作品タイトル不明
12-45 技術博覧会開幕
6月20日、夏至の日。
ショウロ皇国、コジュの町。首都ロイザートにほど近く、トスモ湖の水を引き込んだ堀割もあって水運が発達した町である。
地の利が良いため、近年開発が進んでいる町であり、近々ロイザートの衛星都市になると思われる。
新しく開かれた港に建てられた多目的施設。大きな建物や広場がある。
その最も大きな建物、中央館とその隣にある東館において、今年で10回目になる技術博覧会が開催されていた。
「……この佳き日に、これほど多くの参加者、そして来場者を迎えられることを喜び、ここに第10回技術博覧会を開催します」
中央館大ホールにおいて、ゲルハルト・ヒルデ・フォン・ルビース・ショウロ女皇帝が開会宣言を行った。
続いて開催顧問のデガウズ・フルト・フォン・マニシュラス魔法技術相の挨拶があり、実行委員である魔法技術省事務次官、クリストフ・バルデ・フォン・タルナートが参列者の紹介を行う。
「ああ、ラインハルトの結婚式の時、立会人を務めた人だ」
参加者最後列にいた仁はクリストフの顔を見て思い出していた。
参列者の紹介になって、幾人かがホールを出て行く。準備や手洗いなどであろうか。
仁もそっとその場を抜け出す。長ったらしいセレモニーは苦手である。それよりも準備すべきことがあった。
「お父さま、これを繋げばよろしいんですね?」
「ああ、そうだ。しっかりと繋いでくれよ」
礼子とスチュワードに手伝って貰い、魔導具を組み立てていく仁。その魔導具は小型のコンプレッサーのような形をしていた。
「ジン、それは何だい?」
ラインハルトも抜け出て仁のそばにやってきた。
「はは、今のところは秘密さ。楽しみにしていてくれよ? 来た奴等全員の度肝を抜いてやる」
普段、目立ったことを嫌っている仁がそんなことを言うのは珍しい。ラインハルトは驚いた顔で仁の顔を見つめた。
「……うん、楽しみにしている」
とりあえずそれだけを言い、ラインハルトは自分の出品物の確認に向かった。
今、仁が組み立てている様な特殊なもの以外は前日に運び込まれており、展示は終わっている。あとは確認し、会場を開放するだけであった。
仁の助手という扱いであるエルザの出品物は、あらかじめ提出済みであるのは言うまでもない。
完成した魔導具の世話はスチュワードに任せておく。馬車の見張りは一時的に 隠密機動部隊(SP) の1体、リリーに任せてある。
そんなこんなでお昼近くになった。
開場は正午の予定である。今のうちに昼食を済ませようと、仁は礼子を連れて大食堂へ向かった。
そこでは、10時から3時までの間、参加者は無料で好きなものが食べられるようになっていた。
席を決め、給仕に注文を告げる仁。仕度に手間取っているのか、それとももう食事を済ませてしまったのか、ラインハルトとサキの姿は見えない。
いや、
「やあ、ジン。ここにいたのかい」
ちょうどサキがやってきた。
「ああ、サキ、そっちはもういいのか?」
「うん、もうやることは全てやったさ。あとは結果を待つだけだ」
同じテーブルに着き、注文を出したサキ。そこに更に声が掛かった。
「あら、ジン君」
「ああ、お久しぶりです」
「ほんと、久しぶりねえ、元気だった? その節はお世話になったわね」
セルロア王国の 魔法工作士(マギクラフトマン) 、ステアリーナであった。が、面識のないサキは面食らう。
「ジン、どなただい?」
「ああ、こちらはセルロア王国の 魔法工作士(マギクラフトマン) 、ステアリーナ・ガンマさん」
仁がそう紹介すると、ステアリーナはくすくす笑い、それを訂正した。
「あら、今はガンマじゃないわ。ベータよ。ステアリーナ・ベータ」
セルロア王国技術職第1位は 統一党(ユニファイラー) のナンバー2、ドナルド・カロー・アルファであったが、 統一党(ユニファイラー) 壊滅と共に行方不明になり、繰り上がってベータになった、というわけである。
「ベータになられたんですね、おめでとうございます」
「ありがと。……でもね、実力でじゃなくて、繰り上げだからあんまり嬉しくないわね」
単なる欠員による繰り上げでは喜びもない、と苦笑するステアリーナであった。
「こちらはサキ。サキ・エッシェンバッハ。錬金術師です」
「よろしくね、サキさん」
「こちらこそ」
ステアリーナは忙しそうな様子を見せ、
「それじゃあ、午後を楽しみにしてるわね」
と言って離れていったのである。
午後。それは、各参加者の発表の場である。
参加者はそれぞれのブースとも言うべき展示場所を割り当てられているが、それだけでは来場者へのアピールが足りないだろうと言うことで、特設ステージでのデモンストレーションの時間がある。
ホールのそこかしこには、巨大な 魔導投影窓(マジックスクリーン) が備え付けられていて、ステージから離れていても発表が良く見えるようになっていた。もちろん音声も 拡声の魔導具(ラウドスピーカー) により隅々まで届いている。
このステージで発表できるのは、参加した 魔法工作士(マギクラフトマン) の3割くらいである。実績のない者はステージに上がれないのだ。
もちろん仁は発表できる3割に含まれていた。そして国外からの参加ということもあって、早めの時間帯が仁の持ち時間だった。
* * *
正午前。いよいよ開場である。
仁は、自分のブースにいた。
「えーっと、俺の発表は3番目になってるな。その間、ここを頼むよ」
「はい、お任せください」
エドガーは頷いた。エルザの作品の一つとして、エドガーだけ連れてきているのである。
「……以上で私の作品紹介を終わります」
ステージ上では、最初の発表が終わったところであった。
「じゃあ、行ってくる」
礼子に発表用の荷物を持たせ、仁はブースをあとにした。
2番目に作品紹介をするのはステアリーナであった。
「セルロア王国 魔法工作士(マギクラフトマン) 、ステアリーナ・ベータです」
美人 魔法工作士(マギクラフトマン) の登場に、一際大きな拍手が起きる。
「わたくしのクリスタルゴーレム、セレネです」
紹介されたゴーレムが登場すると大きな歓声が上がった。
それは青みがかったクリスタルで出来たゴーレム。エゲレア王国で見た『セレス』よりも更に完成度は高い。
「うーん、あの青は水晶じゃなさそうだな?」
ステージ横で眺めていた仁はこっそりと 分析(アナライズ) の魔法で材質を調べてみた。
「へえ、ブルートパーズか」
トパーズは水晶よりも更に硬度が高い鉱物である。希少性も高く、特に黄色のものはインペリアル・トパーズと称して高価な宝石となっている。
その他にも無色のもの、ピンク色のもの、褐色のもの、そしてブルーのものも存在する。
セレネはそのブルートパーズから作られたゴーレムであった。
動作も滑らかで、かつてのセレスよりも完成度が高いことが窺える。
更には歌も歌う。その歌声はこれもセレスより上。
「でもやっぱり割れやすそうだな……」
満場の拍手が送られる中、変な心配をする仁であった。
3番目、いよいよ仁の出番である。
礼子に箱を持って貰い、ステージに上がる仁。
「エゲレア王国 名誉魔法工作士(オノラリ・マギクラフトマン) 、ジン・ニドーです」
そう挨拶すると、拍手が起こった。仁の名前も大分知られてきたということだ。
「本日お見せするのはこれです」
礼子に持たせたトレイのカバーを開ける仁。そこには、身長10センチのゴーレムが10体並んでいた。
「?」
反応は芳しくない。遠目には、ただの人形に見えるからだ。だが、仁が指示を出すと、その無反応は驚きに取って代わられる。
「ミニ 職人(スミス) 、動いて見せろ」
「はい、ご主人サマ」
仁の命令に、甲高い声で答えたミニ 職人(スミス) は歩き出し、礼子の身体によじ登り始める。
腕、肩、頭。10体のミニゴーレムを見た人々は驚愕する。
少し 魔法工作(マギクラフト) を知っている者なら、10センチの大きさのゴーレムというものが如何に規格外かわかるのだ。まして、自律性を持ち、声まで出す。
そして、 魔法工作(マギクラフト) を知らない者でも、見たこともない光景に我を忘れて食い入るように見つめていた。
更に仁は解説をしていく。
「このミニゴーレムは、ミニ 職人(スミス) といいます。つまり、 魔法工作(マギクラフト) の助手として使えます。どういう用途に使えるか。それは、百聞は一見にしかず、御覧になっていただきましょう」
そして仁は用意してきた真鍮の小片をミニ 職人(スミス) たちに手渡した。
「精密な加工が必要なとき、我々の手は、目は、大雑把すぎます。その点、彼等は……」
仁がそう言いかけると、ミニ 職人(スミス) たちは一斉に工学魔法を使用する。特有の魔法陣が一瞬浮かび上がり、手にしていた真鍮片が形を変えた。
それは精密な彫刻を施されたメダルとなった。更に3度、同じものを作らせた仁は、計40個のメダルを礼子とミニ 職人(スミス) に命じ、観客たちに配らせた。
礼子はトレイを手にして観客の間を歩いて回る。そのトレイに乗り、ミニ 職人(スミス) たちは観客にメダルを手渡していく。
メダルが足りなくなりそうになると、ミニ 職人(スミス) たちは再度真鍮片を加工し、また配っていく。
このデモンストレーションによって、居並ぶ観客は皆、ミニゴーレムを間近で見、その加工能力を思い知ったのである。