの名前は『リサ』。身体の調子は、どう?」

「はい、問題なしと判断します、 製作主(クリエイター) 様」

エルザ2作目の 自動人形(オートマタ) 、リサは、肩までのボブにしたプラチナブロンド、淡い水色の目。

同じくエルザのデザインだからか、顔立ちはエドガー似である。

「よし、それじゃあペリドたちに家事スキルとか確認してもらおう」

こうして、『リサ』が誕生したのである。

* * *

「なかなか難しかったな……」

ラインハルトも、なんとか 黒騎士(シュバルツリッター) に触覚センサーを取り付け終わり、試運転するところまで漕ぎつけていた。

「ノワール、調子はどうだ?」

「はい、上々です」

「触覚を感じられるか?」

「……はい、大丈夫です」

「よし、それなら、ゆっくりと動いて、データの蓄積に努めろ。いきなり速い動作をしたり、重い物を持ち上げたりはするなよ?」

「了解しました」

アアルの時の事を思い出しながら、じっくりと触覚に慣れさせていく。

30分ほど慎重に 黒騎士(シュバルツリッター) の動作チェックを行ったラインハルトは、次のステップに移ることにした。

まずは忍び足からだ。

「音を立てずにゆっくり歩いてみろ」

これは上手くいく。

「よし、もう少し速く」

これもそこそこできていた。

「うん、なかなかいいな。……これを持ってみるんだ」

ラインハルトは、アアルのテストの時に仁が作った、中空の金属球を指し示した。もちろん極薄なので、強く握れば即潰れる。

「はい」

ノワールはその球を掴み……見事に持ち上げた。

「できた! いいぞ、ノワール。その調子でこれからも頼む」

「 はい(ヤー) 、 創作者様(ミア・シェプフェル) 」

ラインハルトも成長していた。

ちょうどその時、ベルチェとミーネがやってきた。

「お昼にしませんか? ホットケーキを焼きましたよ」

朝食を食べた時刻から考えると、少し遅いお昼、と言った時間である。

時差が5時間半くらいあるので蓬莱島ではそろそろ夕暮れではあるのだが。

「お、そうか」

「ほっとけーき?」

仁はすぐにその単語に反応したが、ラインハルトは聞き慣れない名前に首を傾げた。

「ライ兄、ホットケーキはその名の通り、温かいケーキ。美味しい。はず」

食堂でホットケーキを堪能する一同。ペリドリーダーの指導なので、十二分に美味しい。

仁が前回サキに作ってやったのは、膨張剤なしのクレープもどきだったが、今回のものはまさしくホットケーキであった。

「うん、これはいいな!」

ラインハルトはバター多めが好み。

「……おいしい。幸せ」

「甘いですわ!」

エルザとベルチェは蜜をたっぷり。

「うん、美味しい。ありがとう、ミーネ、ベルチェ」

「どういたしまして、ですわ」

「お礼なんておかしいです。新しいお菓子の作り方を覚えられましたし」

美味しいものを食べると心も解れ、自然、顔も笑顔になる。

一同、この時だけは、嫌なこと、気に掛かることを忘れ、舌鼓を打つのであった。